軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0243 出陣式

「兵を起こすなら、今が最適だと思うのだが」

「はい、私も同感です。今なら万が一にも、帝国本土からの援軍はないでしょうから」

アベルがハインライン侯爵に尋ね、侯爵も同意した。

涼も横で頷いている。

なんとなく場の雰囲気で、涼が頷いているのは、アベルにはお見通しであった。

そんな涼が提案する。

「出陣式は広場でしますよね? また空を飛びますか? それとも……」

「いや、今回は空は飛ばない。少し高い所から、演説できればいいんだが……広場に建ててもらうか……」

「でしたら、氷で壇を作りましょうか?」

「ああ、それはいいな!」

出陣式の会場イメージが、アベルと涼の間で出来上がっていく。

ハインライン侯爵は、何も口を挟まなかった。

当初、懐疑的であった涼に対する評価も、すでに全幅の信頼に代わっている。

そこには、若干の諦めも入っていた。

(リョウは、殺そうと思えば、いつでも誰でも簡単に、殺すことができる。防ぐことができる者などいやしない……)

そんな諦め。

そのうえで、アベル王が涼を、利によらず心によってしっかりと味方につけているのを見て、安心してもいた。

敵に回れば絶望であっても、味方にすれば希望である。

「イラリオンには、俺から話しておこう。<伝声>の魔法だったか、あれで声を遠くまで届けてもらわないとな」

どうも、会場設営の話し合いが終わったらしい。

「これは忙しくなりますね! 月一のケーキを、週一にしてもらわないと割りが合わないですね!」

涼はそう言うと、チラリとアベルを見る。

「いや、リョウは、当日、現地で壇を作るだけだろ? 簡単じゃないか」

「なっ……」

アベルの冷静な指摘に、絶句する涼。事実を指摘されたための絶句である。

「い、イメージを今から練っておかないと、当日崩壊とかしたら大変なことに……それに、ほら、魔力をいっぱい使いますから、いまのうちから魔力消費を節約しないと……」

ケーキ増量の要求を拒絶され、涼はうろたえた。

「ケーキ特権は、月一回だ」

「くっ……これが暴君か。権力者の横暴、ここに極まれり!」

ケーキ増量要求を正式に却下され、悔しがる涼と、まったく取り合わないアベル。

二人の様子を見ながら、ハインライン侯爵は苦笑した。

解放軍出陣式当日。

「すごい人数ですよ」

「くぅ~出遅れたか」

「ルンだけじゃなくて、アクレはもちろん、ウィットナッシュやカイラディーからも冒険者が来てるからねぇ」

三人のD級冒険者は、広場の最前列をとれなかったことを悔しがりながらも、人の多さに驚いていた。

もちろん、アモン、ニルス、エト、『十号室』の三人である。

「最前列の向こう側、綺麗な柵が設置されていますね」

「多分、氷の……」

「リョウ製、だろうな……」

融けるそぶりなど一切なく、太陽にキラキラと輝く氷の柵が設置されている。

「でも、リョウさんの弟子という可能性も……」

「ああ……」

アモンの指摘に、ニルスは思い出したのだ。

ゲッコー商会からの依頼を達成し、商会に報告に行った際に、その裏庭で繰り広げられていた光景を。

そこでは、まだ成人前の子供たちが、<アイスウォール>や<アイシクルランス>で、戯れていた。

模擬戦、というほどには血なまぐさくなく、小さな子供たちが棒切れを振り回して騎士や剣士のまねごとをするような、そんな雰囲気の微笑ましい光景……。

そう、真実を知らない者が見れば、微笑ましい……そんな光景なのだが。

だが、三人は知っていた……その<アイスウォール>が、ほとんどの攻撃を跳ね返してしまい、その<アイシクルランス>が、先の尖った状態であれば比類ない貫通力を持つということを。

なぜなら、彼らがよく知る水属性魔法使いの魔法、そのものだったからだ。

「気づかれましたか」

いつの間にか、三人の後ろから微笑みながら、会頭であるゲッコーが声をかけた。

「彼らの先生は、リョウさんです」

「やっぱり!」

ゲッコーの種明かしに、三人は異口同音に声をあげた。

「まあ、リョウの弟子たちである可能性は否定できないが、多分、やはりあれはリョウの氷の柵だろう」

「そうですね。造形が細かいです」

「リョウって、たまに、そういうところにこだわるよね」

ニルスが仮説を出し、アモンが肯定し、エトが涼の特徴を述べる。

そんな『十号室』の三人のすぐ傍から、何事か声が聞こえた。

「ほら、あれがそうだろ? 氷漬けになっている……」

「ああ……。なんか名前が書いてあるプレートが埋め込まれているぞ」

「『五竜 コナー』ってことは、槍士コナーか。マジで、コナー、ブルーノ、カルヴィンの三人が氷漬けになっていやがる」

「サンは、アベル王が一騎打ちで倒したんだよな。名実ともに、この国の冒険者の頂点ってことだろ……すげぇ王様だぜ」

ルンの冒険者ではなく、他の街から来た冒険者たちらしい。

「まあ、アベルさん……いや、国王陛下が強いのは当然だが、他の三人を氷漬けってのは、さすがだな……」

ニルスが、声を潜めてエトとアモンに言う。

「五竜対赤き剣の対決で、リョウさんがリーヒャさんに代わって援軍に入った、っていうのは有名な話になっちゃいましたからね」

「リョウ、グッジョブ!」

少し歪んだ形で伝わっている話をアモンが言い、リョウがリーヒャの代わりに戦ったのを褒めるエト。

いつものエトっぽくないのは、もちろん、リーヒャ関連だからなのは言うまでもない。

三人のすぐ後ろから、ようやく着いたらしい他の街の冒険者たちの声が聞こえてきた。

「よかった、間に合ったよ……」

「もう! バンが、もう一つだけ依頼を……とか言うからギリギリになったのよ!」

「悪かったよ、アッシュ。でもそのおかげで、ルンでの滞在費は潤沢になったじゃないか」

「私たち姉妹は、普段から蓄えてある」

最後は、末の妹らしい女性の声であった。

そんな会話が後ろから聞こえてきて、十号室の三人は、首を傾げた。

聞いたことのある声な気がしたからだ。

それで、三人とも振り向いた。

「六華!」

三人異口同音に言う。

「おぉ! 十号室の! 久しぶりだな」

六華のリーダー、バンダッシュが嬉しそうに言い、九人は再会を喜んだ。

以前、十号室と六華は、ワイバーンを倒したことがある。

正式なワイバーン討伐の参加者としてではなく、村が襲われているところでの遭遇戦で。

わずか九人でのワイバーン討伐は、今でも、多くの街で語り草になっている。

それは、『十号室』と『六華』の名前を高めることになった。

その証拠に、彼らが嬉しそうに再会を喜んでいるのを見て、周りにいた冒険者たちが小さい声で会話をしているのが聞こえる。

「今、十号室とか、六華とか聞こえなかったか?」

「ああ、聞こえた。あいつらが、あのワイバーンを九人で討伐したっていう……」

「ほら話だと思っていたんだが……」

「いや、確かに強そうだぞ……事実なのかもしれん」

確かに涼も有名になったが、『十号室』の三人も、それなりに有名になったようだ。

九人が、旧交を温めていると、ついに出陣式が始まった。

ルンの街の楽団による勇壮な音楽、各隊長たちの紹介やその他もろもろ……。

だが、ここにいる者たちが見たい光景、いや見たい人物はただ一人である。

その人物を見るために、その人物の声を聞くために、この広場に集まったのだ。

「いよいよだ」

そう呟いたのは誰であったか。

おそらく、そこにいる多くの者たちが、心の中で呟いたはずだ。

そして、その人物、アベル王が姿を現し、氷の壇を登る。

登壇した瞬間、歓声が爆発した。

まさに、『爆発』としか表現できないような……その歓声は、間違いなく、圧力を伴って……。

そして、即位式の時のように、爆発した歓声は、一つの言葉に収斂されていく。

「アベル! アベル! アベル! アベル!」

その広場にいる全ての人が……老いも若きも、男も女も、身分も仕事も何も関係なく、全員が一つになっていた。

その声を、アベルはただ一人、壇の上で受ける。

とても神々しい光景であった。

照らし出す光と、反射して煌めく光、その中にただ一人、揺らぐことなく立つ王。

その姿が、集まった民の心をさらに掻き立てる。

その熱狂は、永遠に続くかと思われた。

だが、アベルが右手を軽く前に出し、静まるようなしぐさをする……すると、集まった者たちの歓声は静まった。

完全に落ち着いたのを確認すると、アベルは口を開いた。

「まず、皆がここに集まってくれたことに感謝する。そして、皆に一つ謝らせてほしい。これまで、動くことができず、王都を含め、王国が蹂躙されたままであることを」

アベルはここで一つ呼吸を入れる。

そして続けた。

「皆も心配したであろう。アベルはいつ立ち上がるのか? 未だ戦うことができないのか? 王国はこのまま分裂してしまうのか? だが、心配することはない。今、全ての準備が整った。我らは、奪われた王国を取り戻すために、立ち上がる!」

アベルが右手を突き上げながら言い切ると、同時に、歓声が爆発した。

それは、広場だけではない。

イラリオンの<伝声>の魔法によって、アベルの演説は街中に伝えられ、ルンの街の隅々においてさえ。

この二日後、ルン辺境伯領軍、ハインライン侯爵領軍、それと冒険者たちを中心とした南部軍が、王都に向けて進発した。

途中、南部各領主軍と冒険者たちを糾合しながら、北上する。

こうして、ナイトレイ王国解放戦の火ぶたが切られた。