軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0262 ルンへ

王都冒険者ギルド、グランドマスター執務室。

「そこをなんとか!」

「そう言われても、無理なものは無理だ」

懇願する涼。

顔をしかめながら拒否するヒュー。

「くっ……筆頭公爵とか言われながら、馬車の一つも借りることができない、この現実……」

涼はうな垂れながら嘆いた。

「いや、そういう誤解を招く言い方をするな。貸したくとも、ギルド馬車は全部出払っているんだ」

涼が、ルンの家に急いで戻る手段として選択したのは、ギルド馬車を使う事であった。

普通の馬車であれば、王都からルンへは、片道七日かかる。

だが、街ごとに用意された馬を取り換えてノンストップで移動することが可能なギルド馬車なら、王都からルンまで片道二日で着くのだ。

かつて、アベルと一緒に、ルンから王都まで、そのギルド馬車で移動したことのある涼は覚えていた。

もちろん、ギルド馬車は、普通の冒険者は使うことはできない。

ギルドマスターの特別な許可を受けた者が、特別な依頼のために、特別に速く移動しなければならない場合にだけ利用可能なのだ。

だが、そこは筆頭公爵。

地位と権力を悪用……もとい、グランドマスターたるヒュー・マクグラスにお願いして、なんとか使わせてもらおうとした……。

だが、結果は断られた。

「確かに、王都冒険者ギルドは王国の中心だからな、ギルド馬車は二十台以上ある。グランドマスターの権限で、かなり融通が利くのも事実だ。前の、フォーサイス殿も、娘さんを逃がすのに使ったこともあるしな」

王都陥落の際、時のグランドマスター、フィンレー・フォーサイスは、娘を王都からルンに逃がすためにギルド馬車を私的利用した。

緊急避難であったとはいえ、実際に私的利用は不可能ではない……。

というより、現実問題として、王家や貴族が力を持つ王国においては、貴族から冒険者ギルドへの要望は多岐にわたり、かなり柔軟にそれに対応できるようになっている。

その観点から見ても、筆頭公爵である涼のような要望に応えるのは、実はよくあることなのだ。

だが……。

「全ての馬車が出払っている以上、貸してやりたくとも貸してやれんのだ」

「くっ……」

ヒューは顔をしかめながらそう告げ、涼は悔しそうに唇をかんだ。

そんな時、ヒューが窓の外を見たのは偶然だ。

そして事態を理解すると、窓際に走っていき、勢いよく窓を開け、中庭に向かって叫ぶ。

「三号馬車を止めろ! グランドマスター命令だ!」

即断即行。

そこまで二秒。

あまりの展開の速さに、同じ部屋にいた涼ですら理解が追いついていない。

窓の外を見ると、中庭からギルド職員らしき人物が、馬車発着場に向かって走っている。

ヒューの怒鳴り声から、すぐに動いたようだ。

それを見て、

(よくあることなんだろうなあ)

と、涼は他人事のように思った。

「リョウ、ついてるな。馬車は貸せんが、ルン行きのギルド馬車に、相乗りさせてやる」

そういうと、ヒューはニヤリと笑った。

その顔は、見慣れている涼から見ても、正直、怖かった……。

二人は馬車発着場に着き、ヒューが三号馬車の扉を開く。

中から聞こえる声。

「グランドマスター、なぜ止めさせたのですか。急がないといけないはずですが」

「おお、わりぃな。ちょっとこいつも、ルンまで乗せていってくれ」

ヒューはそう言うと、場所を譲り、涼が馬車の扉から頭を入れた。

「すいません、ルンの街まで相乗りを……」

そこまで言ったところで、涼は大きく首を傾げた。

それに呼応するように、馬車に乗っていた三人も首を大きく傾げた。

そして、リーダーらしき剣士が、おそるおそる口を開く。

「もしかして……リョウか?」

涼も、おそるおそる口を開く。

「もしかして……ニルス? エト? アモン?」

馬車に乗っていたのは、パーティー『十号室』の三人であった。

「何年ぶりだよ……」

「かなり久しぶりだよね」

「一年半ぶりくらいだと思います」

ニルスも、エトも、アモンも驚きつつ、再会を祝していた。

「いや~まさかこんなところで会えるなんて!」

そう言いながら、涼は氷のミルでコーヒー豆を挽いている。

やはり再会したら、コーヒーで祝杯をあげるに限る!

「すごいよね~、ルームメイト三人のパーティーが、今じゃ押しも押されもせぬB級パーティーでしょ?」

涼が感心したようにそう言うと、三人とも顔を真っ赤にして照れた。

そう、『十号室』は、現在三人ともB級冒険者の、B級パーティーなのだ。

「B級ともなると、王都に派遣されたりもするんだね。僕にとっては、すごくラッキーだったけど」

「それは違うぞ、リョウ」

リーダーのニルスが、重々しく告げる。

「俺たちは、拠点を王都に移し、王都所属のパーティーになっているんだ」

「なんと……」

それは涼にとっては意外であった。

もちろん、拠点をどこに置くかは冒険者それぞれで自由に決められるし、コロコロと拠点を移すパーティーも、それなりにいる。

国をまたいでの所属変更となると、いろいろ難しい部分が出てくるらしいが、国内ならよくあることらしい。

「でも、どうして王都所属に?」

涼は当然の疑問をぶつけた。

「アベル王のお側近くにいるのは当然だろ!」

「リーヒャ王妃、マジ天使!」

「……まあ、そういうことで」

もう、誰がどのセリフかは言う必要もないくらいだ……。

ニルスはアベルをずっと尊敬している。

エトにとってリーヒャは天使である。

アモンは……十九歳、最年少なのに、なぜか二人を見守るポジションなのだ。

「あ、うん……よくわかったよ」

涼は、アモンの苦笑を見ながら、そして他の二人の、いつもと違う興奮状態を見て理解した。

この辺りは、時間の経過を感じさせない『十号室』の三人であった。

「じゃあ、依頼でルンに向かっているんだ?」

「ああ、そうだ。緊急で、しかも人手が足りないということで、わざわざ王都にまで来るような依頼だ」

ニルスが、少し胸をそらして威張っている感じで答える。

「ニルスがそんな依頼、遂行できるんでしょうか……」

「おい、リョウ、俺だって昔とは違うんだ! まあ、今回の依頼が、かなり大変なのは事実だがな」

涼のあまりの言い方に反論するニルス。

「今回は、ワイバーン討伐の援軍だよ」

「しかも二体!」

エトが依頼内容を教え、アモンが驚愕の情報を補足する。

「二体のワイバーン討伐……すごい」

「だろ?」

「ということは、今回アモンは、二回、空を飛ぶんですね……」

「いえ、それはもう勘弁してください……」

涼がまぜっかえし、アモンは頬を掻きながら苦笑いした。

以前、十号室の面々は、なし崩しにワイバーンを討伐することになり、『六華』というパーティーと連携し……アモンを空に飛ばすことによってワイバーンを討伐するという快挙を成し遂げたのだ。

わずか九人でのワイバーン討伐ということで、冒険者の間で、今でも語り草になっているくらいだ。

「今回、ルンの街から南に一日くらいの村近くにワイバーンが二体出て、現在南部にいる冒険者だけでは足りないという事で、王都から向かうことになったんだよ」

「ワイバーン討伐に駆り出されるのは、C級以上の冒険者だからな。ルン、アクレ、カイラディーを合わせても、今はかなり少ないらしい……。まあ、そもそもカイラディーにはC級以上の冒険者は一人もいないらしいしな」

エトが丁寧に説明し、ニルスはカイラディーの変わらぬ現状をあげつらった。

カイラディー……カレーは美味しかったのに。

涼はそんなことを考えながら、相槌を打つのであった。