軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

606 中枢からの帰還

大魔法の2連発に巻き込まれ、残っていた敵群もその大部分が壊滅したようだ。

それに乗じてグレイス達は全員が防御陣地から打って出ると、残っていたティアーズを蹴散らしながら、こちらに向かって進んで来る。

「私はパラディンのところへ。皆はテオドールの援護をしてあげて」

「はいっ!」

クラウディアはカドケウスに聞こえるように言った。

そうか。クラウディアはパラディンの残骸に用があるようだ。その一方で、俺のことも心配しているらしい。なら、俺もみんなが動きやすいように合流するか、パラディンの近くで待つかするべきなのだろう。

残ったティアーズは僅かだし、距離もある。掃討には加わらず、パラディンの近くで待機して、ディフェンスフィールドなどを展開しておくというのが良さそうだ。

「テオドール様!」

防御陣地を新しく構築していると、ラヴィーネに乗ったアシュレイが駆けつけてくる。

「ああ、勝ったよ。まあ、見た目ほど傷は重くない、と思う」

「はい……っ!」

心配そうな表情のアシュレイであったが、そのまますぐに俺の傷を診てくれた。

パラディンとの戦闘で額の横あたりを切っていたらしい。爆風の時に金属片でも飛んできたか。頬に向かって伝っていた血を拭い、傷を治癒魔法で塞ぐ。それから大魔法同士の激突の反動と負荷で、腕の毛細血管が切れたりしていたので、そちらも治療してもらう。

魔力の反響で体内の異常を探ったり、大体のところを診てから安堵に胸を撫で下ろした、といった様子だ。

「骨や内臓には異常は無い、と思います。筋肉には負担がかかっているようですが」

「ん、ありがとう、アシュレイ。それから、心配かけてごめん」

「いいえ。ご無事で良かったです」

そう言ってアシュレイは笑みを浮かべる。何時ものように抱き合ったりという流れにはならない。

グレイスの状態と今の状況などを慮ってのことだろう。まだティアーズがいなくなったわけではないことを考えれば、封印を施すわけにもいかないしな。

「グレイスの怪我は、大丈夫?」

「ああ……はい。私の傷はもう塞がっています。ドレスのほうはまだ再生していませんが、傷は……綺麗に消えています」

グレイスは俺の血の臭いで少しぼうっとしていたようだが、声をかけると小さく吐息を漏らしてから笑みを浮かべた。んー。後の反動解消が中々大変そうではあるかな。風魔法のフィールドを纏って血の臭いを遮断してやると、少し落ち着きを取り戻したようだが。

「わたくしも問題ないわ。イグニスも、多分大丈夫。後で点検する必要はあるけれど」

「ん。同じく問題無し。イルムヒルトやセラフィナも平気」

ローズマリーとシーラが言う。マルレーンも自分や召喚獣達は大丈夫、というようにこくこくと頷いた。

状況確認が終わったところで、パラディンに向かって手をかざしながらクラウディアが言った。

「今、安全を確保するわ」

その言葉と共に、足元からマジックサークルが広がる。パラディンの身体が発光し――その光が区画全体へと広がるように走っていった。

と、残っていたティアーズ達の動きが止まる。こちらに向かってくるのを止め、興味を失ったようにあちこちに散っていった。

「パラディンは少し特殊な立ち位置のガーディアンなの。迷宮の魔物が暴走する以前の――月の船の警備兵を率いる立場と言えば良いのかしら」

「……つまり、パラディンが機能を停止してクラウディアに支配権が戻ったから、ティアーズやセントールナイトがこっちへの攻撃を止めた、と」

「そうなるわ。今後の中枢探索でも魔物は出るけれど、ティアーズの大軍や巡回やらを気にする必要はなくなるわね」

それは有り難い話だ。同系列ではないカメレオンやスターソーサラー、ボーントルーパーなどは別口のように思えるが。

「アルファやベリウスみたいに、パラディンをこっちに引き込むっていうのは?」

「それは……難しいわね。防衛機構はラストガーディアンにも直結しているし修復して支配権を奪い返される可能性があるわ」

「パラディン自身は制御された通りに動いている側面が強いのです。拠点防衛のための特別なゴーレムではありますが……」

なるほど。クラウディアの言っていた、戦うことしか知らない方の直属ガーディアンか。となると、修復はせず、迷宮が再構築するまでの猶予時間を作っておくのが正解ということになる。

では、パラディンの残骸はできるだけそのまま回収し、解析などして使える技術、術式などを頂く、という方向で考えておこう。

結構派手に壊してしまったが、頭部や胸部などはまだ残っているので、核心部分から参考にできる技術などを引き出せたりもするだろう。

ともあれティアーズが落ち着いている今が、色々と回収するのに丁度良い。もうひと頑張りといったところだ。

万が一の再起動などがないようにパラディンの残骸には念のために封印術を施しておくことにしよう。

ティアーズは武装部分と装甲部分、内部機構等々、比較的状態の良いものは回収し、状態が悪いものは魔石抽出を行う。

ボーントルーパーは水晶槍を回収して、残りは魔石へ。このあたりは最初に戦った時と変わらない。

マグネティックボルテクスで散らかした部分は俺が責任を持って片付け、その中からパラディンの右腕やブレード、脱落した装甲などを回収させてもらう。

「セントールナイトの本体はどうしましょうか?」

「武装、装甲は回収できてるんだよね? 多分、同系列の技術はパラディンの解析にも役立つと思うから、丸々回収させてもらおう」

「分かりました」

グレイスは頷き、セントールナイトの本体の残骸を運んでいく。

「スターソーサラーはあまり回収するべきものが無いわね」

ローズマリーが言う。貫かれたスターソーサラーの本体と杖ぐらいしか残っていないからな。

杖を見せてもらう。軽く魔力を込めると――俺の周囲をガードするように衛星がいくつか浮かび上がった。

「ああ。これは便利かも」

「作り出せる数は少ないようだけど、護身用としては便利そうね」

多分、魔力反応から見るに、先端の魔石に魔力を送ると衛星を作り出して制御できる。杖の部分は取り回しを良くするための飾りだろう。魔石を取り外し、別の形の魔道具にすることもできる。ソーサラー本体は……破損が大きいな。加工よりも魔石抽出の方が良さそうだ。

そう思って魔石を抽出すると、かなり大きな質の良い魔石が取れた。利用法を考えるのが中々楽しみではあるかな。

「これは?」

と、シーラがアサシンというか忍者じみた動きをしていたカメレオンの魔物をレビテーションで運んでくる。

「んー。どうしたものかな。暗器の類は?」

「回収したよ!」

セラフィナが笑みを浮かべ、カメレオンの使っていたダガーをロングソードでも構えるように見せてくる。

ふむ……。そうなると、やはり魔石行きだろうか。中枢であった魔物の中では生物的ではあるが、何というか……色々な面から食用とは思えないし。

みんなも同様の意見だったらしく、魔石抽出すると、こちらもかなり大きなものが回収できた。流石中枢の魔物といったところか。

「ティアーズの装甲は、物資としては有り難いわよね。良質な金属が大量に回収できたわけだし」

イルムヒルトが笑みを浮かべる。

「そうだなぁ。工房じゃ使い切れないから、必要な分以外は王城に預けるか」

まあ、王城から南区のドワーフの親方達のところに回されるという気がするが。鋳潰して武器なり防具なりに鍛え直してくれることだろう。

大魔法2回に巻き込んだせいで、回収不可能になってしまったものもあるのが残念なところだな。

そうして――諸々の剥ぎ取り、物資の回収を終えて、俺達はクラウディアの転移で迷宮中枢を脱出したのであった。

ステファニア姫達と、シオン達はもし援軍が必要になったらいつでも駆けつけられるようにと、迷宮入口で待機していてくれたらしい。みんなとの無事な再会を喜び合い、外に出るともう夕暮れに近くなっていた。

通信機で連絡を取って兵士達も動員し、大量の物資を王城や工房に運んでもらうことになり、そうして俺達も馬車で工房へと向かったのであった。

「ああ……。少し、落ち着いてきました」

工房馬車での移動中は……何というかずっとグレイスとアシュレイの間で抱きつかれたり髪を撫でられたりしているような状態だったが。

グレイスに関して言うなら、再生に吸血鬼としての力を使ってしまったことや、俺が流血して血の臭いに酔ってしまったことなどから、色々反動が大きかったのだろう。その解消が必要だったわけだ。

アシュレイから逆側から頬を預けられるようにして……まあ、2人にされるがままに馬車に乗っている感じである。

パラディン撃破の疲労感があるところに2人の体温や柔らかな感触、鼻孔をくすぐる匂いに包まれて、色々思考が麻痺してくるところがあるが……。

「後で、皆さんとの時間も作ってあげてくださいね」

「そうですね。私からもお願いします」

と、グレイスが笑うと、アシュレイも頷く。

あー……。婚約者達はこういう点は公平に、という取り決めがあるからな。

「ああ。それじゃあ、工房に到着したらかな」

俺の答えに、ローズマリーが羽扇で顔を隠してそっぽを向いた。クラウディアはやや頬を赤らめて目を閉じ、マルレーンはにこにこと嬉しそうに笑うのであった。