軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

612 砦の建造地

「お帰りなさいませ、旦那様」

「うん、ただいま」

あちこち街を巡って、夕方頃にみんなと共に家に帰ってくるとセシリアが俺を迎えてくれた。セシリアは俺に一礼してから、便箋を差し出してくる。

「旦那様がお留守の間に、王城からの使者がお見えになりました。この書状を旦那様にと」

「ありがとう。じゃあ確かに受け取った」

そう言ってセシリアから書状を受け取り、便箋を見てみる。

「ああ、王家のものね」

ローズマリーが言った。箔押しの装飾で縁取りがなされた便箋である。王家の紋章の封蝋が成されている。差出人はメルヴィン王だ。

俺が多忙だろうから用件があれば王城に出向いてもらうよりも書状で伝える、と言っていたからな。さて。

書状の内容に目を通して見れば――そこには資材の準備が整ったので、予定の場所で魔法建築に取り掛かるなら何時でも俺の好きな時に行って欲しいという旨が記されていた。

決戦に向けた砦作りだな。早速砦作りの準備が整ったことをみんなに伝える。

「――では、明日からは魔法建築の予定でしょうか?」

「そうなる、かな」

マクスウェルを迷宮に連れて降りるのが少し先延ばしになってしまうか。

そう思って視線を向けると、マクスウェルは俺が何か言うより早く、心得ているとばかりに言った。

「ふむ。砦作りは主殿がいなければ進まないのだし、我の扱える魔力で手伝えることもあろう」

「んー。そうか。なら迷宮には砦作りが終わってから潜るっていうことで良いかな?」

早めにマクスウェルを連れて迷宮に向かって実戦訓練をする、という話をしていたけれど。少し予定が変わってしまうところがある。

「うむ。目を覚ましたばかりで色々な物を見せてもらい、様々なことを学ばせてもらって感謝している。そういった気遣いも嬉しいし、迷宮も確かに気になるが、我としては主殿の魔法建築にも興味がある故」

「そっか。ありがとう」

「うむ」

ふむ。そういう事なら砦作りに集中させてもらうか。大規模建築になるが、構想は練っているし土魔法の模型も作ってある。

決戦に間に合わせるために魔法建築を選択したのだから、明日からは気合を入れて工程を進めていくとしよう。

「では、今日の内にお弁当を作っておきますね」

「私もお手伝いします」

グレイスが笑みを浮かべるとアシュレイも言った。マルレーンも自分も手伝うと、こくこくと首を縦に振った。

「では、みんなで手分けをしてそっちは進めてしまいましょうか」

「そうね。魔法建築ではそこまで力になれないし」

クラウディアが言うと、ローズマリーも頷いて、シーラとイルムヒルト、セラフィナも腕まくりをする。そうしてみんなどこか楽しそうに動き出すのであった。

明けて一日――。

朝早くから出掛ける準備をして、造船所へと足を運んだ。

アルフレッドやジークムント老達、工房組も砦作りに関わるが、竜籠では工房の資材が運び切れない。皆や資材を乗せて一気に砦建造の現場へ向かうのには、シリウス号が打ってつけというわけである。

造船所についたら、まずはゴーレムを作り出し、工房から馬車に乗せて運んできた物資をシリウス号の甲板へと運んでしまう。

「おはようございます」

「ええ、おはよう」

その作業の傍ら、既にやって来ていたステファニア姫達にも挨拶をする。

各国の王の名代として砦のことを結集している騎士達に通達する、という役割があるらしい。ヴェルドガル王国の対魔人用の軍事拠点ではあるが、秘密が多いからな。

王の名代が立ち入って建造の様子を見ておいてもらった方が、後に各国で色々と話を進める上で円滑になる、というわけだ。

つまりは、各国の家臣達に対魔人用の拠点としての軍事施設であることを納得してもらいやすくする、という狙いがあるのだろう。

まあ……ステファニア姫達としては魔法建築が間近で見られるので役得だと言っていたが。

「おはようございます、テオドール様。エルドレーネ陛下から名代としての役割を正式に任ぜられて参りました」

「おはようございます。分かりました。改めてよろしくお願いします」

と……グランティオスの水守りであるロヴィーサが、にっこりと笑いながら朝の挨拶をしてくる。こちらも挨拶をしながら改めてということで握手を交わした。

ロヴィーサはここ数日、仕事があるからと石碑からグランティオスに帰っていたのだが……ふむ。これで正式に名代の仕事についたということになるわけだ。水守りを国外で動かすとなると、公的な場所で家臣の前での叙任なども必要だったのだろう。

というわけでバハルザード王の名代であるエルハーム姫は工房組なので元々一緒だが、エルドレーネ女王の名代としてロヴィーサも同行するということになる。

うーん。名代として一緒に行動する機会が多くなるのなら、ロヴィーサの護身手段も何か考えておいた方が良いかも知れないな。使い魔だとか魔法生物だとか……。

「斧の魔法生物のマクスウェルです」

シリウス号に乗り込む前にロヴィーサにもマクスウェルを紹介しておく。

「マクスウェルという。よろしくお頼み申す」

「これは、ご丁寧に。お話は聞き及んでおります。ロヴィーサと申します。よろしくお願いします」

ロヴィーサは工房での進捗状況を聞いていたこともあって、割合普通にマクスウェルに応対していた。或いは俺の身の周りで起こることに色々慣れただけ、という部分もあるような気もするが。

挨拶やら自己紹介が終わったところで、物資の積み込みも本格的に進めていく。ゴーレムで荷物のバケツリレーをするように一気に甲板へと運んで行く形だ。

みんなもレビテーションの魔道具などを使って甲板に荷物を積み込み、そして船倉へと運んでいく。そうして程無くして積み込みも終わった。

では、砦建造の予定地へ向かうとしよう。艦橋に腰を落ち着け、人員が揃っていることを確認したらシリウス号を浮上させる。

「建造の予定地というのは、どこになるのかな?」

「んー。北の街道で、海沿いの場所だよ」

シリウス号を回頭させながら、テーブルの上に広げられた地図を見ているマクスウェルに答える。カドケウスがマクスウェルの質問に答えるように、地図の一点を猫の手で指し示した。

「ふむ。平地なのだな」

「隘路だとか、普通の要害はベリオンドーラを迎え撃つには役に立たないからね」

「となれば寧ろ兵を展開しやすく、戦いやすい場所というのが望ましいわ」

「なるほど」

俺の言葉をローズマリーが引き継ぐと、マクスウェルが納得したというように点滅した。

選定されたのは北の街道沿いの平野だ。海の近い場所で平野も広がっているという……条件だけ見れば比較的良好な環境だが、街道以外の開拓は実はあまり進んでいない場所である。

というのも、少し内陸に行った場所にある深い森が魔物の出やすい場所の1つであるらしく、見通しが良い割に難所とされているからだ。

森の中のどこかに、あまり質の良くない澱んだ魔力溜まりでもあるのだろうが……タームウィルズとフォブレスター侯爵領から冒険者達が時々討伐に入ったりすることもあるらしいな。

魔物は資源ではあるが、難所の目と鼻の先に住みたい、開拓したいと思う者もいない。

安全な行き来に関しては大事なので、その対策は王国主導で行われているらしいが。

「地図上に記号が書いてありますが、これは?」

「ああ、それは砦を表す記号よ」

ヘルヴォルテの質問にクラウディアが答えた。

「近くに魔物が出る森があるらしくてね。兵士達が巡回を増やしたり、冒険者達が安全に討伐が行えるよう、今でも砦のような建造物があるんだ」

冒険者ギルドも関わっていたり、行商人などもそこにやってきて商いをしたりしているそうだ。つまり国営の宿場町兼、対魔物用の拠点、というわけである。

逆に言うと「定住している者」がいない地域である。建物や地形だけならいくら壊しても後から直したり整えたりすればいいだけの話だ。

だから、瘴珠を囮に魔人達を誘い込み、迎え撃つ場としては色々都合が良い。そこを今回は魔法建築で改造、拡張してしまおうという話になっている。

資材調達の節約にもなる。そういった事情を諸々説明すると、マクスウェルは納得したように相槌を打ちながら核を明滅させていた。

そうして、その場所を目指してシリウス号の速度を速めていくのであった。