軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0685 忠誠

スージェー王国中央海軍司令部 麾下(きか) 、第一突撃団。

スージェー王国海軍において、甲板戦と陸戦で最も強い集団と言っても過言ではない者たち。

彼らを率いるのは、突撃団司令モンラシュー。

しかし、モンラシューの隣にいる人物は、どう見ても強そうではない。

先ほど、会議室からやってきて合流したばかりだ。

あまり背が高くなく、筋肉もそれほどついておらず、個人戦闘能力は全く高そうに見えない中年男性。

顔貌は、人によってはまあまあかも、という程度であり、女性の熱狂的な支持者がいるとは思えない、そんな顔。

「なあロックデイ、提督がわざわざ最前線に出てこなくてもいいんじゃないか?」

モンラシューが顔をしかめて、中年男性……ロックデイ提督に声をかける。

「私もそう思ったのですが、カブイ・ソマル閣下に直接指示されましたので……ある意味、仕方なく出てきました」

ロックデイも顔をしかめて答える。

「まあ、会議に加わりながら恐ろしい人たちの接待役……というか彼らを気にしながらというのも神経使いますので。それよりは、こっちの方が確かにいいのかもしれません」

「恐ろしい人たち?」

ロックデイの言葉に、首を傾げるモンラシュー。

モンラシューは政府中枢の人間や司令部の者たちの顔を思い浮かべるが、ロックデイが『恐ろしい』というような人物はいない。

せいぜい、直接上司のカブイ・ソマルや、敬愛すべきイリアジャ女王くらいだろうか?

だが二人の事を、ロックデイが『恐ろしい』と表現するとは思えない。

「ええ、実はアベルさんとリョウさんという恐ろしい二人が 逗留(とうりゅう) しています。新たに我が王国に加わった北のルル島で、閣下と合流されたそうです」

あえてロンド公爵ではなく、以前の言い方で伝えるロックデイ。

「アベルとリョウ? どこかで聞いた覚えが……」

「そりゃあ、あるでしょう。二百メートルもの長大な氷の橋を渡って旗艦に乗り込んできて、あなたの両腕を斬り飛ばし、私のお腹に剣を突き立てたのがアベルさんですから」

「あの魔剣の男か!」

ロックデイの説明に、モンラシューも完全に思い出した。

やむを得ず、当時第六王女であったイリアジャを移送していたコマキュタ藩王国の艦隊を襲撃した。

だがその際、したたかな逆撃を受けて、件の剣士らに旗艦に乗り込まれ痛い目を見たのだ。

「そうか、確かにあの剣士の名前はアベルだったな。じゃあ、そのリョウというのが相棒の魔法使いか」

「ええ。長大な氷の橋を架けた……後で聞いた話では、ただ一人であの橋を架けたそうですよ。あり得ないですね」

「おいおい……」

魔法使いでもあるロックデイは首を振りながら言い、魔法は使えないが司令という立場上、魔法にもそれなりに詳しいモンラシューはさらに顔をしかめる。

「そうそう。リョウさんと言えば、今流行りの『そんなアベルは、腹ペコ剣士』の作者としても有名ですね」

「あれ面白いよな!」

「ああ……ここにも愛読者が」

力強く頷くモンラシュー、その影響力の広がりを驚くロックデイ。

そう、『そんなアベルは、腹ペコ剣士』は、順調にベストセラーの道を歩んでいる。

「そうか、中に出てくる『アベル』って名前で聞き覚えがあったのか……」

モンラシューは何度も頷くのであった。

偵察が戻ってきた。

「どうだった?」

「敵は百人前後です」

「司令部での予想は五十人から七十人でしたが……」

「少し多いか。まあ、誤差の範囲だ」

ロックデイの言葉に、肩をすくめるモンラシュー。

「王宮の一角、 国賓館(こくひんかん) に滞在している王子と連邦の外交団は包囲して無力化してあります。そのため閣下がおっしゃるには、この拠点がゲギッシュ・ルー連邦の主力だそうです」

「ここを潰せば、女王陛下を害するやつらはいなくなるということだな」

ロックデイが報告し、モンラシューが力強く頷く。

彼らの周りの突撃団幹部らも、何度も頷いている。

全員が決意に満ちた表情だ。

本来は、敵船の甲板に乗り込んでいって戦況を切り開く突撃団。

だがそれだけに、王国海軍への忠誠、その誇りは他の誰にも負けないという自負がある。

王国海軍を率いてきたカブイ・ソマルへの忠誠は誰にも負けない。

同時に最近は、イリアジャ女王への忠誠も非常に強いものとなっていた。

「先王陛下の第二王子だったか? いまさら出てこられても混乱するだけだ」

モンラシューの言葉に頷く部下たち。

立場上、素直に同意するわけにはいかないロックデイですら、肩をすくめて賛同はする。

ようやく、スージェー王国は落ち着き、まとまり、国としての成長軌道に乗ろうとしている。

そのタイミングで出てきても……まず民の支持は得られないだろう。

もっとも、第二王子もゲギッシュ・ルー連邦も、そんなものを求めてはいないのだろうが。

二人は、そんな他愛もない会話を繰り広げているが、その間も周囲は動いている。

作戦はかなり前に練られ、敵の数も想定の範囲内……モンラシューが「誤差」と言ったからには、それは想定の範囲内なのだ。

であるなら、モンラシューがわざわざ指示を出す必要はないし、ロックデイが口を出す必要もない。

彼らに求められるのは……。

「司令、全ての準備が整いました」

部下が報告する。

「よし。では作戦を発動する」

モンラシューが行うのは、作戦発動の決定。

勇猛をもってなる中央海軍第一突撃団が、突撃を開始した。

二十分後。

「敵を 殲滅(せんめつ) 、拠点の制圧、完了したとのことです」

「よし」

部下の報告に、満足そうに頷くモンラシュー司令。

だが、横にいる提督兼魔法使いが、心ここにあらずという表情であることに気付く。

「どうした、ロックデイ?」

「逃走防止の錬金道具を仕掛けていま……三人、逃走者を捕捉!」

ロックデイ提督はそう言うと、すぐに駆けだした。

無言のまま、モンラシューもその後を追う。

「敵は殲滅したという報告だったが?」

走りながらモンラシューが問う。

「恐らくは逃走用に、あらかじめ地下道などを掘っておいたのでしょう。土属性の魔法使いがいれば、それほど難しいことではありません」

「さすが、土属性魔法使いの使い手が言うと説得力あるな」

ロックデイ提督は、土属性魔法使いである。

「それを見越して、拠点からけっこう離れた場所に錬金道具を設置しておいたのです。備えておいて良かったですよ」

「やっぱすげえよ、あんた」

こともなげに言うロックデイ、称賛するモンラシュー。

コマキュタでの手痛い敗戦以降、モンラシューはロックデイを高く評価している。

もちろんそれまでも、他の王国海軍兵たちに比べれば高く評価していたのだが……今では、カブイ・ソマルの次くらいに優秀であると認めていた。

「三人とも、前方百メートルほどを西に走っています」

「西? いくつか入り江があるな。そこに逃走用の船でも隠してあるのか」

「入り江? そこが目的地なら、近い獣道があります。そっちから追えば、入り江に着く前に捕捉できます」

「何でそんなの知ってんだよ」

「私も提督になるまで、陸でけっこう苦労したんですよ?」

ロックデイは笑いながらそう言うと、モンラシューの前に出て、脇道に入った。

ついていくモンラシュー。

五分後。

「捉えました」

「足止めを頼む」

ロックデイの報告に、モンラシューが答える。

「<石貫>」

ロックデイが唱えると、六本の石の槍が飛んだ。

前方を走る三人のうち、四本の足に突き刺さる。

中央を走る一人、白いローブを着た人物にだけ、石の槍は当たらなかった。

その理由は、すぐに分かる。

「呪符? あのローブは呪法使いです」

ロックデイが声を上げる。

その声が聞こえたわけではないのだろうが、白ローブが止まり、二人の方を向いた。

石の槍で足を貫かれ、地面に転げた二人に追いつき、その頭を蹴り上げて気絶させるモンラシュー。

そこに飛んでくる石の槍。

もちろん放ったのはロックデイではない。

カキンッ。

ガキンッ。

石の槍は、気絶させられた二人を狙って、二本放たれていた。

一方を、剣で弾くモンラシュー。

もう一方は、ロックデイが構築した石の壁で弾かれる。

剣で弾いた次の瞬間、一気にモンラシューは白ローブに斬りつけた。

カンッ。

モンラシューの一撃を、剣で受け止める白ローブ。

「口封じか? えげつないことをするな」

モンラシューが言いながら連撃を加えるが、白ローブは無言のまま受ける。

その間に、ロックデイによって気絶させた二人は石の壁で覆われた。

捕虜、あるいは今回の証人だ。

「チッ」

小さいながらも鋭い舌打ちが白ローブの口から 洩(も) れる。

「しっかりしてるよな? 臆病なほどに慎重なんだぜ、あいつ」

「余計なことを言っていないで、さっさと片を付けてください」

モンラシューの言葉が聞こえたのだろう。

ロックデイが 苦言(くげん) を 呈(てい) している。

「いやロックデイ、この白ローブ、剣も強いぞ?」

「第一突撃団の司令でしょ? あなたより強い剣の使い手なんて、そうそういませんよ。しかもその人、呪法使いですよ?」

「そう言われてもな」

実際、モンラシューの斬撃は鋭い。

手にするは、剣というには短く、だがナイフというには長い直剣。

船上でも振るう、いつもの愛剣だ。

対する白ローブが振るう剣も長くない。

長さはモンラシューが振るう剣と同じほどだろうか。

しかし、見た目が全く違う。

「珍しい剣を使うな」

思わずモンラシューが呟く。

白ローブが振るう剣、それはうねっていた。

柔らかいわけではない。

恐らく鉄製。

その鉄でできた剣そのものが、蛇のようにくねくねと曲がった形をしているのだ。

「儀礼用で見たことはあるが、使っているのを見るのは初めてだよ」

「なら、それを目に焼き付けて死ね」

白ローブは初めてその口を開くと、一気に踏み込んだ。

ジャキッ。

剣同士が『滑る』

滑った剣がモンラシューの胸を襲った。

だが……。

「<石貫>」

ロックデイの石の槍が、直上から白ローブを襲う。

呪符が間に合わず、白ローブは剣を引いて大きく跳び退った。

「邪魔な……」

白ローブはロックデイを睨みつける。

次の瞬間、顔をしかめた。

「思い出したぞ、ロックデイという名……中央海軍の提督にして、『暴君石帝』の魔法使い」

「古い二つ名です」

言われたロックデイも顔をしかめている。

あまり好きな二つ名ではないのだ。

ガキンッ、ガキンッ……。

白ローブとロックデイの会話の 間隙(かんげき) を 縫(ぬ) って、モンラシューが再び飛び込んで連撃を繰り出す。

だが、全て完璧に白ローブに受けられる……。

「なんだ、この固さは」

「第一突撃団司令モンラシューだったか? お前たちとは、鍛え方が違う」

「ほざけ!」

怒れるモンラシュー。

連撃の速度と強度を上げる……しかし、結果は変わらない。

二人の剣戟を見ていたロックデイは、首を傾げ始めた。

それを視界の端で捉えるモンラシュー。

「何だロックデイ!? ボーっとしてないで手を貸せ」

「その白ローブの剣術、多分、王宮剣術です」

「は?」

ロックデイの言葉に、意味が分からないモンラシュー。

いや、王宮剣術の意味は分かる。

スージェー王国の王宮に伝わる剣術だ。

特別に何かが凄いというわけではなく、使える者たちが特殊だ。

使えるのは代々の剣術指南役を除けば、スージェー王国の王族。

つまりそれが使えるということは……。

「その白ローブは、先代陛下の第二王子、ヘンドラワ様です」

「ああ……」

ロックデイの言葉に、顔をしかめるモンラシュー。

「ふん、気付いたか」

口角を上げて笑う白ローブ、もといヘンドラワ王子。

「どうする? 王家に仕える王国海軍は、王子である私に剣を向けることはできないだろう?」

「逆だ」

そう言うと、ひときわ鋭く剣を振るモンラシュー。

「お前がいなくなれば、女王陛下の治世を脅かす連中が静かになるだろう。担ぎ出すものがなくなるからな。スージェー王国の未来のためにも、ここでお前を殺す」

『王子』や『殿下』ではなく、『お前』と言うモンラシュー。

「私は、スージェー王家の人間だぞ?」

「だから?」

「……王国海軍の忠誠とはその程度のものか?」

「王子様とやら、勘違いするなよ」

モンラシューがはっきりと顔をしかめて言う。

「王家の人間だから、無条件に忠誠を捧げてもらえると思ってるのか? だからダメなんだよ」

「なんだと」

「先代の国王陛下は、民と国のために心を砕かれていた。それを知っているから、海軍は忠誠を誓った。そして、イリアジャ陛下もだ。王家の人間だからじゃない。民と国のために全てを投げうって行動される、その姿に忠誠を誓うんだ。それがスージェー王国海軍なんだよ」

モンラシューはその間も、剣を振るう手を緩めない。

「ふん、面白い演説ではあったぞ。心には全く響かんかったがな」

「なに?」

笑いながら言うヘンドラワ、目を細めるモンラシュー。

カキンッ。

ヘンドラワが大きく剣を弾き、後方に大きく跳んだ。

それと同時に、火の雨が降る。

「<石壁>」

ロックデイが唱え、モンラシューの前方に石の壁が現れた。

それが、火属性攻撃魔法を弾く。

さらに、矢の雨。

「これは……」

「敵の援軍ですね」

モンラシューの言葉に、顔をしかめて答えるロックデイ。

石の壁をさらに広げ、二人と気絶させてある捕虜二人も二重にカバーする。

「さすがに無理か?」

「ええ、今の間にも遠ざかり……ああ、錬金道具でも追えなくなりました」

「くそっ」

「仕方ありません。この二人の捕虜だけでも……十分な成果ですよ」

悔しそうなモンラシュー、肩をすくめるロックデイ。

こうして、ゲギッシュ・ルー連邦の強襲部隊は 駆逐(くちく) された。

ゲギッシュ・ルー連邦の外交団が、スージェー王国から去った翌日。

涼は、港に立って北西の方角を見ている。

その方角には、ナイトレイ王国があるはずだ。

ちなみに隣には、アベルが立っている。

「いっそ、海を西に渡るか? 多分レインシューター号だって、この海を抜けてきたわけだし、運が良ければ……」

「そうしたいのは、やまやまなのですが……」

涼は、チラリと後ろを見る。

そこには、散歩がてらに連れ出してきた二頭の愛馬がいる。

「もしものことが起きた場合、海に放り出されます。僕とアベルだけならなんとでもなりますけど、アンダルシアたちが……」

「リョウが、氷で囲って守ればどうだ?」

「魔法は、多分まだ奪われるのです」

「ああ……」

悔しそうな涼、理解した表情のアベル。

そう、ここまで水属性魔法に精通し、その魔法制御に磨きをかけた涼であっても、クラーケンには魔法生成物を奪われてしまう。

簡単に言えば、魔法を使えない。

錬金術で生成したものであれば奪われない。

だから一体を相手にするなら、なんとかなるはずだ。

しかし、複数を相手にすれば……その物理的な暴力によって打ち砕かれる可能性は……けっこうあると思う。

「結局、僕はまだ弱いのです」

「いや、比較対象の問題だろう」

「ですが、このままでは終わりません!」

「おう……」

「いつの日か必ず、クラーケンをすら魔法でねじ伏せてやるのです!」

拳を突き上げて宣言する涼。

それを見守るアベル。

後ろの方では、アンダルシアとフェイワンが、小さく鳴いている。

涼の宣言を祝福しているのかもしれなかった。