軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

400 メルンピオスの再会

周囲の景色が荒涼とした砂漠から、あちらこちらに草の生えた原野へと変わってくる。

バハルザードの王都メルンピオスまでもう少し、というところだ。

シオン達は景色の移り変わりが物珍しいのか、水晶板の前に並んで眼下に広がる光景を食い入るように眺めている。

「あれは何ですか?」

「遊牧民の天幕じゃな。これから季節が移り変わるから、寒くなる前にこちらに居住地を移しておるわけじゃな」

シオン達は水晶板の操作を覚えたらしく、気になる物を見つけると拡大したりと、外の世界を満喫している様子だ。分からないことがあるとアウリアに質問しているようである。

「アウリアちゃんは物知りだね」

「うむ。冒険者をしておったからのう」

「冒険者……。面白そう」

マルセスカは何というか……アウリアを年が近いと勘違いしていそうな様子もあるが……エルフのことは知っているのだろうか?

……まあ、和気藹々としているので多分大丈夫だろう。

俺はと言えば、ジークムント老、ヴァレンティナ、シャルロッテとフォルセトという面々で、シルヴァトリアとハルバロニスに伝わっている魔法についての話をしていた。

フォルセトがハルバロニスに伝わっているという術式の内容について大まかなところを話したところで、ヴァレンティナが相槌を打つ。

「――どうやら伝わっている魔法には、違う部分と共通する部分があるようですね」

「地上に降りた家系が異なっていますので……彼らの習得していた術式がそのままそれぞれの保有する魔法体系として発展したのでしょうね」

「発展……というにはシルヴァトリアは失われた術式が多すぎる気がするがのう」

ジークムント老は苦笑するが、フォルセトは首を横に振った。

「それは戦いの結果故のもの。名誉ある歴史かと」

「そう言ってもらえると有り難いがのう」

と、ジークムント老はカップを傾ける。フォルセトも同様にカップを傾け、一息ついてから言った。

「対魔人で共同戦線を張るのであるならば、私達の受け継ぐ術式も1つ所に集めるのが道理でしょう。そこでテオドール様、私達に伝わる術式についても預かっていただけないでしょうか? これについては、古老達も一致した意見なのです」

「分かりました。魔人達の一件を解決するために、お預かりします」

そう答えて一礼すると、フォルセトが微笑んで頷く。

こちらの通すべき筋としては……ハルバロニスから術式は借りるが外部には伝えない、といったところか。これは術式を魔道具に落とし込んで活用する場合でも同様だ。シルヴァトリアの秘術と扱いを同じようにすると考えれば良いわけだ。

あまり特異な術式を持ってこられても魔力資質が合うかどうか分からない部分はあるが、戦力の増強に繋がるのは有り難い。

「――見えてきました。メルンピオスです」

みんなと魔法についての話をしていると、操船していたエリオットが言った。

その言葉に視線を巡らせれば、水晶板にメルンピオスの外壁や街並み、宮殿が小さく見えているのが分かった。

「では、そろそろ下船の準備をしたほうが良さそうですね」

「そうね。では――ん、んんっ」

俺の言葉に頷いたステファニア姫は小さく咳払いをするように声を整えると、伝声管に向かって言う。

「メルンピオスが近付いてきました。もうしばらくすれば到着しますので、船内各所の人員は各々の配置に応じて下船の準備を進めるようにお願いします」

アドリアーナ姫も同様の文言で、伝声管を使って目的地が近付いてきたことを艦内にアナウンスする。2人も伝声管の扱いにすっかり慣れたもので、どこがどの場所に通じているか完全に把握している様子だ。

メルンピオスが近付いてくるとエルハーム姫とファティマが立ち上がる。甲板に出て兵士に顔を見せてこようというのだろう。最初にメルンピオスを訪れた時と違ってシリウス号についての通達は行っているとは思うが、何分竜籠と違って中に誰が乗っているか分からない。飛行船についての細かな取り決めもない以上は顔を見せておくのがお互い安心、というところだろう。

「では、今回は僕が護衛に付きます」

「ありがとうございます」

エルハーム姫、ファティマと連れ立って甲板に出る。

近づいてくる外壁と監視塔に、兵士が姿を見せる。姿を見せた時から、シリウス号が接近するまでの間、見張りの兵士は直立不動で敬礼したままであった。

「お務めご苦労様です」

「お帰りなさいませ、エルハーム殿下、ファティマ様。ご無事で何よりです。そしてテオドール卿、無事にお戻りになるのを皆お待ちしておりました。きっと陛下も喜ばれましょう」

「ありがとうございます」

「はっ! 光栄です! 船につきましては、前のように船着き場ではなく、そのまま宮殿の庭園にと仰せつかっております」

俺が答えると、兵士は敬礼の姿勢を崩さずにそう言った。もう1人の兵士が連絡のための旗を振る。通行許可が出たところでゆっくりとシリウス号が動き出す。

船がメルンピオスの街の上空に差し掛かると、歓声が聞こえた。

眼下に広がる街の家々から、人々が皆で顔を出し、こちらに向かって手を振って歓迎の言葉を唱え、歓声を上げているのだ。

ほとんど総出で往来に出て手を振っているのではないだろうか。お祭り騒ぎといった様子だ。カハール討伐に加わったからか。

そのままシリウス号を宮殿へと向かわせる。メルンピオスの宮殿の敷地内にはいくつかの庭園があるが……その一角で兵士が大きく旗を振っているのが見えた。あの場所に停泊してほしい、ということだろう。

庭園の上に来たところでゆっくりと高度を落として――タラップを降ろせる高度になったところでシリウス号が動きを止めた。

「凄い歓迎ですね」

甲板に出てきたグレイスが言うと、エルハーム姫とファティマが頷く。

「皆様はカハール捕縛の立役者であり、ファリード陛下をお助けくださった英雄ですから。先程の監視塔の兵士も、カハール討伐隊の中に兄がいたはずです」

「なるほど……」

タラップを降りると、ファリード王自らが庭園にやってきていた。側近達と共に、近くの建物で待機していたようだ。

「おお、戻ったか!」

「これはファリード陛下」

「只今戻りました、父上」

ファリード王は俺達全員の顔を見回してから頷く。

「うむ。見たところ怪我も無さそうだが、全員無事、ということで良いのかな?」

「はい。出ていった時と変わりなく」

そう答えると、ファリード王はにやっと笑った。

「それは何よりだ。積もる話もあるだろうが、まずは部屋に案内させるとしよう」

「ありがとうございます」

「あの者達も中庭に出てもらって構わんぞ。どうやら外の空気を吸いたいと見える」

ファリード王は甲板に姿を見せているリンドブルム達やコルリスを見やって言った。

「分かりました」

「うむ。この中庭であれば自由にして構わん」

中庭に降りてきたリンドブルム達は背筋などを伸ばしたりしていた。まあ、暴れたり宮殿内に入ってくるようなことが無ければ大丈夫というところか。シリウス号の警備班とリンドブルム達の世話をする班に分かれる。

それからファリード王の先導と侍女達の案内に従って、まずは部屋に向かい、部屋に荷物などを置いてくることとなった。

それぞれの部屋の割り当てなどが終わったところでエルハーム姫がファリード王に言った。

「父上、まずは旧都近郊に広がる森の隠れ里に暮らしていた方々について紹介したく存じます」

「ふむ。新たに顔触れが増えているとは思っていたが……」

「お初にお目にかかります。ファリード陛下。ハルバロニスから参りました、フォルセト=フレスティナと申します。彼女らはシオン、シグリッタ、マルセスカ」

「は、初めまして」

シオン達が口々にファリード王に挨拶をする。ファリード王も頷いて応じた。

「ファリード=バハルザードという。間違っていたらすまぬが……もしやナハルビア王家と繋がりのある者達では?」

情報の出所はシェリティ王妃からだからな。

「ご賢察の通りです。ナハルビア王家の伝承にあるところの森の咎人。それは私達のことに他なりません」

「やはり、そうか」

「そのお話については詳しく報告させてください。長らく未知数であった森ではありますが、現在においての脅威は少ないと私は見積もっております」

エルハーム姫が言うと、ファリード王は静かに頷くのであった。