軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

308 魔道具の枷

討魔騎士団への訓示と顔合わせ。その後の交流会も昼過ぎには解散となり、エリオットはすぐに新居の候補を見にカミラと出かけた。

造船所に関しては、食堂以外はまだ内装や備品が揃っていない。そのあたりが整い次第、討魔騎士団の訓練も本格化するだろう。その際、並行してパーティーメンバーの満月の迷宮対策も進めていこう。空中戦装備の使い方のお手本になるはずだ。

飛行船の竜骨と外装についても資材は既に運び込んであるので、訓練と時を同じくして飛行船の外装を作っていくことも可能になるはずだ。

討魔騎士団も飛行船の船員として乗り込むことになる。飛行船が建造されていくのを横目に見ながら訓練できるという環境は、なかなかモチベーションが高まるのではないかと思う。

さて。俺達は家に戻り遊戯室で寛ぎながら、アルフレッドやビオラを交えてみんなで飛行船に取り付ける魔道具についての相談を進めることにした。

イルムヒルト達が音楽を奏でる遊戯室で、茶を飲みながら図面を広げたりメモを取ったりといった具合だ。

俺は俺で、記述可能な術式を紙に書き付けたりしながらみんなとの打ち合わせを進める。

「魔石の性質を変化させて固定と仰っていましたが……それはクラウディアやイルムヒルト、セラフィナの性質を持った魔石も作れるということですよね?」

「ええ。魔石の質を誰か個人の魔力資質に似せていくことは可能なはずよ。魔石の性質変化と属性固定は、魔力を注いでやりながら術式を用いるというやり方だから」

ヴァレンティナは頷くが「けれど」と付け加える。

「種族固有の術を魔道具化するというのは……術式として確立されていない以上は難しくないかしら?」

「それについては心配ありません。既存の術式にはない魔力の使い方も、例えばセラフィナに術を使ってもらいながら循環錬気で魔力の動かし方を直接見ることで、魔道具に落とし込むための内容を記述できます」

魔道具ということで動作がある程度固定化されてしまうために、セラフィナのような自由自在な音の操作とはいかないが。

風の魔石でイルムヒルトの呪曲を出力し、セラフィナの特性を持たせた魔石による音響操作で指向性を持たせる。……うん。音響砲の仕組み自体は問題無いだろう。

「……なるほどのう。循環錬気で魔力の流れを感知することで操り方を見ることもできるわけか。便利なものじゃな」

「今までは調べて術式の記述まではできていましたが……そこから活用する過程で高度なことをしようとすればするほど問題が出ていたのです」

俺の言葉にアルフレッドが頷く。

「魔石の容量の問題もあるし、魔道具として活用するのはなかなか難しかった感じだね」

「魔法として扱うのもかな。特殊な術は魔力資質が伴わないと術式だけでは意味が無かったりするから」

実用足り得たのはBFOから確立した製法を得ていた破邪の首飾りなどだが……。あれだって魔道具としては対呪法という単一能に特化した感じでありながら消耗品で、何度か呪法を防いでいると砕けてしまったりする代物だ。対策装備としては間違いなく優秀なんだが。

「そこに魔石の性質変化の技術が伴って、色々な枷が外れたというわけね」

「そういうことになります」

そう答えるとヴァレンティナは嬉しそうに笑みを浮かべた。幅も広がっているので応用すれば色々できるだろう。

「案外、製法の分からない古い魔道具はそうやって作られたものかも知れませんね」

グレイスが言うと、ローズマリーが頷く。

「なるほど。循環錬気を使える者がもっといた時代なら、魔物や種族固有の特異な技をテオドールと同じ方法で魔道具にする……ということも可能でしょうね」

「……貴重な魔道具の製法となると門外不出で当然だものね。結果として、製法も埋もれたりしてしまうし」

ローズマリーとクラウディアの言葉にジークムント老は感心したように目を丸くした。

「……ふむ。その考えは合っているかも知れませんな」

「迷宮村の住人の助けを借りれば色々な魔道具が作れるやもというところはありますね」

何だか思わぬ方向に仮説が立てられてしまった。

ウロボロスは……少なくとも作製に循環錬気を使える者が関わっていたのは間違いない。七賢者由来の品という可能性もあるが、さて。

「と、やや話が脱線してしまったようじゃな。飛行船の話に戻そうかの」

「では……音響砲の照準に関してでしょうか」

「ああ。それはこっちで実験に成功したよ。人形の視野を水晶球に映すことができた。テオ君が言っていたみたいにミスリル銀を薄く伸ばして人形と水晶球を直接繋いでやったら距離と容量の問題も解決したし。でも……映し出すのが球体だと、少し歪むんだよね」

「水晶を板状にするのが良いのかな」

要するに、魔力を伝える電線とモニターパネルだな。アルフレッドの実験が成功したとなると、音響砲の照準と外部モニターに関してもそのへんは解決するだろう。

遠距離の索敵ということで望遠の魔道具も搭載したいところであるが、あれは術式として記述できるので実装に関しては特に問題あるまい。

「後はある程度の範囲を上下左右に旋回させられる機構が必要じゃな」

「そういう絡繰りは……ビオラの管轄かな」

アルフレッドが水を向けるとビオラが頷く。

「それは任せてください。あたしだけじゃなく、ミリアムさんやその知り合い親方連中の知恵も借りられますし、そういう細工はドワーフの得意分野です」

そう言って、自分の胸のあたりを軽く叩くビオラ。うむ。頼もしいことである。

「装甲板から繋ぐ推進装置については?」

「普段は前面から空気を取り込んでエアブラストの補助をしたうえで後方に空気を噴射して推進する。非常時は装甲板が変換した魔力を使って、後方に噴出する火魔法をそこに混ぜて瞬間的な加速をすることになる。使わない時はなるべく大きな魔石に溜め込んでおくこともできるかな」

音響砲に推進装置と……防御的な装置が多い。

魔人と戦うのだからもう1つぐらい切り札が欲しいところであるが……安易な兵器だと広まった時に困るのは対抗手段を持たない人々だし、中々難しいところだ。

防御的な装置でいいなら船の周囲を水蒸気や幻影で覆ったり、光を屈折させて不可視にする……などというアイデアもあるのだが。目視できなければ偵察に威力を発揮するに違いない。

と、そこにエリオットとカミラが戻ってくる。

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい」

「良い物件は見つかりましたか?」

「そうですね。すぐ近所になかなか良い場所がありました」

アシュレイから尋ねられたカミラはエリオットと笑みを向け合い、和気藹々とした雰囲気だ。

「家具も注文してきましたよ。運び込んでもらう段取りも付けてきました」

「中が片付いたら是非見に来てください」

「ええ、その時は是非」

実際に引っ越しということになると……エリオットはその立場上、結婚してからというのが外聞的にも無難なのだろう。それまでは遠慮なく俺の家に宿泊していってくれれば良いのではないかと思う。アシュレイもエリオットが帰って来てからそれほど時間が経っているわけではないし。

「エリオットの家に、地下室は?」

そこでシーラが尋ねてくる。これは……「地下室はあるのか」ではなく、「地下室を作らないのか」ということだろう。俺に視線を合わせながら言っているし。

「必要なら作るけど……」

「いいのですか?」

と、エリオットは明るい表情を浮かべる。

「ええ。エリオットさんさえ良ければですが。大した手間ではありませんので」

「カミラもいますし、あると安心できますので……お願いしてもいいでしょうか?」

「分かりました。では後日暇を見てやってしまいましょう」

「警報装置もあると良いよね。作ってくるよ。通信機に連動させれば、どこにいても異常があればすぐ分かるし」

「それなら警備に人形も必要よね」

アルフレッドとローズマリーもエリオット宅の防犯対策強化に乗り気のようだ。案外2人とも、どうせならと悪乗りしているようにも見えるが。ローズマリーは笑っているようだが口元を羽扇で隠している。

「私も守られてばかりではなく、いざという時に動けるように、勘を取り戻しておかないといけないかしら」

と、カミラが言う。カミラはエリオット同様、細剣の使い手のようだが……やはりブランクが長いのだろう。んー。細剣、細剣か。

「ミハエラさんや迷宮村の住人と一緒に訓練しますか? 後は空中戦装備もあれば、もしもの時に空を飛んで逃げられます」

「それは良いかも知れませんね」

エリオットとカミラが明るい表情で頷く。マルレーンもにこにこと笑みを浮かべている。ミハエラと一緒に細剣の腕を磨いているので、訓練に参加する顔触れが増えるのが嬉しいのかも知れない。