軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

236 ゴーレムとの舞踏

港に停泊している大型の帆船に荷物を積み込む作業を進める。タームウィルズから乗ってきた竜籠は、船に積み込んでそのまま海を渡る予定だ。

食料やら水やらを積み込んだりと航海のための準備を慌ただしく船員達が進めている。

「考えてみれば、こういう本格的な船旅なんて初めてだわ」

「我もだ。楽しみだな」

クラウディアとテフラが船員達の作業を眺めながら笑みを浮かべる。セラフィナは――マストの上に立って眺めを楽しんでいるようだ。

リンドブルムによって統率された飛竜達も船に乗り込む形になるが、出立するまで船に乗ってもらうのも窮屈だろう。

ということで、船上で飛竜達の装具を外し、しばらくはフォブレスター侯爵の居城にてのんびりしてもらう。

「リンドブルムはみんなと城の中庭に戻っていてくれ」

そう言うと、リンドブルムは他の飛竜達を率いて侯爵の居城へと戻っていった。この後は港近くにある騎士団の詰め所で訓練を行う予定だ。

口約束から始まったことではあるが、フォブレスター侯爵は俺に講師料を支払ってくれるそうで。

「それでは大使殿。今日はよろしくお願いします」

と、フォブレスター侯爵。

「分かりました。では参りましょう」

みんなと共に馬車に乗り込んで港にある騎士達の詰め所へと向かう。

海に面した立地であるフォブレスター侯爵領の騎士団だが……彼らが戦いを想定するのは陸地ばかりではない。当然船上や海上での戦闘も念頭に置いているわけだ。

訓練についてだが、メルヴィン王に尋ねてみたところ、俺のしたいようにして良いと言われている。

というより、王太子ザディアスとの間にいざこざを抱えている現状、フォブレスター侯爵領の技術向上については進めておきたい部分がある。

空中戦技術は陸上、海上問わず使えるわけだし、フォブレスター侯爵領の騎士団にとっては打ってつけというわけだ。まあ、自由に色々やっていいということで俺としてもやりやすくはあるかな。

騎士団の詰め所は塀に囲まれた建物だった。敷地内にはかなり広い練兵場があり、そこには騎士団や衛兵の主だった者達が顔を並べている。魔術師の姿もあるな。船上で戦うことも想定しているのか、取り回しの良いカットラスを帯剣している者が多い。

馬車から降りるとこちらに視線が集まった。特に俺に視線が集中しているのは……今日の訓練内容について、ある程度侯爵から説明があったのかも知れない。説明する段取りなどが省けて楽ではあるかな。

タームウィルズであった春の晩餐会にはフォブレスター侯爵も顔を出している。その際侯爵領から護衛を供にしていただろうし、護衛達も騎士団主催の晩餐会にも出席しているだろう。となれば空中戦装備については伝わっていると思われる。

フォブレスター侯爵に続いて、隊列を作る彼らの前に立つ。騎士達と兵士達は胸に手を当てて敬礼を返してきた。

侯爵は居並ぶ将兵達を見回すと、口を開く。広場に侯爵の声が響く。

「皆の者、大儀である。今日集まってもらったのは他でもない。魔道具による飛行術については、皆も話に聞いていよう。今日はその飛行術を編み出したタームウィルズの魔術師、異界大使テオドール殿に御足労いただき、一手御指南をいただけることとなった」

フォブレスター侯爵の言葉に将兵達から一斉に拍手が起こる。侯爵はその反応に頷くと言葉を続けて1人1人賓客を紹介する。ステファニア姫にマルレーン姫。シルン女男爵に騎士爵を持つグレイスと。賓客としてここで紹介できる面々だけでかなりの顔触れだ。騎士達としてもかなり気合が入るのではないだろうか。

「――今日の訓練が皆にとって実り多きものとなることを期待している。それでは大使殿。お願いしてもよろしいでしょうか」

「はい。それでは――」

頷いて一歩前に出る。さて。どこから始めたものか。

「空中戦装備についてはどうなっていますか?」

「タームウィルズでの晩餐会以後、魔術師と魔法技師に研究を進めさせ、一応試作ではありますが形にはなりましたぞ」

ふむ。となればまずは、動きを見せるところから始めるというのが良いのかも知れない。演武みたいなものだ。

というのも、俺が紹介された際、僅かながら困惑の表情を浮かべた者もいたのだ。

彼らも錬度の高さに比例して、職業軍人としてのプライドというのは持ち合わせているだろうし、いくら創始者扱いだと言っても俺の年齢が年齢だからと思っている部分があるのが本音なのではないだろうか。

だからまずはその先入観を破壊して、講師に足ると認めてもらう。そのほうが話を受け入れられやすいだろうし、訓練も捗る。

「では、まず空中戦での動きの一例を見せるところから始めようかと思います。空中戦装備があるというのなら、もう原理は知っているでしょうが、シールドを空中での足場として形成、レビテーションやエアブラストを組み合わせて勢いを殺したり付け加えたりと……それで空中で自在に動こうという、まあ解説してしまえば、案外単純なものです」

無造作に足の裏にシールドを形成。階段を登るように無造作に空中へ二歩、三歩と踏み出して空中に立つ。指を鳴らしてアクアゴーレム達を生成。空中に配置する。

「では――始めます」

言うなりシールドを蹴って、一番遠いゴーレムに向かって突貫した。レビテーションで蹴り出した瞬間の初速を上げ、エアブラストで加速。循環により魔力を高めてウロボロスに青白い輝きを纏わせる。そのまますれ違いざまにゴーレムの胴を薙ぐ。青い光の軌跡を空中に残してゴーレムが胴体から真っ二つになった。

瞬時にゴーレムを再生。間髪を容れずに反撃を繰り出させる。レビテーションの制御により慣性を殺し、シールドを蹴って上に向かって飛びながら弧を描く。剣を模したそのゴーレムの武器をやり過ごし、背後を取ってウロボロスを頭上から真っ直ぐ打ち下ろした。さっきは横。今度は縦に真っ二つだ。

それを合図に残りのゴーレム達も一斉に動き出す。四方から自動操縦で迫るゴーレムの動きを読み、かわし、受け、流し。或いは同士討ちさせる。ぐるぐると天地を入れ替えて廻り舞う。竜杖の動きに巻き込んで体勢を崩して位置を入れ替え、一塊になったところをウロボロスで薙ぎ払った。

ウロボロスを振り切った俺に、離れた位置のゴーレム達が水の弾丸を飛ばしてくる。

右に左に高速で飛んで弾丸を振り切り、偏差射撃による弾幕を転身してすり抜ける。2体のゴーレムが直線上に並んだところで前面にシールドを展開しながら最高速で突っ込んだ。ウロボロスを突き出し、身体の周囲にシールドを展開しながら錐揉みに回転を加えて2体まとめて胴体をぶち抜く。

それでゴーレムは残り1体。一度上空に飛び上がり、即座に鋭角に降下。頭上から押さえつけるようにシールドで四方を囲んで動きを封じ、そのまま加速。地面に叩き付けると同時にウロボロスを振り抜けば、地面ごとごっそりと抉り取ってゴーレムが2つになった。

地面を蹴って離脱。空中で転身して降り立つ。練兵場の地面が抉れていては不便だ。後でちゃんと土を埋めておこう。

「……とまあ、こんなところです」

一応、空中戦の要となる基本的な3種しか魔法は使っていない。後は体術だ。

居並ぶ将兵達に顔を向けると、ほとんど全員が口をぽかんと開けていた。フォブレスター侯爵も目を見開いている。

「さすがは……テオドール様ですわね」

「私は久しぶりに見たけれど――やはり凄いものだわ。今のはゴーレムを制御しながらでしょう?」

俺の動きを見たことがあるオフィーリアとステファニア姫は落ち着いたものだ。マルレーンと一緒に彼女達が拍手をすると、思い出したように1人2人と拍手が広がり――それが全体に伝播して、喝采となった。

「ありがとうございます。全て魔道具ではここまで臨機応変な動きとはいきませんが――魔道具への習熟次第で、近いことはできるのではないかと考えています」

そう言うと、騎士達の表情というか目の色が変わった。さすがに食いつきが良いな。これなら今後の訓練にも熱が入ろうというものだ。後で実例としてシーラ達にもゴーレム相手に演武してもらえば更に効果的かも知れない。

「では訓練を進めていきましょう。とはいえ時間に限りがある以上、伝えられることにも限界があります。ここは分かりやすく実戦形式で行こうと思いますので、部隊の編制をお願いします」

言うと、騎士団の重鎮達が顔を見合わせた。

「皆さんには先程の僕と同様、アクアゴーレムの相手をしてもらいます。アクアゴーレム達には空中戦装備をしている集団戦法特有の動きをさせますので、その対処法を考えていただいたり、有効と思った戦法を普段の訓練内容として取り入れていってください」

アクアゴーレム達は既に準備できている。

槍を模して水を長く伸ばした者や、弓のような形状の武器を持つ者と、役割分担を姿形から明確にしたゴーレム部隊を作り出している。それを見た騎士と兵士達の顔が僅かに引き攣った。

「……心が折れないと良いけれどね」

「大丈夫。あれで難易度の調整はテオドールは得意」

ローズマリーが羽扇で口元を隠して呟けば、シーラが目を閉じて、そんなふうに答える。

「そうね。段階を踏んでくれるし」

「テオドール様は助言もしてくださいますからね」

「そうですね。空中戦装備は、私達もいつの間にか手足のように使いこなせるようになっていましたし」

シーラとイルムヒルトの言葉にアシュレイが頷き、グレイスが笑みを浮かべて相槌を打つ。

まあ……アクアゴーレム相手なら怪我の心配は少ないし。それに、多少ハードな内容でも印象に残るなら、なかなか忘れないものだ。短時間で身になる内容ということなら、どうしてもこういう方法にせざるを得ないが……シーラの言う通り、ある程度難易度の加減はしよう。

今日は夕暮れまで付き合えるからな。こちらの使う戦法にトライアンドエラーで突破口を見出し、対処できるようになるまでが今日の訓練のカリキュラムだ。逆に言えば、半日あれば何とかなる程度の難易度に抑えておくということで。