軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 境界都市のギルドにて

契約書にサインをして賃貸の手続きを終えたので、まずは外門近くの厩舎に預けてあった馬車を受け取りに行き、馬車で家へ戻って車内に詰み込んでいた荷物を家の中へと運び込んだ。

積んであった荷物というのは実家から持ってきた毛布に衣類、調理器具に食器類といった細々としたものや、旅の途中で買ったものの消費できずに余った食料品などだ。

とりあえずはこれだけで数日の間、最低限炊事と寝泊まりといった事はできるだろう。

寝台や机、ソファなどといった大物の家具についてはまた今度だ。グレイスと二人で、街を巡ってゆっくりと買い物に行けばいい。

今日はロゼッタと一緒に街を巡るという事で、彼女と一緒にするべき事を先に片付けてからという事になる。

となると、次にするべきはペレスフォード学舎に行って、籍を置くための手続きをしに行く事、だろうか? グレイスが御者を務める馬車に乗って、家からすぐ近くの学舎まで移動する。

学舎は歴史のある建造物だ。敷地を取り囲む高い塀には蔦が絡んでおり、いい具合に古めかしい風合を出している。

大きな敷地内には幾つかの建物が建てられているのだが、今回用があるのは事務方だけだ。

入口から程近い小さな建物に入ると、カウンターの向こうで事務仕事をしている職員が見えた。

「何の御用でしょうか?」

「入学の手続きをよろしくお願いします。これが紹介状になります」

父さんが書いた紹介状を提出すると、職員は封蝋と書状を検めて頷く。

「こちらの書類に必要事項をご記入頂けますか?」

事務的な口調の職員の案内に従い、書類に必要事項を記入し提出する。職員はそれに目を通し、首を傾げた。

「入寮のご希望はなさらないのですか?」

「市内に家がありますので必要ありません。貴族教育を受けに来たというわけでもありませんし」

「そうですか」

職員のその質問は単なる確認だったのか、特に根堀り葉堀り聞かれるという事も詮索される事もなく、入学金として500キリグを支払ってペレスフォード学舎に在籍という形になった。

随分あっさりとしたものだ。別に事務手続きに一波乱求めているわけじゃないけれど。今日の所は手続きだけで充分だろう。その他の事はまた後日でいい。

「次はどうするのかしら?」

「ギルドですかね。馬を伯爵領に返さなければいけないので、その依頼を出してこないと」

馬車の中で待っていたロゼッタに答えながら、次の目的地へ向かう。

ギルドに向かう理由としては依頼を出すだけではなく、フォレストバードとの事、錬金術師の紹介、風呂場用の魔石の買い付けなど、細々とした雑事もある。

「迷宮に潜る許可も貰うのよね?」

「まあ……そうですね」

ロゼッタはこちらの懐具合までは知らないし家の維持費をどうするかも話していないが、こちらの行動をある程度予想しているらしい。

「ほんの少し、戦いぶりを見せてもらってもいいかしら?」

「……それで納得してもらえるなら」

「私に言わせてもらえるなら、あなたの方が納得してくれれば良いのだけれど」

「それは無理です」

ノータイムで答えるとロゼッタは瞑目した。

納得。何に納得しろと。子供である事を理由に聞き分け良くしている事にか。

普通の子供ならそれでもいいのだろうが、俺はもうそうじゃないのだから。

別に、自惚れているわけじゃない。寧ろまだ足りないと思っているから力を求めている。

本当は今日迷宮に降りる予定は無かったのだが……まあ、良いか。

グレイスの斧は馬車に積んであるし、日を改めてロゼッタに同行してもらうというのも面倒だしな。浅い階層なら杖に不安があっても問題は無い。

「それより、ロゼッタさんって普段何をなさってる人なんですか?」

「あ、私? リサの子供にはどう見えるのかしらね?」

と、ロゼッタは頬に手を当てて微笑む。……何で嬉しそうなんだろう。

ええと。母さんの同期生で一緒に迷宮に潜った事があり、ある程度時間に融通が利くうえに経済的な余裕もある、と。

そして父さんはこちらで色んな方面に顔が利くと見込んで俺の事を頼んだわけだ。

なんだろうな。冒険者として一山当てたというのなら時間と金が余っているのは解らなくもないが。

候補としては宮仕え、冒険者ギルドの職員、ペレスフォード学舎の講師……それから――。

「盗賊ギルドの幹部ですかね」

「どうしてそうなるのよ……」

「いや、顔が広いようなので」

大穴を狙ってみたが違ったようだ。

「もうっ。私はペレスフォードで講師をしているのよ。治癒魔法担当ね」

「そっちの方でしたか」

不満げに唇を尖らせるロゼッタの姿にはあまり威厳や迫力がないが……。元々迷宮で活躍して治癒魔術師として名を馳せ、ペレスフォードで講師に落ち着いて、現在は後進の育成に当たっている……という感じだろうか。

顔が広くなるのも裕福なのも納得がいく。治癒魔法の腕は魔力の質により向き不向きがあり、腕のいい治癒魔術師は割と希少性が高いのだそうな。

因みにバトルメイジの循環錬気はおまけのようなものなので、その回復効果は本職の治癒魔術師に及ぶところではない。初級の治癒魔法も使えるけれど、俺の回復魔法なんて間に合わせ程度のものだ。

そんな話をしているうちに目的の場所に到着したらしい。

馬車が止まったので顔を出すと、そこはもうギルドと神殿のある広場だった。グレイスが笑みを向けてくる。

「テオドール様、到着しました」

「ん。ありがとう」

広場は雑多な人種で賑わっている。軽装の戦士や魔術師、弓を背負ったエルフ、槍を持ったホークマンといった冒険者連中がやはり目立つが、ギルドに依頼に来たり神殿の女神に祈りに来るのが目的という人も多く……まあともかく人の集まってくる場所だ。厩舎で馬車を預かってもらい、神殿の隣にある冒険者ギルドの建物の中へと向かった。

「いらっしゃいませ。当ギルドにどのような御用でしょうか?」

笑みを浮かべる受付嬢が出迎えてくれた。

「色々です。まず依頼のお話からですかね」

「お伺いします」

受付嬢にこちらの依頼の詳細と連絡先を話して聞かせると、受付嬢は必要事項を書類にまとめていった。

ちなみに紙は都市部では割と流通している。真っ白で滑らかな紙というわけではないし、大規模な魔法陣と魔石、熟練した魔法職人が必要にはなるのだが……。木魔法と水魔法、土魔法の複合術式で植物から分解し、生成するという方法が技術として確立されているのだ。

景久の知識では地球だと製紙技術が向上して大量生産可能になるまで、紙は高級品だったはずだ。こちらの世界の魔法文明、技術力はなかなか侮れないものがあると言えよう。

「ところでフォレストバードという冒険者達から、テオドール=ガートナーに伝言はありませんか?」

「ああ。彼らですか。昼過ぎぐらいからここに顔を出しているから、と言っていましたよ」

昼下がりから迷宮に向かう、か。フォレストバードらしいというか、冒険者らしい緩さではある。

「解りました。こちらからも伝言なんですが、彼らが来たらさっきの連絡先を伝えてくれますか?」

「指名依頼ですか?」

「いえ。もっと個人的な話です。それから、ベリーネという方からの紹介状があるのですが」

「――ベリーネ?」

それまで淀みなく羽根ペンを走らせていた彼女の手が止まった。

「……知り合いですか」

「えっ、ええ、まあ」

……紹介状を手にした受付嬢の笑顔が、多少引き攣っているような気がしなくもないが……まあ、詳しく聞くのは止めておこう。

ベリーネの書状に目を通して、受付嬢は頷く。

「……錬金術師、ですか。解りました。こちらにある情報を当たってみます」

「その前に冒険者登録を。僕と彼女です」

「お二人が、ですか? 蟻の群れを倒したというのは本当なんですか?」

「はい」

子供の冒険者はそこまで珍しいものでもないだろうが、格好が格好だからな。冒険者をわざわざ選ぶようには見えないんだろう。訝しがるのも解らなくはないが……。

やっぱり魔術師のローブや杖を先に買いに行っておけば良かったか。

それでも受付嬢が拒否する理由にはならないらしく、手続きは滞りなく進む。書類を確認して受付嬢は頷き、言った。

「承りました。こちらの用紙にご記入を。代筆が必要ならお申し付けください」

「大丈夫です」

「私も同じく」

二人で書類に必要事項を書き込んでいく。

必要事項と言ってもそれほど大した事は聞かれない。名前、何が得意か、現時点での滞在先。その程度の物だ。あまり詳細に、厳密に審査すると冒険者本来の意義から外れてしまうからだろう。

俺なら得意な物は魔法だし、グレイスなら近接戦闘となる。その程度のアバウトな情報でいい。

望むなら必要としている冒険者パーティーに紹介するだとか、得意そうな冒険者に依頼を持ちかけるといった事もする。そのためにこういう情報が必要なのだろう。

「確認させていただきました。それでは注意事項の説明に移らせていただきます」

曰く、冒険者は国が身分を保証する。先人達の功績に恥じない行動を心掛ける事。著しく品位と名誉を汚した者にはギルド側の面子にかけて討伐や捕縛の依頼を出す場合がある、等々。

決まったノルマは無いが、あまりサボっていれば勧告が来たりする。どんな実績を上げたかは記録には残るし、どんな仕事に向いているかとか、色々ギルド側からも査定されるらしい。

明確なランク分けというものは存在しないが、頭角を現せば噂にもなる。実績があればギルド側も紹介状を書いてくれる……というように、色々と融通してくれるし仕事を優先的に斡旋してくれたりする。だから一目置かれるためには地道に仕事をこなしていく必要があるというわけだ。

但し境界都市の冒険者に限っては、その実力を見るために、他に丁度良い判断材料がある。そう。迷宮の何階まで到達しているか、だ。

より奥の階層に進めば進むほど総合的に優れた能力を持つ冒険者だと見られる、というわけである。

「それでは先程の書類の記述を基に、魔石板に情報を書き込みます」

受付嬢がカウンターの下から取り出したのは隅に小さな魔石が埋め込まれた金属プレートだ。これは冒険者の身分証明であり、軍隊のドッグタグみたいな目的で使われている代物である。

魔法の術式を刻むのと同じ要領で、名前や得意な事、実績といった情報を魔石に刻み付けるわけだ。

「この魔石板は、あなた方の名前が刻まれています。冒険者である事の身分証明になっておりますので失くさないようにお気をつけて。もし迷宮内でこれが落ちているのを見かける事がありましたら、可能な限りの回収をお願いいたします」

「わかりました」

二人して頷く。落ちている、という表現はまた迂遠だが。

要するに死者の身元確認が容易なわけだ。このプレートを使うと。

「それではお二人はこれから冒険者ですが……大迷宮に入る許可を出すにはいくつかの講習を受ける必要があります。あちらの窓口から手続きをしてください。ベリーネの書状の内容については、講習が終わるまでにはお二人に情報をお渡しできるかと」

講習が終わればようやく迷宮に潜れるわけか。中々感慨深いものがある。

ふと金属プレートから顔を上げると、何やら若い冒険者グループの男達と目があった。何やらこちらを値踏みするように見ていたが、視線があった事に気付くと、向こうから立ち去っていった。

格好が格好だけに、与し易いとか思われたんだろうか。……面倒な事にならなきゃ良いがな。