軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15 奇襲

「ぐっおおおおおおおっ!?」

男達は武器を取り落として両耳を押さえて足をばたつかせながら、床をのたうち回った。結構派手に吹っ飛んで壁に激突していたが、それより耳のダメージが大きいらしい。

「がああっ!? な、何で手前らが後ろから来てやがるんだッ!?」

弓矢の男が耳の激痛に顔を顰めながら、ヒステリックに喚いた。まあ……その科白は黒確定だろう。

「おい! 今の音はなんだ!?」

「あの餓鬼だ! 畜生っ! ぶっ殺せ!」

途端、騒がしくなったかと思うと通路の向こうからカンテラの明かりで照らされた。

カンテラ、か。あちらの挟撃組に魔法を使える者がいなければ、視界は暗視以外の方法で確保しなきゃならないわけだ。道具に頼るというのはつまり、致命的な弱点を晒しているという事でもある。

「フレイムアブソーブ」

闇魔法第3階級。暗紫色に薄く輝く球体を通路の向こうへ射出する。

火炎への対抗呪文の1つだ。カンテラから不自然に炎が引き摺り出されて闇の球体の中に吸い込まれた。

「なっ……」

連中にしてみればいきなり暗闇に突き落とされたも同然だ。武技の使用は無論の事、反撃も抵抗もさせない。そこにグレイスとロゼッタが突っ込んだ。

グレイスの動きはシンプルだ。シンプル故に無駄が無い。低い姿勢で突っ込んだ勢いそのままに、両足を腕の一振りで薙ぎ払ってへし折ると、崩れ落ちてきた男の胸倉を掴み、紙屑でも投げ捨てるように壁に叩き付けた。

彼女にしてみれば撫でるだけのようなものだ。斧を使わなかったのは別に手心を加えたわけではない。人間の血を無駄に撒き散らすのを嫌っての物だろう。

ロゼッタの方はと言えば、非常に洗練されている。

最初に向かった相手を引き倒し、転がして踏みつけ――動きを完全に封じたところで、まだ暗闇の中で戸惑っている別の男の胸に軽く指先を当てて、悠々と魔法を発動させた。

「――ロトンブラッド」

解毒の水魔法クリアブラッドの裏――。相手の血中に毒素を作り出す魔法だ。

「ぐぶっ!?」

ロトンブラッドによってどんな感覚を味わっているのかは知りたくもないが――ともかく男はくぐもった声を上げて胸を抑え、膝から崩れ落ちた。その男が倒れ伏すより先に、ロゼッタは足元でもがいている方の頭部を踏み抜いている。生死は解らないが、ともかく動きは停止した。

「畜生! 何がどうなってやが――」

混乱の極みにある男の言葉は最後まで続かなかった。その胸板をグレイスが助走をつけて殴り飛ばしたからだ。大の男の身体が地面と平行に飛んで壁に激突する。

「も、燃え盛るは――!」

魔術師の方が杖を構えてファイアボールの詠唱をしようとするが――。

「遅い」

指先に展開したマジックサークルから、雷撃の槍が迸り魔術師の身体を貫いた。爆ぜるような音と共にスパーク光が迷宮の通路を青々と照らす。

雷魔法の第4階級。エレクトロランス。人間相手なら充分な殺傷力を持つ魔法だ。魔術師は多少魔法抵抗力が高いとはいえ、一撃で倒れ伏して動かなくなった。

魔術師は無詠唱やマジックサークルといった手札を隠していないとも限らないから、単純に捕縛で済ませるというわけにはいかない。極端な話、意識さえ残っていれば身体の状態がどうであれ魔法を使える可能性がある。確実に沈めておかなければならない。眠らせる魔法も手札にはあるが確実性がない。そういった類の魔法は来ると解っていれば精神力次第で抵抗が可能だから。

ロゼッタの治癒の裏魔法は別だ。肉体そのものに作用するうえに、接触が必要な分、抵抗を許さない強力な干渉力を持っている。

「じょ、冗談……だろ、こんな……一瞬、で?」

倒れている射手は呆然と声を漏らす。鼓膜にダメージがあるのかやや発音が怪しいが、まあ聞き取る事はできる。

「ライトバインド」

「ひっ!?」

射手を拘束したところで、呆気無く戦闘は終了した。立ち上がってこられる者はいない。連中の生き死にには頓着しない。どうせ、引き渡せば同じ事だから。

わざわざ射手を拘束したのは迷宮の外に仲間がいるかどうかを確認するために、一人か二人程度は確実に生かしておく必要があるという判断だ。

暗視の効果時間内だったから仲間がどういう目に遭ったかはつぶさに見ていただろう。ついでに俺達にされた事を外で派手に謳ってくれると有難い。無駄な手出しをしてくる奴も減るだろうし、しばらくは同様の手口も鳴りを潜めるだろう。

「ち、違うんだ! お、俺達はただ――」

転がっている男が言い訳がましい悲鳴を上げた。

何を言いだすかと思えば。これだけ準備万端にお膳立てしておいて違うも何もないだろうに。

こいつが必死なのは――大迷宮内でのこの類の犯罪は死罪を免れ得ないからだ。嘘を感知するための魔法を用いられながらの尋問を受けるために、言い逃れる事もできない。

無言で視線を落とすと、目が合った男の視線が泳ぐ。やがて開き直ったのか、こちらを見て訴えかけてきた。

「そ、そうだ! こっ、殺すつもりは無かったんだよ! あんたらは怪我してないんだし、見逃してくれてもいいだろ!?」

「……二度は言わない。もう喋るな」

「……っ」

マジックサークルを掌の上に浮かべてそう言うと、ようやく男は押し黙った。

強盗未遂で負けた今更になって弱者を演じて情けに縋るだとか……。新人狙いのやり口といい、この命乞いといい、全てが不愉快な奴だ。

目的は金か快楽か。手段は脅迫か殺しか。こちらの対処には全く関係がない。

連中がどうするつもりだったにしろ、待ち伏せを仕掛けた時点で道は二つに一つしかないのだから。

抵抗して殺し合いになるか。無抵抗でただ奪われるか。

見逃したり手心を加えるという選択肢は二次被害や復讐の可能性を考えるにもっと有り得ない。

新人――例えば俺達ではなく、フォレストバードのような真っ当な冒険者連中がこいつらの標的になっていたとしても何もおかしくはなかったのだし。

だから――俺自身が手を汚さない事に拘るのは他の全ての連中に不誠実だし、害悪でさえあるだろう。叩き潰さなきゃならないこの行為自体が、鬱陶しくて不愉快でもだ。

「ロゼッタさん。転界石を渡すので人を呼んできてくれますか?」

ここは顔の利く彼女が石碑まで行って人を呼んでくるのが良いだろう。

地下3階程度、転送で降りてこれる冒険者は山ほどいるし、まだ直接上に戻れる階層だから転界石無しでも問題がない。ギルドの職員でさえ直接来られるかも知れない。

「……大丈夫なのね?」

「ええ」

ロゼッタはしばらく俺の方を見つめていたが、石碑がある方向へと走っていった。

……そんなに。心配してくれなくても良いんだけどな。

「ええ、もう結構ですよ」

地下3階から帰還した後、ギルドの一室に呼ばれて事情を聞かれる事になったのだが――受付嬢はどちらかと言えば俺達に同情的なようだ。いくつか質問と確認をしたところで、気の毒そうな表情でそんな事を言って解放してくれた。

もう少々手間取るかと思っていたが。案外あっさりしたものだ。

ロゼッタの顔が利くからか、それとも彼女が代表して魔法審問を受けてきたか。

「彼らはスネークバイトという冒険者グループでしてね。素行が悪くて以前から揉め事が多かった連中ではあるんです」

「……そうなんですか」

俺達に同情的なのは連中の日頃の行いもあったか。

「事実確認がはっきりできましたら、褒賞金などの話もあると思います」

褒賞金、か。冒険者にはなったけれど、賞金稼ぎになったつもりはないんだがな。

受付嬢に見送られてギルドの部屋から出てくるとグレイスとロゼッタも戻ってきていた。

ロゼッタは深呼吸を一つすると、気持ちを切り替えるかのように笑みを浮かべる。

「お疲れ様、二人とも」

「ロゼッタさんこそ」

「ええ。さて、テオドール君。これからどうする?」

また迷宮に行くか、という話だろうか?

「……大人しく帰りますよ、さすがに」

「……それもそうよね。ええ。私も帰るわ」

「馬車で送っていきますよ?」

「別にいいわ。少し一人で歩いていきたい気分だから」

送迎を申し出てみるも、ロゼッタは首を横に振った。

「そのうち、気が向いたらでいいから。また顔を出してくれると嬉しいわ。困った事や悩み事があったら、何でも相談に乗るからね」

「……解りました」

……事後処理で色々世話になってしまった気がするし。ロゼッタも母さんの事に後悔があるのかも知れない。頷くと彼女は微笑んでギルドを出ていく。

最後に出入り口の所で肩越しに振り返って、こんな事を言った。

「ああ、そうだ。連中、何やら黒い転界石を持っていたそうよ」

「……黒? 何ですかそれは」

……BFOには存在しなかった代物だ。

「それは私も知らないけれど。ギルド職員も初めて見る代物で、用途については尋問中らしいわ。内容次第でしょうけど、詳しい事もそのうち教えてもらえるかもね」

一気に制圧したが……それを使われてたら、場合によってはもう少し面倒な事になっていたかも知れないな。判断材料が無いだけに何とも言えないが。テレポーター系のトラップみたいに使える代物なら、中々に危険度が高いかも知れない。

思案しながらギルドから出ていくロゼッタを見送った。

「……少し、くたびれましたね」

「ん」

首を傾げて僅かに目を細めたグレイスに、俺も小さく笑って頷いた。

連中を倒した際の流血は無いに等しかったから、呪具から解放した後の反動もあまり無いようだ。前と同じで、少々落ち着かないような気分にはなったそうだが。

ああ……そうだ。

どうせ今から持ち帰った素材の換金をしなきゃならないわけだし。

ついでに風呂場用の魔石を一つ買って帰ろうか。熱い風呂にでも入れば、多少気分もましになるだろう。気分を切り替えていくのは重要だ。

そんな考えをグレイスに伝えると、彼女は優しげに目を細めるのであった。