軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0202 首都テーベ

結局、使節団は、カルナックの街に二泊することになった。

カルナックの街は、トワイライトランドにおける王国方面の街としては最大規模で、王国との貿易の中心の街である。

そのため、使節団全員が、きちんと宿で宿泊できたのは、ありがたいことであった。

捕虜になった者たちは……明確にこちら側についたロザリアは、監視付きとは言え部屋に泊まれた。

残りは氷漬けにされて、宿の中庭である。もちろん、ナターリアも。

捕虜を引き渡した使節団は、カルナックを発って五日後、ついにトワイライトランドの首都テーベに到着。

門をくぐり首都の中に入ると、大通りの両脇に、首都に住む民たちがずらりと並んでいた。

王国からの使節団を歓迎するためである。

手には、ランド国旗と王国旗の小さい版を両手それぞれに持ち、楽しそうに振っている。

「すごい光景です……」

「そうだな」

涼の感想と、アベルの感想は、おそらく中身は全く別物である。

涼の場合は、「まさか地球でよくある光景が、ここで見られるとは」である。

アベルの場合は、「他国の使節団を、これほど歓迎してくれるとは」である。

ただ、どちらにしても、歓迎されて悪い気はしないのだ。

到着してすぐに、大公への謁見が行われる。

使節団トップの交渉官イグニスを筆頭に、文官と、アベルと涼が出ることになっている。

「あ、僕は、冒険者なので、出る必要はないかと……」

「そんなわけあるか! 道中、ずっと馬車移動させてもらったのは、こういう仕事をするためだ。わざわざ儀礼用の服まで、王国が準備しているんだから出ないとかありえないぞ!」

「うぅ……」

正論に正論を重ねて説明するアベル。

全く反論できずに落ち込む涼。

当たり前だが、結局涼も、謁見の儀に臨むことになった。

謁見そのものは、特に何事も無く終了した。

使節団側の、全ての受け答えはイグニスが行ったため、アベルも涼も、片膝をついて大公のお言葉を聞くだけである。

涼の感想は、「ミューのお爺さんということだけど、あんまり似てないよなぁ」であった。

つつがなく謁見の儀が終わり、その後の歓迎晩餐会は、ランドの文武両官と大臣、そして貴族たちが参加しての立食形式であった。

王国において、一度も立食形式の晩餐会など経験しなかった涼としては、地球以来ということもあり、非常に懐かしい感じがしたのである。

まあ、王国で晩餐会自体に出た記憶もないのだが。

交渉官イグニスを筆頭に、使節団の文官たちは様々なところで、ランドの人間と歓談していた。

彼らにとっては、この晩餐会も仕事の一環なのだ。

そして、唯一のA級冒険者アベルも、多くのランド武官や貴族たちに囲まれている。

こちらは、疲労を必死に笑顔で隠している感じなのが、涼にも見て取れた。

「アベル、ふぁいとです!」

そんな部外者的な感想を抱いている涼はと言うと……食べ物が並ぶテーブルの前に陣取っていた。

食事を楽しんでいたのである。

普段は、決して大食いではなく、忙しい時など干し肉だけで過ごしてしまう涼であるが、目の前にこれほど美味しそうな食べ物を並べられ、参加者の多くが会話にばかり興じている状況であれば……。

そう、決して卑しいわけではなく、打ち捨てられた食べ物たちを救うという義憤に駆られた行動なのだ!

もちろん、晩餐会の会場であるため、品良く、食事を進めなければならない。しかも立食で。

だが、涼は、『上品な大食い』という、両立するのが極めて困難なその二つの要素を、見事に両立させつつ、目の前の食べ物をたいらげ続けた。

その光景に、ランド貴族たちが遠巻きのまま近づけず、そして涼は食べ続け……そんな情景が繰り広げられていた。

「王国の冒険者の方は、 健啖家(けんたんか) でいらっしゃいますね」

そんな涼に、楽しそうに声をかけてきた女性がいた。

その声に、涼は横を向いた。

その女性は、まさに、絶世の美女……。

ランド貴族は、美男美女が多いな、という印象を涼は持っていたが、目の前の女性はその中でも群を抜いている。

そう、絶世の美女。

語彙に自信のない涼は、その言葉しか思い浮かばない。

涼が、これまで『絶世の美女』と思ったのは二人。

セーラとエリザベス……どちらも、奇しくもエルフである。

だが、目の前の女性はエルフではない。

そして、前述の二人とも違う。

セーラが『凛とした美しさ』なら、エリザベスは『可憐な美しさ』であった。

目の前の女性は、『妖艶な美しさ』という表現がぴったりであろう。

涼は、返事をしようとして、口の中に物が入っていることを思い出す。

「ああ、焦らずともいいですよ。美味しそうに食べている姿に、思わず声をかけてしまっただけですから」

女性は、ニコニコしながら、そんな涼の姿を見ている。

「恐縮です」

ようやく、口の中の物を食べきって、涼は言葉を発することができた。

見た目二十代半ばのその美女は、少しだけ顎に手をやって何かを考えた後、口を開いた。

「魔法使いのリョウ殿でしたね。わたくしは、アグネスと申します」

「アグネス様。王国冒険者のリョウです」

なんとなく、高位の貴族だと感じた涼であるが、もちろん、左手にお皿、右手にフォークを持っているため、膝をついての挨拶は出来ない。

頭を下げただけである。

「リョウ殿は、パスタ系がお好きなのですか?」

アグネスは、涼のお皿に載っているパスタたちと、ちょうど涼の目の前にパスタの大皿がいくつも並んでいるのを見て、そう言った。

「あ……パスタも好きです」

別にパスタだけを食べていたわけではなく、食べ進めていくうちに、現在はパスタの皿が多めに、涼の前に並んでいるだけだったのだ。

だが、そのことが、涼に幸運をもたらす。

「でしたら……ぜひ我が館へご招待したいわ。『ラーメン』の感想をぜひお聞きしたいので」

「今、なんと……」

使節団一行は、護衛の騎士団、冒険者も含めて、全員が公城の迎賓館に泊まることになっていた。

そして、迎賓館には、ちゃんと大浴場があるのだ!

「素晴らしいですね! 大浴場備えつけなんて、ランドの人も分かっていますね」

「リョウって、本当に風呂が好きだよな……」

謁見では疲労がただ溜まるだけであったが、晩餐会では考えもしなかった幸運に出会うことができた涼であった。

そして、大浴場を確認した時、さらにテンションが上がったのである。

それを見たアベルが、呆れて吐いたセリフが、先のセリフなのだ。

「当然です! 人は風呂に生まれ、風呂に死すのです!」

「そんなわけあるか……」

まさに、『人の道とは、風呂に入ることと見つけたり』とでも言いたげな涼の勢いであった。

そんな二人が風呂からあがり、食堂に行くと、そこには文官を中心に使節団の面々が集まって、何かに見入っていた。

「みんな、集まって何か見てますね」

「ああ。明日からの、交渉予定表とかじゃないか?」

涼の疑問に、アベルも軽く答える。

そもそも、二人には関係が無いことだ。

なぜなら、二人の予定表はすでに伝達され、なかなかにハードな日程が組まれていることを知っていたからである。

だが……、

集まっていた文官の一人が、涼が食堂に入って来たのを見つけて叫んだ。

「リョウさん!」

その瞬間、文官たちの目が一斉に涼に集まる。

「え? 僕?」

涼は思わず声に出して言ってしまう。

「リョウさん宛てに招待状が届いています。あちらの使者の方がお持ちになりました」

そういうと、文官の一人が、部屋の隅に立っている、執事風の男性を示す。

執事風の男性は、恭しく頭を下げた。

そして、文官たちが集まっていた場所に進むと、集まっていた理由である封筒を取り、涼の元に持ってきた。

「リョウ様、我が主、アルバ公爵よりの招待状をお持ちいたしました」

それを聞いて、文官たちは改めてざわめいた。

だが、涼の反応は鈍い。

「アルバ公爵?」

そんな知り合いはいただろうか……どう考えても、いない。

「はい。アグネス様は、リョウ様に『ラーメン』をふるまいたいと」

「ああ、アグネス様! これは失礼いたしました。お恥ずかしい限りですが、不勉強ゆえ、アグネス様がアルバ公爵であることを存じ上げておりませんでした。ご招待、謹んでお受けいたします。よろしくお伝えください」

そう言うと、涼は封筒を受け取る。

招待の日時は分からないが、万難を排してでも行くべき招待である……なんといっても、ラーメンなのだから! 『ファイ』に来て、もちろん一度も食べていない。それどころか、ラーメンのラの字も見たことが無い。

そもそも、公爵からのお誘いなら、他の予定も融通をつけてくれそうであるし……ここで受けておいた方がいいに違いないのだ。

「それは、ようございました。アグネス様にお伝えいたします」

そういうと、執事風の男性は、再び恭しく頭を下げ、とても優雅な足取りで食堂を出ていくのであった。

その後、涼は文官たちに取り囲まれた。

「リョウさん。どうやってアルバ公とお知り合いになられたのですか?」

「そもそも、いつからお知り合いで……」

「アルバ公爵と言えば、ランドでも一、二を争う権勢。その財力は、国主たる大公を大きく上回るとか……」

「とても美しい女性だそうですが、齢九十歳を超えていらっしゃるという噂が……」

「……美魔女」

最後のセリフだけ、涼である。

「魔女って……女魔法使いってことですか? リョウさん、よくご存じですね。アルバ公は、強力な魔法使いですよ」

「確か、水属性……。あ、リョウさんも水ですよね? なるほど、それでか!」

何がそれでなのか、涼は理解できていないのだが……。

文官たちは、何やら納得したらしい。

文官たちは、涼が冒険者には珍しい水属性の魔法使いであり、アルバ公も強力な水属性の魔法使いであることから、繋がりが出来たのだろうと勝手に解釈したのだ。

決して、涼が晩餐会で大食いをしていて知り合ったなどとは、思わなかったのである。

だが、一人だけ事実を知っていた者が、この場にはいた。

「来賓の役目を俺に押し付けて、自分だけ美味しい料理を食べていたくせに……」

A級冒険者アベルのぼやきであった。

翌日。

ついに、二国間交渉の開始である。

交渉官イグニスと文官たちは、迎賓館に隣接する交歓院で様々な会議を、時には同時並行にこなしていくのだ。

晩餐会が裏の本番であるとするなら、これが表の本番である。

その間、騎士団と冒険者たちは、特に仕事はない。

往きと帰りの道中こそが、彼らの本番だからだ。

だが、アベルと涼は、その『冒険者』の中には入っていない。

二人は、トワイライトランド冒険者ギルド本部に招かれ、いくつもの会議に出席したり、時には模擬戦を観戦したりと、様々な仕事が組まれていた。

現在、トワイライトランドには現役のA級以上の冒険者は存在しない。

そのために、王国のA級冒険者たるアベルが担う役割は大きいのである。

涼?

涼はアベルの付属であり、C級なのであるが、アベルが涼を解放するはずなど無かった。

アベルに連れて回られるのがその役割。

「なんて不幸な……」

涼の呟きは、誰にも聞こえなかった。