軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

167 聖獣

神殿の迷宮入口から魔物達の村へと飛ぶ。

相変わらずの長閑な風景が広がっているが、前来た時と違って農作業をしているケンタウロスが小さく笑みを浮かべて会釈してくれたりと、歓迎してくれている雰囲気がある。

「この度はご婚約おめでとうございます」

「おめでとうございます。クラウディア様、テオドール様」

それはどうやら勘違いではなかったようで村の住人と集落の中ですれ違う度に口々祝福の言葉を口にしていた。

「ありがとうございます」

そんな風に笑みを浮かべて返すと、彼らは静かに頭を下げてくる。感情が抑制されているならいるなりに祝福してくれているのが分かる。

「そういえば、嘘が分かる魔物がいるって聞いたけど」

「ええ」

「その魔物が外に出る時に、特性封じの指輪は必要かな?」

俺の言いたいことが分かるのか、クラウディアは少し考え込むようなそぶりを見せる。

「どうかしらね。多分テオドールの想像している住人とは、少し違うと思うわ。人の言葉を解すし、話もできるけれど……そもそも人型ではないから」

人型ではないというのは、馬やら蛇やらの動物の姿をしているということだろうか?

嘘を見抜ける能力があるなら人間社会に混ざった時ストレスになりかねないからと思ったのだが。動物となると、確かに特性を封じる意味はあまり無いのかも知れない。

「カーバンクルというのだけれど」

「額に赤い宝石を付けてる?」

「ええ」

……BFOではカーバンクルを探している好事家の依頼を受けて、探しにいくというクエストがあったはずだ。

そのクエストでは俺の記憶の限りでは、カーバンクルを見つけられずに終わってしまっている。フレンドは実物を見れずに悔しがっていたが――クエストには続編があり、そのまま進めていけばカーバンクルと遭遇できるのではないかと、テイム目的のプレイヤーがクエストの今後の配信に期待していた。

クエストを続編で引っ張る程度には希少な生き物なのだし、額の宝石やら好事家が探しているなどという背景から言っても、人を引き寄せる存在なのは間違いない。

「どんな生き物なんですか?」

アシュレイが首を傾げる。マルレーン共々期待を込めた目で見てくるあたり、2人とも興味津々といった様子だ。

「見た目は小さな動物……って言われてるけど」

「そうね。今日はカーバンクルも呼んで話を聞いてもらうから、その時会えるでしょう。正確に言えば、あの子達は相手の感情を読むの。前回来た時は、森の中にいたみたいだけれど、基本的には臆病な子達だわ」

感情を読む、ね。思考を読むなどと言われるよりは接しやすいだろうが、後ろめたさなどがあればそこから見抜いてしまうということなんだろうな。

クラウディアは主だったものを集めてくるからと、村の中を回って声をかけてくるそうだ。準備が整ったら広場で話をするということで……その間俺達はイルムヒルトの実家で待機である。

「ただいま、お父さん、お母さんっ」

「おかえり」

「おかえりなさい、イルム」

イルムヒルトの母親のフラージア、それから父親のデルフィロの2人に迎えられる。2人はイルムヒルトと軽い抱擁を交わした後で、婚約の祝福の言葉を述べてきた。

「この度はご婚約おめでとうございます」

「おめでとうございます。テオドール様」

「ありがとうございます」

と、礼を返す。

イルムヒルトは早速両親に外であったことを報告しているようだ。

「王城に行って騎士さん達の演武を見てきたのよ」

「まあ」

そして笑みを浮かべるフラージアとデルフィロ。それをどこか嬉しそうな様子で見ているシーラという構図である。

俺達がここに来ると、クラウディアが迷宮のシステム回りを押さえないといけないからな。気軽には来れない場所ではあるのでこういう時間は貴重だろう。

クラウディアが言うには、今回も俺達が感情抑制の魔道具を付ける必要はないとのことだ。循環錬気の甲斐もあってクラウディアには若干の余裕があるし、外に出るかどうかを住人達に判断してもらうには感情抑制が邪魔になるからということだそうで。

クラウディア自身も、感情抑制という形を取らなくて済むのならそうしたいと望んでいるからな。

「主だった子達に声をかけてきたわ」

しばらくしてからクラウディアが呼びに来た。フラージアも前回劇場に出かけた時の事を、みんなの前で改めて話したいということなので村の広場にみんなで移動する。

広場には既に村の住人の主だった者が集まっていた。人間と見かけの変わらない者も見受けられるが……これは恐らく人化の術が使える者達だろう。

人化の術を魔道具化するにあたりクラウディアから詳しく話を聞いたが、ユスティアやドミニクが使っている人化の術は術式がやや不完全なものらしい。

イルムヒルトのように完全な形の術を使えば、あの2人も種族的な特徴を隠すことも可能なのだそうな。

……さて。さっきの話に出ていたカーバンクルは……ああ、いた。

少し遠巻きにこちらの様子を窺っている小動物の姿。その額に、赤い輝きがある。

細身の体躯で、耳が大きい。手足は短め。尾の部分の毛にボリュームがある。

実物を見て思ったが……もしかすると額の宝石は鉱物の類ではなく、魔眼の類なのかも知れない。あれが魔眼であるなら……感情を読むということもできるだろうと思うのだ。

まあ……今はカーバンクルや人化の術の話はともかくとして、村人の意向を聞いてみよう。

「私としては、前に話した通りね。できることなら迷宮の外に出て、少しずつでいいから慣れていってほしいと思っているの」

「外と言っても、屋敷の中で過ごせるから……感情抑制の必要がなくなるだけと考えてくれても良い。そこから外に出て色々できるように道筋は整えていくつもりだ。実際に国王や冒険者ギルド、月神殿あたりは味方だと思う」

「私はこの前、イルムが大勢の人の前で歌うところに行ってきましたが……たくさんの人が拍手してくれていました」

俺達やフラージアの言葉に対する反応はそれぞれ違った。

「人間達は怖いって、おばあちゃんが言っていたわ」

「でも、テオドール様達はそんなこともないんじゃないかな」

「それは確かに」

「だが外の世界がどんなものなのかは、気になるな」

外の世界を怖がるもの。不安ながらも、外の世界を見てみたいと望む者と色々だ。

その中にあって……少々反応の違う者がいた。

カーバンクルだ。静かに前に出てくる。

「1つ、いいかのう?」

小さな体でちょこんと座って、こちらを見上げてくる。

言葉を話すと言っていたが――高い知性を感じさせる。聖獣なんて言われているが、その理由も分かるな。それとも他の個体の中でもこのカーバンクルが特別なのか。歳経たような口調で話すあたり、それなりに長く生きているのかも知れない。

「何かな」

「儂はフォルトックという者じゃ。それをすることで、お主自身は何を得るのか聞かせてもらえるかの」

俺のメリットか。そのあたりが気になるのは住人達からすれば当然だろうな。

「俺の場合、別に善意からではない、と思う。俺自身がこれから先平穏に、気分よく暮らしていくために必要なことだから、周囲の環境整備をしようっていう、ただそれだけだよ」

「ふむ」

老カーバンクル、フォルトックは俺をじっと見上げていたが、やがて小さく頷いた。

「よかろう。わしはお主を信じるよ」

んー……一瞬グレイスを見たあたり、色々感情を読み取って推察する洞察力も備えているようだな。このへんは年の功という奴だろう。

ともあれ、フォルトックの言葉が決め手だったのか、希望するものは受け入れ態勢が整い次第、俺の家に宿泊するということで話は纏まった。

その際の決まり事など色々話も残っているが、そのあたりは追々詰めていく感じでいいだろう。

そして感情を解放しているので、せっかくならと今日は村で宴会をするらしい。

パーティーメンバーは案外早くカーバンクル達と打ち解けている。他のカーバンクル達とも言葉を交わす機会もあったが、やはりさっきのフォルトックが特別なようだ。

他のカーバンクル達はもう少し舌っ足らずな口調や片言で話し、どこか幼い印象を受ける者ばかりであった。