軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ティーナさんのお願い

「わたし、ティーナさんのところに行くね」

私とやる事リストの作成をし出した支団長さんに別れを告げ、廊下に出る。

ティーナさんはどこにいるのかな。

今はお昼の休憩時間だからと食堂に向かってみたが、そこにはいなかった。けれど代わりに他の騎士から「ウッドバウムのところに行ったみたいだぞ」という証言を得られたので、外へと向かう。

「ティーナさん、ウッドバーム!」

うさぎリュックを背負ったまま、木陰に座っている二人に駆け寄る。ティーナさんはウッドバウムのブラッシングをしてあげていたみたいだ。

この前の泉の効果もあってか、やはりウッドバウムの毛艶は良くなっている。でも本当はもっと美しい牡鹿なんだろうな。

「あ、ミルちゃん」

ティーナさんは笑顔でこちらを向いた。

「ウッドバーム、きもちよさそうだね」

「うん、気持ちいいよ」

ウッドバウムは座ったままだらりと頭も地面につけて、リラックスした様子で首を伸ばしている。

「朝にもレッカが体を拭いてくれたんだ。毎日やってくれる。普通の汚れじゃないから、ブラッシングや体を拭いたくらいではやはりなかなか効果は出ないけれど、騎士たちの気持ちが嬉しくて、何だか心が温かくなるんだよ」

「それ、わかるよ」

私も毛づくろいのつもりでウッドバウムの鼻筋を舐めてみた。木の味がする。

「ひんやりするね」

ウッドバウムは冷たかったようだ。

「ところで、ティーナさん」

自分の鼻もペロッと舐めながら、ティーナさんの方へ顔を向ける。

「荷物がとどいてるよ。お母さんからみたい」

「ありがとう。何かしら?」

ティーナさんは私の前足を持ち上げてうさぎリュックを外すと、中から小包みを取り出した。

ジルドと違って丁寧に包みを開いていくと、そこには短い手紙と美味しそうなクッキーが入っていた。

ティーナさんはまず手紙を開いて読み上げる。

「『ティーナへ。元気でやってる? 久しぶりにクッキーを焼いたから食べてね。お父さんもお姉ちゃんたちも食べてくれないけど、ティーナは昔から好きだったわよね。毎年のことだけど、北では寒くなるだろうから体に気をつけるのよ。春になったらまた顔を見せに帰ってきてね。待ってるわよ。お母さんより』だって」

ティーナさんが嬉しそうにほほ笑むと、私もほっこりしてしまう。

ウッドバウムもにこにこしながら言った。

「そうか、当たり前かもしれないけど、人間にもそういう温かな親子の絆があるんだね。成人していても、親は子どもの事が心配なのかな?」

「たぶんいくつになっても、母にとって私は子どもなのよ」

少し恥ずかしそうにティーナさんは言った。私がクッキーの事を気にして匂いを嗅いでいると、「食べる?」と一つ差し出してくれる。

「いいの?」

「たくさんあるから。でも堅めのクッキーだから気をつけてね。私はこの堅さが好きなんだけど、家族の中では不評なの。作った母も食べないのよ」

堅焼きクッキーって事かな。サクサクしたのやしっとりしたのも好きだけど、ザクザク堅いのも好きだよ。

「はい、あーん」

ティーナさんに食べさせてもらって、少し厚めの一口大のクッキーを頬張った。

ガリガリと音を鳴らしながら歯で噛もうとするが、一向に削れない。何これ。石かな?

「ウッドバウムさんもどうぞ。あーん」

「ありがとう。美味しそうだね。…………ん?」

ウッドバウムと二人、困惑しながら堅いクッキーを口の中で転がす。一方でティーナさんはクッキーを口に入れ、簡単に噛み砕いていた。歯が強い。

「あー、美味しい! 母って料理がすごく下手なんだけど、このクッキーだけは美味しいのよね」

二つ目を口に入れながら、独り言のように呟いている。

料理が下手? それはティーナさんのぬいぐるみ制作の腕レベルで壊滅的に下手という事だろうか。

とするとこのクッキーも狙っての堅焼きではなく、失敗した結果のこの堅さという事? ティーナさんのお母さんはクッキーを焼く時に毎回失敗していて、それを喜んで食べるのはティーナさんだけという話?

私は呆然としながら飴玉のように堅いクッキーを舐めた。この水分のなさなら、非常食としては優秀かもしれない。騎士団で遠征の時に持っていく食料として採用してもらってはどうだろうか。歯が折れるから駄目か。

「二人とも、もう一つ食べる?」

「ううん、まだ口の中にのこってるから……」

「僕も……」

口の中の水分を全て吸収していくのに、クッキーは一向に柔らかくならない。何なんだ、この物体は。

けれど幸いな事に味はちゃんとクッキーで、まずくはないので、口の中に入れておいても苦痛ではない。ずっと舐めていればいつかは柔らかくなるだろう。

口をもごもごさせながら話を変え、ティーナさんに尋ねた。

「そういえば、レッカさんはどうなったの? 一人べやに変わるの?」

「いいえ、その様子はないわ」

ティーナさんは暗い顔をしてクッキーを仕舞うと、首を横に振った。

「たぶん副長に駄目だと言われたんだと思う。一人部屋なのは支団長と副長だけだから」

「そっか」

「ねぇ、ミルちゃん。一つお願いがあるんだけど……」

ティーナさんはそっと言う。

「お母様の許可が出たら、今夜、私の部屋に泊まりに来てくれないかしら?」

「へやに?」

「そう、それで寝ている間に私が変な事をしていないか調べてほしいの。もしかしたらすごいいびきをかいてるのかもしれないし、歯ぎしりをしてるとか、寝言がうるさいのかも。それでレッカさんは私の事……」

ティーナさんは本気で自分のいびきや寝言が原因かもと心配しているようだ。それはないと思うけど。

「春におつかいにいった時、宿でおなじへやに泊まったけどだいじょうぶだったよ」

「あの時はいつもの自室ではなかったから完全に気を抜いていなかったし、たまたま大丈夫だったのかもしれないわ。お願いミルちゃん。心配なの。せっかく憧れの人と一緒に仕事ができるっていうのに、嫌われたくないの」

ティーナさんはお座りしている私の左前足を取り、真剣な顔をして両手で包み込んだ。

私も夜は爆睡するから気づけない可能性はあるけど、あんまり酷いいびきをかいてたりしたら起きられると思うし、ティーナさんにこれだけ頼まれたら断れない。

「わかった、いいよ」

「本当? ありがとう、ミルちゃん!」

握った前足を握手をするように振って、ティーナさんはホッと息をついた。

「一体、何の話をしているの?」

そこでそれまで黙っていたウッドバウムが口を開く。ティーナさんは騎士たちには相談していないようだけど、あまり関係のないウッドバウムなら言っても問題ないと思ったようで、レッカさんとの事を説明した。

するとウッドバウムはのほほんとした答えを返す。

「レッカはたまには一人でのんびり寝たいと思ったんじゃないのかな」

いやいや、本当にそれだけの理由で一人部屋を希望したんだとしたらレッカさん自由過ぎるよ。

「ティーナもそれほど気にする事ないのに。面と向かって嫌いだと言われたわけではないんだろう?」

「それを気にしちゃうのが、にんげんなんだよ」

私もティーナさんと同じ状況になったら、すごく気にすると思う。

「そうか、人間は大変だね」

ほんと、私もそう思うよ。それに比べて子ギツネ生活のなんて気楽な事か。遊んで食べて寝てるだけだもん。

ちょっと大変だなと思うのは、母上の特訓と、あとは砦のみんなや父上、クガルグに平等に会いに行かないとそれぞれが拗ねちゃう事くらいかな。結構気を遣わないといけないのだ。

(あ、そういえばしばらく父上に会いに行けてないな……)

最近忙しいからなぁと思いつつ、一旦父上の事は置いて、ティーナさんたちに声をかけた。

「ちょっと、せきがんのきしのところに行って来るね。また夜に来るからね」

「ええ、ありがとうミルちゃん」