軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

562 家族への思い

そうしてお茶を飲んで一息入れてから、皆で先代シルン男爵とその夫人の墓所へと向かった。シルン男爵領もガートナー伯爵領と同様に雪は積もっているが、使用人達は雪かきをしっかりとしているようだ。移動に苦労はしないだろう。

男爵家の裏手の林を少し進んだところに墓所があるのだ。雪景色の木立の中を少し歩いていくと、すぐに墓所へと辿り着いた。

貴族家代々のお墓ということで、敷地を塀で囲み、その中に歴代の当主とその夫人の墓を並べて立てているわけだ。

外見はそれぞれ三角屋根をした石造りの祠といった様相で、立派なものであった。正面に扉が付いていて、中に棺を収めるようになっている。手入れも行き届いているし……綺麗なものだ。

「こちらです」

と、アシュレイが案内をしてくれる。新しい墓石が先代シルン男爵の墓石、そしてその隣が先代のシルン男爵夫人の墓石。アシュレイの両親のお墓だ。掃除や雪かきなどの手入れは既にされているのですぐに墓参りができる。

冬の張りつめた空気と、整然とした墓所の静謐な雰囲気で、気が引き締まるようなところがある。

「どうぞ、アシュレイ」

「ありがとうございます、マリー様」

ローズマリーが花束をアシュレイに手渡す。これもタームウィルズから用意してきたものだ。

アシュレイは花束を受け取ると、両親の墓所に向き直り、目を閉じて深呼吸をする。少し遠いところを見るような目で苦笑する。

「昔は……ここがとても寂しい場所のように感じられて。父様と母様がもういなくなってしまったのを認めるようで避けていました。でも今は……何も変わっていないはずなのに、何だか温かい場所のように感じるのです」

その苦笑は、昔の自分に向けられたものか。アシュレイは花束をそっと墓石の前に置くと手を組んで目を閉じ、黙祷を捧げる。

エリオットとカミラが連れ立ってアシュレイの隣に行く。エリオットは――墓石を見つめたまま静かに口を開いた。

「……それはきっと、アシュレイが大切な人達と共にいる温かさを知ったからじゃないかな。この場所も父上や母上、お祖父様とお祖母様……家族が連綿と、共に眠る場所だからね」

アシュレイはエリオットのその言葉に、目を閉じたままで静かに頷く。

祈りを捧げるようなアシュレイの黙祷。エリオットとカミラも静かに墓石の前で目を閉じる。シルン男爵家の兄妹とカミラは、そのまま静かに黙祷を捧げていた。カミラも……先代シルン男爵夫妻は顔見知りだろうしな。

やがて、3人が黙祷を終える。

「そう、なのかも知れません。テオドール様やみんながいて下さったからですね」

アシュレイは先程のエリオットの言葉にそう答えると、こちらに振り返って綻ぶような笑みを浮かべた。

「……うん。俺も、アシュレイやみんなに支えてもらってる」

こちらも静かにアシュレイに笑みを返す。アシュレイ達と入れ替わるように墓石の前まで進み、胸に手を当て軽く一礼するように目を閉じる。

大切な人達――家族として、か。

婚約のこと、普段の暮らし。戦いのこと。先代シルン男爵夫妻に伝えるように、色々な思いを、記憶を、脳裏に描いていく。

先代シルン男爵夫妻も、領民を守るために命を落とした。だから、きっと母さんと同じで。ただただ領民のことや家族のことを心配していただろうと思うのだ。

だとするなら大切な人達を守りたい。もう二度と傷付けさせないし、奪わせない。俺の中にあるそういう思いも、伝わるのだろうか。

だから……アシュレイのことを家族として、婚約者として守る。みんなで笑って、楽しく暮らしていくために。

――黙祷を捧げ、目を開いて顔を上げ、一歩後ろに下がって一礼する。

こういう俺の考えや思いをアシュレイのご両親に聞かせて、それで安心してくれるのかは分からないが……胸の内側にあるものは伝えられた、と思う。

俺と入れ替わりにグレイス達やメルヴィン王達が先代シルン男爵の墓所に黙祷を捧げていく。

「……先代シルン男爵は勇敢で高潔な人物でな。森に出没する魔物達を自ら率先して討伐に赴くことで兵士達の士気を向上させたりしておったな」

黙祷を終えたメルヴィン王が目を細める。

なるほど……。ケンネルが警備隊に拘っていたのは、冒険者絡みのトラブルがあったという背景もあるのだろうが、そういった先代の勇敢さなども関係しているか。

アシュレイとエリオットの両親だしな。武勇であるとか魔法の才能に優れているとしても何ら不思議はない。水魔法関係についての噂は聞かないがそのあたり、実際は水魔法への相性は優れたものを持っていたのではないだろうか。

「先代は率先して長が動かなければ家臣はついてこないと常々言っておりましたからな」

「確かに。ご立派なお方でした」

ケンネル、ドナートは勿論のこととして、フリッツも直接の面識があるらしい。先代シルン男爵の墓所へ時間をかけて黙祷する。

「……貴族として立派な方だったようね」

と、クラウディアが目を閉じて言う。それを言うならクラウディアもだろうけれど。

イルムヒルトも考えることは同じなのか、クラウディアの言葉に、静かに頷いていた。

「私は、お爺様達にもお参りしてきますね」

「では私も一緒に行くよ」

それからアシュレイとエリオット、カミラは、男爵家先祖の墓所1つ1つを回って丁寧に黙祷を捧げていくのであった。家族、か。それなら、俺もそうするのが良いのだろう。

そう思って後に続くと、みんなの考えも同じだったらしい。全ての墓石に黙祷して回ったのであった。

そうして、先代シルン男爵夫妻への墓参りを無事に済ませ……男爵家に戻って昼食を食べてから、俺達はミシェルとフリッツを見送りに行ったのであった。

領内を馬ぞりで移動し、ミシェルの家まで向かう。シルン男爵領は相変わらず、長閑な雰囲気だ。雪景色ではあるが、温室の中だけ青々と作物が育っていて、ノーブルリーフ達も元気そうだ。

「あの温室の魔道具は、実によくできておりますな。雪や雨が降って陽が当たらなければ、それを補うように温度と湿度を調整しようとする」

「ん。テオドールが術式を書いた。それを魔道具にしたのが、アルフレッドっていう魔法技師」

「なるほど。テオドール様の術式を元にしていたわけですな。道理で」

シーラの言葉に、フリッツが感心したように頷く。

「条件付きで調整を行うというのは、色々と他の技術も蓄積もあったからですね」

通信機関連の、契約魔法関係の応用技術が活かされていたりするのだ。

「それはまた。尚のこと素晴らしい」

「恐縮です」

ミシェルは温室の中に行って、あれこれと点検したりしていた。オルトナも一緒に行って、ミシェルの仕事ぶりをつぶさに眺めていた。やがてミシェルが頷いて戻ってくる。

「ありがとう、お祖父ちゃん。助かったわ」

「何の。役に立ったなら何よりじゃよ」

フリッツは手をひらひらとさせて笑う。それから肩を竦めるようにしてミシェルに尋ねた。

「それよりのう。世話をしている内にノーブルリーフ達に愛着が湧いてしもうてな。数が余ったら一株分けて欲しいのじゃが。店にいてくれると助かる。何分、暇な時間が多くてな。薬草の栽培にも役立ってくれるじゃろうし」

「僕としては構いませんよ」

と、先に言っておく。

「おお。話してみるもんじゃな」

「お店にくるお客様にも、馴染んで貰えるかも知れませんね」

「うん。そういう考えもある」

グレイスの言葉に笑って頷く。

実験ではあるが、ノーブルリーフに親しみを持ってもらって、無害であることを周知できれば農法が広がる一助になるだろうしな。

「分かりました。では、大人しい子を選んで鉢に植え替えておきます」

ミシェルが笑みを浮かべて頷いた。

「オルトナは……どうかな。ここでやっていけそう?」

オルトナに尋ねると、割合迷いなくこくんと頷いた。長閑なところなので、オルトナにとっても良い環境のようだしな。

「色々、ありがとうございました。本当に――タームウィルズの見学は良い勉強になりました。温室も……ですが、王城や、飛行船……劇場も素晴らしかったです」

ミシェルはタームウィルズで見たものを色々と思い返しているのだろう。

「飛行船に乗ったという話じゃったなあ。中々羨ましいものじゃが」

「では、今度はフリッツさんも遊びにいらして下さい」

「ほうほう。それはまた役得じゃな。では、いずれそちらにお伺いしましょう」

「そうですね。ミシェルさんと一緒に」

「ですな」

報告書の受け渡しであるとか、色々あるしな。ミシェルとも通信機で連絡が取れるので、日程についての都合もつけやすくなるだろう。

ミシェルやフリッツと別れの挨拶を交わす。オルトナとも一時の別れではある。

オルトナもそれが分かっているのか、ラヴィーネやベリウス、コルリスにフラミア、ラムリヤ達と、抱き合うようにして別れを惜しんでいる様子だった。

マルレーンやシオン達も屈み込んで、軽くオルトナの身体を抱く。

「オルトナも……またタームウィルズに遊びに来てね」

ラスノーテが言って、オルトナを撫でると、こくこくと頷く。

「ふうむ。温室の世話も中々楽しかったですからな。常連客の相手も問題有りませんでしたし……本末転倒なところはありますが、今後も儂が温室の世話を代わっても良いですぞ。それならばオルトナも、ミシェルと共にタームウィルズに遊びに行けるでしょうからな」

そんな子供達の様子を見たフリッツが言う。

「まあ……次回についてはまた改めて打ち合わせましょう」

フリッツの言葉に頷き、そう答える。

フリッツは中々、子煩悩というか孫思いなところがあるようで。

そうして俺達は名残を惜しみつつも男爵家への帰路についた。ミシェルやフリッツと一緒に、オルトナが手を振って見送ってくれたのであった。