軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0352 錬金術談義

「いやあ、勉強になりました!」

「う、うむ、そうかね」

涼は、笑顔いっぱい、にっこにこで言った。

エンチャントの魔法式が、自分でも驚くほど理解できたのだ。

ロンドの森の、水田管理特化ゴーレムにも活かせそうだ。

もちろん、そんなものを水田管理ゴーレムにどう活かすのかは、誰も知らない……。

さらに、破壊されたホーリーナイツも、好きなように解体することができた。

ただ、こちらは、正直言ってそれほど面白いものはなかった。

西方諸国一と言われる、法国のゴーレムであるが、驚くほど大きな魔石を使って出力を上げるという、ある意味、王道のゴーレムであったのだ……。

「法国ゴーレムの神髄は、近衛兵たる『ホーリーガード』の中にある」

あまり学ぶべきものが無かったことに、少しだけ沈んでいた涼に、ニールはそう言った。

それを聞いて、再び涼の目が輝きだしたのは言うまでもない……。

「いつか、ホーリーガードを解体して……」

涼の呟きは、隣のニール・アンダーセンにも聞こえなかった。

((……))

魂の響を通して、遠い場所にいる王様には聞こえたが、王様はあえて無言のままであった。

何を言っても意味がないと思ったからかもしれない。

城に戻るために歩いている二人だが、ニール・アンダーセンは、チラチラと涼の後ろを見ていた。

涼の後ろには、六台の、いつもよりも大きめの<台車>が連なっている。

それぞれ、大破したシビリアンを乗せていた。

格納庫まで運ぶのを涼は手伝っているのだ。

最初、そんな<台車>を見た時、目を剥いてニールは驚いていた。

「わしは、リョウ殿の、その<台車>の魔法の方が勉強になるが……」

というニールの言葉は、小さすぎて、上機嫌な涼には聞こえていなかった。

格納庫に、大破した六体を置く。

残りのうち、小破したものはすでに、修理に取り掛かっていた。

さらに、ほぼ無傷の三十体には、なにやら太いケーブルらしきものが付けられている。

おそらく、あれが、城壁の魔力を流用したものなのだろう……。

「ニールさん、根本的な質問をしてもいいですか?」

にっこにこのままではあるが、涼は改めて、ニールの方を向いて口を開いた。

「もちろんじゃ」

ニールは、格納庫内の作業は、すべて順調に行われているのを確認して、満足したように頷くと、

そう答えた。

「そもそも、共和国の『シビリアン』は、ほぼ全ての面で法国の『ホーリーナイツ』に劣っていたみたいなのですが、それをどうやって上回るようにしたのかを、僕は知りたいです。ホーリーナイツは、驚くほど大きな魔石でした。かなりの出力、そして持久力があるのは分かります。それを、どうやって?」

涼は、正面から聞いた。

「ふむ。それは単純な事じゃ。魔石が溜めている魔力を、全て使い切るようにしたのじゃ」

「全て使い切る? 普通は、使い切ることはできない?」

「うむ。普通は、全体の八割ほど放出されたら、魔石は魔力切れになった、と言われる。実際、そこから先は魔力を引っ張り出すことはできん。魔石の自己保存のようなものかもしれんな」

普通、人間でも、全力を出し切った、と言っても、いくらか体力は残されているものだ。

なぜなら、全部出し切ったら、死んでしまうから……。

心臓を動かしたり、呼吸をしたりする力は、残しておかないとヤバいでしょ?

ニール・アンダーセンは、そんなものまで、全てを出し切らせたということらしい。

魔石が生物だったら、大変なことになっていただろう。

「知っての通り、魔石は魔力を溜めておく能力がある。そして、溜めた魔力を放出する能力もある。魔石を体内に持つ魔物は、この魔石に溜められた魔力を自らの力に変換して、あれだけの尋常ではない魔法の行使や力の行使を行っておる」

ニールの説明は、涼も知っていることだったので、頷く。

「じゃが、実は魔石は、魔石自身が、溜めた魔力を自ら増やすことが分かっておる」

「え……」

「量は非常に少ないし、ゆっくりなのじゃが……そう、魔力の自己増殖とでもいうようなことをやっておる。つまり放っておけば、時間さえかければ、魔石の中の減った魔力は、自然にまた充填されるのじゃ。じゃが今回行った操作、魔石内の残存魔力を空にするまで使うと、その魔力の自己増殖も行われなくなる。一に百を掛ければ百になるが、ゼロに百を掛けてもゼロのままであろう? それと同じなのじゃ。そうやって、完全に魔力が空になった魔石は……ああなる」

そう言って、ニールは、一体のシビリアンの魔石を指さした。

それは、真っ黒になった魔石。

涼はそれを見て、なぜだか、ダンジョン四十層からの帰りなどに見た、真っ黒になった水晶らしきものを思い出した。

「真っ黒ですよね」

「うむ。ああなると、自然に魔力が増えることは無くなる。じゃから、今回は、首都の城壁に障壁を張るために使っておる魔力を、魔石に強制的に充填する。まだ西から、連合王国軍が迫ってきておるからの。間に合うかどうかは、正直分からんが……」

ニールは、小さく首を振ってそう言った。

「とりあえず……法国は退けられたわい……」

「あとは、連合王国だな」

司令部で、最高顧問バーリー卿が言い、元首コルンバーノは頷いた。

「連合王国軍が、この首都に着くまで、あと三日といったところか……」

「ああ。策がうまくいってくれることを祈るだけだな」

コルンバーノは、そう言うと、大きなため息を吐いた。

「俺がいれば確実だったんだが……」

「元首閣下が、最前線に出るわけにもいくまい」

「だが、俺がここにいたところで、何の役にも立っておらんぞ……」

コルンバーノはぼやく。

もちろん、頭では理解している。

国家元首などというものは、最高司令部でどっしりと座って、様々な決断を下し、戦争の責任を取るのが役割だと。

だが、元々が海の男であり、海戦で、常にその最前線にその身を晒してきた人間としては、戦場から遠く離れた元首公邸で、結果を待つのは気が気ではなかったのだ。

最前線にいた方が、はるかに気が楽だ……。

「今日中には結果が出るはずだが……」

コルンバーノが、ため息をつきながら言う。

「それがうまくいっても、連合王国軍がこのまま進軍を続ければ、困るのぉ」

バーリー卿も、ため息をつきながら補足する。

結局、二人とも大きなため息をついて黙ってしまった。

元首コルンバーノとバーリー卿の策は二つ。

二つとも成功しなければ、望む結果は得られない。

そして策は、すでに、二人の手を離れている。

うまくいくかどうかも、その結果生じることも、すでに二人にはどうしようもない。

だが、その結果に対しての責任は、二人が負わなければならない。

結果を待つ二人は、悶々としていた……。

その時、涼は一体何をしていたのか?

ゴーレムが並ぶ格納庫の一角で、ニール・アンダーセンとの錬金術談義に花を咲かせていた。

それは、もう、二人とも楽しそうに。

涼がにっこにこなのは当然なのだが、百歳を超えるはずのニールも、本当に楽しそうに。

聞けば、ここ十数年、錬金術への情熱はかなり無くなってしまっていたと。

しかし、今日起きた様々な事から、また情熱が湧き上がりつつあると。

だが……。

「え? これが終わったら、共和国を出て行っちゃうんですか?」

涼は驚いた。フランツォーニ海運商会の新船などもあるだろうに、どうして?

「うむ、そういう約定を結んでおるのじゃ。ちと残念ではあるが、仕方ない」

ニールは、苦笑いしながら、コーヒーを飲む。

元首公邸から運ばれてきた、暗黒大陸産のコーヒー豆で淹れたものだ。

そのコーヒーを掲げながら、ニールは言った。

「暗黒大陸に渡ってみようと思っておる」

「おぉ!」

ニールの決断に、驚きつつも賛意を表す涼。

暗黒大陸……響き自体が、何かかっこいい。

「西方諸国の人間も、暗黒大陸の沿岸部の国としか交易しておらん。奥地がどうなっておるか、気になる」

「分かります、分かります」

ニールの言葉に、何度も頷きながら同意する涼。

いつか行ってみたい……。

「そこには、まだわしが知らぬ錬金術もあるやもしれん。中央諸国にいた頃には、エンチャントなど知らんかったからな」

聞けば、エンチャントの魔法式は、ニールが自ら組み上げたのだとか。

魔法としてのエンチャントは、一般的とは言えないが全く見ないわけではない。

だが、錬金術でエンチャントという魔法現象を発現させたのは、ニールが初めてだと……。

「すごいですね……」

涼は心の底から称賛した。

実際に、シビリアンに書かれたエンチャントの魔法式は美しかった。

時に、数学などにおいても、『美しい』と感じる数式は存在するが、その魔法式版であろうか。

涼が初めて読んだ錬金術の書物は、ニールが書いたものだった。

つまり、涼の錬金術の最も根本にあるものの一つが、ニールの錬金術と言っても過言ではない。

だからであろう。

ニールが作った、エンチャントの魔法式を美しいと感じたのだ。

ニールはニールで、自分が去った後の中央諸国における錬金術に非常に興味があったらしく、その辺りの質問を、多くぶつけていた。

涼も、時間があれば、どこかの王様のソファーにぬべ~っと寝転んで、錬金術の本を読みふけっていた……。

それはとりもなおさず、ここ数十年の中央諸国における錬金術の発展を学ぶことにもなっていたのだ。

そのため、かなりスムーズに、ニールの質問にも答えることができた。

双方ともに、楽しい錬金術談義の時間を過ごしていた。

そして、ついに、最前線から司令部に早馬が到着する。

「報告いたします! 連合王国軍陸上補給部隊を壊滅、備蓄物資の焼却に成功したとの狼煙があがりました」

「やったか!」

思わずバーリー卿が声を上げる。

元首コルンバーノは、小さく何度もガッツポーズを繰り返す。

待ちに待った報告であった。

ただし、未だ半分。

「あとは、海だな」

「艦隊は……それこそ、お前さんが鍛え上げた部下たちじゃろうが。信じて待つしかあるまい」

コルンバーノの呟きに、バーリー卿が半分笑いながら答えた。

そして二時間後。

再び、最前線から司令部に早馬が到着する。

「報告いたします! グルン島沖合にて、連合王国艦隊を捕捉、補給艦隊全艦撃沈に成功との狼煙があがりました」

「よっしゃー!」

派手なガッツポーズを上げたのは、元首コルンバーノ。

バーリー卿は、何度も頷いて言った。

「策は二つとも成功しましたな」

「ああ。何より、奴らが頼りにしていたはずの法国ゴーレム兵団を撃退してあるのは大きいだろう。最強の援軍がなく、陸上、海上からの補給もない。打てる手はすべて打った……」

「さすがの連合王国軍も、戦争継続は不可能でしょうな」

西方国境から共和国首都を目指していた連合王国軍が方向転換し、国境へと引き返した報告が入ったのは、それから二時間後であった。

だが、全てが順調だったわけではなかった。

共和国諜報特務庁。

「局長大変です! 地下監獄のチェーザレが脱走しました!」

「なんだと!」

「チェーザレの部下、四人の脱走は阻止しましたが、最終的に全員自決」

「なんたる失態か……」

局長ボニファーチョ・フランツォーニは 呻(うめ) くように言った。