軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊誘拐事件?(2)

フードの人は犬を飼っていたわりには下手くそな抱き方で私を持ち上げた。

脇に手を入れるだけじゃなくて、ちゃんとお尻も支えてほしいな。足がブランブランする。

「おい、もっと袋の口を開けろ」

「はい」

私は茶色い麻袋を見下ろした。

もしかしてそこに入れるつもり?

閉所恐怖症ってわけじゃないけど、袋に入れられるのはちょっと怖いかも。

隻眼の騎士に荷物の中に入れられても平気だったのは信頼関係があるからだ。息が苦しくなったりしても気づいてくれるって分かってるから。

でもこの人たちの事は信用してない。

「ひゃんひゃん!」

袋に詰め込むのは止めてと、鳴いて訴えた。

大人しそうな人が持ち上げている袋の口を、ばたばたと蹴って拒否する。

「お、大人しくしてくれ……」

「ひゃん……!」

しっぽをお腹の方に丸めて、うるうるとフードの人を見上げた。

怖いよ、やだよ。

「嫌みたいだ」

フードの人はあっさり折れてくれた。

困ったような声で、きりっとした人に助けを求めている。

「何をしているんだ、貸してみろ。私が入れる」

きりっとした人も抱き方が下手くそだった。

お尻を支えてって言ってるのに!

一度は手早く麻袋に入れられたものの、きりっとした人が引っ込めようとする手に縋りついて脱出した。

と同時に涙目できゅんきゅん鳴いて、相手の良心に訴える作戦を実行する。

「……仕方がない。俺が抱いていこう」

軽く頬を赤らめつつ、きりっとした人はきりっとした顔で他の二人に言った。

もしかして彼らは意外と扱いやすい部類の人たちかもしれない。

「じゃあ、こっちの炎の子は私が……」

大人しそうな人がクガルグを持ち上げようとしたが、クガルグは身をよじってその手を振りほどくと、私の方に身を寄せた。

「ほら、君はこっちだ」

何度引き剥がしてもクガルグはまた私の方へ戻ってくる。

それを健気だと思ったのか、三人は変に感動している。

「仲が良いんだな……」

「幼い獣が寄り添う姿に、何故これほど心が動かされるんだ?」

「分かりません。でも何だか、このおかしな仮装も可愛く見えてきました」

大人しそうな人の言葉に頷いて、きりっとした人が私とクガルグを抱え上げた。

「離れさせたら可哀想だ。私が一緒に運ぼう。行くぞ」

チンピラ風の男に合図を出して自分たちについて来させると、三人は入り組んだ路地を小走りで進んだ。

きりっとした人の抱き方に不満があるらしいクガルグは肩によじ登っている。

やがてほとんど人のいない街の端に出ると、そこにはすでに残りの仲間二人が馬を連れて待機していた。

黒尽くめの男たちは全部で五人いるのだ。

「おい、何だ、精霊のその格好は。目立ってしょうがないぞ」

「袋に入れて運ぶ手筈では?」

こちらの三人と同じような格好をした二人が、怪訝そうな顔でじろじろと私たちを見た。

「袋に入るのを怖がるんです」

「可哀想だろう」

「お前たちは嫌がる精霊を無理やり袋に閉じ込める事ができるのか?」

こちらの三人が順番に言うと、二人はさらに不思議そうな顔をする。

「何だか訳が分からないんですが」

そう言いながら近づいてくると、二人のうち目の下にうっすら隈のある人が慎重に手を伸ばしてきた。

「か、咬まないでくださいよ……」

恐る恐るといった様子で、人差し指の先を使っておでこを撫でてくる。

かゆい。撫でるならもっとちゃんと撫でてほしいな。

残った一人――フードを被って目元は見えないけど、鼻の大きな人――も、同じように緊張した面持ちで私の短い鼻筋を撫でる。

こっちも人差し指だけの使用だ。むずむずする。

撫でる場所もいまいち気持ちのいいポイントを外しているし、動物の扱いに慣れているとは言えないけど、黒尽くめの男たちは思っていたより怖くないかもしれない。

とはいえ、警戒心はしっかり持っていないといけないと思ったのに、「動物って、結構可愛いものなんですね」と隈のある人が言うものだから、思わずしっぽを小さく振ってしまった。

『可愛い』と言われるのは大好きだ。

「あ、しっぽを振っていますよ!」

「本当だ! これは喜んでいるのか?」

「撫でられて嬉しいんじゃないですか?」

「おい、雪の子だけでなく、こっちの炎の子も撫でてやらないと可哀想だ」

「じゃあ、俺が」

五人はクガルグに「シャー!」されつつ、輪になってわいわいと盛り上がっている。

そして輪の外ではチンピラ風の男が「何だこの人たち」と若干怯えた様子で五人と距離を置いていた。

黒尽くめの格好をした怪しい男たちが動物相手にはしゃいでいたら確かに怖い。

「お、おい、あんたら……」

気づけば、いつの間にかチンピラ風の男は三人に増えていた。声をかけにくそうな様子でこちらに寄ってきたのは、そのうちの一人だ。

きりっとした人が振り返って言う。

「お前たちか。奴らの様子はどうだった?」

「あんたらが言った通りに裏口も張ってたけど、宿から出てくる様子はねぇよ。今はダスとエリオが残って様子を見てる」

男の報告を聞くと、きりっとした人は宿にいる隻眼の騎士たちの事を鼻で笑った。

「呑気なものだ。あまりに無防備に精霊を外へ出すものだから何か企てているのかと思ったが、この状況でも動かないという事は単なる杞憂だったようだな」

「尾行もついていないですし、このまま私たちが馬で街を出てしまえば追ってくるのは難しいですからね。精霊だけを出歩かせたのが罠だったとしたら動くのが遅過ぎます」

黒尽くめの男たちはこれが罠である可能性に気づいていたみたいだけど、隻眼の騎士たちがあんまりのんびりしているから思い過ごしだったと結論づけたみたい。

「だいたい、ガウスやグレイルのように腕力だけが取り柄の奴らが“作戦”なんて考えると思うか? クロムウェルも野蛮な北の砦に行ってから脳みそが退化したのさ」

鼻の大きい人が言うと、他の四人も笑った。

私は団長さんも隻眼の騎士も理知的だと思うし、北の砦の皆や支団長さんを馬鹿にされるとムッとしちゃう。

ずっと一緒にいたから私も隻眼の騎士たちを贔屓してしまう部分はあるけど、この人たちもサーレル隊長さん側に立ってものを見ているからか、団長さんや支団長さんの力を正しく評価できていないのだ。

サーレル隊長さんより劣った人物だと思い込みたいのかもしれない。

でも、こちらの皆の事を侮ってくれているおかげで囮作戦は上手くいっているとも言える。

それに彼らは私とクガルグが移動術を使える事もこの姿で人の言葉を喋れる事も知らないし、幼い獣の見た目通り、まだ知能が低いと思って油断している。

ゴーダの街では人の姿でいるところも監視されていただろうけど、レガンを点々と落としていくというドジも見られているのだ。

悲しいけれど、馬鹿だと思われてるのは間違いない。

そして彼らは、この近くにもう一人精霊がいる事にも気づいていない。

何気ない感じを装って、私は空を見上げた。

ほぼ透明な鳥の姿のハイリリスは、近くの二階建ての建物の赤い屋根の上にいるみたいだった。そこだけ背後の青空が歪んで見える。

私と目が合うと、ハイリリスは『バレるからこっちを見るんじゃないの!』というふうに羽を動かした。

「奴らが気づく前に、さっさと王都に向かうぞ」

きりっとした人はそう言って、私とクガルグを抱えたまま馬に乗った。

どうやらこのまま王都に行くらしい。そこにサーレル隊長がいるからだろう。

そしてチンピラ風の男の一人に向かって、じゃらじゃらと音のする重そうな小袋を投げて渡す。

中にはお金が入っているみたいだ。

「約束の金だ。この二匹が街から消えた事に気づいて奴らが追ってくるようだったら、お前たち五人で阻止しろ。まぁ全く相手にならないだろうが、多少は足止めできるかもしれない」

その威張りくさった言い方に、チンピラ風の男たちは一瞬「なんだと?」と気色ばんだけど、

「倒せとは言わん。だがもし奴らに怪我を負わせる事ができれば、さらに倍の金を払ってやる」

「何? 本当か?」

そう条件を出されると、喜んで街の中へと戻っていった。隻眼の騎士たち、大丈夫かな。

その背中を見つめながら、きりっとした人は唇の端を持ち上げて笑う。

「はは、期待はしていないが、あんなごろつき相手にやられるような事があれば、奴らの騎士としての面目は丸つぶれになるな」

そういう事を言われるとやっぱりムッとしてしまうので、私は手綱を握るきりっとした人の手をちょっと強めに噛んでおいたのだった。

「いたた」