軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

135 結界敷設

「お待たせしましたテオドール様。マルレーン様も、お元気そうで何よりです」

マルレーンは嬉しそうに部屋に入ってきたペネロープの前まで行く。ペネロープも微笑みを浮かべて、マルレーンの髪をそっと撫でた。

ペネロープやオフィーリアはマルレーンの声が戻った事を知っている。話せるようになってからマルレーンが挨拶に行ったのだ。

マルレーンは喉が治っても滅多に話さないが、彼女達はそれについてとやかく言わない。彼女を見守っている良き理解者といったところである。

「お忙しいところ済みません、ペネロープ様。今日は孤児院の件でお話があって来ました」

「いいえ。デュオベリス教団の事と関係があるとお話を伺いました。緊急を要する話かと思いますので」

真剣な面持ちであるが、意外そうな様子はない。デュオベリス教団絡みの情報は当然ペネロープにも伝わっているようだ。

工房で実験をしてみたところ、動作確認もできたので、先に話だけ通してしまおうというわけである。

という事で孤児院周りに結界を張るに当たり、まずは巫女頭のペネロープに打診する事にした。運営母体が月神殿なので、許可を貰うにしても彼女に話を通すのが筋だし手っ取り早い。

「デュオベリス教団の信徒が孤児院を狙う事も想定されます。なので、孤児院に防犯設備を、と思った次第です」

どっちにしても孤児院は西区にあるしな。あまり治安の良い場所ではないし。

「防犯設備ですか?」

「そうです。魔術的な詳しい話は省きますが……契約魔法、結界魔法を連動させて、部外者が敷地内に侵入した場合、警笛を鳴らそうというわけですね」

「それは……素晴らしい魔道具ですね。子供達の安全のためです。私が責任を持ちますので、どうかお話を進めていただきたく思います」

「ありがとうございます」

シーラとイルムヒルトがペネロープに頭を下げた。

「彼女達は孤児院の出身なのです」

「まあ、そうでしたか」

2人の言葉に、ペネロープは相好を崩した。

「それで、お代の方ですが」

代金か。アルフレッドと話し合った結果として、この警報装置は貴族家や大商人辺りの注文を想定している。

いずれは結界魔法自体も魔道具化してしまう形になるだろう。大体1000キリグぐらいという見積もりになった。とは言え、まだ実験段階なので――。

「500キリグでどうでしょうか。結界維持の触媒と、動力となる魔石に関してはそちらに負担していただく形になりますが」

「それはまた……こういった魔道具の設備にしては随分と安い気がしますが」

「宣伝と実地試験も兼ねていますからね」

先行投資だと思えば安いものだ。実際500でも結構利益も出ている。

と言うか、今回の目的は孤児院の防御にある。魔人崇拝なんてしている連中の手で、目の届く範囲に手出しされるのは不愉快極まるからな。

「後は孤児院への書状を 認(したた) めていただければと思うのですが。その、変装用の指輪を使用して行動しようと思っていますので」

ペネロープはアルバートとマルレーンの協力者でもある。変装の事も知っているそうなので、率直に協力を求める事にした。

「ああ。そういう事でしたか。でしたらそれには及びません。代わりに私も同行させていただいて宜しいでしょうか?」

「ペネロープ様がですか?」

「はい。院長のサンドラ様にも挨拶をしたいので」

ペネロープは胸に手を当てて微笑む。まあ……そっちの方が話が早いか。

「では明日、お迎えに上がります」

「よろしくお願いしますね」

明くる日。魔道具が出来上がってきたので、早速変装用の指輪を付けてマティウスの姿となって、ペネロープと共に孤児院へ向かった。

シーラとイルムヒルトは今の時期は我慢する、と留守番中である。

「ペネロープ様!」

「ペネロープ様だ!」

「あらあら」

馬車から降りると孤児院の中庭にいた子供達が集まってくる。お目当てはペネロープのようだ。子供達に慕われているところを見ると、彼女も割と足繁く孤児院に足を運んでいるのかも知れない。

「これはペネロープ様。よくいらっしゃいました」

孤児院の院長サンドラが子供達から少し遅れて建物から出てくる。

「こんにちは、サンドラ様。今日はデュオベリス教団の一件で大事な話があって来ました」

「デュオベリスの……。と、ともかく中へお入りください」

サンドラに案内されて孤児院の一室に通される。

「こちらの方は東区にあるブライトウェルト工房のマティウス様です。マティウス様。こちらは院長のサンドラ様です」

「マティウスです。初めまして」

「初めまして。院長のサンドラと申します」

サンドラ院長と俺は面識があるのだが、変装指輪を装備しているので初対面という事で自己紹介する。

ペネロープは互いに名乗ったところで頷くと、本題に入った。

「こちらにも騎士の方々が巡回に来ているので話は聞いていると思いますが」

「はい。南門で騒ぎになったと聞いています。それで、異界大使様がこの孤児院の警戒をしてくださるよう騎士団に掛け合ってくださったと」

「そうですね。有り難い事です」

ペネロープは一瞬俺の方を見て微笑みを浮かべる。それから警報装置の事をサンドラに話して聞かせた。

「実はこの機会に、工房の方から新しい魔道具の実地試験をさせてもらえないかとお話がありまして。詳しい説明はマティウス様の方から」

「では、説明を――」

サンドラが頷いたので魔道具の事を説明して聞かせる。設置する品物自体は木箱の四方に笛とメガホンが付いたような代物だ。何分突貫工事であったもので、あまり見てくれに気を遣っている時間が無かったとは、アルフレッドの弁であるが。まあ、性能が本物なら良いだろう。

「なるほど……つまり、鳴子のようなものでしょうか?」

「そうですね。侵入する相手を識別できる点が利点となるでしょうか。この箱を高い場所に取り付け、結界で孤児院を覆うわけです。結界線を通行証を持たない者が越えた瞬間、箱が作動して警笛を鳴らすというわけです」

通行証は魔石を埋め込んだ木札だ。紐を通して首などから提げておく形でいいだろう。既に契約魔法で木箱と木札は結びつけてある。

利便性と効率を考え、結界で敷地を丸々覆って常時識別という形でなく、結界線を越えたタイミングで相手を識別する。また線を引いて固定する事で、ある程度結界の範囲と形にも融通が利く。部外者が立ち入り可能な場所を設けたりと、臨機応変に対応できるというわけだ。

但し結界線での識別とは言え、結界は結界。囲った内側全体に一応効果は及んでいる。なので、結界の内側への転移などが行われた場合にも、魔力異常を感知して反応するようにできている。まあ、そこまでは必要がないとは思うが、念のためだ。

「……すごい魔道具ですね」

サンドラは目を瞬かせている。

「特に問題がないようでしたら、設置に取り掛からせてください。門から応接室までを除いた場所を囲うように結界を敷きますので」

「どうかよろしくお願いします」

「ご理解頂きありがとうございます。この通行証はサンドラ様がお持ちください。他の通行証とは少々作りが違いますので」

院長用の通行証を手渡す。

「では作業してきます。その間に孤児院の皆さんに木札の説明をよろしくお願いします」

「分かりました。どうかそちらはお任せください」

話は纏まったので退室して作業に取り掛かる事にした。ゴーレムを使役して、触媒と魔石を溶かした結界線用の塗料で線を引いていく。門柱から始まり、塀の内側を沿うように敷地内をぐるりと一周してくる。門から中庭――正面玄関までの来客が歩くためのスペースを残して結界線を引いていく。

更に建物の中。玄関から応接室までの道を残し、応接室内部とそれ以外の場所を分けるように線を敷けば出来上がりだ。部屋の隅、天井。三次元的に部外者が立ち入れる空間を残すように結界線を構築していく。

中庭には首に木札をぶら下げた職員と子供達が顔を出しており、興味深そうに俺の作業を見守っていた。あちらの説明は終わったのだろう。

サンドラに結界線を見てもらってから、魔道具本体の設置場所を決める。2階の軒先、よく音が響きそうな場所に設置箇所が決まった。魔石を交換するのも、近くの窓から手が届くのでそんなに難しくないだろう。

木箱を土魔法で固定していく。更に結界の線と木箱を繋いで――。準備完了だ。

「じゃあ、結界を張ります。通行証の配布は大丈夫ですか?」

「はい。こちらは問題ありません」

「では……」

結界線に触れて魔法を発動させる。マジックサークルを展開してアルフレッドの記述に従って術式にアレンジを施し、魔道具と結界を連動させていく。線に沿って光が走り……結界が動作したのを確認した。

「では試してみます」

身に着けていた木札をゴーレムに渡して、結界線を跨ぐ。

と――その瞬間、木箱がけたたましい音を鳴らした。

「サンドラ様。先ほどお渡しした木札に手を重ねて、風が止まるように念じてみてください」

「か、風ですか?」

「そうです」

サンドラはやや戸惑ったような様子を見せたが、言われた通りに木札に手を重ねる。

一瞬遅れて、騒音が鳴りやんだ。ゴーレムから木札を受け取り、結界線を跨ぐ。今度は動作しない。設定した通りだが想定通りの動作がきっちり確認できるというのは中々気分が良い。

「……良いみたいですね。通行証には少量の血液を付着させておいてください。それが本契約の証となり、他人が盗んだり、奪って使うという事ができなくなります」

通行証は限られた時間で作れるだけ作ってもらったが、人数分の通行証はさすがにまだ用意できていない。本契約をしないままで運用する外来者用の通行証を、しばらくの間使い回してもらう形になるだろう。

通行証、特に持ち主のいない物の管理の仕方については口を酸っぱくして言っておく必要があるだろう。これが盗まれたり紛失したりしてしまうと大変だ。通行証には番号が割り振ってあり、個別に契約破棄できるようにはなっているが。

とは言え、種が割れていなければ警戒も対策もできない。もしデュオベリス教団の信徒が動けば、最初の一回は間違いなく無防備に引っかかる事になるだろう。後は騎士団との連携で運用していく形だ。

もっとも……出番が無ければ無いで平和で良いのかも知れないが。