軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

425 迷宮探索の醍醐味は

この顔触れでは旧坑道程度では鎧袖一触というところか。ここで最も障害になるであろう魔物が、岩に擬態しているロックタートルなのだが……シグリッタのインクの獣が囮となって擬態を解除させてしまうし、ロックタートル程度の防御力ではシオンやマルセスカにとって問題にならない。つまり旧坑道では、相手になるような魔物がいないということだ。

まあ……迷宮がどんな場所か分かってもらうという点でなら、分かりやすい場所であったと思う。

「何だか、外の魔物と違うよね」

「うん。怖がらないし、いっぱいいるし」

……迷いの森にいた魔物との違いはシオン達もすぐに理解したようだ。

外の魔物と違って迷宮の魔物は戦況が不利という程度では撤退をしない点。外では考えられないほど大挙して攻めてきたり、地形を活かした待ち伏せをしたりする点など様々な違いがある。

「恐らく、迷宮を守っているからでしょう。この場所は浅い階層だと聞きます。深い場所へ行けばもっともっと強い魔物がいるはずですよ。ここの魔物だけを見て、くれぐれも慢心しないように」

「分かりました」

「うんっ」

「……分かったわ」

――と言ったやり取りをシオン達とフォルセトが交わす。

「地下20階より下には、時々ガーディアンがうろついてる」

と、シーラがシオン達に言うとマルセスカが首を傾げる。

「強いの?」

「テオドールと戦って……戦いの形になるぐらいには強い。シリウス号のアルファも元はガーディアンで、かなり強い。あれはテオドールじゃないと無理かも」

「それは……すごいですね」

その言葉にシオンが真剣な面持ちで頷き、マルセスカとシグリッタも納得するように首を縦に振っていた。

いや……。物差しの基準が俺というのはどうなんだろうか?

まあ……油断に繋がらないのならそれで良しとしておくか。シオン達の表情も引き締まったことだし。

「問題になるのは魔物だけではなく地形もですね。暗闇の森、水没している洞窟、毒の沼に砂だらけの場所、高熱の砦等々……他にも色々ありますし、場所によっては対策装備が必要になるでしょう。新しい区画に行く場合は、その前に教えてくれたら情報を提供しますので」

「ありがとうございます。それなら私としても安心です」

俺の言葉に、フォルセトが笑みを浮かべた。

さてさて。そんな話をしているうちにインクの獣が石碑を発見したようだ。鉱石や宝石は十分に集まっているので石碑の前に陣取り、戦利品の転送や帰還の方法など実践してみるとしよう。

「これが石碑。石碑の女神像に転界石を渡してやれば帰還の魔法円が開くんだけど……この人数だとこの転界石の量じゃ足りないかな」

迷宮に降りるパーティーメンバーは冒険者の場合、通常6人1組までを想定している。7人以上の人数で降りると帰還に必要な転界石の量がどんどん増えていくし、通路の狭い場所では人数の多さが有利に働くということもなく、結果として非効率的になってしまうからだ。

俺のパーティーも余裕でオーバーしているのだが、そこはクラウディアがいるから不便がないというわけである。

「ちなみに6人までならこの量で足りる。7人ならこれぐらいで、8人なら……このぐらいは必要になるかな」

必要な転界石の量を目分量ではあるが具体的に示してやる。

「ほんとだ。7人からどんどん増えていくんだね」

「加速度的に増えていると言いますか」

「だけど、今回は6人分の帰還に必要な量だけ残して、後は戦利品の転送をそれぞれにやってもらおうと思ってる」

「私がいない場合、と仮定しての訓練ということね。人数も6人以内で迷宮に降りているという想定でお願いするわ」

クラウディアが言うと、フォルセト達も頷いた。

「分かりました」

ということで、それぞれが転界石を使って転送円を引いて、鉱石や宝石を地上に送る。

冒険者ギルドでレクチャーも受けているので、みんなスムーズに転送を行うことができた。ハルバロニスも魔法技術が高水準だからな。こういうのは得意分野だろう。

「というわけで……帰還のための転界石は残しつつ、探索や戦闘の邪魔にならない程度に戦利品を送っていくんだけど……帰ろうと思った時に転界石を使ってしまっていたりすると、場合によっては下の階層に余分に降りるようになったりするから……そのあたりの見極めが重要になってくる」

一番いいのは6人分の帰還に必要な転界石の量と、同程度の重さの砂や小石を入れた袋を持ち歩くことだな。それなら見誤ることもない。

そういった小技も紹介しつつ、6人分の転界石を使用して魔法円を広げ――クラウディアの転移魔法で帰還して今日の探索は終了となった。

光に包まれて迷宮の入口にある石碑に戻ってくる。

「どうだった?」

「何となく楽しかったです。戦闘がとかじゃなくて、迷宮の雰囲気がという意味でですね」

「ハルバロニスみたいだもんね」

「……うん、楽しかったわ」

感想を聞いてみると……うむ。中々悪くないようだ。確かに、地下というのはシオン達にとっては生まれ育った場所だしな。

「……絵の題材も増えたし。魔物の場合、実物がいなくても魔石と魔法陣があれば良い性能の絵になるの。魔石は……無くなっちゃうけど」

なるほど。となると、ロックタートルやコボルト、ホブゴブリンあたりがシグリッタの手札に加わることになるだろうか。ロックタートルは中々、待ち伏せを仕掛ける分には良いかも知れない。

「それじゃあ、機会を見てあちこち行ってみるか」

「……ありがとう。楽しみだわ」

インビジブルリッパーなど、特殊な魔物の能力もコピーできるのか、それとも形だけなのか。試してみなければ分からないが、少なくともガーディアンの魔石などはかなり強力な絵になるのではないだろうか。

初めての迷宮探索の成果は上々といったところだ。後は……探索後のお楽しみと言えるのが戦利品の換金だろうか。

「これはまた、大猟ですね」

転送した戦利品などを纏めてカウンターに持っていくと、受付嬢のヘザーが笑みを浮かべた。

「僕達は後ろから付いていっただけなので、今回は彼女達の成果ということになりますね」

「なるほど……。初めての探索でこれだけの成果というのは素晴らしいですね。将来有望な方が多くて冒険者ギルドとしては嬉しい限りです」

ヘザーの手放しな称賛に、シオン達が顔を見合わせて嬉しそうな表情を浮かべた。

早速査定してもらい、宝石類や魔石の余りを換金して、お金を受け取る。労働の対価ということで、シオン達は何やら貨幣を受け取って盛り上がっていた。後はその配分だが……。

「僕達は今回付き添いだけで戦闘していなかったので結構ですよ。異界大使の仕事かなと思っていますし」

そう言うと、ステファニア姫とアドリアーナ姫が顔を見合わせて頷いた。

「私達が迷宮に潜るのはコルリスの餌のためだから、鉱石だけ確保できればそれでいいわ」

「そうね。私も本国から支援も受けている身だし」

「そう、ですか? なんだか悪い気がしますが……」

シオンが言うと、ステファニア姫は柔らかい笑みを浮かべる。

「私達が迷宮に降りるのは、昔からの憧れみたいなところがあるから。気にする必要はないわ」

「ええ。私達は遊んでいたようなものと思ってくれればいいのよ」

という2人の言葉で、シオンは何となく納得したような怪訝そうな、微妙な様子で頷く。

「おお、皆元気そうじゃな。旅から帰った後に疲れと安心から体調を崩すものもおるから気になっておったのじゃ」

と、ギルドの奥から顔を出したアウリアに声をかけられる。気軽な様子でアウリアに手を振られて、コルリスもそれに応じた。

コルリスはバスケットを鉱石で山盛りにして上機嫌な様子だ。これから巣に帰ってゆっくりと食べるのかも知れない。

「こんにちは、アウリアさん。いや、アウリアさんもお元気そうで」

「うむ。留守中に仕事が溜まっていてな。消化をしなければならんのでそれなりに忙しいが、元気ではあるのう。今は、少し息抜きがてらに綿あめを買ってこようというわけじゃな」

というアウリアの言葉に、ヘザーを含めたギルドの職員達が満面の笑みを浮かべて見ている。買ったらすぐに戻ってくるようにとプレッシャーをかけているような気がしないでもない。

「綿あめの魔道具もギルドに置くべきかも知れませんね」

「いや。買うからこそ風情というものが感じられるのじゃな。うむ」

ヘザーとアウリアの水面下の牽制はまあ、日常茶飯事のようなので大丈夫だろう。

ステファニア姫達は王城に引き上げるようだ。

「それじゃあ……次に会うのは大公と公爵の和解の日になるかしら」

「そうですね。その時にお会いしましょう」

「ええ。それではね」

「はい。ではまた」

そしてステファニア姫とアドリアーナ姫は冒険者ギルドから出ると、2人でコルリスの背中に乗って王城へ向かって飛び立っていくのであった。