軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0224 西の森防衛戦 余

ランシャスが目を覚ました時には、すでに朝であった。

「ようやく目を覚ましたか」

ランシャスが横を見ると、そこには一人のエルフがいた。

「昨晩の男か」

ランシャスはそう言った。

そこにいたのは、ランシャスが剣戟を繰り広げた相手である。

「自治庁長官カーソンだ。帝国第二十軍、ランシャス将軍とお見受けする」

「まさか俺の事を知っているとはな」

ランシャスは、自嘲気味に笑った。

第二十軍、通称『影軍』のことは、帝国貴族であっても知らない者が多い。

それを、エルフが正確に知っていたのは、想定外だったのだ。

「そういう情報を集めるのも、自治庁の仕事だったのでな」

カーソンはそういうと、ランシャスの目の前に水筒を差し出した。

「将軍閣下の手足を縛るのが大変失礼であるのはわかっているのだが、あんたはヤバすぎる。すまんが、拘束は解けん。水を飲むのなら今しかないぞ。どうする」

「ああ、飲む」

ランシャスがそういうと、カーソンは手ずから水筒をランシャスの口元に持っていき、水を飲ませた。

「ありがとう」

「おう。いちおう言っておくが、逃げようなんて思うなよ。昨晩、あんたを一撃で倒した子が、ずっとあんたを見張っているからな」

「……セーラ」

ランシャスの呟きが、今度はカーソンを驚かせた。

「どこでそれを……って俺が言っちまったのか」

そういうと、カーソンは頭を掻いて、言葉をつづけた。

「そうだ、セーラだ。さすがのあんたでも、セーラには勝てない……というか、俺ら全員が束になってかかっても一時間もたずに全滅だな」

そう言うと、カーソン長官は苦笑した。

「どんな修行をすればあれほどになるのか……まあ、悪いことは考えるなよ」

そういうと、カーソンはランシャスの元を去った。

もっとも、ランシャスの周りには、見張り四人が立っているのだが。

次にランシャスの前に来たのは、三十代半ばに見える女性と、プラチナブロンドの髪の絶世の美女であった。

「帝国第二十軍のランシャス将軍だそうじゃな。わしが、現在、森を取り仕切っておる大長老じゃ」

「ランシャスだ」

どちらも頭を下げることなく、簡単な自己紹介である。

「貴殿は我らに囚われた。他に、部下が五人。これらは牢に入れておる」

「五人……だけか?」

「うむ。他は、ほとんど動けぬ。いちおう死なぬように回復魔法をかけてやってはおるが、完全に回復されて反乱でも起こされてはかなわぬ」

「東の砦を除いても、千人以上いたはずだが……援軍も合わせれば二千を超える数が。全員が戦闘不能だと?」

おババ様の説明に、ランシャスは小さな声で確認した。

「うむ。全員大量の血を流して戦闘不能に追い込んだらしくてな。ある程度回復させても、失った血はまだ戻らぬから寝たままじゃ。もうしばらくすればホープ侯爵領から兵が来るから、そうしたら捕虜としてきちんと扱うと約束しよう」

「二千人が戦闘不能だと……。ありえるか……そんなことが……」

「お前の部下を戦闘不能に追い込み、お前を気絶させたのは私だ」

ランシャスの呟きに答えたのは、プラチナブロンドの美女、セーラであった。

「なんだと……。どういうことだ」

「どういうことと言われても……。二千三百人ほどか。私が全て倒した」

いっそ清々しく、あるいは涼やかに、セーラはそう告げた。

そこには、何の表情も無かった。

エルフを害しに来た者たちを排除した。ただそれだけ。

「本当なら、全員殺してもよかったのだ。だが、捕虜にしておけば、いずれはあるであろう帝国との交渉材料に使えるだろう? まあ、殺すのも戦闘不能にするのも、たいして手間は変わらなかったがな」

そして、言葉を切って、何事かを思い出したように言葉を続けた。

「それでも、倒し切るのにだいぶ時間がかかってしまったか。もう少し早くやれそうなものだったが……。おババ様、遅くなり申し訳ありませんでした」

「いや、十分早かったと思うのじゃが……」

セーラは謝り、おババ様はどう答えていいか迷って、常識的な言葉を言った。

「あれだけの数の『影』が……二十分程度で壊滅……だと。あり得るか!」

「二十分もかかったか……やはりかかりすぎだな。私の知っている魔法使いなら、三十秒もあれば全滅させるぞ。それも全員の首を刎ねてな」

「なにを……」

セーラが思い浮かべたのは、王都騒乱時、涼がウォータージェットで、デビルたちの首を瞬時に刎ねていった光景であった。

「その魔法使いが言っていた。『セーラが森を守っている間に、僕が帝国軍を滅ぼす』と。私すら止めることができない帝国軍では、滅びるしかないであろうな」

ランシャスが見たセーラの目には、絶対の確信が浮かんでいた。

心の底から、そうなるであろうことを疑っていない。

すでにセーラの中では、確定事項となっていることを、ランシャスは理解した。

「この化物どもめ」

ランシャスは思わず呟いた。

その呟きを聞いて、初めてセーラは笑った。

「化物か! ようやく私も、そう呼ばれるくらいになれたのか! 存外、嬉しいものだな」

「なぜ嬉しがるのか……」

セーラが笑顔を浮かべて喜び、それを見ておババ様は首を振りながら呟いたのだった。

「さて、ランシャス将軍」

気を取り直して、おババ様は呼びかけた。

「我々は、お主を、王都を占領している帝国軍への使者にするつもりじゃ」

「なんだと?」

ランシャスには意味が分からなかった。

見せしめ、あるいは恨みのはけ口に処刑するわけではなく、交渉の材料にするわけでもなく、使者にする?

「無傷で解放するということか?」

「まあ、そういうことになる。文書は持って行ってもらうがの。その後は好きにするがいい」

ランシャスは、少しだけ考えてから、口を開いた。

「ここで起きたことを俺に伝えさせて、抑止力にしようと」

帝国第二十軍を完全に壊滅させるだけの力が、西の森にはある……その証明を、ランシャスを送ることによって顕かにする。

手を出せば、また同じような目にあわすぞと。

「配下の部隊を全滅させて……どの面さげて……」

「そうは言うても、報告はせねばなるまい?」

ランシャスの悔しそうな言葉に、おババ様は常識的な言葉をかけた。

「わかっている! わかっているが……」

おそらく、自分は皇帝陛下には許されまい。

しかし、自分が敵前逃亡すれば、帝国に残った家族の安全が脅かされる。

だが、自分の命を差し出せば、その罪は家族にまでは及ばない……皇帝ルパート六世はそういう人物である。

親の汚名を、子供たちがより多大な功績をあげることですすげ、そういう方向に持って行き、より成長を促し帝国の発展に寄与させる。

そういう人の使い方をする。

そもそも、ランシャスに、別の選択肢は無いのである。

「わかった。使者の件、受けよう」

こうして、帝国第二十軍による西の森襲撃は、完全な失敗でもって終わりを迎えたのだった。