軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145 老魔人と少年

爆風に乗るように後ろに飛んで、一回転してから着地。そこでクラウディアを抱えたままだった事に気付く。

「っと、ごめん」

「い、いえ。驚いたわ」

腰に手を回すように腕に抱いていたクラウディアを放す。クラウディアは少しだけ頬を赤くしたものの、静かに首を横に振った。

「さて、もう少しだ――」

言って、荒い息を整えながらウロボロスを構えると、クラウディアは目を丸くした。

爆風の向こうを見据える。相手が倒れる事を確認するまで、油断は厳禁である。立ちくらみに似た感覚と全身に響く鈍痛と疼痛があるが――どうせ戦えば、そんなものすぐ忘れる。

徐々に煙が晴れていく。そこに、身体の半分ほどが吹き飛ばされたガルディニスがいた。どういう術を使っているのか知らないが……頭と胸と右腕ぐらいしか残っていないのに、宙に浮かんでこちらを睨んでいる。

手応えは充分だと思ったのだが、仕留め損ねたか。なら今度こそ引導を渡すまでだ。

魔力を循環で回して身体機能を整えながらも補強していく。

「認め……られん! 認めて、堪るものか……! この儂が!」

こちらに向かって右手を突き出し、そこに瘴気が収束していく。だが――閃光を放つ前に、手の先から崩れ落ちていった。

「……人間に……敗れるか。このガルディニスが」

それを目にしたガルディニスは静かに呟くと、音も無く地面に落ちた。循環を維持して、ウロボロスを構えたまま近付く。

「……お主、名前は?」

「テオドール=ガートナー」

言って、指輪を外して変身を解く。

「その名、その顔。確かに憶えた。管理者と行動を共にしているか。お主が迷宮の生み出したものという事なら、その腕前にも納得がいくが……」

「残念だが、それは違う」

「ほう? それはますます興味深い。となれば、失伝したはずの転移魔法の出所が気になるところではあるな」

ガルディニスは肩を震わせて笑った。ガルディニスの身体に亀裂が走り――その内側から光が漏れ出す。

「ともかく、お主はこの儂を退けたのだ。他の者になど後れを取ることは許さぬぞ? あの若造にも。無論、月光神殿のあやつにもだ」

「月光神殿にいるのは……」

「然り。最初の1人よ――」

そんな言葉を残して。最後まで愉快そうに笑いながら、ガルディニスは虚空に散った。

その姿を見届けて、大きく息を吐く。

戦いの緊張と熱狂が過ぎ去ると、否応なく自分の状態を直視させられるというか……怠いし重いし、あちこち痛い。打たせた脇腹は肋骨が折れている。

魔力循環で痛みを和らげて無理矢理動いてはいるが、これを止めると酷い事になりそうだ。

それにしても……色々と気になる事を言っていたな。

最初の1人というガルディニスの言葉。最古の魔人という意味で受け取っていいのだろうか。

自分の実力や矜持に関わるような言葉だけに、ガルディニスが嘘を言っているようにも思えない。

若造というのは――よく解らない。ガルディニスがこの場で言及するだけの実力を持つ魔人が他にもいるという事なのだろうが。最初の1人とやらの方はともかく、若造とかいう奴とはいずれ戦うことになる気がする。

んー。魔人連中のリーダー格だとか? この辺は多分聞いても答えなかっただろうという気はする。仲間を売らないギリギリのラインの言葉を選んでいたような気がするし。

失伝した転移魔法というのもな。魔法の階級が不明なわけだ。俺を迷宮の管理側だと推測したのはクラウディアが転移魔法を使っていたというのと、俺が子供だからという部分があるのだろう。

まあ転移魔法について言うなら、シルヴァトリアには密かに伝わっているんじゃないかと思うが。

「魔法の反動は、大丈夫かしら?」

色々と思案していると、クラウディアが尋ねてくる。間近で接したからか、俺が何をしたのか大体理解している様子である。

「まあ、何とか」

「そう……良かった。却って邪魔をしてしまったのかしらね」

「そんな事はない。助けてくれようとしたのは有り難く思うし、途中で思いついた作戦だったから。心配させたのは悪かったと思う」

そう返答すると、彼女は苦笑した。

クラウディアの行動も折り込み済みの動きだったのは、俺がヤバくなったら転移してくる事もあるかなと最初から思っていたからだ。だから即座に対応できた部分がある。

コンパクトリープが誰かと一緒に移動できない魔法であったなら……また別の手立てを考えていたけれど。

転移魔法。距離制限付で、しかも上級。転移と言っても強固な結界などは飛び越えられないが、強力な武器になることは間違いない。きっちり使いこなしていきたいところだ。

地上の方は――半魔人が力を失ったという報告が通信機に入ってきている。ガルディニスが倒れた事で、奴の施した術が破綻でもしたのかも知れない。精霊殿のゴーレム達もこの辺りは全部粉砕してしまったようだし……グレイス達も勝った。このまま、少し休憩させてもらうか。

循環を維持したままでその場に腰を下ろす。ウロボロスが何処か心配そうな声を上げたので頭を撫でておいた。

「テオ!」

程無くして、グレイス達も入口から飛び込んでくる。

「テオドール様!」

アシュレイが俺の様子を見て血相を変えて走り寄ってくる。他のみんなも心配そうだ。ああ。あちこち血塗れだからな。

「心配かけてごめん。勝ったから」

「はい……」

「みんなは、怪我してない?」

一応カドケウスで見てはいたが。全体的に見ていたので、細かな傷までは把握し切れていないところもある。

特にグレイス。ヴァージニアに止めを刺す時、浄化の水晶で自分の掌ごとという感じで動いていたはずだ。

「怪我らしい怪我はありません。私もこの通りです。アシュレイ様が治してくださいました」

と言って、グレイスは真っ白な手を見せてくれた。アシュレイが治療したという事は、傷を負った直後は浄化の水晶による傷だったので再生が上手く働かなかったというところか。それでも傷痕さえ見当たらないのは、さすがの回復力である。

「うん。良かった」

目を閉じる。アシュレイが俺の背中に触れて、魔法による治癒を始めた。痛みと怠さが和らぎ、暖かさが身体に広がっていく。

「こんな……内側にまで損傷を受けて――」

アシュレイは治癒魔法用に身に着けたソナーで俺の状態が分かるらしい。打たせた脇腹など、ダメージの大きい所から的確に治療していく。

「半分は自分のせいだよ。上級魔法の反動と……後は魔人の打法かな。防いではいたんだけどね」

「大変な戦いだったのですね」

アシュレイは治癒魔法をかけながら背中から抱き着いてきて、俺の心臓の鼓動を聞くかのように頬を当ててくる。胸の所に回された彼女の手に触れると、巻き付けてくる腕の力が少しだけ強くなった。

血を水魔法で洗い流し、グレイスの呪具を発動させる。グレイスは微笑んで、そのままそっと首に手を回してきた。マルレーンも心配そうな表情で隣に来ていたので笑みを向けて、髪を撫でて引き寄せた。

「――よし」

たっぷりと休んでから立ち上がる。

魔力の底上げのために生命力を注ぎ込んだ分は、すぐに回復するものでもない。少々気怠さはあるが……まあこれはゆっくり休ませてもらえれば段々と元に戻るだろう。

それよりも、まだ回収するべき物が残っているのだ。

「……その辺に、ガルディニスの持ってきた魔人の宝珠が転がっていると思うんだけど」

魔人の宝珠。ガルディニスは瘴珠と言っていたか。

戦闘の余波であちこち壊したからな。水晶の欠片の中に埋もれてしまっているかも知れない。まさか壊れてはいないだろうと思うけれど。

「それならその辺だと思うわ」

クラウディアの示した近辺を捜索すると、すぐに瘴珠も見つかった。触れないようにレビテーションで浮かせて保持する。

「後は精霊殿の宝珠だな」

「私が回収に行きましょうか?」

クラウディアが言う。

「……ここの守護者って、半分は迷宮の管轄外じゃなかったっけ。クラウディアは攻撃対象にされにくいみたいだけど、宝珠の守護っていう目的に真っ向から反する事をするとさすがに攻撃されるんじゃないか?」

「そう……かも知れないけれど」

やっぱりな。

「なら、みんなで行こう。クラウディアには宝珠2つを転送してもらうっていう事でいいかな?」

「ええ。物品の転送なら簡単なものだわ」

よし。それで今日の仕事も達成だ。後は赤転界石で撤収するという方向で。

通信機に魔人撃破の報を入れてみんなで精霊殿へと歩く。その道すがら手に魔力を込めて、こねくり回す。感覚を忘れないうちに、といったところだ。

ガルディニスの動きや戦い方。それから、技法。噛み合う相手だけに、参考になる部分も多かった。例えば内部に衝撃を浸透させる打法についてだ。

あれは俺も真似できるかも知れない。マジックシールドは勿論の事、対魔人戦でも、瘴気の防壁の上からダメージを与える事ができるだろう。

何度も身体で受けたから、何となく理屈もやり方も分かったしな。後で色々と試してみようと思う。