軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アニキと遊ぶ

「それでね、新しくとりでに来たひとはレッカさんっていうの」

「そうか」

レッカさんとの初対面から三日が経ち、私は母上のパトロールに同行しながら一人でぺらぺらと砦の事情を喋っていた。どうやら母上は砦の騎士の事にはあまり興味がないようで、気のない返事をされる。

母上は雪の上をゆったりと歩いているものの、脚の長さが違うので、私は時々小走りにならざるを得ない。

ぴょこぴょこと雪を越えながら続けた。

「レッカさんはきれいでやさしいの。わたしにはすごく、ていねいだし」

そろそろ私のお馬鹿さにも気づき始めているかもしれないが、まだちゃんと精霊様扱いしてくれるのだ。

「それはよい事じゃ」

「でもキックスとかとは、まだ仲よくなくて……」

喋りながらせかせかと足を動かしているので、やがて息が切れ始めた。すると母上は立ち止まって、冷たい舌で私の頭を舐めてくれる。

レッカさんは私には丁寧で、笑顔も見せてくれる。支団長さんや隻眼の騎士には礼儀正しく忠実で、ティーナさんには優しい。

けれど私に対してフレンドリー過ぎるキックスには眉をひそめていて、昨日も食堂でこんなやり取りがあった。

ごはんを食べ終えた後、隻眼の騎士が席を外した隙にキックスがしつこく構ってきたから、ちょっと嫌がっていた時の事だ。

『いいじゃんか、思う存分撫でさせてくれよ。仕事疲れたんだよー』

『やだ』

隻眼の騎士などにはいつでも撫でられたい私だが、撫で方が雑なキックスには、撫でられてもまぁいいかなという気分の時と、今日はあまり触られたくないという気分の時があるのだ。

そしてその時の気分は後者だった。

『頼む! 腹の毛を! ふわふわな腹の毛を触らせてくれ!』

『やだやだやだ』

くるんとひっくり返されて仰向けにされたので、短い四本の足で、お腹に顔を埋めようとしてくるキックスをポコポコ叩いた。隻眼の騎士とか支団長さんとかティーナさんにはできない事なので、これはこれで楽しくもある。

しかしそこに現れたのがレッカさんだ。彼女は私が心の底から嫌がっていると思ったらしく、キックスに注意をした。

『キックス、いい加減にしろ。ミル様が嫌がっている。精霊様には敬意を持って接するべきだと言っただろう』

『……新参者に口出されたくねぇんだけど』

一気に空気が悪くなり、私は間に挟まれたストレスでハゲそうになりつつ、おずおずと起き上がってレッカさんに言った。

『レッカさん、ありがと。……でも、私はキックスのこと友だちみたいに思ってるの。とりでのみんなは家族だよ。今さらかしこまられたら、そっちの方がいやだよ』

レッカさんは少し戸惑った様子だったものの、すぐに頭を下げた。

『そうでしたか。出過ぎた事を致しました。申し訳ありません』

『そ、そんな、あやまらなくったっていいよ! あ、レッカさん……!』

『ほっとけ』

レッカさんは食堂を出て行ってしまい、それきりだ。

あー、今日の砦の雰囲気はどうなっているのか、行くのが怖いなぁ。夜のうちに、何だかよく分からないけど、かくかくしかじか何だかんだあって仲良くなっていてほしいなぁ。

レッカさんが直接言い合っているのはキックスだけのようだが、その他の砦のメンバーにも他人行儀な態度は続いている。まだ砦に来て三日なので仕方ないといえば仕方ないけど、馴染むのには時間がかかるかもしれない。

やっぱり本団で仲間から倉庫に閉じ込められそうになった事が尾を引いているのだろう。警戒心も残っていて、野生動物のように弱みを見せたら最後だと常に気を張っている感じもする。

キックスは確かにガサツだけど私の遊び相手になってくれたりしていいところもあるし、他の砦のみんなの事も警戒する事ないって、早く分かってもらえるといいな。

「ミルフィリア、もう昼だというのにまだ寝ぐせがついておるぞ」

「レッカさん、早くうちとけるといいなぁ」

「何故こんなところに渦ができておるのじゃ。どういう寝方をしたらこうなる」

舐められて気持ちよくなり、雪の上にごろんと横になって、私は母上と咬み合わない会話を繰り広げたのだった。

母上とのパトロールを終えて移動術で砦に向かうと、隻眼の騎士はまだ執務室でお仕事中だったので、終わるまで外へ出て遊ぶ事にした。

厩舎へ行ってみたが、リーダーたちは放牧されているのか中は空っぽだ。

どうしようかな。

人の気配を求めて表の方へ歩いて行くと、門のところには門番のアニキが立っていた。他の騎士たちと同じように仕事をするから、門番のアニキは門番じゃない時もあって、見回りのアニキだったり、訓練中のアニキだったり、雑用のアニキだったりするんだけど、今日はちゃんと門番だ。ちゃんとっていうのもおかしいけど。

「あにきー」

てってこ走って、アニキに近づく。

「ミルか」

アニキはしゃがんで私を撫でた。舌を出して笑って、アニキの足の間に収まる。日が遮られていい感じ。

アニキは何となく隻眼の騎士に雰囲気が似ている。頼りになりそうなところとか、めったな事では怒らなさそうなところとか、髪型とか。

だけど顔は隻眼の騎士より柔和で、北の砦の騎士たちの中では、いかつさレベルは低めかな。軍人って感じの空気はあるけど。

何でもそつなくこなして、マメそうで、女の人にモテそうな感じもする。

「ミル、横っ腹につむじみたいな渦ができてるぞ、何だこれ」

それ、寝癖。

アニキが手で毛を梳いてくれたけど、簡単には直らない。

いいよ、気にしないから。それより隻眼の騎士がお仕事中だから、一緒に遊ぼうよ。

なんて思ってたら、アニキはその気持ちを正確に読み取ってくれて、門の隣にある詰め所からおもちゃを出してきてくれた。

私がねだって作ってもらった木の輪っかのおもちゃである。

みんなが張り切ってたくさん作ってくれたので、砦のいたるところに常備されているのだ。

最近は普通に転がすのではなく、フリスビーみたいに横にして投げるのが私と騎士の中での流行りの遊び方だ。

「ほらよ」

アニキも輪っかを遠くに投げてくれたので、私は喜んでその後を追った。フリスビーみたいに軽くはないから普通はそんなに遠くまで飛ばないのだが、砦の騎士たちの腕力があればぐんぐん飛んでいく。

ちなみに隻眼の騎士に投げさせたら、追いかける気力も湧かないくらいに飛ばされる。

木は口に当たったら痛いし、私はボーダーコリーみたいに運動神経がよくないので、空中でキャッチする事なんて到底できない。おもちゃが地面に落ちてから何秒も経って、やっと追いつくという有様である。だけど楽しいのだ。

私はおもちゃを咥えて一直線にアニキのところへ戻った。ただ地面に落っこちていたおもちゃを拾ってきただけなのだが、やったよ! 見て! 私ちゃんと拾ってきたよ! という高いテンションでアニキに突っ込む。

「よしよし」

そしてそのままおもちゃを放ってアニキに甘えていると、

「ミル?」

後ろから落ち着いた低い声が聞こえてきた。ハッとして振り向くと、そこにいたのは隻眼の騎士だった。もうお仕事は終わったらしい。

私の肉球にじわっと汗が滲む。

「お疲れ様です」

アニキの挨拶に頷いて、隻眼の騎士はまた私を見た。

浮気現場を目撃されたような気分でそわそわする。

私はぎこちなく表情を引き締めて、そうっとアニキから離れた。

そしていそいそと隻眼の騎士のもとに向かい、目は合わせないまま、何気ない感じで脚にひっつく。心臓がドキドキしている。

沈黙を破ったのは、隻眼の騎士とアニキが同時にフッと吹き出した笑い声だった。

「メシにするか」

隻眼の騎士は私を抱き上げると、浮気を責める事なく、そう言ったのだった。