軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第100話「寒い朝と悪魔的ぬくもり」

「うぅ……さむ……」

この時期の朝は屋敷の中もひんやりしていて、とても寒い。

僕は暖かい布団の中で、カタツムリのように丸くなった。

(布団から出たくない……)

そんなことを思っていると、コンコンと優しいノックの音がした。

「メルヴィン様、朝ですよ。起きてくださいまし」

エリスの声だ。

「……うぅ、寒い……まだ寝てる……」

布団越しに、エリスの優しくて少し楽しそうな笑い声が聞こえた。

「あらあら。ですが、朝食が冷めてしまいますよ」

「もう少し寝るから、今日は朝食いらない……」

僕がもう一度目を閉じて、二度寝に戻ろうとすると、エリスは楽しそうな声で言った。

「まあ、そんなことを仰らずに。今日の朝食は、ヒューゴが腕によりをかけて、特別な温かいものを作ると張り切っていましたよ。メルヴィン様もきっとお好きだろうな、と思っておりましたのに」

(ヒューゴの特別な温かいもの……?)

その言葉に、僕の心は少し揺れた。

食べたい。でも、寒い……!

「うぅ……。でも、寒いものは寒い……。ダイニングルームまで行くのが嫌だ……。やっぱり、もうちょっと寝る……」

「メルヴィン様。ですが、朝食を抜いてしまうのは、やはり感心いたしません。お昼まで何も召し上がらないつもりですか?」

「うーん……。お昼はちゃんと食べるから……」

エリスが本気で困ったような声を出した。

「メイド長にも、ちゃんとメルヴィン様のお世話をするようにと、私、叱られてしまいます」

(うーん……僕のせいで、エリスがカトリーナに叱られるのは、さすがに寝覚めが悪いな……)

「うーん……」

僕が布団の中で葛藤していると、エリスはまた楽しそうな笑い声に戻っていた。

「……メルヴィン様。本日は、本当に特別ですよ」

「え?」

「ヒューゴ特製の温かいポタージュとパンを、こちらのお部屋までお持ちいたします。それなら、ベッドの上でお召し上がりになれますでしょう?」

「えっ、ベッドの上で!?」

「はい。その代わり、ちゃんと起きて、お召し上がりくださいね?」

「……食べる!」

「ふふ。では、すぐに準備してまいりますね」

エリスはぱたぱたと部屋を出ていった。

(よし!布団から出ずに朝食が食べられるぞ!)

僕は再び布団の中で丸くなり、わくわくしながら待つことにした。

ほどなくして、エリスが温かいポタージュとパンを乗せたトレイを持って、部屋に戻ってきた。

「メルヴィン様、お待たせいたしました。熱いうちにどうぞ」

「ありがとう、エリス!」

僕はベッドの上で体を起こすと、布団にくるまったまま、トレイを受け取った。

湯気の立つポタージュを一口、そっと口に運ぶ。

「はぁ……美味しい……」

「ふふ、よかったですわ。ヒューゴも喜びます。では、食べ終わりましたら、お声をかけてくださいね」

「うん、ありがとう」

エリスはにこりと笑うと、静かに部屋を出ていった。

ベッドの上で食べる朝食は、最高に贅沢で、最高に美味しい。

僕は、布団にくるまって温かいスープをすすりながら、ふと、この光景に懐かしい感覚を覚えた。

布団にくるまったまま、温かいものを食べて、そのままゴロゴロする……。

前世の僕をダメ人間に変えた、あの悪魔的発明品。

「……コタツだ」

僕は思わず呟いた。

あれさえあれば、布団から出ずにあったかいまま本を読んだり、ご飯を食べたりできる。

これだ。これしかない。

(毎回エリスにベッドまで運ばせるのは、さすがにカトリーナに叱られるだろうけど、部屋にコタツがあれば、そこまで運んでもらうのはギリギリセーフなはずだ……!)

『ナビ!コタツって、この世界で作れないかな!?』

《コタツですね。作製は可能ですが、問題は安全な熱源です》

『どうしよう?火魔法をそのまま使うのは危ないよね?』

《はい。火災と、一酸化炭素による中毒の危険があります。そのため、冷却石とは逆に周囲を温める「加熱石」という魔道具の使用を推奨します》

コタツが作れるかもしれない。

そう考えたら、ちょっとワクワクしてきた。

「よし!まずは父様に、この屋敷に加熱石があるか聞いてみよう」

ベッドから飛び降り、そのまま廊下へ飛び出した。

僕は父様の執務室の前まで来ると軽くドアをノックした。

「父様、いる?」

「おお、メルか。入りなさい」

書類から顔を上げた父様は、少し意外そうに目を瞬かせてから、穏やかに微笑んだ。

「どうしたんだい?お前が自分から執務室に来るとは珍しいじゃないか」

「父様、お願いがあるんだ。部屋が寒いから温かい場所を作りたいの。それで加熱石を使ってみたいんだけど、この屋敷に加熱石ってある?」

「加熱石?ああ、あれか。ヒューゴが厨房で使っているが、あれは高価なものだ。さすがに予備はないぞ」

「そっかあ……」

僕が肩を落としたその時、脳内にナビの声が響いた。

《メル。領内のヨナス商会ならば加熱石を取り扱っている可能性があります。在庫があるか確認すべきです。》

『あ、そっか。ヨナス商会!』

僕は再び父様に向き直った。

「父様!あのね、ヨナス商会に行って加熱石があるか聞いてくる!もしあったら買ってもいいかな?」

「はっはっは、構わんぞ。メルには色々と稼がせてもらっているからな。それくらい、安いものだ」

「やったー!ありがとう、父様!」

僕は父様にお礼を言うのもそこそこに、執務室を飛び出した。