軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

664 虚ろの海へ向けて

「……どこもかしこも、機能不全になっているわ。この分だとラストガーディアン直属のガーディアン達も休眠してしまっているのではないかしら」

クラウディアが壁に触れてマジックサークルを展開する。

触れた周囲に魔力が広がり、壁の紋様に魔力の光が宿るものの、拡散するに従って光が薄れて消えていってしまった。それでも、扉は開く。奥へと移動する分には問題ない。

前にここを訪れた時は壁から床に至るまで、魔力の輝きが満ちていたのだが。

迷宮の中枢部は静けさに包まれていた。動いているのは中枢を警備するティアーズやセントールナイトぐらいのものだ。魔物は見ない。

クラウディアが支配権を取り戻した区画の機能は生きていた。警備用ゴーレムを管理する区画であったので、つまりティアーズやセントールナイトも稼働している、ということになる。

中枢部の守りに関して言うなら、それなりの防御能力を残しているということになる。

「迷宮の制御部はどうだろう?」

「分からないわ。ラストガーディアンが動いている時は緊急時だから、迷宮の制御機能も使えなくなってしまうの」

要するに……機能にロックがかかるわけだ。ラストガーディアン自身は制御機能を扱うための存在ではないから、そうなると……少し困った事態になるな。

腕の具合が良くなったから中枢部に降りてみたのだが……確かに中枢部の探索はしやすくなったものの、目的が果たせそうにない。

「イシュトルムと行動を共にしているラストガーディアンの機能を停止させるまでは……迷宮の制御機能を動かすこともできない、と」

「順序は変わらず、ですか。そうしないとクラウディア様を迷宮から解放できないわけですね」

ローズマリーが眉根を寄せ、グレイスが目を閉じる。

「恐らくは。けれど、中枢部以外は今まで通りに機能しているのが救いよね。そこは安心したわ」

クラウディアは少し困ったように笑い、心配そうに見やるマルレーンの髪を撫でる。

「確かに冒険者の皆さんも、普通に魔物を倒して物資を手に入れてきていましたからね」

アシュレイが神妙な面持ちで頷いた。

つまり、迷宮の周囲で生きる人々のための機能はそのまま、ということだ。

元々大災害の中で物資を作り出し、食いつなぐための船であった以上は、それらライフラインの維持が迷宮の機能にとっての最優先事項となる。

物資の供給や戦闘訓練などの機能に関して設定変更はできないが、中枢部で起きている問題が今更になって上の階層の状態に影響を及ぼすことも無い、と。

ラストガーディアン暴走以後の迷宮の問題は、制御機能の操作回りに起因するものだ。それはラストガーディアンがイシュトルムと共に出て行ってしまった今でも変わらない。

そして機能不全という異常が出ているのはラストガーディアンの支配圏のみ、という結論になる。

制御機能に掛かったロックを無理矢理外す……というのは、不可能ではないにしても解析に改造にと、時間がかかり過ぎるか。

イシュトルムを早めに追撃しなければならないこの状況では、そういう時間の掛かりそうな案は却下だな。

このまま中枢部をあちこち見回り、イシュトルムが仕掛けた罠のようなものが確認できなければそれで良しとしよう。

迷宮中枢部の調査から戻り、造船所に顔を出す。

造船所では、現在七家の長老達、街の錬金術師ベアトリス、ハーピーの職人達にも手伝ってもらって、工房の面々と共にシリウス号の改修作業を急ピッチで進めていたりする。

音響砲等も、基本的には対魔人用装備だ。

敵はイシュトルムとラストガーディアン、そして魔物達ということになるので、音響砲以外の武装に換装する必要があったりする。

「こんにちは、皆さん」

「おお、無事に戻ったのだね」

と、長老の1人、エミールが笑みを浮かべて俺達を迎えてくれた。

「注文通りの品もできてきているぞ。まずはそれを見てもらえるだろうか」

「はい。それでは」

長老達にそれらの品々を見せてもらう。

みんなに作ってもらったものは色々あるが……まず水の作成と浄化、そして再利用を行う魔道具。これはまあ、基本と言うかなんというか。炊事に風呂、洗濯、トイレ等々で不便なのはごめんだからな。

それから、風魔法の利用で接地面を吸着、無重力空間でも床や壁に張り付いて行動できる靴。これは船内での活動を想定した魔道具だ。

船外活動をするための、アルケニーの糸とミスリル銀線を編み込んだロープ。

水魔法を利用し、逆さにしても零れず、注がれた水の形を弱い力で保つ金属製のカップやトレイといった食器類。その他、同様の機能を持つ調理器具。上に置かれた金属を磁力で保持するテーブル等々。

「ん。面白い」

魔道具の試運転ということで、水を作り出して無重力下で使用するカップに注いでみる。逆さにしても水が零れないのでシーラは面白がっている様子だ。マルレーンも興味津々といった様子でシリウス号の船体に靴を張り付けてみたりと、魔道具を実験している。

「でも、どうしてこんな不思議な品が必要になるのかしら?」

「ああ、それは虚ろの海だと重力――大地に向かって引き付ける力が無くなるから。こういうのが必要になってくるんだよ」

イルムヒルトの質問に答えながら、虚ろの海――宇宙空間で活動するための情報をみんなにも知らせておく。

「例えば水1つとってもこんなふうに……水滴になって辺りに浮かんだりするから、まともにお茶も飲めない。物も空中に浮かぶから、固定するなり繋ぐなりしておかないといけないし」

辺りに水魔法で水球を漂わせて見せる。

「……食事だけの問題では済まないようだものね」

造船所に様子を見に来ていたステファニア姫が少し困ったように言う。

そうだな。風呂やトイレ等々も同様に色々手を加えておかないと大変だ。そういった個所も含めての改修作業である。

これらはクラウディアと話し合って、必要になりそうなものをピックアップしておいた。

宇宙食等々を開発している余裕はないから、できるだけ地上と同じように活動できるようにする。

船倉に積む物資も、箱詰めにして壁に固定、などという方向になるだろう。食料品等々は、できるだけ保存の利くものが望ましい。

「月はどうなの?」

「月に重力はあるけれど……ルーンガルドに比べると小さいわね。初めてあちらに行くと身体が軽く感じるのではないかしら? 街は……地上と同じような環境を整えてはいたけれど、今どうなっているのかは、私にもわからないわ」

セラフィナの質問にクラウディアが答える。

「とりあえず……レビテーションを使ったままでもシールドを蹴って動く分には支障がないから、戦いに関しては元々空中戦装備でやっていることの延長上で何とかなるかな、とは思うけれどね」

「ん。そこは安心した」

月の民が現在あちらにいるかどうかも不明だ。そうなると街――というより遺跡になってしまうのだろうが、そこに空気や水、食料等々があるとは限らない。

とは言え、まだ向こうに月の民や、王族などがいる可能性も考慮し、ステファニア姫達名代も同行することになっているのだが。

とにもかくにも、加護があっても諸々準備するなど、慎重になっておいて悪いことはあるまい。

「ああ。テオ君。魔力光の術式も、魔石に組み込み終わったよ」

と、そこにアルフレッドが甲板の上から顔を出した。

「了解。それじゃあ、推進器周りを作っていこうか」

推進器制御用の魔石を動力部の魔石に組み込み、ミスリル銀線を繋いで外装に組み込む形で改装を進めていく。

外装を加工する工程があるので、そのへんの作業は俺以外ではできない。

というわけでまずは術式を刻んだ魔石の動作テストを行って……正常に動作するのを確認してからシリウス号へと組み込んでいくこととなった。

操船席に制御用の機構を設置し、術式を刻んだ魔石は動力室へ。そこからミスリル銀線を船体内部へと組み込み、魔力光推進を発動させる個所まで回路を伸ばしていくという作業だ。

マジックサークルを展開して船体部を加工。ミスリル銀線を通したり制御用水晶球や魔石を設置したりと、諸々の作業を進める。

「組み込み終わったら、後は実際に飛行して試してみる必要があるかな」

作業の合間にそう言うと、アルフレッドは苦笑した。

「何だか、凄いことになりそうな気がする」

「んー。まあ、試運転だから加減はするつもりだけどさ」

第一、今は内部も改修中だからな。それらの作業が終わらないと飛行試験もできないだろう。