軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215 来訪

さて。まずは儀式場からだ。

基礎になる部分を土魔法で圧縮。更に石化魔法で固めて補強していく。基礎に溝を作り、そこに細かく砕いた魔石を撒いて精霊を留めるための召喚と結界の魔法陣を描く。

「一応上から見ておいて」

「分かったわ」

クラウディアが頷いて、ローズマリーと共に全体を俯瞰できる高度を取る。アウリアもそれに続いた。念のために魔法陣の出来を確認してもらっているのだ。儀式場の根幹にあたる部分なのでミスが出ると改修が面倒だし、召喚魔法について言うなら3人のほうが詳しいからな。

「起きろ」

土ゴーレム達を起き上がらせて、資材を次々運ばせる。

円形に石畳を敷き詰め、火山のある方角に向かって祭壇を作り、壁や柱を立てていく。

そこまで完成したところで上から3人が降りてくる。

お次は屋根だ。ドーム状の屋根を作り、内側に天体図を刻んで、主だった星に相当する位置に魔石を埋め込んでいく。星の大きさに合わせて魔石の大きさも変えたりして、地味に面倒だったりややこしかったりするが。

これは夏の夜空――火山の精霊を召喚する時期に合わせた天体図だ。

星の巡りを疑似的に作り出し、召喚魔法の効果を持続させて精霊を儀式場内部に留めておくための補強といったところである。まあ……プラネタリウムのように見えなくもないか。

「天体図はこんなものかな?」

「そうね。よくできているわ」

後は壁や柱に精霊の力を補強し、呪力を弱めるための装飾を施していく。四大精霊王の紋章に月女神の印。

「建物の強度は?」

「大丈夫。んー。何だか……ここにいると力が湧いてくる気がする」

セラフィナが頷いて、嬉しそうに儀式場内部を飛び回る。

「でしょうね。これはもう、神殿と言っても良いぐらいだと思います」

「集まってくる魔力や精霊の力が清浄化されておるのだな」

ペネロープとアウリアが言う。まあ……後々迷宮のシステムを改竄しなければならないわけだし、このぐらいのことはできないとな。

「儀式場はこんなところでしょうかね。後は儀式場の周囲を整備します」

「他には何をなさるんですか?」

ペネロープが尋ねてくる。

「ジルボルト侯爵領の火山周辺の地形を縮小して再現するわけです。儀式場が山体そのものの位置に相当していて……後は儀式場を囲む形で庭園のようなものを作ろうかと」

周辺の地形についてはエルマー達からの聞き取りで把握している。これも設計図に従って作っていくだけだ。火山の精霊が長期間ストレスなく滞在できるような環境を魔術的に整備していくわけである。

庭園を作ったら巫女や神官の滞在できる施設、その護衛役となる騎士や兵士達が滞在できるような施設を作っていく予定だ。現在の仮設小屋なども実は侯爵領に相当する位置に配置してあったりするので、仮設小屋を改築していく形で良いだろう。

「ふむ……。できれば完成まで見ていたかったが、ここまででも十分面白いものが見れた。残りは出来上がってからの楽しみにさせてもらおうかの。お昼もすっかりご馳走になってしまったからのう。いずれ何かの形で礼をせねばなるまいな」

アウリアはかなり上機嫌な様子だ。

「そうですね。すっかりご相伴に与ってしまいました」

ペネロープが深々と頭を下げる。2人がそろそろ街に戻るという雰囲気なので、フォレストバード達も撤収の準備を始める。

「うん。テオ君、グレイスさん。美味しかったよ、ありがとう」

フォレストバードの面々も頭を下げる。

彼らも最近だとユスティアやドミニクの護衛の仕事などもあって、収入が安定しているそうだ。アウリアやペネロープとも面識ができて、冒険者稼業も順調なようである。

「それではな」

「はい。それでは、道中お気をつけて」

と言って、アウリア達と別れる。まあ、道中と言ってもタームウィルズは目と鼻の先だけれど。

「それが魔女の胸像?」

「まあね。似顔絵を参考に立体化したわけだけど……」

儀式場の周辺の設備も魔法建築で可能な部分は完成させたので、後はアルフレッドの仕事となる。

工房に顔を出して儀式場の進捗状況などを報告しながら、シーラから預かった似顔絵から、魔女の胸像を作成しているところである。

まず原型となる彫刻を石で作り、魔女の顔を知っているエルマーに確認してもらって調整を加えた。それから型を作って、後は石膏製の胸像を量産するという寸法だ。

「結構数を作るんですね」

ビオラが言う。

「まあ……あちこちに配備する予定だからね。呪法をかけて脅迫だなんて、こっちでやられたら堪ったもんじゃない。人質の保護ができてからになるだろうけど、ヴェルドガル国内では移動や買物もままならない状態になるほどに周知する」

シルヴァトリアの王太子との繋がりはさておき、大っぴらに喧伝して二度と暗躍などできないようにしてやるのだ。

「相変わらずテオ君は徹底してるな……」

「解決したらジルボルト侯爵にも持っていってもらう予定だからね。シルヴァトリアの王太子でも庇えないぐらいにというか……王太子の足場が崩れるぐらいの勢いでやらせてもらおうかなと」

と答えると、アルフレッドは少し引き攣ったような笑みを浮かべて、言う。

「そのジルボルト侯爵からも返答があったようだよ。書状で、喜んで招待を受けさせていただきますってさ」

「じゃあ、前準備は整ったと見ていいかな」

「僕は儀式場に魔道具を用意する必要があるけどね」

と言って、アルフレッドは背伸びする。滞在設備に設置する警報装置や、地下の避難部屋にディフェンスフィールドを張ったりといった類だ。

冷暖房用やら風呂用の魔道具などもあるけれど、そのあたりはアルフレッドに頼む必要のない部分ではあるし。

「今からだと結構大変じゃないか? 破邪の首飾りも増産したんだろ?」

相手が呪法を使える魔女ということで。

破邪の首飾りでは強力な呪法は防ぎ切れない場合があるということなのだが……祝福との相乗効果で底上げが狙える部分があるのだ。

「そうでもないよ。タルコットとシンディーも手伝ってくれるし、ローズマリーの人形もあるから割と余裕もある」

「なるほどね」

「儀式場の再利用に関しては? 召喚儀式用の設備として利用できるのかな?」

「そこはまだ決めていないんだよな。火山の精霊を慰留するのに特化しているから、汎用性の高い召喚用設備にするなら解決した後に改装が必要になるだろうし」

いずれにしてもジルボルト侯爵の訪問はもうすぐだ。

封印の扉解放もスケジュール的に近いし、訓練といった準備も怠るまい。

そして――。ジルボルト侯爵の、タームウィルズ訪問の日がやってきた。

侯爵は船に乗り、海路を使ってやってくるそうだ。フードを目深に被ったエルマーと共に、港で到着を待つ。エルマーの監視役として、騎士団のメルセディアも同行している。

万全を期すのならエルマーに変装用の指輪でも渡しておくところだが……あれは本来ヴェルドガル王族のためのものである。

事件が解決したらエルマー達の身柄はジルボルト侯爵の下に戻されることになるだろうし、指輪のことは明かせない。俺への貸出は、本当に特例なのだ。

「来たぞ」

水平線の向こうから。夕日を浴びながらジルボルト侯爵を乗せた船が近付いてくる。

……ふむ。

光魔法と闇魔法でレンズと筒を作り、望遠鏡を魔法的に再現。拡大して甲板上の偵察といこう。ぼやけているが、調整してっと……これで良いかな?

「な、何ですか。その魔法は……?」

「こ、これは……」

エルマーが目を丸くする。メルセディアもだ。メルセディアも騎士団の人間だし、エルマーも特殊部隊だからその利用価値が分からないはずもない。斥候目的としては確かに有用だろう。

「んー。まあ即興で。それより知った顔は?」

「え、ええと……」

エルマーはやや引き攣った表情で、円形に浮かび上がる甲板の光景を見る。

「……侯爵です」

船室から甲板に上がってきたのは身形の良い男だった。髪に白いものが混じった中肉中背の男。そのジルボルト侯爵に手を引かれて現れたのは侯爵夫人。夫人の隣には侯爵令嬢もいる。

夫人と令嬢は色が青白く、あまり健康的には見えない。令嬢の被っていた帽子が風で飛ばされそうになるがそれを侯爵が受け止めると、少し困ったものを見るように目を細めて令嬢に返していた。

帽子を受け取ってはにかんだような笑みを浮かべた令嬢が、何かに怯えたように夫人にしがみ付く。

その視線の先を、追う。

「……こいつ……こいつが……」

エルマーが息を呑んで歯を食いしばる。その先は――言わなくても分かる。俺も知っている顔だ。工房で量産したしな。

船室から上がってきた、黒づくめの若い女だ。侯爵一家を睥睨しながら、冷笑をその顔に張り付けている。

「本人が乗り込んでくるか」

カドケウスに通信機を操作させて各所に魔女来訪の旨を通達する。

そういうことも有り得るかなと想定はしていた。人質の2人を同行させるのだから、監視役に呪法を発動できる本人が来る可能性は十分ある。

ジルボルト侯爵が派遣した工作員、ドノヴァンとライオネル達の目標は拠点の確保だ。

彼らはヴェルドガル国内の治安を乱すのが目的だと知らされていたようだが――それだけではあるまい。魔女がその背景にいるということを念頭に置いて地図を見てみると……ミハエラの住む町の近くには休火山があるということが分かっている。

ジルボルト侯爵の監視と同時に、侯爵領と同様のことをヴェルドガルでやらかす可能性が高い。

これはうかうかしていられないな。魔女に監視を付けつつ、行動を起こす前に早めに動いて人質の保護を行わなければならないだろう。

……魔女にも同行者がいるようだ。帯剣した男が身辺を警護するように控えている。こいつにも監視の目をつけておくべきだな。