軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0238 襲撃

その日、午後に降った雨は、星が出る頃には完全にあがっていた。

いくつかの偶然と、いくつかの人為的な理由によって、アベルの執務室には、珍しいことに『赤き剣』の四人が集まっている。

それぞれが鍛え、編成してきた部隊の最終つき合わせが行われていた。

「ルン辺境伯領軍とハインライン侯爵領軍が、南部軍の中心になる」

アベルは、王国の地図を示しながら、ウォーレン、リーヒャ、リンに説明していた。

「いわゆる近衛は、フェルプスが率いることになる。あいつの『白の旅団』と、ルンの冒険者たちだ」

「冒険者を近衛にする王様って、聞いたことないね」

「アベルだからこそ出来る力技でしょうね」

アベルの説明に、リンもリーヒャも驚きながらも理解していた。

フェルプスは、アレクシス・ハインライン侯爵の息子であり、同時にルンの街のB級冒険者でもある。

彼が率いる『白の旅団』は、四十人が所属しており、それだけで『旅団』には届かないまでも『大隊』規模の人数である。

また、ルンの冒険者たちは、全員、アベルからすれば顔見知りであり、命を預けるに足る者たちだ。

彼らの中でのアベルの人気は、他の追随を許さない。

そして、帝国に飲み込まれれば、彼らが貯めてギルドに預けてある『余剰金』は奪われる可能性がある。

いわば、感情と理性の双方から、アベルに王国を回復してもらいたいと思っている者たち、それが冒険者とも言える。

「その辺りの調整は、ギルマスがギルドに籠りっきりでずっとやってくれている。リン、領軍の魔法使いたちはどうだ?」

「うん、元々かなり鍛えられていたよ。特に保有魔力量が多いから、継戦能力が高いね。いっぱい魔法を放てる。今は、模擬戦多めで、対人戦闘の経験を積んでる。いつでもいけるよ」

アベルの問いに、リンはお菓子をつまみながらそう答えた。

四人は、ずっと話し合っていて、夕飯の代わりにお菓子をつまんでいたため、かなり減っている。

「騎士団は城外演習に出るほどになっているし……ほぼほぼ、準備は整ったということか」

軍の編成というのは、想像以上に時間がかかる。

また、これまでとは違う任務、違う相手と戦うのであれば、戦場に出るまでに出来る限り習熟度を上げておきたいものでもある。

失敗すれば死が待っているのだから。

そして、それらの準備は、歴史には名の残らない人たちの努力によってなされている……歴史書に名前が載っている人だけが、頑張った人なわけではないのだ。

そんな事を話していた四人。

全員の言葉が途切れた時、アベルは、ふと違和感を感じた。

最初、その理由はわからなかった。

だが、すぐに気づく。

「静かすぎる……」

確かに、もう夜である。

だがそれでも、館ではそれなりの人数が働いているし、見回りの兵士たちもいる。

話し声、歩き回る音など、普段は意識しない様々な音が溢れているものなのだ。

今は、それらが全く聞こえない。

それは異常である。

そして、アベルは視線を感じて、窓の外、広いバルコニーを見た。

バルコニーの奥、手すりに、四人の男たちがいるのが見えた。

しかも、真ん中の男は、軽く手を挙げている……不敵な笑みを浮かべながら。

「来たのか……」

アベルは呟き、剣を手に取った。

他の三人も、バルコニーにいる四人が誰なのか、想像はついたのであろう、各々自分の得物を持ち、アベルと共にバルコニーに向かった。

執務室外にあるバルコニーは広い。学校の運動場並みに。

広間にも繋がっており、このバルコニーだけでもパーティーが開ける広さである。

実際にこのバルコニーから、前庭に並んだ騎士団の出兵式の際に、辺境伯が号令を出したこともある。

その広いバルコニーの手すりに、四人の男が並んでいた。

四人共、三十歳を少し超えたあたりの年齢であろうか。

剣士、魔法使い、槍士、そして斥候兼弓士。

王国に存在するたった二つのA級パーティーの一つ、『五竜』である。

アベルたちがバルコニーに出ると、リーダーで剣士のサンが口を開いた。

「おお、よかったよかった。ずっと気付いてくれないのかと思って、寂しかったんだぜ」

相手を見下し、挑発する言い方……だが、それに応するだけの強さを持った男である。

「『五竜』のサンだな」

「おいおい、様をつけろとは言わねーけど、せめてサン殿くらい言ってくれよ。いちおう俺ら、先輩のA級冒険者だぜ?」

アベルの言葉に、傷ついた風を装って、サンが答える。

「裏切り者につける敬意など持たんな」

「冒険者の王様は厳しいらしい」

アベルが言うと、槍士コナーが軽口を返した。

手すりに寄りかかっていたり、サンに至っては手すりの上に器用に座っているのだが、それでも全く隙の無い五竜。

アベルは、チャンスさえあれば一気に斬りつけようと考えていたのだが、そんなチャンスなど欠片も無い。

「この状況で、ここにいるお前たちに確認するのも馬鹿らしいのだが、それでも聞いた方がいいのだろうな。俺を殺しに来たんだよな」

アベルは、サンを見ながらそう問うた。

「隠してもしょうがないな。全くその通りだ。A級冒険者にして王を宣言したアベル、あんたを殺せば、四人で二十億フロリンもらえる。だから、殺されてくれ」

悪びれることなく、良心の呵責など全く見せずに、サンはアベルの質問を認めた。

「二十億か……安く見られたもんだな」

「いやいや、安くはないだろ」

アベルの呟きに、槍士コナーがつっこむ。

「A級やってても、そんな報酬の依頼は無いぞ」

コナーは両手を広げて肩を竦め、ありえないを表現した。

「さて、賢明なるアベル王とその仲間たちは理解していると思うが、これだけ時間を稼いでも誰も来ないよな? もちろん、いつまで待っても援軍は来ない」

「チッ」

サンは言い、アベルは小さく舌打ちをした。

アベルが、長々と話をしていたのは、騒動に気付いた誰かが助けに来ることを、若干期待したから、というのは事実である。

だが同時に、仮にもA級冒険者たちが、そんなミスをするとも思えなかったのも、また事実なのであるが。

「館の人間たちはどうした?」

「ああ、心配するな。眠っているだけだ。殺しても良かったんだが、報酬がかかっているのはアベル、あんたの命だけだからな。やさしいだろ?」

「館の人間、全員を眠らせたのか?」

アベルは、素直に驚いていた。

薬で眠らせたのであろうが、百人を超える人間がいたはずである。簡単にできることではない……。

「全員眠らせた」

それまで一言も言葉を発さなかった斥候兼弓士のカルヴィンが言った。

「A級の斥候だぜ? そういう面に関しても普通じゃないのさ」

サンは、少し誇るかのように言う。

実際、これまでの冒険者の歴史上でも、A級まで上がった斥候は決して多くはない。

もう一つのA級パーティー『赤き剣』には、斥候はいない……その事実からも、想像がつこうというものだ。

だが、「全員眠らせた」という言葉を聞いたとき、アベルは安堵した。

「全員殺した」よりは、はるかに良い情報であるから。

「さて、そろそろ情報交換も終わりにしていいだろう? アベル、お前さんの命を貰うとしよう」

サンはそう言うと、手すりから降りた。

「一つだけ聞きたい。お前たちの五人目、神官ヘニングはどうした?」

アベルは、五竜の報告書が回って来た時から疑問に思っていたことを聞いた。

「それは……お前が知る必要のないことだ」

サンは、その言葉を無表情で言った……だが、ほんの僅か、悲しさと後悔をアベルはその言葉から感じ取った。

パーティーには、様々な事情がある……それは、他者が土足で踏み込むべきではない。

「そうか、悪かった」

たとえ、目の前のA級冒険者たちが、何らかの理由で正道から足を踏み外した者たちであったとしても、他人が聞いてはならない質問というものはある。

アベルの問いは、その類のものだったのだ。

だから、アベルは素直に謝罪した。

こうして、王国におけるたった二つのA級パーティー、『五竜』対『赤き剣』の戦いの幕が切って落とされた。