軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

610 街と斧とドワーフと

そんなわけでラスノーテにも声をかけて、街中を見て回るために出かけるということになった。

家に声を掛けてラスノーテを呼んできたりと出かける準備をしていると、ペレスフォード学舎の講義が終わったのか、タルコットがやってきた。

タルコットは元カーディフ伯爵家の次男だ。俺がタームウィルズにやって来たばかりの頃、カーディフ伯爵がリネットと結託して誘拐事件を起こして……まあ、タルコット自身は無関係だったこともあり、アルフレッドの口添えもあって今に至るというわけだ。

タルコットの仕事は元々、アルフレッドがお忍びの時、街中の移動の際の身辺警護をすることや工房の警備をすることであったが……最近では工房での助手としての仕事も板についてきた感がある。

動きやすそうな格好に身を包んでいる様は、工房の仕事を最優先していることの表れだろう。初めて学舎で会った頃の不安定な印象は薄れて落ち着いた感じがする。

タルコットはマクスウェルに自己紹介をされて一礼されると、こちらも礼儀、とばかりに一礼を返していた。

それからアルフレッドがこれからの予定をタルコットに話して聞かせる。

「まあ、そんなわけでマクスウェルに色々見せようってね。これから街中に出かけようと思っていたんだ」

「そうだな。アルフレッド様はもっと息抜きをなさったほうが良いぐらいだ」

と、タルコットはアルフレッドに言った。アルフレッドは小さく笑うと答える。

「まあ多少の自覚はあるよ。だから僕も偶には良いかなと思ってる。オフィーリアの予定も今日は空いていたみたいだから、彼女も待っていたところなんだ。君もシンディーを誘って一緒にどうだい?」

アルフレッドとの関係も良好なのか、2人の受け答えにも気安さめいたものが感じられた。

「シンディーは、まだ学舎で講義を受けているはず。それに、この前一緒に出かけたのでアルフレッド様が気になさる必要は――ああ、いや」

タルコットはそんなふうに言って、少し慌てたように首を横に振った。

オフィーリアの紹介で知り合ったシンディーもまた学舎の講義の合間に、工房での魔法技師助手の仕事をしていたりする。そんなわけでタルコットとシンディーは顔を突き合わせる機会も多い。

互いの予定を把握していても不思議ではないが……ふむ。一緒に出かけたというくだりを聞く限りでは、仲は順調、というようにも思えるな。

まあ、他人の恋路にあれこれと顔を突っ込むのもなんなので、流して触れないでおくことにしよう。

「では、アルフレッド殿は出かけるということで。儂は色々研究が半ばでな。留守番させてもらうことにしよう」

と、ジークムント老が言った。

「ジークムント様が残られるのでは尚更遊びになど。今日は助手の仕事ではなく警備の仕事を任せて頂こう」

「あー……。寒いから防寒の魔道具を使うと良いよ。何時もの場所に置いてあるから」

「ああ。助かる」

タルコットはアルフレッドの言葉に、軽く笑みを浮かべた。

アルフレッドは見張りなら部屋の中からでも大丈夫と言っているのだが、タルコットはそれでは不十分と、敷地内を巡回したりかなり真面目に仕事を行う。

そのためアルフレッドが先に防寒の魔道具を使うようにと言っておいたというわけだ。

そうこうしている内に、アルフレッドの婚約者であるオフィーリアもやってきて、みんなで何台かの馬車に乗って出かけるということになった。

ふむ。そうだな。今日は俺も御者役をさせてもらおうか。マクスウェルに街中を見せたり解説してやる必要もありそうだし、馬車の中からより、外に出て色々見たいだろうから。

中央区を通り、南区へと移動する。

南区の特色を挙げるなら、ドワーフの親方達が鍛冶場を持って仕事をしている区画である。鍛冶場は音も出るので、一ヶ所に纏まっていたほうが職人達にとっても良い環境らしい。

利便性や周囲の理解を得ることなどが簡単だからだろう。

ドワーフが集まることで酒場も増えてしまったのはご愛敬と言ったところだが。

「――そんなわけで、ドワーフの職人が多いからこのあたりは鍛冶場や酒場が多いんだ」

南区について色々説明をしながら馬車でゆっくりと進む。

「鍛冶場、か。うむ。良い空気だ。我の仲間達もこういった場所で作り出されるのだな」

御者席から周囲を見回して、マクスウェルは嬉しそうな声色で明滅する。武器だからか、鍛冶場には親近感が湧くものらしい。

あちこちから金属を叩く音が聞こえるが、これもマクスウェルにとっては落ち着く音色なのだろう。

馬車の窓を開けて、ラスノーテとヘルヴォルテも街中をじっと眺めている。

大通りには酒のつまみになるような串焼きやらを売っている屋台なども出ていて、色々と賑わっていた。

「このあたりはテオドール様の家の周りより活気がありますね」

「東区は静かで落ち着いていますから。こういう活気のある場所も良いですね」

ヘルヴォルテの言葉にグレイスが笑みを浮かべて答える。

折角なので串焼きの買食いなども良いだろう。普段は家で食事を作ってもらうからあまりやらないが、これも街中の散策の醍醐味みたいなものでもある。馬車を止め、屋台で串焼きを買ってみんなで食べる。

串焼きという事でどうしても食べ方がワイルドになってしまうところはあるが。

そこはそれ。気にする人もいるかなと木魔法で食器やフォークなども即席で作ってやれば串から外して食べられる。

まあ、串焼きはそのまま食べるのも乙な物という気もするが。アルフレッドなどはお忍びで慣れているのか、普通にそのまま食べているし。

「温かくて美味しい……」

と、ラスノーテは串焼きを口にして、そんなふうな感想を口にする。

「素朴な味わいも悪くはないわね。わたくしも城を抜け出した時は、食事を取る時間を惜しんで、時々屋台で食べたりしたけれど」

「そうなの? 羨ましいことをしていたのね、マリーは」

ローズマリーの言葉に、ステファニア姫が少し拗ねたように言う。アドリアーナ姫も同意するように目を閉じて頷いていた。その光景にエルハーム姫がくすくすと笑う。

まあ……王城で出る食事とは違うが、その分そこに新鮮さがあるのかも知れない。

「美味しいですね。マルレーン様」

アシュレイが言うと、マルレーンもこくこくと頷く。

「うむ。我等にとっての魔力補充と同じだが。人の営みというのは楽しそうで良いな」

マクスウェルがその光景を見て核を明滅させる。

「地上でこうして姫様と串焼きを食べることになるとは、思ってもみませんでした」

「そう? でも私は楽しいわ」

クラウディアとヘルヴォルテも楽しんでいるようで、中々に和やかな雰囲気だ。街中を見て、楽しんで貰うという目的は達成されているように思う。

と、そこに――。

「おお、ビオラじゃねえか。こんなとこで何してんだい」

「ああ、ゴドロフ親方。こんにちは。今ちょっとみんなで街中の案内をですねえ」

ビオラがドワーフの職人らしき人物に声をかけられて、笑みを返して受け答えしていた。ビオラが親方、ということはアルフレッドとも知り合いである。

「ご無沙汰しています。先日工房で新しい仲間を迎えまして。歓迎も兼ねて街中の案内をしていたところなのです」

アルフレッドもドワーフの親方に事情を掻い摘んで説明する。

「マクスウェルも挨拶してくる?」

「うむ。鍛冶師殿には興味がある」

マクスウェルに声をかけると、そんな返答が返ってきた。

ドワーフの職人は新しい技術などには好奇心旺盛な印象だからな。マクスウェルを紹介しておいても損にはなるまい。

「こいつは驚いたわい。喋る斧とはの」

親方はマクスウェルをまじまじと見て唸り声を上げる。

「刃の部分は迷宮産……か? とんでもねえ業物だな。それ以外はビオラとアル坊ちゃんの仕事か。所々違うが……これはもう1人職人がいるな。鞘の装飾もビオラの特徴とは違うが……良い仕事だ」

「すごい目利きですね」

完璧に言い当ててきた。少し目を丸くするとアルフレッドが笑みを浮かべる。

ゴドロフ親方は、工房の職人達の中でも有数の腕利きで、迷宮商会店主のミリアムとも知り合いである。つまり……ビオラの恩人的立場の人物というわけだ。目利きや腕前も確かなものらしい。

「まあ、この仕事も長いしな。だが、魔法云々は抜きにしても良い斧じゃねえか。鍛冶師にも敬意があるようだし尚更だわな」

「お誉めの言葉、痛み入る」

マクスウェルの返答に、親方は豪快に笑った。エルハーム姫も親方に自己紹介をする。

「お初にお目にかかります。バハルザード王国より参りました、エルハーム=バハルザードと申します」

「柄の一部や鞘の装飾は、エルハーム殿下がゴーレムを用いて鍛冶をなさっているのです」

エルハーム姫が一礼し、アルフレッドが補足する。

「ほぉお。ゴーレムにやらせてこれほどの仕事をねえ」

「その……戦場で鍛冶の仕事を手伝うには、腕力が付くのを待ってはいられなかったので。親方から見れば邪道かも知れませんが……」

「いーや。培われた技術に邪道も何もあるもんかね。戦場か。なるほど、そう聞けば納得だ。丁寧な仕事ってのは兵士の命も救うからな。ここまでのものになるには、相当苦労したんだろうが……」

と、職人同士かなり盛り上がっている。

最終的にはエルハーム姫とマクスウェルも、いつでも親方の鍛冶場へ遊びに来て構わないと約束を取り付けていた。

エルハーム姫的にはヴェルドガルとの技術交流もしたがっていたしな。アルフレッドとビオラの知己ということなら、信頼のおける相手だろうし。良いタイミングで知り合えたものだ。

一方で親方も迷宮産の武器を見ていい刺激になったらしい。腕が鳴ると言いながら鍛冶場へと帰って行ったのであった。