軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第95話「釣りリベンジ」

石と苔のベッドの上で、僕はゆっくりと目を開けた。

(……ああ、よく寝た。もうお昼過ぎかな)

『ナビ、今何時?僕、どれくらい寝てた?』

《はい。現在、午後1時15分です。約3時間、質の高い睡眠が取れています》

『そっか、もうそんな時間か』

僕は頭がすっきりしているのを感じながらゆっくりと上半身を起こし部屋の隅っこに視線を向けた。

そこでは、コンちゃん専用ベッドで二匹の子狐が仲良く丸くなり、すやすやと小さな寝息を立てている。

その光景に、僕は思わず笑みがこぼれた。

「ふふ、君たちもよく寝てるなあ」

ぐぅぅ……っ。

静かな部屋に僕のお腹の音が響いた。

(そういえば、お昼ご飯がまだだったな)

「よし、ご飯にしよう!」

僕が傍らに置いていたお弁当の包みを広げると、その匂いにつられたのか、二匹の子狐が同時にぴくりと耳を動かした。

「きゅん?」

「きゅ……」

二匹とも眠そうな目をしょぼしょぼさせながら、僕の足元に寄ってくる。

「ごめんごめん、これは僕のお昼ご飯だから。君たちの分は、また今度ね」

僕は二匹の頭を撫でてなだめると、サンドイッチを食べ始めた。

二匹は少し残念そうだったが、僕が本当にくれないと分かると、諦めてベッドに戻って丸くなる。

「やっぱりヒューゴの作るサンドイッチは美味しいな。」

ヒューゴ特製マヨネーズの酸味と、燻製肉の塩気がちょうどいい。

気づけば手には最後の一口だけが残っている。

名残惜しくそれを口に入れ、ゆっくり噛んで飲み込んだ。

「ふぅ……ごちそうさま。お腹いっぱいだ」

(さて、この後はどうしようかな。もう一回寝ちゃうのもいいけど……)

「よし、決めた!今日は釣りのリベンジをしよう」

僕は釣竿を手に取り秘密基地を出た。

川のせせらぎを聞きながら、川べりの岩場へ向かう。

「さて、と……」

いつもの岩に腰を下ろしかけた。

(そういえば、この岩、硬くてお尻が痛くなるんだった)

せっかくのんびり釣りをするんだ。

どうせなら、もっと快適な環境を整えよう。

『ナビ、ちょっと手伝って。この辺りに完璧な釣りスペースを作りたい』

《了解しました。快適性、耐久性、そしてメルの怠惰性を考慮した設計プランを提案します》

(怠惰性って……まあ、間違ってないけどさ)

「よし、さくっと作っちゃおう!まずは椅子からだ!」

僕は川岸の一番眺めの良い場所に立つと土魔法を発動させた。

地面が盛り上がり、あっという間に僕の体にぴったりフィットする石造りの立派な椅子が出来上がる。

「ちょっと硬いかな……」

僕は仕上げに植物魔法で座面にふかふかの苔を生やした。

「うん、これなら完璧だ。……あ、でも、これだと日差しが眩しいな」

僕は椅子の周りに四本の木の杭を魔法で立てると、その上に木の蔓を編んで、簡単な日除けの屋根を作った。

木漏れ日がちょうどよく差し込む、最高の特等席が完成した。

「そうだ、釣れた魚を入れる場所も必要だな」

椅子に座ったまま手を伸ばせる、ちょうどいい場所に視線を定める。

『ナビ、この辺に簡易的な生け簀がほしい』

《承知しました。川の水を直接引き込み、かつ魚が逃げない構造を設計します》

ナビの設計図通りに、僕は土魔法で川岸の土を盛り上げ、石を組み上げていく。

あっという間に川の水が常に流れ込む、小さな生け簀が完成した。

「よし、これなら釣った魚も元気に泳いでいられるな」

僕は特等席にゆったりと腰を下ろし、釣竿を準備する。

「うん、これで完璧だ」

(……いや、待てよ)

僕は、この前の釣りを思い出す。

しばらく考えて、僕はポンと手を打った。

「そうか!魚がエサを食べた瞬間、アタリが分からなかったんだ!だから逃げられていたんだ!」

《いえ、メル。前回の釣果ゼロの主原因は、ウキの有無ではありません。魚がメルの餌に反応していなかったため、アタリそのものが発生していませんでした》

『うぐっ……!』

ナビの容赦ない正論に僕は言葉に詰まる。

『で、でも!ウキがあれば僕が気づかなかっただけの、ほんの小さなアタリにも気づけたかもしれないじゃないか!だからウキがないのが悪かったんだ!たぶん!』

《……メルの主張は非合理的です》

『なんだよ、その言い方!』

《ですが、視覚的なマーカーを設置することで、アタリの検知率が向上するのは事実です。簡易的なウキの製作図を転送します》

『そうだよね!そういう事を言いたかったんだよ!よし、早速作ろう!』

ナビの設計図に従い、僕はさっそく材料を集め始めた。

浮力体には手頃な木片を魔法で削り、目印には鮮やかな鳥の羽を拾う。

そして固定用の糸はクモイトソウから、さっと丈夫な糸を取り出し、その糸で木片と羽をしっかりと固定する。

「よし、ウキの完成だ!」

僕は早速、作ったばかりのウキを釣り糸に結びつけると、針にエサを付け小川にそっと投げ入れた。

手作りのウキが、水面でぷかぷかと頼もしげに浮いている。

(うん、いい感じだ)

僕が特等席で釣りを開始すると、いつの間にかコンちゃんともう一匹の子狐がやってきていた。

二匹は僕の足元にちょこんとお座りすると、僕と同じように水面に浮かぶウキをじーっと真剣な顔で見つめ始めた。

「はは、二人とも、そんなに見つめても釣れないよ」

「きゅん?」

コンちゃんが不思議そうに首を傾げる。

僕は苦笑いしながら、再びウキに集中した。

二匹の狐と僕がウキを見つめ続ける。

だが、なかなか釣れない。

(やっぱり、そう簡単には釣れないか……)

僕はふう、と息をつくと、魔法で作った椅子に深く座り直した。

椅子に作ったふかふかの苔のクッションが、優しくお尻を受け止めてくれる。

蔓の屋根から差し込む木漏れ日が、ちょうどよく日差しを遮ってくれてポカポカと暖かい。

(ああ……これは、ヤバいな……)

小川のせせらぎがBGMみたいだ。

こんな完璧な環境で、ただウキをぼーっと眺めて待つ。

これは最高に贅沢な時間だ。

僕が、あまりの心地よさにウトウトし始めた頃。

足元でウキを一緒に見つめていたコンちゃんも、すっかり飽きてしまったのか、ふぁ〜と大きなあくびをして、その場で丸くなってしまった。

もう一匹の子狐も、コンちゃんにくっついて寝息を立て始めている。

(あー……僕も眠くなってきた……)

僕は竿を握ったまま、こくりこくりと船を漕ぎ始めた。

(もう……いっそ、このまま寝ちゃおうかな……)

僕の意識が、心地よい眠りの底にすっかり沈んでしまった、まさにその時だった。

それまで静かだったウキが、ツンッ!と鋭く水面にお辞儀をし、そのまま一気に水の中へと消えていった。

《メル!メル!起きてください!アタリです!》

「んあ!?」

脳内に響くナビの少し焦ったような声で、意識が一気に引き戻された。

僕がはっと目を開けると、目の前にあったはずのウキが水面から消え竿先が小刻みに震えている!

「うわっ!ほんとだ!きたっ!」

慌てて椅子から飛び上がり、思い切り竿を引いた!

ググンッ!!

「うわっ、重い!」

竿がきしむように大きくしなった。

魚は水中で必死に抵抗し、竿先が激しく左右に振られる。

「負けるもんか……!」

竿を両手でしっかり握りしめ必死に耐える。

魚が少しだけ弱まったのを見計らい竿をぐっと天に突き上げた!

水面がばしゃりと割れ、銀色の魚体が宙を舞った。

「やったー!釣れた!今度こそ自力で釣れたぞ!」

銀色に輝く、なかなかの大きさの魚が、足元で元気に跳ねている。

『ナビ、見た!?やっぱりウキがあると全然違うよね!ウキのおかげだ!』

《いえ、メル。今回の釣果におけるウキの直接的な貢献度は低いと判断します》

『えっ!?なんでさ!ちゃんとウキを付けたから、釣れたんじゃないか!』

《メルは当時、睡眠状態に移行していました。ウキが沈んだアタリを視認していたのは私だけです》

『うぐっ……』

《私がウキの沈降を観測し、メルを覚醒させた結果、釣果に繋がったものです。したがって今回の成功要因はウキではなく、私の覚醒コールです》

『そ、そうかもしれないけど……!』

《ただ》

『ただ?』

《ウキ自体は設計通りアタリを正確に示していました。その点においてメルのウキは必要だったという推論は正しかったと認められます》

『そうだよね!ウキもちゃんと役に立ったんだよ!……

まあ、寝てた僕を起こしてくれた、ナビのおかげでもあるけどね。ありがとう』

《どういたしまして。メルの目的達成をサポートできて何よりです》

(ナビとの会話を終えて意識を戻すと、足元が大変なことになっていた)

「「きゅんきゅんっ!!」」

僕よりも興奮しているのが、隣の狐たちだ。

二匹は足元で元気に跳ねている魚に興味津々で、その周りをそわそわと駆け回ったり今にも飛びかかろうとしたりしている。

「わっ、待って待って!これは僕の御飯用だからダメ!」

僕は慌ててその魚を掴むと針から外し、さっき作った簡易生け簀に放り込んだ。

二匹は、まだ興奮したように生け簀の周りをうろうろしている。

(ふぅ、危なかった……)

僕は生け簀で元気に泳ぐ魚をじーっと見つめた。

(……こ、これ、今食べたら絶対美味しいよな……)

『ねえ、ナビ。この魚……今ここで焼いたら、やっぱり美味しいかな?』

《はい。淡水魚は鮮度が落ちる前に直火で塩焼きにするのが最も美味しいです》

『だよねえ!』

ナビの完璧なお墨付きをもらった瞬間、僕の心の中で、かろうじて残っていた理性が音を立てて崩れ去った。

「よし!誘惑に負けよう!」

『ナビ、次は魚を焼く台だ!』

《はい。熱効率を考慮し、この場に簡易的な石組みの焼き 台(ロースター) の設置を推奨します》

『わかった!土魔法だね!』

地面に手をかざすと、足元の土や石が盛り上がり、あっという間に魚の串を渡すのにちょうどいい大きさの焼き台が組み上がった。

『仕上げに、火魔法っと』

指先から小さな火ダネを生み出し焼き台の中にセットする。

僕は串刺しの魚を焼き台に渡し、火魔法で火加減を調節しながら、じっくりと焼き始めた。

じゅう……じゅう……。

魚の脂が落ちる音と共に、たまらなく香ばしい匂いが立ち上る。

(……ああ、塩がないのが本当に残念だけど……まあ、仕方ない)

表面がパリパリと黄金色に色づいていく魚を見ながら、ゴクリと唾を飲んだ。

(……もう我慢できない!)

僕は、まだジュウジュウと音を立てている熱々の串に、思いきりかぶりついた。

「あつっ、あちち……!……んんっ!美味い!!」

塩がなくても、釣ったばかりの新鮮な魚は、皮がパリパリと香ばしく、中の身は驚くほどふっくらしていて凄く美味しい。

僕が夢中で魚の三分の一ほどを食べ進め、さらにもう一口いこうとした時だった。

《メル。その辺にしないと、屋敷に帰ってからヒューゴ氏の晩御飯が食べられなくなりますよ》

『そ、それはダメだ!よし、僕のあじみはここまで!』

串に残った身をほぐし、冷ましてから二匹の前に置いてあげた。

「きゃんきゃん!」

二匹は喜びの声をあげ、夢中で魚に食らいついている。

僕は魚の骨が残った焼き台を魔法で綺麗に片付けると、満足げに頷いた。

すっかり魚を平らげて毛繕いを始めたコンちゃんたちに「またね」と小さく声をかけ、秘密基地を後にした。