軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

154 魔物娘達の演奏会

厨房の設備も整い、演奏会を始める目途も立った。

招待状も出し、入場券も売りに出されて……後は竣工式を経て開幕を待つばかりといったところである。

劇場内の設備をあれこれチェックして回っていると劇場にフォレストバード達がやってきた。

「こんにちはぁ、テオ君」

「ああ。みんな」

「竣工式があるって聞いて来たんだ。招待状のお礼も言いたかったしな」

フィッツはにやりと笑う。

「いやあ、凄い人気みたいですよぉ」

ルシアンは上機嫌な様子である。入場券はギルドで予告されてから数日後に売りに出されたのだが……何と、行列ができたうえに即日完売である。劇場の前に屋台を出してかき氷と炭酸水を販売したりと、色々仕込みをした甲斐があるというものだ。

入場券販売に伴い冒険者ギルドへの依頼の増加に加え、広場近くの市場の売上も伸びるという副次効果も出ているらしい。景気が良くて結構なことだ。

「あの行列に並ばなくて済んだっていうのは有り難いよな」

ロビンは苦笑いを浮かべる。

フォレストバード達はユスティアとドミニクの護衛役をずっと請け負ってくれた功労者なので当然招待している。

招待客の席と、販売席。それから抽選で当たる席。これらで全席埋まって満席御礼だ。

ダフ屋や転売の類も出てくるとは思うが……そういうのは如何ともし難いところがあるからな。

冒険者ギルドで定価での売買を行ってもらえば何かの理由で来られなくなってしまったという客の席が無駄にならない。転売対策にもなるので、そんな風にしてみてはどうかとアドバイスはしたが……まあどうなることやら。

竣工式にあたって、世話になった人に色々声をかけている。エントランスにテーブルを置いて、料理を並べて宴の席を用意させてもらった。

堅苦しいのは何なので、形式ばったものではなく皆に集まってもらって料理を振る舞ったりという気楽な席ではあるけれど。居並ぶ面々に、まず挨拶をする。

「皆様におきましてはご多忙な中、足を運んでいただきありがとうございます。こうして無事竣工の日を迎えられたこと、ひとえにご支援いただいた皆様のお陰です」

――などとつらつらと口上を述べて挨拶を終えると、出席した面々から拍手が起こった。

一礼して席に戻ろうとすると、メルヴィン王が言う。

「ふむ。いつまでもただ劇場というのも味気ないであろう。どうかな。ここで劇場の名前を正式に決めてもらうというのは」

と、水を向けられる。ふむ。劇場の名前……名前ね。

「境界劇場というのはどうでしょうか」

迷宮や友好的な魔物との調和を願ってという事で。

色々候補もあったが……俺の役職や名前を混ぜるのは遠慮させてもらった。俺にとってはあくまでも目的ありきの劇場だし、理念に立ち返りというところだ。

再び起こる拍手の中を一礼して席に戻り、今度こそ宴席の始まりである。

……さて。後は演奏会の成功だな。

当日は俺も舞台袖から魔道具盤の操作をする予定なので、イルムヒルト達と通しのリハーサルをこなしていたりもするのだ。

いずれこの辺の操作を専門に行うスタッフなども探したいところではあるのだが……どうなる事やら。

そして慌ただしく日々は過ぎていき……満月の日――つまり演奏会の当日がやってきた。

「万が一火災などが発生しました場合、案内板の非常口から劇場の外に出ることができます。兵士の方々の誘導に従って避難をお願いします」

満席になった劇場の客席。舞台の上に立った俺は、挨拶やら水引幕の前で観劇中の注意事項や避難誘導のための案内やらを述べていく。

客席……2階テラス正面にメルヴィン王を筆頭に王家の面々、宰相や大臣といった重鎮クラスが居並ぶ。

2階席、向かって右手側は俺の個人的な知己が多い。つまり今回は俺の仲間や関係者の席だな。工房、月神殿、ギルド関係者は2階席、左手側だ。

グレイス、アシュレイ、マルレーン。クラウディアと……イルムヒルトの母親の姿も見える。ぎりぎりまで迷っていたそうだが、来てくれたらしい。イルムヒルトの母親については超VIP待遇だ。俺のパーティーと共にカドケウスがボディガードについている。

1階席は招待を出した業界関係者と、観劇に興味のある貴族達というところだ。地下1階席の一角に孤児院の職員と子供達が座る。今回は人数が多いので臨時の席を増設している。

月神殿の巫女やギルド職員が手伝いを申し出てくれたりもあって、入場の整理や売店の方も好調なようだ。

今回手伝いを申し出てくれた人達については報酬の他、次回の演奏会の招待状を送らせてもらうことになっている。

一通りの注意事項などを伝え終えると、2階席からメルヴィン王が拍手をする。客席全体に拍手の波が広がっていった。拍手の中を一礼して舞台袖に引っ込む。後は――イルムヒルト達の時間だ。

拍手が静まるのを待ってから舞台の上で開幕の時を待っているイルムヒルトを見やる。

視線が合って……頷いた。劇場の照明を落とす。

舞台袖に待機していたシーラが紐を引くと、静かに幕が上がる。

暗闇の中に浮かび上がるのはただ一点。舞台の上に背中合わせに佇む、ドレスで着飾ったイルムヒルトとユスティアの2人の姿。

人化の術は解いてある。演奏会の内容は包み隠さず広報してあるが、中には知らなかった者もいるのか、戸惑う様子を見せる者もいた。

だが――全体ではその神秘的な美しさに目を奪われるといった反応の方が勝っているようだ。

イルムヒルトが竪琴を。ユスティアが横笛を奏でる。観客たちが舞台上に心を奪われていたのも一瞬のこと。

静かな調べと共に聞こえてきた澄んだ歌声は――客席の方からであった。スポットライトを当てる。

右手の非常口から現れたドミニクが胸に手を当てながら、会場に声を響かせた。

翼を広げ、ゆっくりとした速度で優雅に劇場を舞いながらドミニクが歌う。ドミニクの歌声は――歌声というよりも最早楽器と形容した方が良いほどだ。音域が広く、確かな技巧もある。この辺は種族的なというか天性の物なのだろう。

ドミニクが舞台の正面に来たところで、装置を動かす。ドミニクの後ろを色とりどりの泡が追いかけていく。追い掛けているように見えるが、泡の動くルートは決まっているので、そのルートをなぞるようにドミニクが先行しているだけなのだが。

観客の顔。目を見開き、ぽかんと口を開いている。空飛ぶ歌姫と光と泡の演出。日常から幻想的な空間へ。

ドミニクがふわりと舞台中央に舞い降りて――3人揃って一礼。

数瞬の間を置いて割れんばかりの拍手が起こった。

拍手が静まるのを待ってから、再び一礼してドミニクがスカートの裾を摘まんで挨拶。自己紹介をする。

「初めまして皆さん。あたしは――ハーピーのドミニクと申します。今日は――こんなにも沢山の人に足を運んでいただいて本当にありがとうございます。初めての演奏会という事で緊張していますが……精一杯頑張りますので、最後まで楽しんでいただけたら幸いです」

少し緊張した面持ちで、ドミニクが続ける。

「彼女はセイレーンのユスティア。それからラミアのイルムヒルト。あたしの大事なお友達です」

ドミニクの挨拶に合わせて、2人は自分の持つ楽器を鳴らして礼をする。その度に拍手が起こる。

歌姫達の自己紹介と口上が終わったところで――ホリゾント幕に青の照明が当たる。下から泡が立ち昇れば――そこはもう深い海の底といった風情。

楽器を大型のハープに替えたユスティアの歌声が響き渡って、演奏が再開される。

岩礁を模した大道具の上で、歌うユスティア。

人を魅了すると言われるセイレーンの歌声。しかし今回、そこに魔力は込められていない。それでも尚、陶然とするような美しさがある。

3人それぞれにメインやソロのパートが用意されているのだ。

ユスティアのソロが終われば、今度はリュートに持ち替えたイルムヒルトが観客席に微笑みを向け、先程までの静かで神秘的な空気から一転、楽しげな音を奏でだす。

背景の色も変わる。楽しげに歌う2人の歌姫。ユスティアの尾にはパーカッションが装着されている。彼女が尾を振りリズムを取って、ドミニクが泡と共に空に踊る形。

当然、イルムヒルトのソロパートもある。リュートを持つ彼女が、尻尾も使って弦を鳴らし、人間には真似できない複雑な奏法をやってのけた。目を見開く観客達。

音と音の渦。幻想的に絡み合う色とりどりの光。観客はもう釘付けだ。イルムヒルトの母親も楽しそうに笑っている。

イルムヒルトは歌には自信がないと言っていたが、謙遜だろう。呪歌ができないというだけで、十分過ぎるほど綺麗な歌声をしている。3人での輪唱が絡み合って響く。

全ての演目を終えてみれば――スタンディングオベーションという奴だった。

結局3回アンコールに応えて、初めての演奏会は大盛況に終わった。舞台上ではアウリアとペネロープ、それから孤児院の子供を代表してブレッドが花束を手渡している。その間も総立ちになった観客が歓声と拍手を上げていたが――いつまでもいつまでもそれは途切れなかった。