軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

434 新たな契約

目を覚ました時は……既にいつも起きる時間を大分過ぎてしまっていた。窓から差し込んでくる陽の光の角度から判断するに、昼を回ってしまっているのではないだろうか。

眠り過ぎてやや頭が重いような、気怠い感覚だ。

帰ってすぐに風呂に入って、それから早めに眠ったはずなのだが……。眠気や疲労は魔法で補っていたが、やはり自覚がないだけで割と疲れていたということかも知れない。

「んー……」

大きく伸びをして身体を起こす。みんなは先に起きているようだが……俺を起こさないように気を使ってくれたようだな。

「おはよう」

と、壁に立てかけてあるウロボロスや窓際で日光浴をしていたバロールに声をかける。ウロボロスは喉を鳴らし、バロールも返事をするように目蓋を二度三度と瞬かせて、俺の肩に移動した。

寝台から出て水を作り出し、顔を洗ったりと身嗜みを整えてから、服を着替える。

目を覚ました直後はやや気怠かったが、十分に睡眠をとったからか、着替えを終える頃には思考も明瞭になってきた。

「良し。行くか」

戸口に向かいながら壁に立てかけてあるウロボロスに手を伸ばす。向こうから飛んできて俺の手に収まった。オリハルコンで強化されたウロボロスは……新しくなったはずなのに昔から持ち慣れているような、手に馴染む感覚がある。

扉を開くと寝室の前にカドケウスも猫の姿で鎮座していた。どうやら俺が眠っている間に護衛をしていてくれたようだな。

階段を下りて一階に向かうと、みんなが昼食の準備を進めていた。

昼食は俺の分も用意がされているようで……準備ができたら起こしに来る予定だったのかも知れない。

「おはようございます、テオ」

「おはよう、テオドール」

「ああ、おはよう」

おはようという時間帯ではないが、みんなに目覚めの挨拶をする。

「ありがとう。よく眠れた」

と、ゆっくり眠れるように気を使ってくれたことに礼を言うと、グレイスは笑みを浮かべて頷く。

では……俺も昼食の用意を手伝うとしよう。朝食をとっていないので割合空腹だったりするのだ。実は昼食の匂いで目を覚ましたところもあるしな。

「今日の夜は確か、満月でしたね」

食事をとって、茶を飲みながらゆっくりしているとアシュレイが言った。

「ああ、夜になる前に召喚儀式の準備をしとかないといけないかな? シーラとイルムヒルトの予定もあるし」

俺としては迷宮にウロボロスの試し撃ちなどにも行きたいところではあるが……。そうなると満月の迷宮ということになってしまう。クラウディアの協力があれば他の場所にも行けるのだろうが、迷宮の仕組みにそぐわないことなので負担も大きいだろう。

昨日の今日でみんなも休みたいだろうし、迷宮に降りるのはコンディションを整えてからというのが良い。それに、満月ということは劇場でイルムヒルト達の演奏の準備もあるしな。

「2人は、体調は大丈夫?」

と、シーラとイルムヒルトに尋ねる。

「大丈夫よ。私達も帰ってからゆっくり休ませてもらったもの。この前王城で演奏するのに練習してたから準備も万全だしね」

「ん。ユスティア達とは午後から劇場で合流して本番前の練習する予定」

イルムヒルトの言葉に頷き、シーラが言った。

「となると……頃合いになったら劇場まで一緒に行って、そのままアドリアーナ殿下を迎えに行ってから準備に移るっていうのが無駄がないかな」

マルレーンの新たな召喚獣とアドリアーナ姫の使い魔候補の召喚ということになる。シーラとイルムヒルトも儀式は見たいと思うので、劇場での公演が終わってから儀式を始めるとしよう。

「召喚儀式か。今度は何が来るのかしらね」

「そうね。割と楽しみだわ」

クラウディアとローズマリーの言葉に、マルレーンがにこにこと屈託のない笑みを浮かべて頷く。

まあ、もう少しゆっくりしたら動くとしよう。儀式の準備も多少は時間がかかるが、イルムヒルト達の公演までには十分間に合うだろうし。アドリアーナ姫に手順を教えたりしながら待つというのが良いかも知れないな。

そして夜――。

空に煌々と丸い月が浮かぶ、良く晴れた月夜だった。

予定通りにアドリアーナ姫を王城へと迎えに行き――その際アドリアーナ姫に同行する形でステファニア姫とエルハーム姫、コルリスとラムリヤも一緒にという話になった。

公演が終わった後、劇場でシーラ、イルムヒルトとも合流し、そのままみんなと共にペレスフォード学舎へと向かった。

「いや、やはり良いものは何度見ても良いですな。しかも大使殿の召喚儀式まで見ることができるとは」

と、上機嫌な様子の公爵。まだ劇場公演の興奮冷めやらぬといった印象だ。

大公と公爵一家も揃って公演を見に来ていたので……召喚儀式を行うという話をしたところそのまま見学にという流れになったのである。

公爵はこういう物珍しいものには興味があるだろうと思って話をしてみたのだが……殊の外喜んでくれた印象がある。

学舎の敷地に入ると公爵がおお、と声を漏らした。

庭いっぱいに青転界石で大きな魔法陣が描かれているので……中々に雰囲気がある。月の光を浴びて、如何にも大がかりな魔法の儀式が行われるといった雰囲気だ。

召喚儀式は何がやってくるか分からないので広い場所が必要だ。というわけで以前と同様、ペレスフォード学舎の庭を借り、そこに大きな魔法陣を2つ描き、祭壇を置かせてもらっているのである。

「それじゃあ、早速ではありますが始めましょうか。まずは……マルレーンからかな?」

アドリアーナ姫にとっては手順のおさらいにもなるしな。

俺が言うと、マルレーンはこくんと頷くと儀式細剣を手に前に出る。

何度か儀式を行っているのでマルレーンは落ち着いたものであった。祭壇の前まで行くと、水鏡に血を垂らす。そして目を閉じ、祈るように剣を構える。

詠唱はない。しかしマジックサークルが展開し、魔法陣が輝きを放っていく。以前よりもマルレーンの術式の展開が早く、スムーズな印象だ。

魔法陣の輝きが強くなり、光の柱が立ち昇る。そしてそれが収まると……何やら帽子を被ってマントを羽織った、二足で立つ猫がそこにいた。猫としてはかなり大きい。普通の犬ぐらいはあるだろうか。

「猫……?」

「ケットシーだな」

首を傾げるシーラに答える。

猫妖精という奴だ。主を助け、富を齎すなどと言われる。

個体によって違いが大きいので、現時点ではなんとも言えないが、特殊能力を持っている可能性は高いな。基本的に妖精だけあって、魔力は高いだろうし。

ケットシーは周囲を見渡し、そして召喚主であるマルレーンに目を留めると帽子を取り、腰に手をやってマルレーンに一礼する。

「――夜の気配を強く感じさせる魔力に惹かれて参りました。居並ぶ方々の魔力の高さに驚くばかりでございます。許されるのならば契約を結びたく存じます」

人語を解するわけだ。やはり、月女神の巫女としての魔力資質に惹かれたと。

マルレーンは頷くと髪を僅かに切って水鏡に投げ込む。ケットシーは目には見えないものを恭しく受け取るような仕草を見せた。

「恐悦至極。使い魔の契約ではないということであれば……名を名乗らせていただいてもよろしいのでしょうか?」

その問いにマルレーンがこくんと頷くと、ケットシーが名乗る。

「名をピエトロと申します。眷属達から認められる立派な王を目指して修行中の身の上ではありますが……以後お見知りおきを」

ふむ。猫妖精は王政を布いているとは聞くが……。修行の一環として召喚に応じたということかも知れないな。

魔法陣が再び輝きを放つと……ピエトロは召喚元へ還っていったようだ。

「猫妖精とは……」

と、公爵達も驚いている。召喚儀式ということで珍しいものが来るのを期待はしていたのだろうが、人語を操るとは思っていなかったのだろう。

「次は……私の番ね。上手くできるかしら」

マルレーンから儀式細剣を受け取ったアドリアーナ姫は大きく深呼吸をして、もう1つの祭壇の前まで行く。

マルレーンと同様に、月を映した水鏡に血を垂らし、朗々と詠唱を行う。手順は教えたとはいえ、さすがは魔法王国シルヴァトリアの王族といった様子で……魔法の行使に慣れていることが窺えた。

詠唱と共に魔法陣が輝きを増し――そして眩い光の柱が立ち昇る。

光が収まった時、そこにいたのは――。

「狐……でしょうか?」

ヴァネッサがその動物を見て呟く。白い狐……しかし普通の生き物でないのはすぐに分かった。尾が長く、しかもその本数が多いのだ。狐の周囲にちらちらと紫色の怪しげな炎が瞬いている。アドリアーナ姫の魔力資質に合わせて火属性の存在がやってきた、というわけだ。

「ファイアーテイルだな」

景久の知識でなら妖狐とも言うのだろうが……BFOではファイアーテイルと呼ばれていた。こちらも魔物というより、長く生きた狐が変じる、精霊に近い存在である。

ファイアーテイルは静かに尻尾を揺らしながら、知性を感じさせる瞳でアドリアーナ姫を見ている。アドリアーナ姫の出方を待っているという印象だ。

「どうでしょうか?」

「初めから、やり直しは考えていないわ」

と、アドリアーナ姫。

アドリアーナ姫が契約のために前に出てもファイアーテイルは大人しくしていた。向こうも異存はない、というところか。アドリアーナ姫の魔力資質は向こうのお眼鏡にも適ったらしい。

ファイアーテイルの姿を映す水鏡に指先を浸し、アドリアーナ姫が儀式の続きを執り行う。

「我が呼びかけに応えし者。ここに我が名を示し、汝に名を与え、悠久の盟約を結ばん。我が名はアドリアーナ=シルヴァトリア。汝が名は……フラミアなり」

応じるようにファイアーテイル……フラミアが月に向かって吼える。狐独特の声があたりに響き渡った。

契約が成立し、魔法陣が消える。フラミアは静かに前に出てきて、アドリアーナ姫の前までやってきた。

ステファニア姫の隣にコルリス、エルハーム姫の肩の上にラムリヤが控えているが……喧嘩をすることもなく、大人しい様子だ。うむ。無事に契約が成立したようだな。