軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0478 自由都市クベバサ

「自由の風を感じます!」

ローンダーク号の甲板で、深呼吸をした涼が言った。

「何だ、自由の風って」

同行者の王様は、自由の風を感じないらしい。

専制君主たる国王は、自由の敵に違いない!

もちろん、ナイトレイ王国には法律がある。

国王と 雖(いえど) も、基本的には法律を無視する事はできないため、区分的には専制君主よりも立憲君主と言うべきなのだ。

だが、そんなことは気にしない!

専制君主の方が、横暴な王様のイメージを持つから、アベルを専制君主に仕立て上げるのだ。

「リョウ、またよからぬ事を考えただろう?」

「ま、またアベルは、僕にあらぬ罪を着せようと! 僕は、民が幸せになるような、ナイトレイ王国の将来像を思い浮かべていただけです」

「ほぉ~」

涼の説明を、全く信じないアベル。

「故郷には、都市の空気は自由にする、という言葉があります。横暴な領主から逃れた民が、都市に逃げ込んで一年と一日を過ごせば、横暴な領主のくびきから脱する事ができるのです」

「なるほど。世界には、様々な法があるんだな」

涼が言ったのは、高校世界史で習った知識。

この自由都市クベバサで通用するのかどうかは、全く分からない。

二人が甲板に立つローンダーク号は、クベバサ自由港の外三百メートルほどの海上で、停船している。

入港許可が下りるのを待っているのだ。

ローンダーク号は、スージェー王国の軍艦であるため、入港手続きが商船とは違うらしい。

もちろん、事前に、スージェー王国大使館から届け出はされているはずなので、すぐに入れるでしょうとは、ゴリック艦長の言葉だが。

「港より手旗信号確認。『そのまま待て』 繰り返します。『そのまま待て』との事です!」

マストの上の乗組員が叫んだ。

船首にいたゴリック艦長も、自身の目で確認したようだ。

「確認した!」

ゴリックは、涼とアベルの方を見て言った。

「何か問題があったようです。今夜は船で寝てもらう可能性が高いですね」

「残念」

「まあ、仕方あるまい」

涼もアベルも受け入れた。

もっとも、受け入れる以外にはないのだが。

時間は、すでに午後五時。

入港が、明日に回される可能性が高くなっているのは、二人も薄々感じていたのだ。

「ギリギリでお預けをくらうのは悲しいです」

「リョウさん、晩御飯は美味しいものをいっぱい作ってあげるから」

悲しみに浸る涼に、 福音(ふくいん) を届けたのはローンダーク号料理長スーシーであった。

「本当ですか、スーシーさん!」

「ああ。もう明日には入港だからね。積んでる食材、全部使ってもいいんだから。任せときな」

「わ~い」

スーシー料理長の言葉に、嬉しそうに踊り出しかねない涼。

それを見て微笑む乗組員。

甲板に広がるのは、平和な光景だった。

自由都市クベバサは、大陸部分と、三つの大きな島、十を超える小さな島からなる。

大きな島はそれぞれ、行政島、外交島、そして監獄島と呼ばれている。

名前通りの施設が集中して作られているのだ。

すなわち、行政島は最高評議会をはじめ、自由議会や各省庁など、自由都市クベバサの行政の中心。

島の面積はけっこう広く、その中に、国家中枢が収まっている。

外交島は、各国大使館や、使節団が宿泊する国営の宿泊施設が置かれている。

その中には、スージェー王国大使館もあり、百人を超える外交官が常駐している。

今回の、ローンダーク号の船員たちも、涼とアベルを送り届ける任務を完了した後、しばらく滞在し、いくつかの命令が与えられるらしい。

その中心となるのが、この外交島に置かれた大使館となる。

最後の監獄島。その名の通り、島全体が巨大な監獄となっている。

監獄自体も、軽微な犯罪を犯した者から、重犯罪者を収監する監獄まで、何種類もある。

当然、一般人の立ち入り自体が、厳しく制限されている島だ。

これら三つの大きな島は、全長数百メートルの巨大な橋で大陸部分と繋がっている。

また、行政島と外交島の間も、巨大な橋で結ばれ、行き来はしやすくなっている。

ローンダーク号が入港予定のクベバサ自由港は、大陸部分にあり、商業地域や居住地域のほとんどは、この大陸部分にある。

スージェー王国によって準備された、涼とアベルが宿泊する宿も、この大陸部分にあるらしい。

二カ月分の宿泊費は、スージェー王国が先払いをしてくれるそうだ。

驚くほどのVIP待遇!

そんな自由都市クベバサの行政を取り仕切る省庁の一つ港湾省。

その港湾省の幹部であるミシタ副大臣は、顔をしかめていた。

彼の前には、直属の部下であるロンファン補佐官が立ち、指示を待っている。

待っているのは分かっているが……。

「本当に、バガージー港湾大臣は、こんな指示を出されたのか?」

ミシタ副大臣のこの確認は、もう六度目だ。

「はい、間違いありません」

ロンファン補佐官の答えも、もう六度目だ。

「明後日に入港するアティンジョ大公国の旗艦フランゼを行政港に入港させ、随行する艦隊を全て自由港に入港させよだぞ? こんな指示、今まで出たことないだろう?」

「はい、聞いたことはありません。ですので、指示書を受け取った際に私も確認したのですが……一言一句その通りだとおっしゃいまして」

「何を考えているのだ……」

ミシタ副大臣は、何度目かのため息をついた。

この指示通りに命令を遂行すれば、かなりの混乱が起きるだろう。

行政港とは、行政島にある官用港だ。

グベバサ海軍所属の軍艦はもちろん、公用船も多数入っている。

ある程度の余裕はあるため、そこに旗艦フランゼを入港させるのは、まあいいだろう。

問題は、随行する艦隊だ。

自由港は、かなり大きい。

貿易で成り立つ国家と言っても過言ではない以上、それは当然だ。

だが……。

「随行する艦隊が二百隻……。それだけの軍艦が一気に自由港に入ったら、大変なことになる。なぜ大臣にはそれが分からん?」

もちろん、二百隻の船が入港するスペースはある。

だが、相手は軍艦だ。

軍に所属する者たちが乗っているのだ。

はっきりいってきな臭くなっている隣国、アティンジョ大公国とゲギッシュ・ルー連邦……その火種になる事は容易に想像できる。

「基本的に、これまでは、十隻以上の軍艦は港外に停泊……だったよな?」

「はい、おっしゃる通りです。もっとも、十隻を超える軍艦がこの自由都市に来ることすら、ほとんどないですが……」

そう、そんなことはないのだ。

事前に、外交ルートで拒否するから。

だが、今回は、いろいろと例外が起きたらしい。

「到着は明後日か。やむを得ん……受け入れろ」

「分かりました」

ミシタ副大臣が言い、ロンファン補佐官は頷いた。

「あと、それで港湾機能が止まったままになっておりまして……」

「ん? こんな時間に、軍艦の入港申請だと?」

「はい。スージェー王国中央海軍所属、ローンダーク号の入港申請です」

「ふむ。本来なら四日前の入港予定? 大使館からの事前申請も問題ないのか?」

「ございません。乗組員百人の内、半数が大使館に、残り半数が街の方に宿泊予定と……入国申請も出ております」

ミシタ副大臣がめくる書類に合わせて、ロンファン補佐官が補足する。

「ふむ。反乱があり、女王が即位し、いろいろと混乱しているだろうに……船を送ってきたわけか。諜報活動を活発化させるのだろう。さて、本当の狙いは何か……」

ミシタ副大臣は小さくため息をつく。

正直、こういう謀略などは苦手だ。

苦手なのだが……上司があてにならない以上、仕方がない。

そう、いろいろ諦めている。

「まあいい。スージェー王国の方は、明日午前の入港を許可する。自由港に伝えておけ」

「承知いたしました」

こうして、涼とアベルの乗ったローンダーク号は、翌日の入港を許可されたのだった。

その夜、最後の晩餐で、豪華なメニューがふるまわれ、全乗組員が上機嫌になったのは言うまでもない。