軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0369 <<幕間>> アベル王の北部行 後編

エイボン男爵の都セミントン城壁外。

「くそっ」

男は、呟くように言った。

(何から何まで想定外だ……そもそも、盗賊団が攻城戦だと? あり得るか?)

そんな事を考えながら、盗賊団の頭は、城に攻撃を仕掛ける部下たちを見ている。

(金を掴ませた衛兵が、城門を開けるはずだったろうが。なんで開けない? できるだけ早く押し入って、金目の物を盗る……盗ったものは俺たちの物……役割は、一時間セミントンにいること、と言っていたが。これじゃ赤字じゃねえか)

だが、男は約束を 反故(ほご) にして撤退しようとは思わない。

そんなことをすれば、すぐに殺されることが分かっているから。

(マジで、さっさとやっちゃってくれよ……帝国さんよ)

カーライルからセミントンに向かって、最初に馬を駆けたのは、エイボン男爵ガス・ハイドだ。

供の者四人が付き従うのみ。

(気を付けてはいた……いたが、まさかセミントンを襲うとは。いつの間に、そんな力をつけた? 何度も討伐したが、その度に蘇り、不気味な奴らだとは思っていた。だが、これほどの力をどうやって……)

現在二十代半ば。王国解放戦での功績によって、北部に領地を持つことができたガス・ハイド。

騎士の家柄ではあっても、男爵位などは本来望むべくもなかった。

それが、活躍し、国王陛下の覚えめでたくなっての男爵位!

未だ混乱の続く北部の男爵ということで、他の地域の王国男爵に比べれば領地は広い。

普通は、男爵など荘園を一つ、二つ持つ程度なのだから。

ガスは頑張った。

誠心誠意、領地の統治に心を砕いた。

そんな領地が襲われている。

ガスは、そんな事を考えながら馬を走らせていた。

だからであろう、攻撃に気付くのが遅れた。

「ぐはっ」

ガスのすぐ左を駆けていた護衛が火属性魔法の攻撃を受けて、倒れる。

さらに、ガスの馬が、風属性魔法の<エアスラッシュ>を受けて前足を失った。

「うぐっ」

ガスは馬上から投げ出される。

そして、すぐに囲まれた。

囲んだ者たちは、革鎧を着ているが……正式な訓練を受けた者たちの雰囲気がある。

盗賊などではない。

北部は、すぐ北を帝国と接している。

しかし、皇帝は代替わりし、しかも今、王国と共に西方諸国に使節団を送り出している。

そんな状況下で、まさか……?

(殺される……)

ガスは、思わず目を瞑った。

だが……。

「其は大地を造りしもの 其は世界を造りしもの 其は全ての生きとし生けるものの祖 その力を貸し与えたまえ <ストーンストーム>」

早口での詠唱が響くと、面制圧用の数百の 石礫(いしつぶて) が、ガスを囲んだ男たちを打ち据えた。

さらに、飛び込んでくる剣士と斥候と槍士。

一瞬であった。

ガスを囲んでいた者たち十人、全員が気絶させられた。

途中から目を開けて見ていたガスにも、何が起きたのか理解はできない。

ただ、三人が、かなりの手練れであることだけは、後付けで理解できた……。

「無事か?」

剣士が尋ねる。

剣士の後ろから、魔法使いと神官が合流する。

そして、斥候の女性が言った。

「この辺りには、これで全部。でも、もう少し南に、数百人規模の伏兵がいる」

「伏兵……。まさかウォーレン卿やアベル陛下を!」

ガスが叫ぶ。

「ウォーレン? アベル陛下?」

剣士は驚きながら問いかける。

「はい。恐らく、ウォーレン卿は援軍を率いて追ってきてくださっています。それに、陛下も……陛下の性格であれば、カーライルで待っておいでにはならないでしょう」

ガスが手短に説明する。

自分の身分、領地が襲われていること。

おそらくそれを助けるために、カーライル伯爵と国王陛下が、この後、駆けつけてくれるであろう事。

だが、それは罠なのかもしれないと……。

「ああ……なるほど。陛下の命、そっちが本命か」

ガスの説明に、剣士は首を振りながら言う。

「どうするの、ヘクター?」

「街への襲撃自体が、陛下たちを釣りだすための罠だというのなら、陛下たち援軍は苦戦するかもな。それなりの戦力を伏せているだろうし。王国民としては、国王陛下の役に立つのは良いことだし……行こうか」

ヘクターと呼ばれた剣士の呼びかけに、斥候、槍士、魔法使いと神官は頷いた。

「……伏兵かよ。これは、盗賊団レベルの話じゃないぞ」

「ええ、そうね。三カ国で西方諸国に使節団を送っているこの状況で、ちょっと信じられないけど……帝国がちょっかい出してきたんでしょうね」

「新たに皇帝になったヘルムート八世か。新しくトップに就いた人間は、前任者に負けない人物であることを示すために、とんでもないことをやらかすことがあるから注意した方がいい、とリョウが言っていたが……当たったな」

「もう少し、内政でとんでもないことをやって欲しかったね」

アベルが涼の言葉を思い出し、リンがため息をつきながら同意する。

ウォーレンは、すでにアベルの前に立ち、大盾で矢と魔法の攻撃を 弾(はじ) いている。

カーライル伯爵領軍と王国騎士団は、最初の攻撃こそ痛撃を浴びたが、現在では態勢を立て直し、防御陣形を敷いていた。

領軍と騎士団で合計二百。

伏兵もほぼ同数。

ただし、伏兵は高所からの攻撃であるため、領軍と騎士団は反撃しにくい位置にいる。

「リン様、魔法団、砲撃準備整いました」

「うん、そのまま待機」

リンが率いる領軍魔法団は、詠唱を終え、あとはトリガーワードを唱えるだけとなっている。

それは、高所に対して反撃の 狼煙(のろし) ともなるものだが……そのためには、何かきっかけが欲しい。

「魔法団の砲撃に合わせて、騎士団が突撃する……が、タイミングをどうするか」

アベルがそう呟いた瞬間であった。

伏兵たちの背後から、悲鳴と怒号が上がる。

何か想定外の事が起きたのだ。

これこそ、きっかけ。

「砲撃、放て!」

リンの号令の元、領軍魔法団の攻撃魔法……<ソニックブレード>のような、分裂し面制圧を行う魔法ばかりが放たれる。

その一撃で、伏兵部隊の前面はほぼ壊滅した。

「騎士団、突撃!」

アベルが号令を出し、先頭を駆ける。

すぐ後ろにウォーレン。

それに王国騎士団とカーライル伯爵領軍が続く。

一気に坂を駆けあがり、伏兵が潜む高所に躍り出た。

そのまま駆け、伏兵をすれ違いざま切り伏せる。

アベルの視線の先に、伏兵たちが混乱している様が見えた。

剣士と槍士、そして斥候が、近接戦で伏兵たちを倒している。

さらに、石の槍が飛んでいるところを見ると、土属性の魔法使いもいるようだ。

「助勢感謝する!」

アベルはそう怒鳴ると、馬から飛び降り、伏兵の中に斬り込む。

すぐ後にウォーレンも続き、シールドバッシュで伏兵たちを吹き飛ばしていく。

そこからの展開は、一方的であった。

「お前……もしや、ヘクターか? 『明けの明星』か、久しぶりだな」

「アベルさん、いや失礼しました、アベル陛下、お久しぶりです」

ヘクターの言い直しに苦笑するアベル。

部下の手前、昔のままでいいとは言いづらい。

元王都所属C級パーティー『明けの明星』

アベルとは、それなりに深い関わりを持つパーティーだ。

また、王国解放戦においては、レイモンド支配下の王都において、抵抗勢力の一翼を担ったパーティーとしても知られている。

確か、今は、ハインライン侯爵の下で動いていたはず……。

「まさかこのタイミングで、この北部にいるとはな」

「はい。まあ、いつものようにハインライン侯爵の命令で」

アベルの問いに、ヘクターは苦笑し、他の四人も微笑んだ。

「おっと、セミントンに向かわなきゃな。『明けの明星』はどうする?」

アベルは五人に問う。

「我々は、ゆっくりとカーライルに向かいます」

ヘクターがそう言い、斥候オリアナが頷いた。

「わかった。道中気を付けてな……というのは、いらん心配か。とても助かった。明日には、俺もカーライルに戻れると思うから、城に寄ってくれ」

「畏まりました」

アベルは言い、ヘクターは頷いた。

三十分後……。

王国騎士団とカーライル伯爵領軍は、城門を攻撃していた盗賊団『黒狼』を、城門と挟み撃ちにして壊滅させたのだった。

セミントン城地下室。

そこには、捕らえられた襲撃者と、盗賊団『黒狼』の幹部たちがいた。

それはそれは 凄惨(せいさん) な拷問が……行われる前に、『黒狼』の幹部はぺらぺらとしゃべった。

それにより、襲撃者たちが帝国の手のものであることは分かった。

襲撃者たちも、結局、持っている情報は吐き出させられた……。

「やはり帝国か……」

アベルは顔をしかめ、深いため息をついて言った。

「どうするの? まあ、証拠というほどのものはないけど……証言だけだし」

リンは、コーヒーを飲みながら問う。

ウォーレンはいつも通り無言で、アベルの方を見ている。

「どうすると言ってもな……。その盗賊団が、何度潰しても蘇ってきていた理由は分かったわけだ。帝国が資金提供していたからと。だが、それで帝国を追及できるかと言われれば無理だ。もう少し、その辺りを深く探らせる必要があるな」

「ハインライン侯がいるから、いずれ分かるでしょう?」

「まあな。重点的に探らせよう」

こうして、アベルの北部行は、波乱のうちに幕を閉じた……。