軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

409 秋の日の買物

さて。衣類などの買物と言えばやはり色々な店のある北区だろうということで、皆で馬車に分乗して北区へと向かうこととなった。

買物に行くにあたり、フォルセト達にとってタームウィルズで使うことのできる資金が必要になる。

そのあたりについては、ファリード王がタームウィルズで活動できるようにと、当面の軍資金を用意してくれているそうだ。

バハルザードは割合資金繰りが大変そうな状況ではあるが、それは国家運営というレベルでの話だ。派遣された人員が日常生活で過不足ない水準の暮らしができる程度の金銭ならば普通に支給できるということだろう。

ということで、衣類や生活雑貨品に関する色々な店を見て回る。

「はぁー。色々なお店があるんですね」

「……ハルバロニスだと……こういう景色はないわね」

「賑やかで楽しいかも」

シオン達は馬車の窓から外の景色を食い入るように眺めている。

やがて馬車も目的の店の前に到着した。タームウィルズには仕立て屋が何軒かあるが、やはりいつも世話になっている店に顔を出すのが筋だろう。

「こんにちは」

「ああ、これはテオドール様、いらっしゃいませ」

と、愛想良く頭を下げてくるのは仕立て屋の店主デイジーである。迷宮商会の店主であるミリアムの友人であり、俺達も何度かこの店では世話になっている。

「今日は冬服を買いに来ました。僕達ではなく、彼女達のですが」

「まあ。可愛らしい子達ですね」

デイジーは感心したように店内を見回しているシオン達を見て相好を崩すと、彼女達に挨拶に行く。シオン達も応じるようにデイジーに丁寧に一礼していた。

それから冬用の暖かそうな上着、シャツにスカート、ローブ、マフラー、手袋、靴下等々、普段着となる服や寝間着などあれこれと選んでいく。

「これなら軽く丈を詰めれば今店に置いてある物で大丈夫そうですね。他の物が良いということでしたら仕立てますが、いかがいたしましょうか」

「んー。どうかしら?」

「僕は気に入りました」

フォルセトに尋ねられてシオンが言うと、シグリッタとマルセスカも頷く。とりあえず冬用の普段着は確保といったところか。

フォルセトも厚手の生地のローブを何着か買うことにしたようだ。

「ええと。それから……冬服の他にも、サーコートを見せていただきたいのですが」

「分かりました」

シオンとマルセスカはサーコート、シグリッタはローブを選んだようだ。これらは迷宮に潜る時用の装備となる。

まあ、防具の類となる装備品に関しては工房でも用意する予定なので、それほど多くは必要ないが。

グレイス達も置いてある服をあれこれと見ているようだ。買物と決めてみんなで一緒にお店を回るというのも、そんなに頻繁にあるわけではないからな。楽しそうに服を見ている。

「デイジーさんのお店に来ると、その時々の流行の服が置いてあって色々参考になりますね」

「ありがとうございます」

グレイスの言葉に、デイジーは笑みを浮かべる。

「最近の流行は裾を長くして針金で大きく膨らませる感じなのね」

ローズマリーはトルソーに着せられているドレスを見てそんなふうに分析していた。

夜会などで貴族の子女は流行の服を着て人目を引いたりするわけで……その時々の最新のファッションというのは重要だったりするのだろう。

まあ、みんなとしては迷宮探索に着ていく服のほうが需要があるようで、すぐに冒険者用の装備を見ていたが。どうも、彼女達の中には衣服やドレスに関しては戦闘もこなせるものを、という前提があるような気がしてならない。

「……ん。これはアルケニーの糸で編んだものですか?」

「はい。お陰様で迷宮商会で材料を仕入れることができました。試作品というところですね」

と、デイジーは笑みを浮かべた。

んー……。そういえば前に、この店でミスリル銀の髪飾りを買って、みんなにプレゼントしたんだったな。

あれは破邪の首飾りと同様、祝福絡みの術式を刻んで、持ち主に危険が近付いたり不意打ちを受けたりするとマジックシールドを展開する、という装備となったが……。

そうだな。その類の装備は他にあってもいいだろう。誕生日にもらった服のお返しもしたいところだし、この店で言うならルナワームの糸やアルケニーの糸で織られた衣服も選択肢になるはずだ。

皆に声を掛けて尋ねてみよう。それぞれ好みもあるだろうし、別の物が良いということならまた考えよう。

「えっと……。誕生日のお返しを考えてるんだけど、好きなものをこのお店で選んでもらうっていうのはどうかな?」

と言うと、グレイス達はこちらを見て少し驚いたような表情を浮かべてから、尋ねてくる。

「それは嬉しいですが……いいのですか?」

「うん。衣服へのエンチャントだとか、装飾品に術式を刻むだとか……そういった魔道具化は俺が術式を書かせてもらう」

俺の言葉に、彼女達は嬉しそうに笑みを向け合う。それから俺に向き直り、お礼を言ってくる。

「それでは、お言葉に甘えさせていただきます、テオ」

「ありがとうございます、テオドール様」

と、アシュレイ。にこにこと笑みを向けてくるマルレーン。

「テオドールの術式を刻んだ魔道具は、使いやすいのよね」

と、羽扇で顔を隠しながらローズマリーが言う。

「そう?」

「ええ。私が前に自前で用意したものよりずっと質が良いわ」

というのは、占い師時代に仕込んでいた護身用の魔道具か。

「ならいいけど」

そう答えるとローズマリーは頷いて、店の中の服を見ることにしたようだ。

「ありがとう、テオドール。大事にさせてもらうわね」

微笑んで胸のあたりに手をやるクラウディア。

「ああ。クラウディア」

クラウディアの言葉に頷く。中々皆喜んでくれているようだ。楽しそうに店内を見ている。

「シーラ達も選んでいいよ。誕生日のお返しではないけれど……そうだな。いつも迷宮探索でお世話になっているし、そのお礼ってことで」

「ん。それは嬉しいかも」

「ありがとう、テオドール君」

シーラとイルムヒルト。

「セラフィナもね」

「合う服が無いかも」

と、いうことなのでデイジーを見やるが、彼女は笑みを返してきた。

「仕立て屋だし、気に入ったものと同じ物を作ってもらうこともできるかなって思うよ」

「ほんと? それじゃあ」

そう言って、セラフィナも楽しそうに皆の中に加わるのであった。

……といった調子でパーティーメンバーみんなの衣服や装飾品を購入したところでデイジーの店を後にした。丈や袖を直したら後で届けてくれるとのことらしい。

衣服の次は靴を見たり生活雑貨を見に行ったりと、フォルセト達に街中の案内をしながらあちこちで必要な物を買って、神殿の近くにある市場までやってくる。

「――というわけで、転界石で迷宮で手に入れた物を転送したり、石碑から脱出したりすることができるんだ。赤い転界石は石碑を使わずに緊急脱出できる品だから、みんな一揃い持っておいたほうがいい。今日は、迷宮には行かないけどね」

「なるほど……」

フォルセトとシオン達は真剣な眼差しで俺の話に耳を傾けている。

「あ、コルリスだ」

マルセスカが冒険者ギルドから出てきたコルリスの姿を認めて嬉しそうに声を上げた。

コルリスもこちらに気付いたらしく手を振ってくる。もう片方の手に鉱石が山盛りになったバスケットを持っているが……あれは今日の戦利品か。

「大きなモグラね……。兄様、冒険者ギルドから出てきたようだけど……あれも冒険者?」

「この劇場といい、境界都市は珍しいものが多くて驚きだね。どうなんだい、爺」

「あのモグラは第1王女ステファニア殿下の使い魔というお話ですぞ」

と、劇場から出てきた身形の良い貴族の男女が使用人の男と話をしているのが聞こえた。どこかの貴族の兄妹の、タームウィルズ観光といったところだろうか?

まあ……コルリスの場合は、どうしてもあんなふうに耳目を集めてしまうところはあるが、とりあえず街中を闊歩していても大きな騒ぎになったりはしないようだ。迷宮探索班となる騎士達もギルドの戸口に姿を見せた。

「それじゃあ、コルリス。他の戦利品はこちらで処分をしておくよ。一足先に空を飛んで、城に戻っていても構わないぞ」

「今日はコルリスに助けられたな。あそこで岩を飛ばしてくれてなかったら、魔物に怪我をさせられてたぜ」

などと声を掛けられ、コルリスはこくこくと頷いている。ステファニア姫無しでも迷宮に潜れるようにと、騎士達との訓練を進めているわけだな。

ステファニア姫はコルリスと一緒に潜りたがっているようだが、当のコルリスはと言えば、騎士達からも割合信頼されているように見える。

んー。そうだな。フォルセトやシオン達が迷宮に慣れるにはコルリスと一緒に旧坑道へ向かうというのも良いかも知れない。森の中でのシオン達の動きを考えると、迷宮の中はどこでも足場にできるわけだから彼女達には有利に働くだろう。工房で防具の類も揃えてからというのが良いだろうな。

「……テオドール」

色々と思案していると、シーラが小声で声をかけてきた。少し声のトーンに緊迫感がある。

「……何?」

「あれ」

シーラの指差す方向を見やる。それは、一組の男達であった。それぞれ帯剣しているが……冒険者という感じはしないな。言葉にしにくいが、纏った空気感が冒険者達とは違うように思える。

俺達のように買物に来ているというわけでもないだろう。表情に張りつめたものがあるというか。そういった点が不自然で、シーラの警戒に引っかかったわけか。

一度意識してしまうと目立つな。連中の視線の先を追っていけば、先程の貴族の兄妹に向けられていた。貴族の兄妹が動けば一定の距離を取って、そちらに動く。尾行だな、これは。

怨恨か、それとも身代金目的の誘拐か。事情は分からないが、あまり穏やかそうじゃないな。

「カドケウスに二重尾行させるか。何か動きがあったら止めに入る」

「ん」

俺の言葉に、シーラは頷くのであった。