軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0298 暗闇の狂気

そこは、完全な暗闇だった。

一メートル先どころか、十センチ先すら見えない。

だが突然、目の前に、光が生じた。生じた光は上昇し、五メートルほどの高さで、静止した。

その光をもとに、ニルスは鋭く周囲を探って考える。

(エト、アモンはいる。ハロルド、ジーク、ゴワンもいる。他にはいない。神官服のようなものを着ていた男は? どこにいった? いらっしゃいと言ったが、どういう意味だったんだ……)

少なくとも『十号室』と『十一号室』の六人はいる。

さらに、足元が石畳であることに気づいた。

(『ボードレン』の道は、土を固めただけだった。つまり、今俺たちがいるこの場所は、ボードレンではない……?)

そこまで思考を進めると、さすがにニルスですらも冷や汗をかき始めた。

あの一瞬で移動したとなると……。

(転移か……)

転移など、尋常なことではない。

中央諸国での転移の例だと、大海嘯後に、ダンジョンの第四十層に強制転移させられた例……あるいは、帝国のなんとかいう男爵が使えるらしいという例。

それくらいだ。

(そう。そういえば俺たちが向かっている西方諸国には、転移の罠があるダンジョンがあるんだったか……?)

ニルスの思考が逸れたところで、六人の前に、一人の男が現れた。

「あ、さっきの……」

思わず、ハロルドが手を伸ばそうとするのを、ニルスが止める。

現れた男は、小国使節団の生き残りの一人、神官の男。

だが、それは外見がそうなだけであって、放つ雰囲気は全く違っている。

「お前は、いったい何だ……」

思わず、ニルスが呟いた。

『誰だ』ではなく『何だ』

それほどに異質。

これまでに、ニルスたち『十号室』の者たちも経験したことのない雰囲気。

あるいは、存在感というべきであろうか。

見た目は人間であるが、実態は全く違う別のもの。

「魔王?」

その呟きは神官ジークであったろうか。

思わず、ニルスも納得してしまいそうになる。

それほど、人間とは隔絶した存在に感じる。

だが……。

「くっはっはっはっはっは」

目の前の『神官』は、大笑いした。

「魔王? 魔王か、そうか、魔王か。くっはっはっはっはっは。いや、俺は、あんなに弱くはないぞ。魔王は、しょせん『魔物の王』というだけだからな。とはいっても、普通の人間にはわからぬよな。くっはっはっはっはっは……。いや、失敬失敬。それにしても、魔王か……、いや、面白い」

もちろん、何が面白いのか、六人には全く分からない。

「ふむ……さすがにわからぬか。そこの二人は、光の女神の神官であろう? それでもわからぬか……。まあ、中央諸国の神殿の教義では学ばぬか」

目の前の『神官』は、禍々しい笑いを浮かべながら、だが残念さも感じさせながら言う。

そこに、意を決して、という感じで、神官ジークが口を開いた。

「ネクロマンサー?」

その答えに、『神官』は少しだけ驚いた様子を見せ、口を開いた。

「面白い答えだな。なるほど、倒しても倒しても、新たに湧いてくるレイスを見てそう判断したか。面白い。中央諸国では、ネクロマンサーなど数百年前に絶えたはずだが……いいな、自分の頭で考えての答えか。神殿の教義に凝り固まっていないのはポイントが高いぞ」

『神官』は、そこで一呼吸入れて、言葉を続けた。

「だが違う」

「光属性の魔法を使う感じがする」

小さく、神官エトが呟く。

「まさか! 神官がレイスを操れるなど聞いたことがありません……」

神官ジークが、小さく首を振りながら言う。

『神官』は、それを興味深そうに見ている。

「いや、神官などというレベルではない……が……。かつて、聖なるものだったが、悪いものになってしまった……? 堕天?」

エトは、以前、涼から聞いた『堕天』という言葉を呟いた。

それに対する、『神官』の反応は激烈とすら言えるものであった。

「堕天! 堕天だと!? これは驚いた!! なぜその概念を知っている! 中央諸国には無いはずの概念だ。いや、すでに西方諸国にすら無い概念だ。これは驚いた……」

そう言った『神官』の目は、大きく見開いていた。

そして、何事か考え始めた。

小さな呟きが口から漏れる。

「ふむ、これは……そうだな、ここで殺すには惜しいか。実に惜しいな。いや、『堕天』を知る者たちか……これは、我慢するべきか……。ふむ、そうだな、そうしよう」

そして、よく通る声で宣言した。

「まず、俺は天使じゃない。それと、本当は、ここでお前たちの命も奪ってしまおうと思っていたのだ。先の奴ら同様にな。だが、それはやめた。実に面白い経験をさせてもらったからな。お前たちには、ぜひ、西方諸国に行ってもらうとしよう」

その瞬間、六人の視界が晴れた。

六人が周りを見回すと、そこは『ボードレン』の十字路。

さらに、その周辺を、王国使節団の冒険者たちが走り回っていた。

「ニルス、エト、アモン、みんな!」

懐かしい声が、ニルス達の耳に聞こえた。

水属性の魔法使いが、泣きそうな顔で三人に抱きついてきた。

「よかった……」

涼の口から、小さな呟きが漏れた。