軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0643 砲撃戦

「敵砲撃来ます!」

マストから監視員が叫ぶ。

五十本はあろうかという火属性の攻撃魔法が第十船を襲った。

だが錬金術によって張られた障壁が、攻撃から第十船を守る。

生じる無数の対消滅の光。

「対消滅?」

涼が呟く。

「どうした?」

その呟きが聞こえたのだろう、アベルが問う。

「いえ……二十隻以上の船からの砲撃を、どうやって<魔法障壁>で防ぐのかなと思っていたのです。<魔法障壁>は決して強くないと聞いていたので」

「ああ、それは俺も報告を受けたことがある」

涼の言葉にアベルも頷く。

<魔法障壁>にしろ<物理障壁>にしろ、普通はそれほど固くない。

涼だって、既存の魔法について情報を集めることもあるのだ。

たいていは雑談から、そういう話になるだけで意識的に情報を集めたわけではないが……とにかく話は聞いたことがある。

「弾くのではなく、対消滅で<魔法障壁>が攻撃を道連れにして消えていくようです」

「それだと、<魔法障壁>の張りなおしが大変じゃないか?」

「ええ、ええ。ですから最初から、小さい障壁を何十、何百と展開しているんですね。面積を小さくすることによって消費魔力を抑えているのでしょう。設計自体が、『弾く』ではなく『共に消える』ための<魔法障壁>」

「なるほどな。色々方法があるもんだな」

涼の説明にアベルが感心したように頷く。

涼は気付いていた。

第一甲板で指揮を執るラー・ウー船長の傍らに、半分沈んだ席があることに。

そこに座っているのは、公船戦闘指揮官リンシン。

上半身が第一甲板に出ていて、下半身は下にあるようだ。

「この下って、第二甲板ですよね?」

「ああ。魔法砲撃用の錬金道具を船腹から突き出しているのは、その第二甲板だな」

「あのリンシンさんがいる席って……」

「いつもは 蓋(ふた) がしてあるよな。戦闘指揮官って言ってたから、第二甲板の魔法砲撃と、この第一甲板上に整列している迎撃? あそこから両方の指揮を執るのかもな」

涼もアベルも、ダーウェイの艦隊戦については詳しくない。

当然、公船戦闘指揮官リンシンの正確な役割も知らないのだが、なんとなくの想像はできる。

「よしリンシン、もう十分だ。沈めてやれ!」

「アイサー!」

ラー・ウー船長が、傍らの戦闘指揮官席とも言うべき半沈み込みのピットにいるリンシンに命じ、リンシンも頷いた。

すぐにリンシンからの命令が第二甲板の魔法砲撃に伝達される。

「狙いは島から出てきた右一番手。いつも通り、船首から一メートル左、 喫水(きっすい) 上」

細かな指示が出される。

十秒後。

「狙え! 三、二、一、放て!」

完全に同じタイミングで、第十船 左舷(さげん) から、二十本の火球が発射された。

それらが全て同じ場所に、同じタイミングで着弾!

火属性魔法特有の爆発が生じる。

船首付近に大穴が空いたのであろう、砲撃を受けた敵船は沈み始めた。

「凄い……」

「とんでもないな」

涼もアベルも驚きで言葉少なだ。

「次! 続けて狙いは右二番手。同じくいつも通り、船首から一メートル左、喫水上」

間髪を容れずに、二射目の指示が戦闘指揮官リンシンから下される。

この連射能力が、魔法砲撃用錬金道具の強みだ。

再び十秒後。

「狙え! 三、二、一、放て!」

そして繰り返される結果。

完全に同じタイミングで、第十船左舷から、二十本の火球が発射され、全て同じ場所に、同じタイミングで着弾し、火属性魔法特有の爆発が生じた。

そして、砲撃を受けた二隻目の敵船が沈み始めた。

「この人たち、凄い練度です」

「再現性の高さは訓練の 賜物(たまもの) だ」

涼が全く同じ結果を引き起こした結果に驚き、アベルがそれは偶然ではないことを指摘する。

防御で<公船魔法障壁>が機能し、攻撃で魔法砲撃が敵船を沈める。

考えられる限り完璧な状況推移だ。

「このまま離脱できればいいんですが……」

「この公船はそもそもダーウェイの船だ。相手だって、どの程度の性能かは分かっているだろう。当然、二の手、三の手がある」

「アベルは悲観的すぎます」

「楽観的過ぎて死ぬよりはましだろ」

涼も理解はしているのだがそれでも顔をしかめ、アベルは国王として軍を率いてきた経験から断言する。

それは、船長も同じらしい。

「砲撃が効かないと分かれば『 落下傘(らっかさん) 』が来るぞ!」

ラー・ウー船長の指示が飛ぶ。

「落下傘?」

「なんだそれは?」

涼もアベルももちろん分からない。

いや、涼の知識の中で落下傘と言えばパラシュートだが……。

「敵船から『落下傘』が発射されました! 数は……十!」

マストの監視員が叫ぶ。

「ミャン! 艦の回避は任せる!」

「アイサー!」

ラー・ウー船長が、一等航海士ミャン・マーに指示する。

受けたミャン航海士は、操舵手の隣に行き前方上空を見上げた。

「空から何か降ってきます」

「この船の進路上だな。あれが『落下傘』か」

ミャンの視線を追った涼が、上空から第十船に向かって降ってくる何かを見つける。

アベルも確認したらしく声をあげた。

それは小型のパラシュートのような感じだが、吊るされているのは人ではない。

「爆弾……?」

涼は呟いた。

弾丸のような流線形ではなく、丸い爆弾のように見える。

「甲板迎撃、各自で放て!」

戦闘指揮官リンシンの号令が飛び、第一甲板上に整列した乗組員たちが、前方上空に向いた迎撃用の錬金道具を操り、砲撃を始めた。

その迎撃は魔法砲撃ではなく、かなり小さな石を発射しているように見える。

「一気にローテクに……」

「い、石の方が効果的なんだろう」

涼が別の意味で驚き、アベルがなんとなくフォローする。

石は、0.5秒に一発の割合で発射されているようだ。

それが二十人いるため、 弾幕(だんまく) と言っていい数が飛び交う。

「ほら、な?」

「アベル、運が良かったですね」

「何のことかな?」

「背中がすすけています」

なんとか負け戦を回避できたアベルに対して、そんなのお見通しとばかりに言う涼。

珍しく今回は、立場が入れ替わったようだ。

とはいえ、石が落下傘の先端に吊るされた球体に当たると……。

ドガン。

爆発した。

「え? 爆発?」

涼が驚く。

それはそうだ。

爆発ということは……火属性魔法でないならば、それは火薬が使われているということになる。

確かに、爆弾かもとは言ったが、本当にそうとは……。

「『黒い粉』はすでに、ダーウェイでは実用化されているわけか」

アベルは驚いていない。

黒い粉とは火薬であり、ナイトレイ王国なら東部において産出する。

王国解放戦の際、貯蔵されていたかなりの量を帝国に持っていかれたが、アベルが王位に就いてからも産出と研究が続けられているものだ。

いずれ大規模な工事で使われるようになるであろうが、おそらく戦場にも出てくるであろうとアベルは理解していた。

それは悲しいことであるが……アベルは国王だ。 為政者(いせいしゃ) なのだ。

道徳ではなく政治が仕事。

悲しいことであっても、現実に起こる可能性を無視することはできない。

そして帝国に大量に流れた『黒い粉』は、必ず戦場に出てくるだろうというのが、現実に起きる可能性……。

それがこの東方諸国、ダーウェイにおいては、一足先に戦場に出てきているというだけのこと。

「王国でも、火薬……黒い粉の研究はしているのですか?」

「ああ、している」

涼の問いにアベルははっきりと答える。

「それは……武器として?」

「そう認識して間違いない」

涼が嫌がるであろうことを理解しながらも、アベルは嘘をつかない。

「大規模工事での利用方法が研究の主流だが、戦場での使用も研究されている」

「ですよね……」

アベルの答えに涼も頷いた。

それは地球においても、ダイナマイトが辿った歴史。

戦争は、使えるものは何でも使う。

それは地球だろうが『ファイ』だろうが、何ら変わらないということだ。

「石を当てただけでああなるということは、この甲板に落ちれば……」

「ええ、爆発するでしょうね」

気を取り直して現状に意識を戻したアベルと涼。

そう、まだ戦闘は続いている。

「でも、石の弾幕、かなり効果を出しています」

涼が言う通り、落下傘による爆弾投下は全て迎撃している。

さらに、船腹からの魔法砲撃一斉射も効果を上げ、島の裏側から出てきた六隻は全て撃沈していた。

しかし、港からの十六隻が迫っている。

それはこの第十船の速度が、そう速くないからだ。

「石の弾幕の射線確保のために、いくつか帆を閉じているからですね」

「仕方ないだろう。石が帆を貫いたら困るし、帆があるせいで『落下傘』が見えなくとも困る。そうやって速度を落とさせるための落下傘なんだろう」

涼が悔しそうに言い、アベルも同意して頷く。

「『落下傘』の一斉射が来るぞ、準備!」

ラー・ウー船長が叫ぶ。

さらに伝声管に向かって叫ぶ。

「機関部、第二機関の準備!」

「こちら機関部、第二機関の準備完了。いつでもいけます!」

ラー・ウー船長の叫びに、伝声管の向こうから機関部の声が返ってくる。

「第二機関?」

アベルが呟き涼を見るが、当然涼も分からない。

首を振る。

さらに第一甲板上に、下の第二甲板から人がかなり上がってきていた。

恐らく先ほどまで、船腹から魔法砲撃を行っていた乗組員たちだ。

確かに島の影から出てきた六隻は左舷にいた。

だから左舷船腹からの砲撃で沈めることができた……そして、その六隻は全て撃沈した。

残りの港から出てきた船は、迫ってきているとはいえ第十船の後方からだ。

この場合、船腹からの砲撃では狙いにくい。

もちろん、第十船の船尾にも<公船魔法障壁>は展開しており、時々高速砲撃艦から放たれる魔法砲撃を、対消滅で防いでいる光が見える。

「下から上がってきた人たちは……」

「帆の辺りに待機したな」

涼とアベルは、第一甲板上にいるが、できるだけ邪魔にならないように隅の方から情勢を見ている。

そんな彼らの視界の中で、第二甲板から上がってきた乗組員たちが準備を整えていた。

「『落下傘』の一斉射きました!」

マストの監視員が叫んだ。

第十船の後方に迫る十六隻から、弾が発射され第十船を追い越し、その前方で落下傘が開いてゆっくりと海面に向かって落ち始めた。

ちょうど第十船がこのまま進めば、着弾する速さだ。

だが……。

「よし! 甲板迎撃終了。第二機関回せ!」

「アイサー!」

「満帆!」

「アイサー!」

立て続けに出されるラー・ウー船長の指示。

それに答える機関部と第十船の乗組員たち。

「うおっ」

「凄い速度です!」

明らかに第十船の速度が上がった。

恐らくは、風吹機関のような速度を上げる二つ目の錬金道具が動かされ、さらに閉じられていた帆が全てあげられたからだ。

体感では、今までの倍の速度になった気がする。

「『落下傘』の下を突っ切るぞ! 監視、よく見てろ!」

「アイサー!」

ラー・ウー船長の指示に答えるマストの監視員。

速度の上がった第十船は、かなりの余裕をもって『落下傘』の下をくぐり抜けた。

「追ってくる船も速度を上げるんじゃ?」

「いや、上げられないみたいだな」

「あれ? 何ででしょうね?」

涼が首をかしげる。

「速度を上げれば、あの追撃船たちが『落下傘』の下に飛び込むことになる」

「あっ……」

アベルの指摘で涼も気付いた。

そう、自ら放った『落下傘』の下に突っ込むことになる……だから速度を上げられない。

全て、ラー・ウー船長が誘った罠だったのだ。

第十船は最高速度を見せず……最後の最後、敵の『落下傘』一斉射を利用して離脱する。

「ラー・ウー船長、凄いですね」

「それに答えられる乗組員たちもな」

涼もアベルも驚いた。

こうして、公船第十船は、罠をかいくぐることに成功したのであった。