軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

509 海からの帰還

タームウィルズへの帰路は順調であった。

休暇が比較的長めだったことや、ウォルドムの騒動で数日分滞在が延びたところもあったが、代わりに帰路におけるシリウス号の航行速度を上げることで、帰着にかかるまでの時間を短縮して帳尻を合わせているというわけだ。

そうして――遠くに夕暮れのタームウィルズが見えてくる。王城セオレムを見て、エルドレーネ女王が声を上げる。

「おお……。これはまた……凄いものだな。グランティオスにも噂として届いてはいたが、これほどのものとは」

「セオレムは、迷宮が作り出したものよ。普通の建造物とは違うところはあるわね」

「その噂も本当であったか……」

クラウディアがセオレムについて説明すると、エルドレーネ女王は顎に手をやり、目を閉じて頷いていた。

普通と違うところと言うと、その巨大さだけではなく浮石のエレベーターであるとか壁の自動修復などだろうか。

住んでいると何だかんだで慣れるものだが、やはり初めてタームウィルズを訪れる者はまずセオレムに圧倒されてしまうようで。

グレイスやフォレストバード達も驚いていたっけな。割合懐かしく感じてしまうところがあるが。

俺が初めてセオレムを見たのはBFO内でだったが……日本に住んでいてさえ衝撃的だったからな。まあ、建築様式が無機質な高層ビルとは違うからという部分はあるけれど。

段々とタームウィルズが近付いてきたので、速度を緩やかにしながら造船所目指してシリウス号を動かしていく。

造船所の監視塔の兵士に挨拶をして、それから外壁内部へと進む。土台の上に角度を合わせてゆっくりと降下させ――そして僅かな振動と共に着陸した。

下船の準備を進めて船を降りる。かなり北上したので、やはり船を降りた瞬間というのは冷涼に感じる部分がある。テフラの加護があるので俺達はあまり問題はないがエルドレーネ女王はどうだろうか?

「寒さは大丈夫でしょうか?」

「ふむ。そうだな。人化していると少々肌寒いかも知れん」

人化していると、か。体感温度なども変わって来るものなのだろうか。では、周囲に風のフィールドを張っておくか。

タラップから降りると、造船所には数台の馬車が来ていた。馬車に付いてる紋章からすると、王城からの送迎のようだ。

通信機でこちらの状況は割合まめに連絡していたからな。タイミングを合わせて造船所で待機していたのだろう。

メルヴィン王は解決した事件の報告に関しては日を改めてで良いと言ってくることが多いから……そうなると、この迎えはエルドレーネ女王を王城へ迎えるというものだろう。

ならばやはり、俺も王城に顔を出して報告とエルドレーネ女王の案内を申し出たほうが良さそうだな。

「ようこそいらっしゃいました、エルドレーネ女王陛下。ヴェルドガル王国は、海の盟友を歓迎致しますぞ。そして、お帰りなさいませ、テオドール様」

と、王城からの使いは恭しく一礼する。

エルドレーネ女王は静かに頷き、丁寧に挨拶を返す。やはり、エルドレーネ女王への迎えといったところか。

俺も使いに挨拶を返してからみんなに言う。

「みんなは先に帰っていてくれるかな。俺も王城へ報告に行ってくる」

「分かりました」

「いってらっしゃいませ、テオドール様」

グレイスとアシュレイが静かに頷く。

どうやらアルファは家まで向かう馬車に同行してくれるらしいな。にやりと笑って、グレイス達の乗る馬車の隣に座る。

俺はグランティオスから来た面々と共に馬車に乗り込んで、王城へと向かう旨を使いに伝える。

「承知いたしました。迎賓館で陛下がお待ちになっておいでです」

ステファニア姫達3人、それにヘルフリート王子も王城へ。こちらも馬車の迎えがあるために、冒険者ギルドから帰る時のように、コルリスに乗ってというわけにはいかないようだ。

だが、コルリスの背中にフラミア、フラミアの頭の上にラムリヤが乗るという感じで、上空から馬車の護衛をしてくれるようだ。見た目は若干シュールだが、それにリンドブルムまで加わるのでこちらも護衛役としては充分なものだろう。

「では、わたくし達は先に家で待っているわね」

「いってらっしゃい、テオドール」

ローズマリーとクラウディアが言う。にこにこと手を振って来るマルレーンにも軽く手を振り返す。シオン達もグレイス達と一緒に帰るようだ。ま、タームウィルズだし王城の馬車だし、色々安全ではあるだろうが。

「ん。私達は、ドミニクとユスティアを送っていく」

「じゃあ、私もシーラと一緒に行ってくるね」

シーラが言うと、セラフィナも元気よく手を挙げた。シリルもシーラと一緒に移動するようだ。

「それじゃあカドケウスを付けておくよ。バロールはグレイス達と一緒に」

「ありがとう、テオドール君」

イルムヒルトが笑みを浮かべた。

「私は、一旦帰りますね。他のみんなに話をしてこないといけませんから」

「分かりました」

マールが言うところの他のみんな、というのは精霊王達のことだろう。まあ、通信機は持たせてあるので、何かあれば気軽に連絡が取れるだろう。

というわけでそのまま各々が馬車に乗り、王城へ向かって――迎賓館前で馬車から降りる。

「ありがとう」

ステファニア姫がここまで護衛してきた動物組に声をかけると、コルリス達は、呼吸ぴったりにこくんと頷く。

「リンドブルムも、お疲れ様」

俺もリンドブルムにねぎらいの言葉を掛けてリンドブルムの頭を撫でる。リンドブルムも返事をするように喉を鳴らした。

そうして使い魔達はそれぞれの塒へと戻っていった。ラムリヤはコルリスと一緒の巣穴、フラミアはリンドブルムと共に竜舎へ向かうようだ。途中でコルリスが振り返って手を振ると、他の面々もこちらに振り返って挨拶してくる。

「いやはや。これはやっぱり姉上の使い魔だからと言うべきなのかな」

「ふふ。可愛い子でしょう」

ヘルフリート王子が苦笑するが、ステファニア姫は楽しそうに笑う。と、そこに女官が声をかけてきた。

「どうぞこちらへ」

女官達に案内されて迎賓館の一室へ通されると――そこにはメルヴィン王が待っていた。

「ヴェルドガル王国国王、メルヴィン陛下にあらせられます」

女官がエルドレーネ女王にメルヴィン王を紹介する。ロヴィーサがそれに応じるように一礼して、メルヴィン王にエルドレーネ女王を紹介した。

「グランティオス王国の女王、エルドレーネ女王陛下にあらせられます」

そうして、メルヴィン王とエルドレーネ女王が向かい合った。

「良くぞ参られた、エルドレーネ女王。我が国は海の盟友を歓迎しよう」

「これは……暖かな歓迎、痛み入る。メルヴィン王と大使殿の助力のお陰で国難を退けることができた。まずはそのお礼を言わせて欲しい」

そう言って2人は握手を交わす。

国王と女王の対面ということで些か緊張感のある空気ではあったが――メルヴィン王とエルドレーネ女王、どちらからともなくふっと笑って、弛緩した空気になった。

「まあ、余り堅苦しいのは好みではない。余としては、貴国と友好と信頼を築いていけたらと思っておるよ」

「それは願っても無いこと。互いに良好な関係のまま繁栄していくことができればこれ以上はない」

それからメルヴィン王は俺やステファニア姫達に視線を向ける。

「まずは……よくぞ無事で帰ってきた。特に、テオドールは休暇であったというのに大儀であった。しかも高位魔人の相手とは……。報告には無かったが……手傷などは負わずに済んだのか?」

あー……。通信機でもそのへんははぐらかしていたからな。

「ありがとうございます。ええと……少々の怪我はしましたが、今は完治しています。問題ありません」

そう言って笑みを浮かべると、メルヴィン王の表情が一瞬沈んだが、静かに頷いて、穏やかな笑みを向けて来た。

「そう……か。しっかりと旅と戦いの疲れを癒すのだぞ」

「はい」

「ともあれ、グランティオス王国と、こうして笑顔で手を取り合うことができたのはそなた達の働きがあってこそだ。改めてご苦労であったな」

「勿体ないお言葉です」

と、ステファニア姫達と共に答える。そのままお茶が出され、各々が席についた。

落ち着く頃合いを待って、エルドレーネ女王が言う。

「まずは、そう。他の話をする前にこの話をさせて欲しい。貴国から受けた大恩を返さぬようでは、グランティオスの名折れ。聞けば貴国は魔人の一派と戦っているという話。その戦いに妾達も協力したいと思っている」

「海からの援軍とは、心強い」

と、メルヴィン王とエルドレーネ女王は精鋭を派遣したいとか、討魔騎士団に協力を、ということで話を進めていく。

選りすぐりの武官を派遣して……という話であるが、どうやらウェルテスとロヴィーサがこちらに来てそのまま残ることは確定のようだ。ウェルテスは一旦子供達を護衛してグランティオスに戻っていったが、またこちらに来るのだろう。

討魔騎士団は特殊部隊としての側面が強いからな。水中活動に特化している人員がいるというのは、色々対応の幅が増えるのは間違いない。

となると、グランティオスの人員に応じた魔道具なども用意する必要があるか。水中戦と同じような感覚で空中戦を行えるような装備、というのが理想だな。