軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

168 連行

家の規模が大きくなるのもあって、家の中を管理する者を雇う必要がある。パーティーメンバーは迷宮探索に出ているので手が回らなくなるのが予測されるからだ。

とは言え魔物と日常的に接する必要があったり、迷宮絡みのあれこれ。それに魔人対策と、秘密にしておかなければならないことが増えているという背景もあり、雇うにしても信用のおける相手でないといけない。

「やっぱり伝手を当たるのが無難かな」

孤児院からというのも考えたが……メルヴィン王が支援して読み書き計算の教育強化に乗り出しているからな。

そのあたりのことをみんなと話し合っていると、カーバンクルのフォルトックが言った。

「屋敷内の家事ならば魔物村の者に任せてみてはどうかのう?」

「というと……自分達のことは自分達でっていうことかな?」

うむ、とフォルトックは頷く。

「元々、儂らは自給自足で生活しておるしな。そちらに泊めてもらうと言っても、ただ遊びに行くわけではない。外の世界に出るための準備という名目である以上、ただ歓待されてばかりというわけにもいくまい」

つまり屋敷内の掃除や炊事、洗濯等は自分達でしてもらう形ということか。家事の分担は元々俺達がやっているし、屋敷でそれをやるとなると、ほとんど住み込みの使用人と同じだろう。

「それなら……給金を出す形がいいだろうな」

逆転の発想と言うか……事情が分かっている者を最初から使用人として育成してしまえばいいのだ。彼らの身元も証明できるし、俺が保護している形が明確になるし丁度いい。

シフトを組んで交代制にするなどして、自由に過ごせる時間を確保してもらう形が良さそうだ。

劇場で演奏というのも心理的にハードルの高い話ではあるだろうし、希望する者とそうでない者に分かれてくると思うので。

泊まりに来てもらう中で街に慣れてもらい見聞を広め――その中でなりたい職種などを各々見出してもらってサポートしていくと。そんな方向で考えるのが良さそうだ。

「稼いだお金を街中で使うという形に落ち着きやすくなるし、それが丁度良いかも知れないわね」

「ただ、1つ問題がある」

「問題というと?」

「屋敷で使用人っていうのは問題ないけど、ある程度は流儀に則らないといけない」

「使用人である以上は……来客があった時の決まり事が分かっていないと、問題が出るかも知れませんね」

アシュレイが言う。このあたりはさすが男爵家の当主である。

そう。良くも悪くも迷宮村の住人は世間擦れしていない。俺の方も今までは普通の家だったので大規模な催しなどは無かったが、今後どうなるか分からないし。

「うん。だから、指導してくれる人だけは探す必要があるかなって思うんだ」

元々自給自足していたから彼らは自活可能なようだし。基本ができているなら後は細かい部分を助言と指導してくれる者がいれば良いのだが。

「私が……というわけにはいかないようですからね」

グレイスは残念そうに言う。グレイスは確かに指導できるだろうが、元々こちらの本業を疎かにしないよう負担を減らす方向での話し合いだからな。

使用人の指導……指導ね。

「あ、ミハエラさんは?」

「あの方なら、確かに信頼できますね」

ミハエラはグレイスの恩師に当たる。グレイスがガートナーの屋敷に行ってから少しの間、グレイスが使用人として屋敷で働くために指導に当たったのだ。

あの頃の記憶は曖昧だが……確か、凛とした老婦人という佇まいの人物だった。

元々、ガートナー伯爵家で働いていた古参の侍女だが、当時既に現役引退していたはずだ。

グレイスを使用人達が怖がったのと、当時人手が足りなかったというのが重なったので父さんが彼女の郷里から呼び寄せて一時的に指導してもらったという話である。

「んー。一応打診してみるか。あの人は、故郷に隠遁しているんだっけ」

「そのはずです。タームウィルズからそう遠くはありませんよ。飛竜なら日帰りもできると思います」

「なら、一度直接行ってみるかな」

言うと、グレイスは嬉しそうに笑みを浮かべた。久しぶりに恩師に会えるからだろう。

みんなで竜籠に乗って日帰り旅行と言ったところか。まあ、年齢を理由に現役を退いていたわけだし、断られる可能性は充分あるけれど。

「私も一緒に行くわ。循環錬気をしてもらってタームウィルズを離れた時の調子を見てみたいから。それに、私が同行すればこちらで何かあっても転移で迷宮に戻ってこられるし」

クラウディアがそんなことを言う。確かにそれは検証しておく必要があるのかも知れないが……。

「無理はしてない?」

「大丈夫よ」

クラウディアは笑みを浮かべた。

「ん。分かった。じゃあ、家の管理についてはそういう方向で」

タームウィルズを離れるなら王城に連絡しておくか。通信機ですぐ連絡を取れる態勢になるし、打診を断られた場合もメルヴィン王に信用できる人材を手配してもらえるだろうから。

ということで、迷宮の村から帰ってきて王城に向かった。

「離せ! くそっ! 俺を誰だと思っているんだ!」

「おのれえ! マルコムの親不孝者めがッ!」

そこまでは良かったのだが、何やら王の塔から見覚えのある人物2名が喚きながら兵士に両脇をがっちり抱えられて連行されていくという場面に出くわしてしまった。

……ああ。とうとう沙汰が下されたか。後でアルフレッドやメルセディア達から話を聞くだけという風にしたかったんだけど。

「たっ、大使殿! 大使殿! 侯爵家と伯爵家のよしみ! 何卒陛下に執り成しを! 大使殿ーっ!」

「ご、後生でございます! どうかお助けくだされ!」

案の定というか……俺を見るなり、俺の方に手を伸ばして、そんなことを喚きながら引き摺られていく。侯爵もノーマンも往生際が悪いというか。

……いや、侯爵ではないか。何と呼べばいいのだろう? 多分、先代ブロデリック侯爵かな?

遠くに消えていく2人の声を背中に受けながら、俺はかぶりを振った。

あー。知らない知らない。俺は何も見ていないし聞こえない。さっさと王城で面会の手続きを済ませてしまおう。

侍女に案内されてサロンで茶を飲みながら待っているとメルヴィン王とアルバートが現れた。

2人とも苦笑しているところを見るに、俺が王の塔の前で連中とすれ違ったのを察しているようだ。

「いやあ、間が悪いことで」

「うむ。連中に関しては想像の通りだ。マルコムが山のように証拠を持ち帰ってな。予定通りマルコムが後を引き継ぐ」

「あの2人は……」

「投獄されることになろう」

国外追放やら処刑やらではなかった分、温情判決かも知れない。

先代侯爵の方は王命を丸っきり無視して放蕩三昧、更に次男の監督不行き届き。マルコムの調査に対して証拠隠滅を指示する書状。ノーマンは税のちょろまかしの他にも……色々醜聞が出てきたようで。

腐っても上級貴族。土台がしっかりしていればそれでも処罰できないということもあるのかも知れないが、ブロデリック侯爵に関して言うなら、そういう我を通そうにも既に凋落してしまっているのだから、もうどうしようもない。

「テオ君、疲れてる?」

「いや、大丈夫。あの2人を見ると少し脱力するだけで」

「ふむ。では早めに用向きを済ませてしまおうか」

メルヴィン王が苦笑いを浮かべるので、俺も今日王城にやってきた用件を伝える。

「――ふむ。昔の伝手を当たるというわけか」

「高齢なので無理と言われることは想定しています。一応、タームウィルズを離れますので……何かありましたら通信機の方に連絡をいただければと」

「よかろう。断られた場合はこちらで手配するが、構わんな?」

「はい。よろしくお願いします」

まあ連絡に関してはこんなところでいいだろう。

「それじゃあ僕は、魔道具製作を進めようかな」

人化の術の術式は既にアルバートにも渡っている。また数を作らなければいけないのだが、アルバートのモチベーションは結構高いようだ。

「あんまり無理しないでくれよ。別に緊急ってわけじゃないんだし」

「まあね。でも人化の術とか、面白そうだからね」

そんな風にアルバートは笑うのであった。