軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0055 ある日のルンの街 下

戦闘開始から4時間、ようやくゴブリンの波が途切れ始めた。

だが、ほぼ同じタイミングで、冒険者の矢も、騎士団の矢も尽きようとしていた。

どちらも、街中から集めてきた矢である。これ以上の補充は無い。

いよいよ、防壁を降りて、近接戦での決着をつけなければならない状況が迫っていたのだ。

「先頭は、赤き剣と白の旅団。ゴブリンメイジも出てきているから気を付けろ」

ヒューが指示を飛ばす。

ゴブリンメイジとは、攻撃魔法を放つことが出来るゴブリンである。

極めて稀に生まれてくる種である。

「赤と白が切り拓いた道に、C級、D級パーティーが突っ込んで拡げていくぞ」

「マスター、北の防壁が」

ヒューは、ギルド職員が指し示す北側の防壁を見た。

防壁内へ降りる扉を開き、ゴブリンへと近接戦を仕掛け始めていたのだ。

「チッ。騎士団はもう矢が切れていたのか。よし、こっちも行くぞ。野郎ども、大海嘯を叩き潰すぞ!」

「おぉ!!」

冒険者たちから大歓声が上がる。

必要であるとは理解していたが、ずっと遠距離攻撃だけでフラストレーションが溜まっているのである。

やはり最後は近接戦!

そういう冒険者は非常に多い。

そうして、南側防壁の扉も開き、アベルとフェルプスを先頭に、赤と白がゴブリンの群れに突っ込んでいった。

アベルが剣を交えることも無く、一刀の下にゴブリンを屠っていく。

フェルプスが槍の突きと薙ぎで、広範囲にゴブリンを打ち減らしていく。

ウォーレンが盾をゴブリンに打ちつけ、シェナが貫通力の高い炎の槍で、アベルとフェルプスが突き進む道を作り出す。

「もうすぐゴブリンが切れます。メイジが来ます」

リーヒャの指示が飛ぶ。

そして、ゴブリンの波が切れると同時に、ゴブリンメイジが放ったファイアーアローが飛んでくる。

これは、風魔法のソニックブレードの様な、範囲攻撃に使われる魔法である。

発射された一本の炎の矢が、途中で5本の矢に分裂し、相手を襲うのだ。

3本がアベルに、2本がフェルプスに。

だが、ここでウォーレンがアベルの前に出て、その巨大な盾によって炎の矢を防ぐ。

そしてフェルプスは、

「土よ 盾となりて悪しきものを防ぎたまえ 『クレイウォール』」

火と土という二属性を操ることが出来る副団長シェナの土の壁が、フェルプスの前に生成され、こちらも炎の矢を防ぐ。

その時、ゴブリンメイジらのいるダンジョン入り口付近に到達できていたのは、赤き剣と白の旅団の核心部隊だけであった。

先に近接戦に移行していた騎士団は、近付くことが出来ずに足を止められている。

アベルがその状況を認識した時、ダンジョン入り口から出てくる巨大なゴブリンが目に入った。

「ゴブリンジェネラル……」

他のゴブリンと違って、ジェネラルは『将軍』と名の付く通り、個体の戦闘力は異常に高い。

B級冒険者でようやく、一対一で戦える……。

だが……

「ゴブリンジェネラルが三体……」

副団長シェナが呟く。

実は、初めてその声を聴いたアベルは驚いたのであるが、ここでシェナの方を振り向くわけにもいかない。

「ゴブリンジェネラルが複数体いるということは……」

「ああ、奥にキングがいるってことだ」

フェルプスの確認するような言葉に、アベルが推定通りに答える。

ゴブリンキング……数十年に一度、中央諸国でも存在が確認されることのある、ゴブリンの突然変異種である。

数万のゴブリンを率いて、都市を滅ぼした記録も残る。

今回のゴブリンも、万を超える数であっただろうから、まずキングの存在を想定するべきであった……だが、これまでに、ダンジョンでゴブリンキングが生まれた記録は無かったのだ。

「正直キングの強さはわからん。わからん以上、奴が出てくるまでにこのジェネラルたちは倒しておきたい」

「同感」

アベルとフェルプスがお互いの考えを確認する。

「俺とフェルプスが一体ずつ、残り一体を他全員で頼む」

アベルの指示で、ジェネラル三体との戦闘が開始された。

近接戦闘だけであれば、アベルもフェルプスも、ジェネラルを圧倒していた。

だが、そこにタイミングよくゴブリンメイジの魔法が飛んでくるのである。

そのため、なかなかジェネラルに致命打を与えられずにいる。

ジェネラルが振り降ろす剛剣を、アベルは剣で受けずにかわす。

そして、かわしたところに魔剣を叩き込む。

「ギシャァァアアァァ」

ジェネラルの雄叫びがこだまする。

アベルだけではなく、フェルプスらも押していた。

(いい感じだ)

しかし次の瞬間、嫌な予感を感じて、アベルはダンジョン入り口を見た。

そこには、ジェネラルをすら超える巨漢のゴブリンが……。

そいつは、腕を振るった。

(ヤバい!)

「伏せろ!」

赤き剣も白の旅団も、何のことか理解は出来なかったであろう。

だが、そこはいくつもの修羅場をくぐってきた者たち。

全員が、とっさに地面に伏せた。

その瞬間、三体のゴブリンジェネラルたちの胴体が上下に切断され、切断した何かは、伏せた冒険者たちの頭上を通り過ぎていった。

(ジェネラルごと俺たちを殺そうとしたのかよ)

アベルは戦慄した。

不可視の風属性攻撃魔法エアスラッシュ……だがキングが放ったのは、エアスラッシュ以上のスピード、エアスラッシュとは比べ物にならない切断力、エアスラッシュとは違って詠唱していなかった。

(もしかして魔法じゃない……可能性もあるか? 腕を振るっただけだったからな……どちらにしても距離はとれん)

「俺とフェルプスで突っ込む」

そういうと、アベルはキングに向かった。

間髪いれずに、フェルプスもキングに向かった。

アベルは近距離、フェルプスは槍で中距離からの攻撃である。

キングは剣と盾を構え、極めてオーソドックスな近接戦を展開した。

オーソドックスでなかったのは、一撃の重さであった。

「ぐぉ」

思わずアベルが声を漏らす。

あまりの剣のスピードにかわし切れずに受け流そうとしたら、その剣の重さに声が漏れたのである。

だが、アベルが剣を交えている間にも、フェルプスが槍を突き刺してダメージを与えている。

アベルの剣同様、赤く光っている。

魔槍。

赤き剣と白の旅団の中で、魔剣や魔槍の類を持っているのはアベルとフェルプスだけだ。

アベルが、その二人で攻撃をすると言った理由はそこにあった。

おそらく、普通の武器では攻撃が通らないと踏んだのだ。

それは、キングよりも格下のジェネラルと戦っていて感じていた。

アベルやフェルプスの攻撃は通っていたが、他の者たちの攻撃はそこまで深いダメージを与えていなかった。

であるならば、ジェネラルの上位互換ともいえるキングなら、なおさらその傾向が強くなるであろう。

そして、それは正解であった。

普通の武器では、ゴブリンキングの肌には一切ダメージを与えることは出来ない。

アベルの魔剣、フェルプスの魔槍、これで戦うしかなかったのである。

二人は、ほんのわずかに優位とは言え、たった一つのミスで簡単にひっくり返る程度の優位さである。

そして、そのミスが出た。

アベルが踏み込んだ瞬間、足が滑ったのである。

「しまっ」

なんとか片膝をついて、体勢が完全に崩れるのは防いだ。

だが、それに合わせてキングはバックステップして距離をとる。

そして、腕を振るった。

「伏せろ」

アベルは叫びつつ、自分はキングに突っ込んだ。

「アベル!」

驚いたのはフェルプスである。

だが、すでに自分は地面に伏せている。

いったいなぜ……、

「剣技 絶影」

アベルは剣技を放った。

絶影……魔法を含めた全ての遠距離攻撃を、最小の動きでかわす技である。

これにより、キングが放った不可視の攻撃をかわす。

完全に間合いに入った。

「闘技 完全貫通」

本来なら、喉か頭に突き刺すのが確実なのだが、キングの巨体だと届かない。

そのため、下から心臓付近に突き刺す。

だが、タフなキングはまだ死なない。

「それは想定内だ。リン、俺ごと撃ち抜け」

「<バレットレイン>」

ウォーレンの盾の影に潜んでいたリンが、最後のトリガーワードだけを発する。

百を超える不可視の風の弾丸が、アベルとキングに向かう。

「剣技 絶影」

そして、再びの剣技 絶影。

味方の遠距離魔法をもかわす。

だが、深手を負ったキングはかわすことはできない。

「グギャァァァァアァ」

普通の武器では傷一つつかないキングの皮膚である。

だが、風属性魔法の中でも最上級、恐ろしいほどに詠唱が長く、およそ使用は現実的ではないとすら言われる<バレットレイン>なら別。

このとどめの為だけに、リンは防壁から降りて以降、一つも魔法を放たなかったのだ。

ほとんど執念と言えるだろう。

ほぼ無敵の貫通力を誇る最上級風属性攻撃魔法。

これはさすがにキングと言えども、耐えきることはできなかった。

無数の風の弾丸が身体を貫通し、ゴブリンキングは息絶えた。

赤き剣と白の旅団が、ゴブリンキングを倒したのとほぼ時を同じくして、広場の各地でゴブリンの殲滅が終了しつつあった。