軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話「森の宝探し」

秘密基地での完璧な休日を過ごした、その翌日のことだった。

僕は屋敷の図書室で、革張りのソファに深く身を沈め、のんびりと読書を楽しんでいた。

村の広場からは、今日も昼休みのフットサルに興じる男たちの声が微かに聞こえてくるが、昨日森の静寂を心ゆくまで満喫した僕にとっては、それもまた心地よい日常のBGMのように感じられた。

(うん。たまにはああやって、一人で静かに過ごすのも大事だよね)

そんなふうに、自分のスローライフ哲学に一人満足げに頷いていると、図書室の扉が、こんこんと控えめにノックされた。

「メルヴィン様、少しよろしいでしょうか?」

入ってきたのは、メイドのエリスだった。

「どうしたの、エリス?」

「はい。玄関にルカさんとリリィさんがお見えです。メルヴィン様と森へ遊びに行きたいと」

その言葉に、僕は読んでいた本にしおりを挟んだ。

正直、少しだけ面倒だなと思ってしまったが、二人がわざわざ屋敷まで訪ねてきてくれたのに断るのも悪いだろう。

「分かった。すぐに行くよ」

僕が屋敷の玄関ホールへ向かうと、そこにはそわそわとした様子で待っている二人の姿があった。

「メルー!よかった、いたんだな!」

僕の姿を見つけるなり、ルカがぱあっと顔を輝かせる。

その隣で、リリィがぺこりとお辞儀をした。

「お邪魔しています、メル様」

「やあ、二人とも。それで森へ行くって、何か面白いことでも見つけたの?」

僕が尋ねると、ルカが得意げに胸を張った。

「おう!今日は『宝探し』に行くんだ!」

「宝探し?また綺麗な葉っぱでも集めるの?」

僕が少しだけ気乗りしない様子で尋ねると、ルカはぶんぶんと首を横に振った。

「違うって!葉っぱじゃねえよ!もっとすげえ宝物だ!食べられるやつ!」

「もう、ルカったら、言い方が大げさなんだから」

リリィが、ふふっと優しく笑った。

「栗とキノコのことだよ。この前、メル様が作ってくれたプリンみたいに、栗でも何か甘くて美味しいお菓子が作れないかなって思って。もし沢山とれたら、お母さんに頼んでみようと思ってるんだ」

「おう!秋の森は、宝の山なんだぜ!美味しい木の実とか、キノコがいっぱい落ちてるんだ!」

どうやら、キノコ狩りや木の実拾いのことらしい。

正直、少しだけ面倒だなと思ってしまった。

けれど、リリィが「栗で甘いお菓子、作れないかな」とはにかむのを見て、僕の心はぐらりと傾いた。

(……秋の味覚か。それは、ちょっと魅力的かもしれない)

結局、僕の食いしん坊な心が、面倒くさがりな心に打ち勝った。

僕たちはそれぞれ小さなカゴを手に、秋色に染まった南の森へと向かった。

森の中は、ひんやりとした澄んだ空気に満ちていた。

頭上では、赤や黄色の葉が太陽の光を透かし、地面には色とりどりの落ち葉が、ふかふかの絨毯のように敷き詰められている。

「うおー!あっちに栗の木があるぞ!」

ルカは、さっそく獲物を見つけた猟犬のように、落ち葉を蹴散らしながら駆けていく。

「もう、ルカは落ち着きがないんだから。メル様、わたしたちはあっちの方を探してみましょう?」

リリィが、僕の手を優しく引いてくれる。

「はは、元気だね、ルカは」

「元気すぎなんですよ」と、リリィは少しだけ頬を膨らませる。

その時、森の奥から、ひときわ大きなルカの声が響き渡った。

「あったぞー!メルー!リリィー!でっけえ栗だ!」

僕たちが駆けつけると、ルカは足で器用にいがぐりを開きながら、中から転がり出たつやつやの栗を、得意げに掲げて見せた。

「へへん、どうだ!俺が一番乗りだぜ!」

「もう、そんなに大声出さなくても聞こえてるってば。でも、本当に立派な栗だね」

僕も自分のカゴに栗を拾いながら、ふと木の根元に生えているキノコに目をやった。

『ナビ、このキノコは食べられる?』

《はい。食用可能なベニタケです。毒性はありません》

「あ、こっちのキノコも食べられるよ」

僕がそう言ってキノコをカゴに入れると、リリィが「あ、見てください、メル様。こっちに木苺がありますよ」と、赤い実がなっている茂みを指差した。

「本当だ、美味しそうだね」

「やった!俺、木苺だーい好き!」

さっきまで栗に夢中だったルカが、今度は木苺に飛びついて、口の周りを真っ赤にしている。

僕たちは、そんなふうに笑い合いながら、それぞれのカゴを秋の恵みで満たしていく。

ふと、僕は大きな樫の根元に目をやった。

落ち葉の隙間から、ずんぐりした茶色のキノコが顔を出していた。

「あ、メル様、そのキノコはダメですよ!」

僕がそれに手を伸ばそうとした瞬間、リリィが慌てたような声を上げた。

「え?」

「それ、『腹痛キノコ』だよ!食うと三日は便所から出られなくなるって、親父が言ってたぜ!」

どうやら村では、このキノコがひどい腹痛を起こす毒だとされ、昔から恐れられているらしい。

(……でも、僕の記憶が正しければ、これは……)

『ナビ、解析して。村に伝わる毒キノコとの違いは?』

《はい。村人が『腹痛キノコ』と呼ぶ種とは、傘の裏の色と柄の網目模様が僅かに異なります。こちらはメルの前世におけるポルチーニ茸に酷似した種であり、毒性はありません。食用価値は極めて高いと判断します》

(……やっぱり!)

村人たちが危険だと思い込んでいた、森の宝物。

「大丈夫。よく見ると毒のやつとは少しだけ違うんだ。こっちは、きっとすごく美味しいよ」

僕は自信たっぷりに言うと、そのキノコを傷つけないように、そっと優しく掘り起こした。

ルカとリリィは、信じられないといった顔で、僕の手元を覗き込んでいる。

「ほ、本当かよ、メル……」

リリィが、くんくんと鼻を鳴らす。

「なんだか、すごく良い匂いがするような……?」

掘り起こしたことで、土の香りと混じって、あの独特の芳醇な香りが、微かにあたりに漂い始めたのだ。

僕たちのカゴは、いつの間にか秋の恵みでいっぱいになっていた。

その中でも、僕のカゴの真ん中に鎮座する、この地味なキノコこそが、今日一番の宝物だ。

(村のみんなは毒キノコだと思ってるけど……この美味しさを知ったら、きっとびっくりするだろうな)

僕の頭の中は、これから生まれるであろう新しいご馳走のことでいっぱいだった。

『ねえ、ナビ。このキノコ、どうやって食べるのが一番美味しいかな?』

《はい。このキノコの芳醇な香りを最大限に活かすレシピですね。一つ目は、厚切りにしてバターで炒める『ポルチーニのソテー』。二つ目は、生クリームと煮込む『キノコのクリームパスタ』。三つ目は、お米と一緒に炊き込む『ポルチーニのリゾット』。四つ目は――》

『ああ、もう、ストップ、ストップ!』

(やばい……全部美味しそうだ……!)

じゅわっとバターが染み込んだキノコ。

こってりとしたクリームソース。

そして、キノコの旨味をたっぷりと吸い込んだ、つやつやのお米……リゾット。

(……ああ、お米が食べたい……!)

『ねえ、ナビ。確認なんだけど……お米ってこの大陸にはないんだよね?』

《はい。その認識で間違いありません。イネ科イネ属の植物は、この大陸にはありません》

『……だよねえ』

僕はがっくりと肩を落とした。

ないものは、ない。分かっていたことだけど、完璧なリゾットの映像を見せられた後では、その事実がいつもより重くのしかかってくる。

僕の失望を察知したのか、ナビが冷静な声で続けた。

《ですが、メルがお米の入手を希望するのであれば、次善策があります》

『え?でも、前に聞いた時は、この大陸にないから無理だって……』

《はい。以前のシミュレーションでは、安定的かつ信頼できる入手経路が存在しなかったため、探索は非推奨でした。しかし、状況は変化しています》

『状況が?』

《以前のヨナス氏は、不定期に訪れる一介の旅商人に過ぎませんでした。しかし、現在の彼はフェリスウェル家御用達の商人です。彼に正式に依頼し、交易で訪れる他の大陸や地域で探してもらうのが、最も現実的かつ効率的な手段となります》

(……そっか!そうだ、ヨナスさんがいる……!)

諦めていたお米が、本当に手に入るかもしれない……!

僕の心に、ぽっと小さな希望の灯がともった、まさにその時だった。

ぐうぅぅぅぅ…………っ。

静かな森に僕のお腹の音が大きく響く。

「ん?メル、どうしたんだ?腹でも減ったのか?」

僕のお腹の音を聞きつけて、前を歩いていたルカが、不思議そうに振り返る。

「う、ううん、なんでもないよ!」

僕は慌てて首を横に振った。

まさか採ったばかりのキノコの食べ方を想像して、お腹を鳴らしたなんて恥ずかしくて言えるはずがない。

「メル様、なんだかすごく嬉しそうですね」

リリィが、ふふっと僕の顔を覗き込んでくる。

僕の口元が自分でも気づかないうちに、だらしなく緩んでいたらしい。

「そりゃあ、もちろんさ。だって、僕たちのカゴは宝物でいっぱいなんだからね!」

子供たちのささやかな「宝探し」は、領地の食卓をちょっぴり前に進める、うれしい発見になった。