作品タイトル不明
【番外編】ペロの冒険
「はあー。今日も暇じゃのう……」
ワシは神獣ケロベロス。
遠い昔、ワシはここで目を覚ます前、白い髪に金色の目の女神に雲の上でこう言われた。
「あなたには神殿ダンジョンを案内する存在なってもらうわ。この前転移させた子が勇者になってくれたの! 悪いけど頼むわよ」
目が覚めるとダンジョンを守る「神獣」という存在になっておった。
勇者が来るという神殿をただただ開けるためにもう100年近くもここにおるのじゃが。
暇じゃっ! 暇すぎるっ!!
ボリボリと腹をかくとワシは神殿ダンジョンにある食べ物を集めることにした。
運が良ければ十体くらいモンスターを倒すと干し肉が出る。
それを虫系モンスターが出る階層でドロップするハチミツと一緒に食べることだけがここでの幸せじゃ。
ただ、もうそろそろ干し肉も飽きてきたのう……。
そんなことを感じていたある日、ついに勇者がやってきた。
ゴゴゴゴゴ!!
勇者の魔力と共鳴し、やっと神殿ダンジョンの扉が開いた。
「ここが神殿か」
勇者はごくりと喉を鳴らした。両脇には魔法使いっぽい格好をした 女子(おなご) と頭がつるっとした武闘家っぽい男がいる。
「勇者よ! よくぞ来た……! ワシはここの案内人、神獣ケロベロスじゃ! ここには魔王を倒すための”魔法の指輪”が眠っておる」
すると、ワシを見て何故か勇者はポカンとした顔をした。
「え、神獣? ケル、ベロス? ……スタンダードプードルにしか見えないけど」
なんじゃその「すたんだーどぷーどる」というのは?!
まさかワシの名を語る不届きものがいるとでもいうのか?
「なんじゃ、その”スタンダードプードル”っちゅうのは」
「あー、僕が元いた世界の犬っていう人間の、パートナー的な動物。その中でもわりと人気のあった犬種の名前」
ふーん、そういう生き物が異世界にとりあえずおるのじゃな?
ワシは知らんけど。
「とりあえず、行ってこい。魔法の指輪を見つけ、頑張って魔王を倒せ! あと、洞窟を出る時は必ずこちらから出ろ。以上じゃ」
三人は緊張しながら頷くと、奥の方に消えていった。
「……そろそろいいかの」
ワシはキョロキョロしてから寝床を漁ると、魔法の指輪を取り出した。
実は暇じゃったからダンジョンを漁っているうちに見つけて、持ってきてしまったのじゃ。
ま、ここに置いておけば大丈夫じゃろ。
ワシは親切なので、元々トラップモンスターだった木の箱を「落としものコーナー」にして指輪を置いておいた。
よし、これでオーケーじゃ。念の為ここに戻ってこいって言っておいたしのう。
「じゃあ、出るかの。長年過ごしたからさすがに少しさみしいのう」
ワシはよっこらせ、と立ち上がると神殿ダンジョンを出ていくことにした。
大丈夫じゃ。ワシには神殿ダンジョンで取りつくしてきた金がある。
きっと暫くは食うのに困らんはずじゃわい。
──その頃、勇者たちは……。
「え~! ないないない! 指輪、ないんだけど! どういうこと!」
「勇者様、宝箱のお金やアイテムがすべて取りつくされていますわ!」
「誰だ?! まさか俺たちの名を語る偽物でも現れたのか?!」
三人は何時間もぐるぐるとダンジョンを歩き回った。
「はあ、はあ、はあ……。疲れたな……」
「おかしいな。伝説の地図によるとこの毒の沼地の中、右に20歩、前に18歩ほどいったところに落ちているという話なのに……」
「あと一回分は毒消し草がありますわ! じゃんけんして負けた人がいきましょう!」
魔法使いの言葉に、武闘家と勇者がため息を吐く。
「「くそ、わかったよ!」」
「「「せぇの、じゃんけんぽん!」」」」
どうやら武闘家が負けてしまったようだ。
「げ! また俺かよ! さっきもなかったんだからもういいじゃねえか」
「あと一回だけやってみよう?」
「そうですわ~。私、薬草を煎じておきますわね!」
武闘家はため息を吐くと沼に入っていった。
「ぐおおおおおおおお! ヒリヒリする!!! っていうかやっぱりなんにもねえよ!!! もうやだ! さっさと帰ろうぜ。うお、この草やっぱり、超まずい」
沼から出てきた武闘家は、少しキレながら薬草を飲んだ。
「う~ん、そうだね。とりあえずおなかも減ったから一回出ようか」
「仕方ないですわね」
そして三人は入り口に戻った。
「ん……? なんだこれ」
入り口をふさぐように置いてある箱に勇者はいぶかしげな顔をした。
「え~と、汚い字で“おとしもの入れ”って書いてありますわね?」
「なんだこの箱……?」
武闘家が箱を開いた瞬間、あたり一面が明るい光で満ちた。
「え、これ魔法の指輪じゃない?!」
「そうですわ! この本に書いてあるものと全く一緒ですわ!!」
三人は黙り込んだ。
「「「一体どうしてここに……?」」」
とりあえず三人はこの日はもう疲れ切っていたので深く考えることを放棄した。
◇◇
「ワンちゃん、このソーセージ食べる?」
ダンジョンから出たワシは、とりあえず近くの町にいってみることにした。
ここには美味い食い物がたくさんあって最高じゃ!
おまけに『ワンちゃん』という生き物のふりをしておけば、うまいものが食えると気付いたので積極的にワンちゃんのふりをすることにした。
こうしていると、子供たちがよってたかってワシに餌をくれるからだ。
「クーン……」
「おなか減ってたんだね……いっぱい食べていいよ!」
こうしてワシは有名な”ソーセージ犬”として町にしばらく、10年ほど居座った。
屁をこいて、ソーセージを食っていれば幸せだった。
だが、ある日問題が起こってしまった。
「おい! 大変だ! 近くの町でオークキングが出たらしいぞ! 今この町にも向かってきているらしい」
「なんだと?! あの街道が封鎖されてしまえば食料がはいってこなくなる!」
「傭兵団と冒険者を呼べ! なんとかこの町を守るんだ」
町の者達が話すのを聞いて、ワシは目を見開いた。
なん、じゃと?! ソーセージが貰えなくなってしまうではないか?!
ワシは町から出て、オークキングの棲み処と言われている洞窟に向かって駆け出した。
◇◇
「グオオオオオオオ! グオ! グオ!!」
洞窟ではオークの群団がオークキングを中心に人間たちを襲おうと息巻いていた。
そこに颯爽と駆け込んだのが──。
もちろんワシじゃ!
「悪いがお主らには死んでもらう! ソーセージの為じゃ! 悪く思うなよっ!」
「グオッグオッ?!」
オーク達は慌てたように剣を構える。
ワシは神気を練って飛び上がると、オーク達に神気の塊を一斉にぶつけた。
ダダダダダダッ!!!!!!
「グオッ」
次々とオーク達が倒れていったので、ワシが鋭い爪で斬り付ける。
「グオオオオオオオオ!」
一気に数十体倒したワシは、オークキングに向かって駆け出す。
「フゴッフゴゴゴゴッ!!!!」
オークキングが怒って暴れている。
ぶんっと振り上げた斧を避けて、後ろ足で蹴り上げる。
「フゴオオオオオオオ!!!」
さらに身を翻し、胴を鋭い爪で切り裂く。
ブシュッと鮮血が降り注ぐ。
それを気にせず、ワシが何度も何度も斬撃を繰り返す。
やがてオークキングは全く動かなくなった。
「ふぅっ、やったわい」
ワシはオークキングの死体を咥えて、町に向かった。
すると、町は騒然となった。
「なっ! こ、この犬が倒したの、か?!」
喜んで貰えると思った。
じゃが、人間がワシに向けてきたのは感謝より恐怖の視線だった。
「いやっ! 来ないで!」
「怖いっ」
「近寄ったら食われるかもしれねぇぞ」
ワシは少なからずショックだった。
そして、この力は自分と本当に信用できる人間以外には使わんと決めて、町を出て行くことにした。
「ワンちゃん、これあげる」
じゃが、ワシに一番最初に声をかけてくれた子供が、この町を出て行くときにソーセージをいつもより沢山くれた。
いつの間にか彼女はすっかり大人になっていた。
「”ワンちゃん”のふりをしていて悪かったのう。お主はワシが怖くないのか?」
「うん。だって、10年前から何度も餌をあげたけど、一度だって、私に噛みついたことなんてなかったじゃない」
その言葉にワシは目を見開く。
「……そうか。十年間、世話になった」
「ううん。こちらこそ。……本当は、町の人達が困らないように、オークを倒してくれたんだよね? 元気でね! ワンちゃん!!」
ワシは前足を振ると、一目散に駆け出した。
それ以来どこかに定住することはなかった。
けれど、数百年後。
なんだか変な人間と出会った。
「おいっ! お前、神獣なんだろ? だったら金払えよ!」
カワグチというその男は何故かワシに怖がることもなく、金だけ欲しがった。
こうして、ワシはこの変な男と数百年ぶりにその場所に定住することになった。