軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

423 レスリーの帰還

「ん。美味しいですね。何というか、こっちの食材は今まで食べたことのない風味がします」

と、シオンがスープを口にして表情を明るくする。シオンが口に運んでいたのは魚介のスープだ。貝に白身魚に野菜等々ふんだんに具材の入った、たっぷり時間をかけて煮込まれたスープである。

確かに、ハルバロニスでは魚介類は望むべくもなかったからな。

「本当。味わいに深みがあると言いますか……」

シオンだけでなく、エルハーム姫、フォルセト、マルセスカ、シグリッタ共々、潮の臭いが駄目ということもないようで何よりである。

シーラとシグリッタが並んで黙々と昼食を口に運んでいる様は中々シュールではあるかな。あれはあれで昼食に舌鼓を打っているのだろう。

「お口に合いますかな?」

「ええ、美味しいです。みんなも夢中のようで」

と、笑みを浮かべて返す。

「それは何よりです」

と、公爵はコルリスに手ずから鉱石を食べさせながら笑みを浮かべた。

コルリスもみんなと一緒に昼食だが……公爵自ら鉱石を食べさせたいとステファニア姫に申し出たのである。早速ロッキングチェアに腰かけながらコルリスに鉱石を食べさせ頭を撫でたりして喜んでいる。……新しい物好きとは聞いていたが中々に物怖じしない人だ。

昼食は青空の下でのんびりと。不揃いの椅子やソファに座ってという、間に合わせ感があったが、それはそれで如何にも修繕作業の現場という印象があって、中々味わいのあるものであった。

椅子や机は間に合わせでも、料理のほうは一級品だろう。魚介のスープに、ふっくらとしたパン、滑らかなチーズ数種類、肉汁を閉じ込めるように時間をかけて丁寧に焼かれた厚切り肉、瑞々しい果実等々……厨房が使えない状態でも、さすがは公爵家の食卓という感じである。

「では温泉の設備に似た物が後から浴槽に取り付けられると」

「そうですね。魔道具ですので浴槽の下に敷くような形で機能してくれます」

と、オスカーとミリアムが商談らしき話を進めている。どうやらジャグジー風呂を取り付けるかどうかという話のようだ。

「魔道具にしては値段も安いのね。父様、これは決めてしまってもいいのではないかしら?」

ヴァネッサが尋ねると、公爵は少し思案するような様子を見せたが頷いた。

「うむ。そうだな。だがまずは火精温泉で実物を味わってからと決めていてな」

「では……。大公家との和解の日取りの後で搬入してもらうということで」

「かしこまりました」

どうやら、ジャグジー風呂の導入も決まったようだ。

公爵と大公の和解当日に火精温泉に行くかどうかはまだ聞いていないので分からないが、少なくとも和解の後にようやく公爵のタームウィルズ観光が解禁されるということなのだろう。

と、そこに、正門に馬車が止まり、中から騎士に付き添われてレスリーとクラークが降りてくる。

それを見た公爵やオスカー、ヴァネッサが立ち上がってレスリーを迎えに行く。

「叔父上!」

「おお、レスリー! もう良いのか?」

「兄上。みんなも……そして大使殿……。お騒がせしました。魔法審問も手早く済ませていただいて……公爵家に帰っても大丈夫だとメルヴィン陛下よりお言葉を頂戴しています」

と、公爵一家に迎えられたレスリーは穏やかな笑みを浮かべて、こちらに一礼してきた。

「顔色も良くなったようで、何よりです」

「ありがとうございます、大使殿のお陰です」

レスリーとそんな言葉をかわす。静かな印象は相変わらずだが……何となく物腰が柔らかくなったような気がする。夢魔が離れて時間が経ち、体調も戻ってきたからだろうか。

「さあさ、レスリー様。どうぞこちらへ。昼食はもうお済みなのですか?」

「いや、実はまだなんだ。では軽く頂こうかな」

使用人達からも笑顔で食卓に案内されて、レスリーとクラークも昼食の輪に加わる。

レスリーに関する心配事も少なくなり、別邸の修繕も大方の目途が立ち……明るい話題が多いからか、公爵は終始上機嫌な様子であった。

――昼食後にはイルムヒルトがリュートを奏で、それに合わせてセラフィナが歌を歌ったりして……和気藹々とした時間を過ごした。

少し大きめの椅子に腰かけたマルレーンが、にこにこしながらセラフィナの歌に合わせて足を揺らしていたりと、中々に和む光景であった。

のんびりと休憩時間を取った後で、午後からは修復した家具類を部屋に搬入していく作業となる。

破損個所で修繕可能な部分は全て修繕したし、庭や廊下、部屋内の掃除も概ね終わっている。だから後は、直した物を部屋に運び込んで配置していけば今日の作業も完了というわけだ。

「この寝台はどちらの部屋へ?」

と、グレイスが寝台をレビテーションの魔道具で浮かせて尋ねる。

「これは西側2階の客室に置かれていたものですね。案内いたします」

「はい。よろしくお願いします」

公爵家のメイドが明るい笑みを浮かべ、グレイスと共に浮かんだ寝台を運んでいった。

家具の場所は使用人達がよく分かっているというわけだ。

「マルセスカ。その壺は片方、僕が運ぶよ」

「うん。じゃあ一個ずつ運ぼう」

「じゃあ私はこれ」

「みんな、丁寧に運ぶのですよ」

「はーい」

と、シオン達も楽しそうに仕事をしている。若干フォルセトは割れ物を3人に扱わせることが心配なようだが……まあ、粗雑に扱うということもなさそうだ。レビテーションを使って、しっかりと壺を抱きかかえるように、3人は使用人達の後ろについていく。

「では、この黒猫をゴーレム達の目や耳だと思っていただければ」

「分かりました。案内します」

俺は俺でゴーレムと使い魔の組み合わせを公爵家の使用人にサポートしてもらう形を取る。では、残りの作業を進めていくとしよう。

――そして夕暮れ。粗方の作業が終わり、掃除や家具の配置が終わった居間でお茶を飲んで寛いで……そろそろお暇しようかという話になった。

「今日は……いえ、先日からのことも含め、ありがとうございました。大使殿。今の公爵家があるのも大使殿と皆様のお陰です」

と、正門の前まで見送りに来てくれた公爵が静かに一礼する。

「いえ。僕こそ、今日はありがとうございました。昼食美味しかったです」

そう答えると、公爵は嬉しそうな顔で頷く。

「テオドール様。ありがとうございました」

「またお目にかかれましたら光栄に存じます」

と、オスカーとヴァネッサが揃って貴人に対する挨拶をしてくる。

「本当に何とお礼を言ったら良いのか。大使殿に救っていただいたこの命、ヴェルドガル王国の貴族として、しかと務めを果たしていくことでお返ししていきたいと思っております」

レスリーが静かに目を閉じて言う。

「はい。ですが、当分は無理をなさらず、ゆっくり静養なさってください」

そう答えると、レスリーは頷いて穏やかな笑みを浮かべた。

「次に会うのは……デボニス大公との和解の席かも知れませんな。それほど時間が空くわけでもありませんが、大使殿は迷宮へ潜ったりもすると聞いております。くれぐれもご自愛ください」

「ありがとうございます。気を付けます」

そんな言葉を交わして、皆がそれぞれの馬車に乗り込む。

「ああ、そうでした。ステファニア殿下」

「何かしら?」

迷宮に潜るという話で思い出した。ステファニア姫を呼び止め、シオン達とコルリスの話を通しておくことにした。

「実は、フォルセトさんやシオン達にも迷宮に慣れてもらうために、コルリスと一緒に旧坑道に潜ってもらうのはどうかと考えていまして」

「ええ、それならばいつでも歓迎だわ」

ステファニア姫が笑みを見せる。

「では、日時を合わせまして、迷宮に降りる日を決めてしまいましょうか」

「では――」

と、軽くではあるが打ち合わせめいたやり取りを交わして、ステファニア姫やアドリアーナ姫、エルハーム姫と別れの挨拶をする。

「それではまた」

「ええ、またね」

手を振るコルリスとラムリヤにも手を振り返し、公爵一家にも一礼して馬車に乗り込んだ。

正門前まで見送りに来てくれた公爵家の面々はこちらの姿が見えなくなるまで見送ってくれるのであった。