軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

338 侯爵家伝来の品

「こちらです」

ブロデリック侯爵の居城の一角に、マルコムが案内してくれる。さすがに王城の宝物庫ほどの規模はないがそこはやはり侯爵家。倉そのものはかなりの大きさだ。

ただ中身について言うと、不要な物は処分したらしく何か大きな物をどかした痕跡なども見られた。先代の作った負債の返済に充てたりしたのだろう。……或いは先代やノーマンが持ち出したのかも知れないが。

「魔法絡みの品は、地下の小部屋です」

マルコムは鍵を取り出し、倉の床にあった地下へ続く階段の扉を開いた。

そのまま地下倉庫へと向かう。魔法の品というだけあってそれほど数は多くない。棚に陳列できる程度の数だ。

「目録はありますか?」

「あります。お恥ずかしながら、些か不備や抜けがありますが」

用意していた目録を見せてくれる。

「魔法の品については影響が大きいことや足が付きやすいこともあり、先代やノーマンも積極的に手を付けずにいたようなのですが……それでもいずれは金に困って処分するつもりだったようですな。先に目録を操作してから折りを見て……と考えていたようです。先祖伝来の品などもあるので、古参の家臣の耳には入れたくなかったのでしょう」

マルコムはかぶりを振って、少し乾いた笑い声を漏らす。

先代ブロデリック侯爵や次男のノーマンは先祖伝来の品と、借金の返済、不正の補填などを天秤にかけていたわけだ。名門という自負もあったから、あの連中としても手をつけたくはなかったのだろうとは思うが。

まあ……先代やノーマンのことにはあまり触れないほうがマルコムの胃に優しいだろう。

「そんな貴重なものを、僕が受け取ってしまっていいのですか? 僕としては繋がりが強くできただけでも十分な収穫かなと考えているのですが」

「死蔵しているよりは大使殿にご活用していただくほうが良いでしょう。家臣達も納得してくれると思います」

そう言ってマルコムは笑う。んー……。では、そういうことなら。あまり固辞するのも逆に失礼だ。

「では――拝見します」

一礼して目録を受け取る。

不備や抜けと言っても全てではないのだろうし、見ればある程度のことは分かるだろう。

目録に目を通しながら地下倉庫の品を一通り見ていく。

魔法の品か。魔法の武器などもあるが……剣を使う面々が少ないんだよな。魔法の全身鎧。これもパーティーメンバーでは使う者もいないだろう。

ふと、目に入ってきた物が気になって手を止める。銀のフレームに丸いレンズの、なかなかクラシカルな片眼鏡だ。チェーンと落下防止のクリップがついた、オーソドックスなタイプである。手を翳してみると……かなりの魔力を感じるが……目録には無いな。

「これについては分かりますか?」

「それは曾祖父が旅の魔術師から譲ってもらった物と聞いておりますが。目録にはありませんか?」

「……ないようですね」

「……ふむ。比較的小さな物ですし、処分しても発覚しないと思ったというところでしょうか」

或いは贋作を用意してすり替えたりな。魔力を感じるので間違いなく本物だとは思うが。

「どういった物なんでしょうか?」

「普通は見えない物が見えるそうですぞ。使い手の技量も問われるそうですが」

やや曖昧な説明ではあったが、どうやら危険はないようだな。

「少し装着してみても?」

「どうぞ」

ということで、片眼鏡を装着して周囲を見回してみる。

「どうですかな?」

……マルコムの身体の周りに靄のようなものが薄ぼんやりと見える。俺の手からもだ。これは……魔力が可視化しているのか? 魔力を操作してやると靄も揺らぐ。……うん。間違いなさそうだ。

倉の戸口から顕現していない風の精霊が入ってきて……また外に出ていくのが見えた。風の精霊は出ていく時にこちらに少し笑いかけたようだ。

魔力や力の弱い精霊やら……見えないものが見えるというわけか。なるほど。

「これは便利そうですね」

少し形は違うが、ガルディニスの持っていた魔眼に近いことができるかも知れない。今まで肌で感じていた魔力の流れなどが、より詳細に分かるようになるということだからだ。

まあ、貴重な品なので壊さないように注意はしなければいけないが。

「気に入っていただけましたか?」

「はい。差し支えなければこれを希望したいと思います」

「どうぞ。曽祖父も、侯爵領の恩人の手に渡るということなら喜んでくれるでしょう」

と、マルコムは相好を崩した。俺への礼ということで……やや頭を悩ませていたのかも知れない。

片眼鏡を外して、通常の視界に戻しておこう。ずっと着けっぱなしだと、やや視界が賑やか過ぎるように思う。

「なかなか興味深い品を頂きました」

というわけでマルコムと共に貴賓室へ向かい、受け取った片眼鏡を寛いでいた皆にも見せてみる。

「片眼鏡……。ふむ。魔法の品と言うからには何かしらあるのかのう?」

「そうですね。微細な魔力の流れや、力の弱い精霊を見ることができました。使い手の力量も関わってくるそうですが」

「ほほう」

ジークムント老は感心したように頷いている。

「テオドール君、装着してみせてくれるかしら?」

「いいですよ」

ヴァレンティナが言うので装着してみせるとみんなの視線が集まる。グレイスが微笑みを浮かべた。

「よくお似合いです」

「確かに。大使殿にはお似合いかと」

「帽子や杖が欲しくなるわね」

マルコムの言葉にステファニア姫も頷く。うーん。

「いえ……。こういった品は本当なら、もっと貫禄のある方が使わないとと思うのですが」

何やら視線に晒されるのが居心地が悪かったので片眼鏡を外しておく。例えばジークムント老にならよく似合うだろうと思うのだが。

ローズマリーはその様子を見てどこか楽しそうに羽扇で口元を覆って笑う。

「実際便利そうね。魔法で作業する時も、細やかな仕事ができそうだわ」

「かもね。必要な時はみんなにも使ってもらえればって思うよ。せっかくだしみんなも試してみたら?」

そう言ってグレイスに渡してみる。

みんながそれぞれ片眼鏡を装着し、見え方が違うかどうか試してもらおう。目録に詳しい説明が無かった分、ある程度の性能を把握しておきたい。

「それでは失礼しまして。ええと……これが魔力でしょうか? 私には、魔法を使える方なら魔力を纏っているのが見えますね」

グレイスが皆を見回し、頷く。

「本当ですね。何か、靄のようなものが見えます。私の場合はほとんど全員に見えますが……」

と、片眼鏡を渡されたアシュレイが周囲を見渡す。

「精霊は見える?」

「いえ……。それらしきものは」

アシュレイから渡されたマルレーンはあちこちに視線を巡らせている。マルレーンには精霊も見えているのかも知れない。

なるほど。装着者が魔力の扱いに慣れているかどうかや、精霊との親和性であるとか、色々影響するのだろう。どうやら魔法が使える面々はみんなに魔力が見えるぐらいにはなるようだ。

マルレーンから片眼鏡を渡されたクラウディアが、装着してからマルレーンの髪を撫でて微笑む。ローズマリーも片眼鏡をつけて周囲を見回し、自分の掌に魔力を集めて頷いた。

「なかなか面白いわね。やはり、魔道具や魔法薬を作る時に役立つと思うわ」

「うん。後で貸してもらうよ」

アルフレッドが苦笑する。

「似合う?」

「物語に出てくる怪盗みたいね」

シーラが片眼鏡を装着してマントを翻すと、イルムヒルトが小さく笑った。……何やら目的が少し変わってきているような気もするな。

セラフィナも片眼鏡を覗き込んだり、テフラとフローリアも装着してみたりと、割合楽しんでいるようだ。まあ、盛り上がっているので良しとしよう。

侯爵領には2日ほど滞在し……そしてタームウィルズへ帰る日がやってきた。

馬車で練兵場へ向かい、荷物を積み込む。

「それでは侯爵、ベルティーユ様。滞在中はお世話になりました」

「こちらこそお世話になりました」

「もしテオドール卿が居合わせてくださらなかったら、どうなっていたことか」

そう言ってマルコムと握手を交わす。俺達が帰るということで、鉱山の調査団の面々やエドガー達も見送りに来てくれたようだ。

調査団だけでなく、ステファニア姫やアドリアーナ姫を一目見ようと練兵場周りにはまた人だかりができている。甲板の縁からコルリスが鼻先だけを出してこちらを見ている。見ているというより、臭いで周囲の様子を見ているのか。

「テオドール様。本当にありがとうございました」

「是非また侯爵領へお越しください」

「はい。また必ず」

エドガーや冒険者、鉱夫達と挨拶をかわし、降ろしたタラップを登ってシリウス号に乗り込む。甲板からステファニア姫やアドリアーナ姫が領民達に笑みを浮かべて手を振ると、領民達はかなり盛り上がっている様子だ。

俺もタラップを登り始めると、何やらこちらにも歓声が飛んできた。

冒険者やドワーフの面々が、俺に向かって大きく手を振っている。鉱山近くの集落にいた者達もいるから、彼らからコルリスとの戦いの様子を聞いたのかも知れない。彼らに一礼してから甲板へと上がる。

「荷物と人員の確認、終わりました」

と、メルセディアが報告してくる。皆を見回し、頷く。

「では、船を出すとしましょう」

まずはシルン男爵領へエリオットとカミラを迎えに行かなければならない。それからタームウィルズへ帰るとしよう。

盛り上がるドワーフ達を眼下に眺めながら、シリウス号がゆっくりと浮上していく。今回の旅では思いがけずフローリアやコルリスといった面々が増えてしまったが……うん。なかなか楽しい旅だったな。