軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0245 ゴールド・ヒル会戦

ようやく朝靄が消えようとする戦場。

両軍ともに、すでに布陣を終え、戦意を高めつつあった。

ここにいる誰しもが、今日、国の命運を決する戦いが起きることを理解している。

本来は、ここで双方が自軍の正しさを主張し相手の不法を糾弾する……そんなやりとりがあるのだが、今回は違うらしい。

幾人かの使者が行き来した後、アベル王とレイモンド王が、互いに一人ずつ供周りの者を連れて、戦場の中央で会合した。

もちろん、その光景は、それぞれの軍から見えており、兵たちは戦意を高めつつも、その成り行きに興味を抱いていた。

「お久しぶりです、叔父上」

「ああ、久しいな、アルバート」

アベルから見た場合、父の弟であるレイモンドは叔父である。

父との折り合いが決して良くなかったため、アベルが王城にいる時にも、親しく会話を交わしたことは無かった。

そもそも、アベルが誕生する前に、レイモンドは、フリットウィック公爵となって王城を退いていたというのもあるだろう。

「叔父上、王位を返上していただけませんか」

アベルの、その直接的な要求に、さすがにレイモンドは怒るよりも苦笑していた。

「そんな要求が通らないのは分かっているだろう」

「王位を返上していただければ、『五竜』を私の暗殺に送った件は不問に付しますし、フリットウィック公爵領は、今まで通り叔父上の領地として認めます」

「ああ……A級冒険者に襲われたらしいな。災難だったな」

まったく自分のあずかり知らぬところという言い方を、レイモンドはした。

「お前との一騎打ちであったなら、私には全く勝ち目はなかっただろう。だが、軍同士の戦いであれば、こちらは互角以上の戦いを望める。今のうちに降伏するなら、どこか領地をくれてやっても良い」

「お断りします、叔父上」

レイモンドの提案も、アベルは当然拒否した。

「叔父上も分かっているのでしょうが、本当の敵は帝国です。すでに、東部を支配下に置いて、ゴーター伯爵など北部の一部も帝国についております」

アベルがそう言うと、レイモンドは、ほんの僅かだけ眉を動かした。

もしかしたら、ゴーター伯爵が帝国についたのを知らなかったのかもしれない。

「帝国の狙いは、王国東部で産出される『黒い粉』。これは、この先の戦いを変えてしまうものです。帝国に渡すべきではありません」

「なるほど。お前の言いたいことはわかった。もちろん、帝国に東部を支配させるつもりはない。だが、今は帝国の軍事力は利用する」

「叔父上……」

アベルは、悲しそうな顔をして言った。

本当に、悲しかった……帝国に対する認識が甘い、そう思ったのだ。

だが、同時に、何を言っても通じそうにないことも理解してしまっていた。

「では、アルバート、お互いの力を示すとしよう」

「……はい」

噛み合わない会話を残して、二人は別れた。

自軍に戻ったレイモンドは、右手をさっと上げ、降り下ろした。

それに合わせて、レイモンド軍、前衛一万がゆっくりと歩き出す。

それは、民兵、冒険者、弓兵の部隊だ。

さらに続いて、中衛二万も歩き始めた。

合計三万の、横陣による圧力は、かなりのものだ。

「来やがったな!」

南部軍中央部は、近接職の冒険者たちが中心となっている。

そして、志願民兵が五人ずつの隊を作り戦う……。

その、最も敵と長い時間戦う中央部を率いるのは……冒険者と民兵からの人気が、アベル王にすら並ぶかもしれないマスター・マクグラスである。

かつての『大戦』の英雄であり、南部を代表する、ルンの街の冒険者ギルドマスターでもある彼こそが、この中央部を率いるのに最適な人材であることは、間違いないであろう。

だが、そんなマスター・マクグラスですら、三万の横陣が迫ってくる圧力をかなり感じていた。

戦端は、弓矢による攻撃によって開かれる。

レイモンド軍前衛からの無数の矢が、南部軍に向かって飛んだ。

古今東西、弓あるいは弩の発達以降、戦場に『火薬』が現れるまで、人の命を戦場で最も多く奪ったのは『矢』であるという研究者もいるほどに、地球の戦争史において弓矢の担った部分は重く、大きい。

だが、それは『ファイ』においては違う。

「風よ 吹きすさべ <風圧>」

南部軍の各所に配置されている風属性魔法使いたちが唱える<風圧>。

効果は単純に、風が吹くだけである……だが、この風圧の魔法による突風で、ほとんどの弓による攻撃は意味をなさなくなってしまう。

無論、一流の弓士が放つ矢であれば、<風圧>を切り裂いて突き進むが……一万人の軍勢の中でも、そんな弓士は十人もいない。

指揮官を狙う狙撃としては油断ならない相手ではあるが、面制圧とでも言うべき弓矢の雨あられには程遠い……。

かくして、地球において長きにわたり戦場の主役の一つであった弓矢は、『ファイ』においては完全に脇役と化してしまっていた。

「いくぞ、野郎ども! 蹴散らせ!」

マスター・マクグラスの号令と共に、接近するレイモンド軍に向かって、南部軍中央部の冒険者たちが突っ込んだ。

先頭で突っ込んだのは、一組の剣士と盾使い。

六華の剣士バンダッシュと、同じく盾使いのゴーリキー。

ゴーリキーが、巨大な盾を叩きつけるシールドバッシュで敵の戦列に穴を穿ち、そこからさらにバンダッシュが三方の敵を切り裂く。

そちらに一瞬でも意識を持って行かれたらもう終わりである……後に続いて突っ込んでくる冒険者たちの攻撃に切り刻まれる。

さらに、彼らに触発された志願民兵たちも、五人一組で戦い、戦果をあげていく。

だが、レイモンド軍もやられっぱなしではない。

下馬騎士と、徴兵した民兵の戦意は決して低くなかった。

負ければ、彼らに後はないのだ。

だが、この一戦に勝てば、命は繋がる。

民兵たちは、各街に家族がいる……負ければ、家族がどうなるかわからないと脅されていれば……それは死ぬ気で戦うしかない。

非人道的?

そもそも戦争自体が、非人道的なものであろう……?

「放て!」

レイモンド軍中衛に配置された、冒険者魔法団からの一斉射が、南部軍中央部隊に着弾する。

総じて、攻撃魔法は弓矢に比べて射程が短い。

だが、弓矢よりも狙いがつけやすいという利点がある。

正確に対象に当てることができる……場合が多い。

その、魔法団に対しては、南部軍が矢を放つ。

無論、先述した通り、<風圧>を発動すれば矢は無力となる。

だが、その間、攻撃魔法の勢いが弱まる。

さらに、風圧を使わせることによって、魔力残量を削ることにもなる。

そういう、細かい駆け引きが、両軍の間で行われているのだ。

そんなことは、慣れていない涼には分からない。

「やっぱり、僕が前線に出て一撃で……」

「ダメだ、リョウ、座ってろ」

アベルが一言の下に退ける。

「昨日も言った通り、南部軍全軍で勝たねばならない。そうしなければ、この先の王都奪還、帝国軍追討にも支障が出る上に、何よりも、王国全土を取り戻した後の統治に問題がでる。全員で取り返した……そういう事実が必要なんだ」

「わ、わかっているけど……」

「リョウが出る場面があるとすれば、それは最終局面直前だ。まだしばらく座ってろ」

「……はい」

いつもなら、なんだかんだと駄々をこねる涼であるが、ここは戦場である。

そして、アベルは最高指揮官である。

最高指揮官の命令は絶対である。……そうでなければ組織が機能しなくなる。

涼でも、それくらいは理解している。

だが、それでも……。

そう、それでも……自分が出ていきさえすれば、目の前の死者が減る……それを理解しているだけに、頭でわかっていても、心が苦しかったのだ。

心が苦しい……戦場はそういう場所であった。

朝九時ごろに開始した戦闘は、昼前に至っても、どちらが有利ともいえない、ある種、均衡状態が続いていた。

押し寄せるレイモンド軍の横陣を、少しいなしつつ後退しながら引出し、それを左右からの魔法砲撃によって削り、受け止め……再び押し返す。

その戦術展開は、マスター・マクグラスが、個人能力のみがA級ではなく、指揮能力においてもA級冒険者であったことを証明していた。

もちろんこれには、冒険者の魔法使いを率いるアクレのギルドマスター、ランデンビアの完璧な砲撃指揮があってこそである。

南部軍に参加した冒険者魔法使いのうち、火属性と土属性の魔法使いがランデンビアの指揮下に入っていた。

風属性は、<風圧>用に各所に配置され、神官たちはそれぞれに走り回って治療を施している。

三時間近くまったく休むことなく、最前線で指揮しつつ、時には自らも敵に切り込んでいたマスター・マクグラスであるが、さすがに元A級にも疲労が見え始めていた。

「ああ、くそっ。書類仕事ばかりでなまっていたからな……やっぱ、もう現役じゃねぇな」

そんなボヤキを思わず漏らしたマスター・マクグラスの目の前に、一本の陶製の容器が差し出される。

「マスター・マクグラス、特製の疲労回復ポーションです、どうぞ」

「おお、すまんな。もらうわ」

差し出したのは、魔法使いを率いるランデンビア。

遠慮なく受け取ったマスター・マクグラスは、一息で飲み干す。

「くぅ~! けっこう美味いな! 今回の戦いのために、わざわざ作られたやつなんだろ? これからも常時生産して欲しいな……疲れがとれる」

「普通の治癒用のポーション以上に手間らしいですからね……こんな戦時じゃないと難しいと思いますよ」

マスター・マクグラスの、かなり真剣な表情での要望に、苦笑しながら答えるランデンビア。

毎日、書類仕事に追われてくたくたになりながら頑張っているマスター・マクグラスとしては、この疲労回復力は喉から手が出る程に欲しいものだろう。

「むぅ……」

不満顔になりながらも、前線から目を離さない。

長い経験から知っているのだ。

何か仕掛けてくるなら、そろそろだと。

だからこそ、最前線で指揮を執り続けているのである。

その時であった。

ドガンッ。

レイモンド軍の中衛か後衛から、いくつかの樽が飛んできた。

最前線よりも少し南部軍の奥側に着弾した『樽』たちは、突然爆発した。

そう、『爆発』したのだ。

轟音を轟かせ、着弾地点にいた人間と大地を、一緒くたにして弾き飛ばした。

「なんだ……」

「……」

その光景は、マスター・マクグラスを驚かせ、ランデンビアを絶句させた。

王国の最高機密の一つである『黒い粉』について、二人は知らなかった。

「やはり、すでに手に入れた物があったか」

丘の上にある中央指揮所にいるイラリオン・バラハは、『樽』の爆発を見て苦虫を噛み潰したような顔で言った。

王都騒乱の前に起きたゴタゴタで、王都に保管されていた『黒い粉』がフリットウィック公爵領の都カーライルに横流しされている件を、アベルと追ったことがあった。

財務卿フーカの弟たちと関わり、横流しされている黒い粉の中身を入れ替え、カーライルに流れないようにしていたという話を聞いたのだが、全部止めることができていたわけではなかったようである。

それにしても……レイモンドは当時、連合のオーブリー卿と手を組み、今回は帝国と手を組み……なりふり構わないというより、売国奴と言われても仕方のないことをしている。

イラリオンは、小さくため息をついた。

今はそれを考える時ではない。

<伝声>の魔法を起動する。

「南部軍全魔法使いに命じる。飛んでくる樽を砲撃せよ」

イラリオンは、<伝声>によって、この中央指揮所に居ながらにして、全軍に指示を出せる。

これは、手旗信号か、高価な錬金道具によって指示を出さざるを得ない軍隊にとっては、破格の性能だと言えるだろう。

本来は、戦場のような混沌とした諸条件の下では、<伝声>は使えない。

イラリオンだからこそ、そして戦場での使用を想定したチューニングをほどこした、特製の<伝声>だからこそ、使用が可能となっているのだ。

新たな樽に向かって、イラリオンの傍らからも火属性の攻撃魔法が飛んでいく。

南部軍魔法団副指揮官、アーサー・ベラシスによるものだ。

冒険者以外の魔法使いは、全てイラリオンとアーサーの指揮下に入っている。

樽は、アーサーの魔法が当たると、その場で爆発した。

「空中で破壊しても、すごい音じゃのぉ」

アーサーはぼやいた。

「地面で、味方を巻き込むよりははるかにましであろうさ」

「確かにな」

イラリオンも同感という感じでありながら軽口を叩き、アーサーも同意した。

敵も味方も、多くの死を見てきた二人は、ある意味、達観してしまっているのかもしれなかった。

長く生きるということは、多くの死を見るということであると。

結局、起死回生、あるいは乾坤一擲の『黒い粉』による攻撃も、南部軍を揺るがすことは出来なかった。

「そろそろか」

アベルは、丘の上の中央指揮所から戦況を確認し、懐中時計を見た。

「イラリオン、リョウ、やってくれ」

「御意」

アベルがそう言うと、イラリオンが答え、涼は一つ頷くと中央指揮所を出て、前線へ向かった。

イラリオンによる<伝声>が、南部軍全軍に届く。

「水魔法の準備が整った。総員退避せよ。繰り返す。水魔法の準備が整った。総員退避せよ」

イラリオンの声を受けて、最前線で戦闘中であったマスター・マクグラスも弾かれたように頭をあげた。

「リョウがくるか!」

そして周りを見渡して叫ぶ。

「全員退け!」

そうは言いつつも、敵と切り結んでいる状態であれば、簡単にさがれないことは知っている。

とりあえず、味方を逃がしてくれない敵に対して、投げナイフなどで牽制して味方から引き剥がす。

そして、なんとかまとめて、さがる。

もちろん、追ってくる敵もいるのだが、それ以上に、敵は何が起きているのか理解していない表情だ。

互角に戦っていた相手が、いきなり退き始めればそれは混乱するであろう。

前線指揮官たちも、罠ではないかと考えるであろう。

そんな混乱につけ込んで、南部軍の最前線はある程度引くことに成功した。

前線からの撤収の最後尾に、マスター・マクグラスはいた。

そして、自分が向かう先に、涼がただ一人立っているのが見えた。

「そういえば、リョウの魔法を見るのは初めてだな」

呟きながらも足を止めることなく、走り続ける。

そして、涼と目が合った。

涼は小さく頷くと、唱えた。

「<フローティングマジックサークル>」

その瞬間、マスター・マクグラスの目には、涼の鞘がほんの少しだけ光ったように見えた。

僅かに漏れた……錬金術が発動する際の、淡い光が、本当に一瞬だけ。

そして、涼の周りに、十六個の魔法陣が浮き上がる。

「なんだ……それは……」

マスター・マクグラスは走り続けながら呟く。

一緒に走っていた者たちが、思わず足を止めると、彼らの背を叩き、走り続けることを促す。

驚いているのは皆同じ。

急いで走ってはいるが、まだ自分たちは涼の魔法の射線上にいる……マスター・マクグラスはそう感じていた。

そして涼を見る。

涼も理解したのであろう。

少しだけ微笑むと、浮かび上がった。

周りに浮かぶ十六の魔法陣と共に、涼自身も空に浮かんだのだ。

そして、空中に静止すると、涼が唱える声が聞こえた。

「<アイシクルランスシャワー“扇”>」

その瞬間、涼と魔法陣から、数百、数千、いや数万にのぼる氷の槍が発射された。

空から見れば、無数の氷の槍が、涼を要にして、扇状に拡散して飛んでいく姿が見られたであろう。

それは、降り注ぐ太陽の光を反射し、美しく煌めいていた。

突然退き始めた南部軍に、多くのレイモンド軍の前線指揮官たちが訝しんだ。

そのほとんどが、「罠だ」と認識していた。

だが、問題はその先である。

罠であるならば、自分たちはどう動くべきか。

出した答えは「動かない」

正確には、「動けない」だったのだが、この際、どちらでも一緒である。

南部軍から見れば、正確には涼から見れば、動かない的だ。

音速を超える氷の槍たちは、レイモンド軍の戦列に食い込み、完全に崩壊させた。

扇状に発射された槍は、一斉射だけではなかった。

涼は斉射の度に、少しずつ高度を上げ、だんだんと遠くの『的』に斉射していく。

上から見ると、時間と共に、氷の扇は面積を広げていった……。

「アベルのオーダーは、敵の無力化。殺した方が狙いとしては楽だけど……。彼らも王国の民。戦後は王国軍に組み込む貴重な戦力だしね。武器破壊と足止めだけですよ」

数万の氷の槍は、レイモンドの兵たちが持つ武器を破壊し、馬を倒し……戦意を奪い取った。

剣を引き抜いたアベル王が、その右手を振り下ろし、イラリオンの<伝声>によって、南部軍全軍に命じる。

「全軍突撃!」

まさに、待ちに待った号令。

南部軍最右翼に布陣したルン辺境伯領軍は、次期領主アルフォンソ・スピナゾーラの号令一下、前面のレイモンド軍に向かって突撃を開始した。

南部軍最左翼に布陣したハインライン侯爵領軍は、領主アレクシス・ハインライン侯爵を先頭に、前面のレイモンド軍に向かって騎士団突撃を開始した。

そして、中央部。

引き揚げた冒険者たちと入れ違いに、新たな冒険者たちが突撃を敢行する。

ルン所属の冒険者たち。

先頭を走るのは、一人の剣士と盾使い。

そのすぐ後ろを、槍士と女魔法剣士、双剣士、斥候。

そして、二人の剣士。

先頭の剣士は、王であるアベル……それと盾使いウォーレン。

自ら下した突撃の下知に対して、先頭切って走って行くあたり、やはり王以前に冒険者であり、生粋の剣士なのであろう。

その二人の後ろを駆けるのが、白の旅団団長フェルプスと副団長シェナ、双剣士ブレアと斥候ロレンツォ。

そのA級・B級集団になんとかついていくのが、D級の『十号室』二人の剣士、ニルスとアモン。

D級ではあるが、『ワイバーン殺し』として知られるようになった『十号室』は、ルンの街の冒険者たちからはもちろん、他の街の冒険者たちからも一目置かれるようになっていた。

だが、彼らの後にも、数百の冒険者たちが続く。

ルンの冒険者近接職の全員が、アベル王の近衛として突撃した。

南部軍が突撃した先、レイモンド軍は、すでに指揮系統はズタズタになっている。

涼の氷の槍は、彼らの武器を破壊している。抵抗は不可能であった。

騎士も、魔法使いも、冒険者も、徴兵された民兵も……。

そんなところに、精強を持ってなるルン騎士団やハインライン騎士団が突撃して来ればどうなるか……一目散に逃げるしかない。

そんな両騎士団の狙いは、レイモンド軍を追い散らすことではなかった。

両騎士団ともレイモンド軍の前衛、中衛の外縁を全て突破し終えると、後衛部隊に対しては、斜めに、中央に向かって突き破り始めた。

空から見れば、袋の口を閉じるような軌道。

後方を遮断し包囲しつつ、後衛中央、すなわち最高指揮所にいる、レイモンド王に直撃するコースである。

だが……。

「くそっ、いないぞ?」

「すでに逃げた後か……」

「味方を捨て駒にしたか」

両騎士団が直撃した最高指揮所は、すでにもぬけの殻……。

どのタイミングで逃げ出したのかは分からないが、レイモンド王の捕獲は失敗した。

しかし、この日、アベル王とレイモンド王の戦いは、アベル王の勝利で幕を閉じたのであった。