軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

406 報告と家路

「おお、テオドールか。無事で何よりじゃな」

貴賓室に向かうとそこにはイグナシウスがいて、俺の顔を見るなり相好を崩して挨拶をしてきた。髭を生やした竜人という出で立ちではあるが、あまり竜らしくないというか、人懐っこい表情を作る印象がある。

「イグナシウス様もラザロ卿も、お元気そうで何よりです」

と、挨拶を返し、初対面の面々を互いに紹介する。その後で茶を飲みながら南方の旅についての報告を行うこととなった。

マルレーンとデボニス大公のやり取り。大公から書状を書いてもらったこと。エルハーム姫と初めて会った時の経緯、その後のブルト族との交流。

そしてメルンピオスに到着してからのこと。ファリード王とのやり取りにカハール残党やオーガストとの戦い。森の探索と、ハルバロニスであったこと、魔人達の誕生の歴史と、フォルセトやシオン達についての話。

俺達それぞれの口から南方であったことを語り終えたところで、エルハーム姫がファリード王からメルヴィン王へと宛てた親書を差し出す。

「我が国の国王ファリードからの親書となります」

「うむ」

メルヴィン王は親書を受け取り、内容に目を通すと口を開く。

「ファリード王も、余と志を同じくし、魔人との戦いにバハルザードを挙げて協力したいとある。エルハーム姫をバハルザードの大使として我が国に留め置くこと、そして討魔騎士団への助勢。これについては今この場で了承しよう。エベルバート王にも討魔騎士団については書状を 認(したた) めておく」

「ありがとうございます、メルヴィン陛下」

「うむ。今後ともよろしく頼むぞ。セオレムにて快適に過ごせるよう取り計らうとしよう」

メルヴィン王は笑みを浮かべて頷くと、それから俺達に向き直った。

「改めて大儀であった。此度、南方でそなたらが残した成果は、我が国にとって実に有意義なものとなったと言えよう。バハルザードとハルバロニス、ブルト族とは今後も良好な関係を維持していきたいものだ」

「ありがとうございます」

一礼して応じる。メルヴィン王は表情を真剣なものに戻すと、少し思案するような様子を見せた。

「しかし……盟主達とハルバロニスか……」

「月の内乱に端を発していたわけじゃな」

イグナシウスが腕組みをして自分の髭を弄る。

「その……フォルセト様達のことは……」

僅か心配そうな面持ちのエルハーム姫に、メルヴィン王は心配ない、と言いたげな笑みを浮かべて答えた。

「余もファリード王とは意見を同じくしておるよ。現在のハルバロニスの者達に責を問うのも違うであろうし、今後における再発防止の策もあるならば、それ以上を問う必要はあるまい」

そんなメルヴィン王の言葉に、エルハーム姫とフォルセトは深々と頭を下げる。

「陛下に頂いた信頼には、行動を以って示していきたいと思います」

「そうさな。しかし女神の赦しを得たのであれば、これからは己を律し過ぎないことも時には必要であろう。これはハルバロニスの民だけでなく、そなたについてのことでもある」

厳しく律することが必ずしも良い結果になるとは限らない、というところか。このあたりはメルヴィン王らしい見解だと思う。

フォルセトはヴァルロスのことで思うところがあるらしく、目を閉じて何かを感じ入っていた様子だったが、やがてもう一度メルヴィン王に頭を下げた。

「今後については……まあ、方針としては大きく変わらずといったところか。新しく得た情報を基に対策を練っていく。盟主、そして敵の首魁。共々素性と目的が分かってきただけに、新しく見えてくるものもあろう」

「ヴァルロスの能力については分かりませんが……その手札の1つについては分かる部分もあります」

「ほう」

フォルセトの言葉にメルヴィン王は興味深そうに言う。

「ハルバロニスでは月の民の末裔として、武術や体術も伝えています。私にも些かの心得がありますが、ヴァルロスもそれを修めていました」

……なるほど。ガルディニスは確かに杖術を始めとする近接格闘の手段を持っていた。ハルバロニスに伝わっていた武術をガルディニスも使っていたとすれば、色々と腑に落ちるところがある。言われてみれば、シオンも俺と戦った時に魔力を込めた掌底を打とうとしていたからな。ヴァルロスも近接戦で同系統の技を用いる可能性はあるだろう。

「同門であれば分かることもあるか。そなたと組手を行うというのは、確かにテオドールであれば有意義かも知れんな」

「それについてはよろしくお願いします」

「はい。ヴァルロスには及びませんが、知る限りのことを」

それと並行して空中戦装備の修練や迷宮探索なども進めていくことになるか。

「ベリオンドーラに対してはこちらの迎撃態勢が整った時点で調査を行うこととしよう。問題は……やはり盟主ベリスティオについてか」

「解放されてしまった場合を想定し、対策を考えておく必要はありますね。シルヴァトリアの封印術はそのために発展したものなのではないかと思います」

「……うむ。今後の課題であろうな。祝福や封印術、ザディアスの行っていた瘴気に対する研究等々、今まで集まった材料が噛み合ってくれることに期待したいところではあるが……。人員、資料と資材、それから資金の確保については任せてもらおう。必要なものがあったら遠慮なく言うが良い」

「ありがとうございます。工房の皆にも伝えておきます」

バックアップについては万全の態勢を整えてくれるというわけだ。有り難い話である。答えるとメルヴィン王は相好を崩した。

「では……今日のところはテオドールとエリオット、共々家に戻り、ゆっくりと旅の疲れを癒すがよい」

「はっ」

エリオットと共に頭を下げる。後日また話し合いの時間を持つ、ということで散会となった。

フォルセトは俺の家にシオン達と共に滞在、エルハーム姫はセオレムに滞在し、工房に顔を出す、という形になるそうだ。

貴賓室から出ると、すっかりあたりは暗くなっていた。練兵場の向こうで巣穴から顔を出したコルリスがこちらに向かって手を振ってきたので、こちらも軽く手を振り返す。

と、ステファニア姫達3人が声をかけてきた。

「ではね。テオドール」

「私達も工房や造船所に顔を出すかも知れないわ」

「明日からよろしくお願いします、テオドール様」

「はい」

練兵場には送迎の馬車が待っていた。それから……家への護衛を終えて戻ってきたのだろう、リンドブルムが静かに座っている。

「リンドブルムも、またな」

喉のあたりを軽く撫でて言うと、リンドブルムも喉を鳴らして応え、竜舎のほうへと戻っていった。うむ。

「ではな、テオドール、エリオット」

「はい、メルヴィン陛下」

「お休みなさいませ」

迎賓館の前まで見送りに来てくれたメルヴィン王とイグナシウス達、それからステファニア姫達に見送られる形で馬車に乗り込み、エリオットとフォルセトと共に家への帰路に着くのであった。

「エリオット――!」

馬車がエリオットの家の前に止まり、エリオットが馬車から降りると、カミラが戸口に姿を見せた。

「ただいま、カミラ」

「お帰りなさい、あなた」

カミラは小走りに出てきてエリオットの手を取る。それから俺のほうを見やると一礼してきた。

「テオドール様、ご無事で何よりです」

「ありがとうございます」

「カミラ、こちらはフォルセト殿。南方の……ナハルビア王国の関係者でいらっしゃる。フォルセト殿。妻のカミラです」

「初めまして。フォルセト=フレスティナと申します。以後お見知りおきを」

「こちらこそ、初めまして。カミラと申します」

と、エリオットがカミラにフォルセトを紹介して、互いに挨拶をする。

「留守の間、変わったことは?」

「セシリア様やミハエラ様と一緒に剣の訓練や料理の勉強をしていましたよ。大分剣の腕も勘が戻ってきたかも知れません。料理も幾つか新しい物を覚えました」

カミラは嬉しそうに微笑む。うむ。では俺達はそろそろ行くとしよう。

「それでは、エリオット卿。お休みなさい」

「はい、お休みなさい、テオドール卿」

そんなやり取りを交わしてから扉を閉めると馬車が動き出す。といっても、俺の家はすぐ目と鼻の先なのだが。

馬車の窓からは寄り添って戸口に入っていく2人の姿が見えた。相変わらず仲睦まじいことだ。

「お帰りなさいませ、旦那様」

「ご無事で何よりです」

家に到着すると、セシリアとミハエラが玄関ホールで出迎えてくれた。アルケニーのクレア、ケンタウロスのシリル他、使用人達も一緒に、静かに頭を下げて出迎えてくれる。

「ただいま。留守番、ありがとう」

「勿体ないお言葉です」

セシリアとミハエラが笑みを浮かべる。初対面なのでフォルセトを紹介してしまうことにした。

「こちら、ハルバロニスのフォルセトさん」

「フォルセト=フレスティナと申します。お世話になります」

「はい。お話は伺っております」

セシリアは一礼すると、自分とミハエラ、それから使用人達の名前を紹介する。

「シーラとイルムヒルトは帰ってきたかな?」

紹介が終わったところで尋ねる。

「はい、先程。今は皆様とご一緒かと思われます」

シオン達に割り当てた客室で、衣服の着替えなどを行っているところだそうだ。セシリアが先導する形で隣に割り当てたフォルセトの部屋へと案内してくれる。俺も一応そっちについていくか。みんなにも帰ってきたことは知らせておきたいし。

「こちらがフォルセト様の客室になります。何かありましたら何なりとお申し付けください」

「ありがとうございます」

フォルセトは一礼して、部屋の中へ荷物を置きに行った。続いて、セシリアがシオン達の部屋をノックしようとしたところで――。

「ぼ、僕にはそういう、髪飾りとか似合わないですから――! あ――!」

と、部屋の扉が開いてドレスを着たシオンが出てくる。廊下にいた俺と視線が合うと固まった。

「えーっと……こ、これはその……失礼しました」

「……テオドール、お邪魔してます」

「おかえり!」

頬を赤らめて硬直するシオン。その後ろからマイペースなシグリッタと屈託のない笑みを浮かべたマルセスカが顔を覗かせる。

どうやら着せ替えの最中だったようだ。シオンの服装については……アシュレイのドレスだな。

シグリッタは毛糸の帽子、マフラーと手袋で完全装備をして着膨れて、ペンギンのようなシルエットになっている。

マルセスカは使用人の格好をして楽しそうにしていた。

……防寒具装備ということだが、シグリッタの格好は重装備過ぎるな。何やら満足げだが。

「ああ、テオ、お帰りなさい」

「お帰りなさい、テオドール様」

「ん。お帰り」

「ああ、ただいま」

皆に声を掛ける。部屋の奥には他にも顔触れがあった。パーティーメンバーに加えてヴァレンティナ、シャルロッテ、テフラにフローリアである。

「おお、テオドール。久しいな」

「お帰りなさい、テオ君」

「こんばんは。ご無沙汰してます。ただいま、フローリア」

テフラも遊びに来ていたわけだ。テフラもフローリアも、俺と視線が合うと相好を崩す。

隣の部屋に荷物を置いたフォルセトもやってきたので、先程と同様、初対面の面々同士を紹介する。

フォルセトは人の多さというよりそのバリエーションの豊富さに少し驚いていたようだ。ダークエルフの侍女長。アルケニーやケンタウロスの使用人に精霊の友人2人という顔触れだからな。気を取り直すように笑みを返して自己紹介をしていた。

「私もフォルセトさんの冬服を用意して待っていたの」

「ありがとうございます、イルムヒルトさん」

イルムヒルトが言うと、フォルセトが一礼する。ふむ。

ローズマリーは羽扇で口元を隠して静かにしているようだが、彼女も衣服を用意してきたらしいな。あれは、占い師の時に着ていた服か。

そしてマルレーンの髪を結っているクラウディア。お互いの髪を結ったりして遊んでいるのもいつも通りといった印象だ。まあ何というか……賑やかで結構なことである。