軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

269 郷愁

魔弾はしばらく俺の周囲を飛び回っていたが、カドケウスやウロボロス、キマイラコートの中にいるネメアとカペラに興味を示したようだ。魔法生物仲間の近くまで飛んでいって目を瞬かせている。

猫の姿を取っているカドケウスは魔弾を目で追う。ウロボロスは喉を鳴らし、ネメアとカペラは顔を出して魔弾と挨拶をかわした……ように見えた。

互いに魔法生物同士で仲間意識があるのか、それとも俺の仲間だからなのかは分からないが……まあ、問題は無さそうかな?

マルレーンの受け取った品はと言えば……金属光沢の羽を持つ鳥であった。鳥というか、これは猛禽類だな。隼だ。

マルレーンが隼を手に持ち、魔力を流して覚醒させてやると翼を広げて宝物庫の中を飛ぶ。やや窮屈そうではあったが一通り回って、マルレーンの前まで戻ってくると床に降りる。こちらも問題なさそうだ。マルレーンへの挨拶を済ませた後に、魔法生物仲間の輪に加わって挨拶しているようであるが。

「この子達にも名前をつけてあげないといけませんね」

グレイスが言う。

「……ふむ。魔弾のほうはバロールっていうのはどうかな」

魔弾繋がり、単眼から連想ということで。そのままタスラムと名付けてしまうというのも良さそうであったが。

名前をつけてやると魔弾――バロールは目蓋を瞬かせてパタパタと飛び回る。

「気に入った?」

「どうだろう……?」

シーラの疑問に対する答えは持ち合わせてはいないが……。

「鳥は……後で使い魔の契約する時に名前をつけてやらないとな」

と言うと、マルレーンは笑みを浮かべてこくんと頷いた。

みんなそれぞれの宝物を受け取り、使用感を試せる者は試している。バロールを試すのは……ここでは無理だな。

……ということでエベルバート王に聞いてみたところ、中庭で試して構わないと言われた。

その代わり、バトルメイジ用の武器は珍しいから見てみたいということで、エベルバート王にステファニア姫、アドリアーナ姫、ヴァレンティナ、エリオットも中庭に来ている。

「褒美は決まりましたか?」

と、エリオットが尋ねてくる。

「はい。これから試してみて、問題無ければというところですね。エリオットさんは――」

エリオットは肩と胸元のあたりをミスリル銀の鎧で覆っている。

「私は魔法の鎧を賜りました。……国元に戻る私に、このような過分な取り計らいを……」

「よい。餞別である。優れた武器防具はそれに相応しい者こそが扱うべきなのだ。飾っておくのは穀物を腐らせると同じこと」

エベルバート王が笑う。ジルボルト侯爵にも魔法の杖の褒美があったそうだ。まあ……俺達は武器防具とは言わなかったからな。

さて。人も揃ったところで始めよう。

「もしかしたら的を撃ち落とした時に破片が飛び散るかも知れませんので、対策をさせてください」

「うむ」

とりあえずディフェンスフィールドを展開しておけばいいだろう。

「では――始めます」

バロールを手の上に乗せて循環錬気。バロールに魔力を食わせるというか溜めこませるというか……力をチャージしてやる。

青白いスパークを纏ったところで、魔弾を解き放つ。

「行け――」

声と共に、バロールが身を屈めるように羽を畳み、目を閉じた――と思った次の瞬間、初速から馬鹿げた速度で飛んでいった。

夜空に向かって一直線に光の矢が走る。どこまでも高く高く。俺の魔力を纏っている間は疑似的に繋がりが生まれる。限定的ではあるが2体目の使い魔がいるようなものだ。

とはいえ、弾丸となっている時は魔法的な繋がりがあっても目を閉じているので視界が塞がれている。こちらから制御してやることで弾道を操ることができるというわけだ。従って――こちらの有視界距離がそのまま有効射程ということになるだろうか。

勿論、カドケウスがいれば更に射程は延びるはずだ。場合によっては遠隔から全く術者本人が姿を見せずに的を撃ち抜くことも可能だろう。

挙動を制御。光弾が大きく弧を描き、俺の思うさま夜の闇に複雑な光の軌跡を残す。

「おお……」

「これは……」

お次は威力だろうか。近い距離まで戻し、水魔法で氷の塊をぶっ放す。バロールはあっさりと粉々に砕いていった。

砕いた破片を更に砕く。2度、3度。

「戻れ」

動きを制御しながら手元に引き戻す。こちらの掌の上まで来たところで、錐揉み回転をしていたバロールは羽を広げて動きを止めた。突撃を敢行したというのに傷1つない。武器というのに相応しい頑強さだ。

「すごいものですね。多分盾も鎧も、あっさりと貫通するでしょう」

「うむ……。大した威力だ」

アドリアーナ姫とエベルバート王が感心したように言うと、ジークムント老も頷く。

「初めて扱ってここまでの性能を引き出すとはのう。マジックスレイブとしての役割も果たすらしいがの」

「なるほど。移動砲台にもなると」

マジックスレイブ。あらかじめ術を滞空させておくことで、必要に応じてそこから魔法を放つという射撃戦用の術である。

普通はバトルメイジには使えないはずの技術なのだが……バロール側から魔法を放つことができるわけだ。バロールの視界はその場合、照準として利用できるのだろう。

チャージした魔力の分で賄えるだけということになるから、突撃も砲台もと欲張ることはできないだろうが、とにかく選択肢が増えるのは有り難い。

「どうかな?」

「良いですね。これに決めました」

遠距離戦、射撃戦の穴を埋めてくれるとは言うが、本来の土俵である近距離戦でも力を発揮してくれそうだしな。

「うむ。それは何よりだ。役に立ちそうか?」

「近距離で突撃を制御しながら同時に格闘戦をすれば、本体と魔弾の能力を活かし切れるんじゃないかと思います。後は練習ですね」

その言葉にエベルバート王達は目を丸くした。が、エベルバート王は咳払いを1つすると居住まいを正す。

「んん。まあ……そなたになら可能であろう。魔弾がその身や、そなた達の仲間を守ることを願っておるぞ」

「ありがとうございます」

「大分夜も更けてきたが……。ステファニア姫、そなた達は宿に戻るのか?」

「そうですね。宿やジルボルト侯爵の別邸を拠点に、色々準備していたので後片付けの必要があります」

と、ステファニア姫。

……宿の地下に掘った隠し通路だとか、しっかり元通りにしておかないと帰るわけにもいかないからな。

「そうか。我等もタームウィルズに向かうための準備を進めておく」

「はい。ああ、そうだ。賢者の学連の敷地を少し散策したいのですが構いませんか?」

尋ねると、エベルバート王は相好を崩した。

「余に遠慮はいらぬぞ。そなたの母の故郷であろう」

というわけで、宿屋の部屋に作った隠し扉を元通りにし、宿の直下にある地下道を埋めて……明けて一日。帰る前にするべきこともして、出発の準備も整った。エベルバート王やジークムント老はまだ忙しいようだが、俺達は割合時間が余っている状態だ。

そこでシルヴァトリアをというか……母さんの生家とも言うべき賢者の学連を、多少ゆっくりと見ておきたいと、みんなで学連へと向かうことにした。

転移魔法で行き来できると言ってもそこまで気軽にというわけにもいかないからな。次に来る時に、暇があるとは限らないし。

「良いところですね。ここは」

「でしょう」

賢者の学連の敷地内にある遊歩道を散策しながら呟くと、ヴァレンティナは微笑む。

ザディアスのことが片付いてしまえば、緑豊かで静かで落ち着ける空間だった。敷地内の小さな森の中に池があり、東屋まで作られていたりして。閑静で日当たりが良くて……落ち着ける場所だ。

「ここでお茶にしましょうか」

と、ローズマリーが魔法の鞄の中からティーセットを取り出す。鞄自体は腰のベルトに装着できる程度の大きさしかないんだがな。

「便利だな、それ」

「そうね。良い物だと思うわ」

鞄自体が控えめなサイズだから色々邪魔にならないし。

そんなわけで、みんなでお茶を飲んで寛ぐ。アシュレイがお湯を作ってくれた。

「そういえば……リサ様が言っていました。伯爵領のあの湖のほとりが育った場所に少し似ているから好きだと」

グレイスは、東屋からの風景に目を細める。その視線は――どこか遠くを見ているようにも思えた。

「そう……だな。確かに、このへんは母さんの家に似ているかも知れない」

「パトリシアはこういう森の中に、木の家を建てて住んでみたいと言っていたわね」

ヴァレンティナが小さく笑う。

「ああ。だから、リサ様は……」

アシュレイが目を閉じる。

うん。あの家は、母さんの子供の頃からの憧れでもあったんだな。

「――ガートナー伯爵領にありますよ、その家。木魔法で巨木を作って、その内側をくり抜いて家にしてあるんです」

「それは、一度見てみたいわね」

「ヴァレンティナさんもタームウィルズに向かうわけですから伯爵領まで足を延ばす機会はあると思いますよ」

「そうね。是非」

「良いところですよ。私の生まれ故郷にも少し似てます」

「あの家、私も好き」

と、イルムヒルトとセラフィナ。

イルムヒルトの故郷……迷宮村か。長閑で近くに森があってと……確かに似ているかもな。クラウディアは少しくすぐったそうに微笑むとティーカップを傾ける。

……明日か、明後日か。エベルバート王の出発準備や、飛行船の改修作業も終わるはずだ。そうすれば俺達はタームウィルズに向かって発つことになるだろう。

だから今はこの場所で。できる限りのんびりと羽を休めておこう。