軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

618 魔斧とギルドと

「大群の割に音が変! 幻覚が紛れてると思う!」

セラフィナの声が水中洞窟に響く。洞窟の奥から大量の魔物がこちらへ迫ってくるが、その言葉が確かならどれだけが本物なのか。

あれから少しの探索と何度かの戦闘を経て、魔光水脈の洞窟部分から水中に降りて更に探索を続けていたのだが――広めの脇道に進んだところで大規模な魔物の群れに遭遇していた。

後列からライフディテクションで探りながら、生命反応のある魔物にだけ光球を飛ばして張り付ける。

マーフォークが光球を鬱陶しげに手にした銛で払おうとするが、無駄な事だ。攻撃魔法ではないし、実体もない。

「目印の張り付いてる魔物にだけ生命反応がある。他のは幻術か、或いは生命反応が最初からない魔物っていうことになる。見た目で種類を判断して、各自迎撃。飛び道具には注意!」

「分かりました!」

グレイス達が返答し、後衛を残して前に飛び出していく。後衛の防御は俺が担当させてもらう。バロールの動きをコントロール。光の尾を引きながらパーティーの周囲を旋回させる。近付いてくるブレードフィッシュの群れを光弾で縫うように撃ち抜いて叩き落としていく。

そこにアシュレイ達後衛の援護射撃が加わるわけだ。冷気の塊が飛んでいくと、その後が凍り付いて、広範囲の魔物が氷の中に閉じ込められたりと。アシュレイの空間制圧能力は水中でも衰えることがない。マルレーンのソーサーや幻術、使い魔達の弾幕で、後衛は問題無い。

となれば前衛も後ろを気にせずに切り込める。危なげなくマーフォークや他の魔物を切り伏せていく。

高速回転で攻撃を仕掛けてくるヒトデの魔物、スピニングスター。弾丸のように水を噴出しながら突っ込んでくる貝の魔物、バレットシェルなどなど、様々な海洋型の魔物がいるが――それらを鎧袖一触、切り伏せて叩き潰しているのが見えた。

他の仲間達が包囲されないように補助として飛び回り、旋回して敵に斬撃を見舞っては即座に離脱していくのはマクスウェルだ。

大上段からマクスウェルの斬撃が打ち下ろされる。マーフォークはそれを銛で受け止めようとしたが、その寸前でマクスウェルが軌道を変える。

振り下ろしと回転の勢いに任せて、正面から打ち込まれたはずの斬撃が背中からの一撃に変化していた。マーフォークはその動きに対応できない。マクスウェルは止まらずに次の獲物へと躍り掛かる。

赤い輝きを軌跡として残しながら戦場を縦横に動き回っているが、その動きがみんなの邪魔になるということはなく、寧ろ全員が戦いやすそうにしていた。

背後を気にする必要がないというのは実際楽だからな。それがマクスウェルに補助役として立ち回る際に求めた役割でもある。

幻影だけ残して急速に魔物の群れが数を減らしていく。

コーラルマンと呼ばれる人型珊瑚の魔物達が後衛として控えているようだが――その中にゆらゆらと怪しい光が浮かんでいた。俺の作り出した光球ではない。ファンタズムアングラーと呼ばれるアンコウの魔物だ。額から生えた提灯で、幻影を作り出す能力を持つ。

周囲のコーラルマン達が幻影かどうかは、ライフディテクションで見ただけでは判別がつかない。珊瑚も生命体ではあるのだろうが、コーラルマンはゴーレムなどに近い存在のようである。

「あれだ……! あの奥にいる大きなアンコウが幻術を使ってる! 周りにいる珊瑚達は実体か幻影か不明!」

「イグニス!」

その声に反応して敵影を見据え――踏み込んだのはローズマリーの命令を受けたイグニスだった。コーラルマンの集団はイグニスをファンタズムアングラーに近付けまいと迎撃する構えのようだ。

「援護する!」

一瞬遅れてマクスウェルが追随。イグニスはその動きに合わせるようにマクスウェルを手に取った。戦鎚と戦斧の二刀流。特殊な関節が生み出す回転の動きを、更に磁力で加速するようにして、重厚な金属の塊が竜巻のような猛烈な動きを見せた。

さながら紙切れでも吹き飛ばすように、コーラルマンの手足が飛び散る。実体があろうが幻影であろうがお構いなしだ。コーラルマン達は壁にすらならずに、瞬きするほどの間にファンタズムアングラーに肉薄する。回避行動は間に合わない。次の瞬間にはイグニスの戦斧が跳ね上がってアンコウを一撃で仕留めていた。

同時に、幻影が消え失せていく。さて。残りの魔物の数は僅かだ。掃討戦に移るとしよう。

先程の戦闘は――比較的大きな規模の戦闘だったと言える。

幻影も数多く混ざっていたので色々と判断能力の試される戦闘であったが、パーティーメンバーのみんなに危なげはなかったし、マクスウェルも良い動きをしていた。

「さっきの戦闘は良かったね」

素材の剥ぎ取りを進めながら、マクスウェルに声を掛ける。

「おお。主殿にそう言って貰えるのは嬉しいな。我もイグニスとの連係は中々刺激になった」

マクスウェルはぴかぴかと核を点滅させる。

「磁力で加速しているからでしょうけど、他者が持った場合でも重量武器とは思えない動きができるようね」

ローズマリーが感心したように言う。マクスウェルを他の者が持つ際のメリットと言えよう。単独時のような小回りこそ利かないが、持ち主の膂力や体重も上乗せできるので一撃の威力は上がるというわけだ。

イグニスなら無茶な動きをし続けることができるし、グレイスやシーラであれば闘気を上乗せする事が可能になる。シーラであっても磁力のお陰で軽々扱えるというのは利点だろう。色々と既存の武器にはない動きや連係ができるので、今後にも期待できるな。

「それより、勢い余ってコーラルマンを派手に破壊してしまったけれど」

「んー。どうせかなり破壊しないと動きの止まらない奴らだしね。状態の良い部分も結構残ってるからそれを売って……破損した部分は魔石抽出とかでも充分じゃないかな」

細かくなっても珊瑚玉にしたりとか、色々利用価値はあるし。

「他の魔物は――」

「アンコウは……見た目は微妙だけど味は好き」

視線を巡らすと、バレットシェルを集めていたシーラがこちらを見て言ってきた。うむ。大きさも普通のアンコウの比じゃないからな。食べ応えがあると言えるだろう。因みにバレットシェルはホタテに似た味だ。

ヒトデのほうは、残念ながら味が悪く、食用に適さないらしい。但し魔法薬などの原料にはなるらしく、錬金術関連での需要があったりする。

さてさて。マクスウェルの実戦訓練も、こんなところだろうか。予想以上に良い動きをしていたし、今後にも期待ができそうだ。

「今日はこの剥ぎ取りが終わったら帰ろうか」

そう言うとみんなが頷いた。砦作りから帰ってきたところでもあるし、マクスウェルの実戦や、その中での連係という目的も達成できた。今日のところは早めに撤収しておくというのがいいだろう。

迷宮から出て冒険者ギルドに顔を出して素材を売却。査定待ちの間に、ギルドの職員にもマクスウェルのことを紹介しておく。今後マクスウェルも冒険者ギルドに連れてくる機会が多くなるだろうからな。

「マクスウェルと申す。以後、よろしく頼む」

と、マクスウェルがお辞儀をすると受付嬢のヘザーが笑みを浮かべて応じた。

「ギルド長からお話は聞いています。こちらこそよろしくお願いしますね」

ギルド職員にも紹介していると、奥からアウリアが顔を出した。

「おお。迷宮に行ってきたのじゃな」

「はい。実戦経験をということで魔光水脈に」

「魔光水脈か。あの場所で立ち回れるなら実力としては確かじゃな」

アウリアは俺の言葉にそんなふうに答えた後、良いことを思いついた、というような表情を浮かべた。

「そうじゃな。マクスウェルを冒険者として登録してしまう、というのはどうかの?」

「ああ。それは良いかも知れませんね」

マクスウェルは書類作成にあたっての受け答えもできるしな。タームウィルズ冒険者ギルドから公認の立場が手に入るという点も良いかも知れない。

「おお。我が冒険者とは」

と、マクスウェルが核を点滅させる。冒険者という立場が嬉しいのだろうか。まあ……そのあたりは俺の影響があるのかも知れない。

「折角だし、ヘルヴォルテも登録していく?」

「その方が姫様と外で行動する際も便利そうですね」

クラウディアに問われてヘルヴォルテは静かに頷いていた。うむ。ヘルヴォルテに関しては素性が説明しにくいが、冒険者登録してあるなら色々と話を通しやすくなるからな。

そんなわけで、マクスウェルとヘルヴォルテは並んで事務手続きを受けていた。

まあ、何というか。浮遊する斧がギルド職員に受け答えをしているというのは割合人目を引くものがある。

「喋る斧が冒険者登録か。ステファニア殿下の使い魔の時も驚かされたが……」

「で……あの斧は何なんだ?」

「きっと、迷宮深層から出てきた古代の遺産とかじゃないか?」

と、そんな調子で事情を知らない冒険者達の憶測も飛び交っている。ドラゴニアンの斧等が素材に使われていると考えれば、迷宮深層というくだりは部分的には当たっているかな。

それらの噂話を尻目に、無事事務手続きも終わる。

「後でこういう金属板を貰えるはずだから。ビオラやエルハーム姫に頼んで、マクスウェルも装着しやすいように加工してもらおうか」

「それは楽しみだ」

首から下げている金属プレートをマクスウェルに見せると、嬉しそうな声色が返ってくるのであった。

うむ。冒険者ギルドとも良好な関係を築けそうで何よりではあるかな。