軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決戦前日

ハイリリスの情報通り、黒尽くめの男たちは私たちが王都に近づくまで動く気はないらしく、その日は何事もなく平和に過ぎていった。

時々ハイリリスは空を飛んで周りに怪しい人間がいないか探ってくれたけど、誰にも尾行されたりはしていないという。

数時間ごとに休憩を挟みつつ、夕日が沈む頃に、私たちはチェダスという街に着いた。

ゴーダの街とよく似た雰囲気の大きな街だが、私たちが着いた時には宿屋や酒場、食堂以外の店は閉まり始めていた。

街の門をくぐる前に、ハイリリスが警告する。

「この街で、あの怪しい男たちはあなたたちが着くのを待っているはずよ。街の中では騒ぎを起こすつもりはないみたいだけど、一応気をつけてね」

彼らが自分たちの計画通りに動くとすれば、二度目の襲撃はチェダスを出たところにある森の中という事になる。

つまり、今日はもう私たちは街から動かないので、決戦は明日になるだろう。

隻眼の騎士たちは街へ入る前に馬を降りると、私たち精霊と妖精を荷物の中に隠れさせた。

キツネと豹とヘビと派手な鳥と光の玉を連れてちゃ、目立ってしょうがないもんね。

黒尽くめの男たち以外の注目も浴びてしまう。

私とクガルグは隻眼の騎士が背負う大きなリュックの中に入って息を潜めた。

私にくっつくクガルグがご機嫌で喉を鳴らしているのを聞きながら、しばらく揺れる。

「ここには騎士団の駐在施設があったはずですよね。敵が人数を増やしたなら、私たちもミルちゃんたちを守るために、ここの騎士に協力してもらいませんか?」

「……仮にサーレルが今回の件の首謀者だとすれば、ここにいる騎士たちにも根回ししている可能性がある。あいつはとても用意周到だからな。これまで何度かその抜かりなさに感心した事があるし、評価もしているからこそ、今はどんな事でも疑ってかかるべきだ。ここの騎士の全員がサーレルの言う事を聞くわけはないが、一人でもサーレル側についた人間がいれば、協力する振りをして精霊を攫うという行動を取るかもしれん」

団長さんは厳しい声で説明しながら、ティーナさんの提案を却下した。サーレル隊長さんを含め、部下である騎士たちを疑わなきゃならないっていうのが辛いみたいだ。

ティーナさんも納得して頷き、連携の取れた五人で王都まで行くと決まった。

そこからまた五分ほど歩いたところで、

「着いたぞ」

と団長さんの声が聞こえてきた。どうやら今夜泊まる宿に着いたみたい。

「奴らが滞在している宿はここじゃないだろうな?」

団長さんは、ティーナさんの背負っている荷物に向かって声を掛けているようだ。そこにハイリリスが入っているから。

ハイリリスは荷物の中から顔を出して宿を確認したのだろうか、ごそごそと音が聞こえた後で「大丈夫よ。たぶんね」と返事をした。

「おや、騎士様? でしょうか。いらっしゃいませ。宿のご利用で?」

「ああ、そうだ。だが先に食事をしに行くから、馬だけ預かってもらえないか?」

「もちろんです」

そこでちょうど宿の店主が外へ出てきたので、隻眼の騎士たちはリーダーやアイラックスの世話を彼に任せた。

店主さんは皆がマントの下に着ている制服を見て騎士だと気づいたみたい。

「クガルグ、しー! まわりの人にきこえちゃう」

喉を鳴らし続けていたクガルグに小さな声で注意するが、クガルグは自分でもごろごろ音を止められないようだ。

けれど数秒すると、だんだんとその音は小さくなっていく。

(あれ? 寝ちゃった?)

クガルグは幸せそうに目を閉じて、いつの間にやら寝息を立てていたのだ。

猫って狭くて暗いところにいると安心するっていうし、クガルグも荷物の中でリラックスして寝てしまったのかもしれない。

皆は夕飯を食べるためにまた歩き始め、その振動が心地よくて私も眠くなってくる。

でもお腹が空いているので、夕飯にありつくまでは意地でも寝ない。

隻眼の騎士たちはめぼしい店を見つけたらしく、カランカランと鈴を鳴らしながら中へ入った。

見えないけど、お客さんはたくさんいるようでワイワイと賑わっている。静かな店よりこういう騒がしい店の方が目立たなくていいのかも。

「うるせー、元はといえばオメェが……」

「何だと、俺はなぁ」

酔っぱらいのおじさんたちも、騎士が店内に入ってきた事に全く気づかないまま小競り合いを続けている。

「腹減ったー」とキックスが零しながら、音を立てて椅子に座った。隻眼の騎士たちは店の奥の方の席に案内されたようだ。

私とクガルグが入っているリュックは床にそっと置かれた。

すぐに店員さんが注文を取りに来たので、皆は適当に料理と飲物を頼む。

「ミルの分は、宿に持って帰るからな」

隻眼の騎士が荷物の布越しに言った。

ここでは私は食べられないという事か。

やがて一◯分と経たずに、注文した料理が運ばれてきた。皆は控えめに乾杯してから食事に取りかかったようだ。

誰かがお肉を食べているみたい。ソースの香ばしい匂いがする……。

私は荷物の中でふんふんと鼻を動かした。クガルグは隣で熟睡している。

荷物の中で小さくひんひんと鳴いてみたけど、周りの喧騒にかき消されて皆には届かなかった。しょうがないので片手で遠慮がちに中からカシカシ引っ掻いてみる。

私も皆とごはんを食べたい。宿で一人で食べるのは楽しくない気がする。

今度はさっきより強めに、両手で順番にリュックを引っ掻いた。

「ミルの分はちゃんと残してある。ここでは食べさせられないから宿まで我慢してくれ」

隻眼の騎士が申し訳なさそうに言うけど、私は諦めなかった。

ガサガサガサと無言で激しくリュックを引っ掻いていると、

「分かった分かった」

降参した隻眼の騎士がリュックを少し開けて、フォークにさした肉切れを中へ入れてくれた。

やったぁ!

荷物に紛れてそれを食べると、また小さな肉切れが差し出される。

「クガルグは寝ているのか?」

「うん」

私は頷いて、クガルグの分のお肉に噛みついた。クガルグはお腹が空くっていう感覚がないから大丈夫だ。私が全部食べる。

「ハイリリスちゃんはお腹空いてない?」

ティーナさんは自分の荷物を覗いているみたいだ。

一応ハイリリスはティーナさんの五倍以上は生きてると思うんだけど、子どもっぽいから“ちゃん”づけでもあまり違和感がない。

「お腹が空くって何? 精霊は人間のような食事はしないのよ」

「こっちに思いっきり人間の食いもん食ってる精霊がいるけどな」

キックスが笑って言った。

「ミルフィリアは変わってるのよ」

ハイリリス、聞こえてるからね!

食事が終わり、私も満腹になると、隻眼の騎士たちは店を出た。

「あやしい人はいない?」

真っ暗な荷物の中でそわそわと言う。

ハイリリスの「この街で、あの怪しい男たちはあなたたちが着くのを待ってるはずよ」という言葉を忘れて、荷物の中で隠れながらだけど、つい食事に夢中になってしまった。

私の質問に隻眼の騎士たちは皆無言だった。

だけどお互い『どうする?』というふうに目を見合わせている空気を感じる。

「私、こわくないよ」

本当はちょっと怖いけど。

でも何も知らないのはもっと怖い。

「街に入った直後からつけられている。黒尽くめの男たちの一人のようだ」

私を気遣ってか、隻眼の騎士は深刻な声を出さずに何でもない事のように言った。

そしてすぐにこう続ける。

「だが他の仲間はいないようだから、今は何もするつもりはないだろう。我々の行動を監視しているだけだ」

ハイリリスの言う通り、この街で襲うつもりはないのかな。

だけど後をつけられていると思うと気味が悪いし落ち着かない。

早く怪しい奴らを捕まえてこの問題を解決してしまいたいけど、隻眼の騎士たちには戦ってほしくないとも思う。

「うーん……」

私が鞄の中で小さく唸っているうちに、先ほど一度寄った宿に着いたようだった。

ランプのオレンジ色が布を通して私の目にも届き、薄暗い外から灯りのついた建物の中へ入ったのが分かる。

たぶんこの宿は夫婦で営んでいるのだろう、カウンターにはおかみさんがいたようで、温かく迎え入れられた。

「まぁまぁ! これは騎士様、ようこそいらっしゃいました」

その明るい声で、おかみさんが営業ではない笑顔を浮かべているのが想像できる。たぶん騎士が出入りすると防犯の面で安心なのだろう。

隻眼の騎士たちもそれを分かっているので、自分たちの身分を隠そうとしない。今まで寄った街でもそうだった。

たぶん、通りすがりにパトロールをしていくというような意味もあったのかもしれない。

「部屋は空いているか?」

「今晩は二人部屋が二つ、四人部屋も二つ空いていますよ」

尋ねたのは隻眼の騎士だったが、

「なら、四人部屋を一つと二人部屋を一つ借りよう」

次に答えてお金を払ったのは団長さんのようだった。

ちゃりん、といくつかの硬貨がカウンターに置かれた音がする。

「二人部屋は一つでいいのですか?」

「構わん。俺はお前たちと相部屋で寝るつもりだからな」

団長さんは楽しそうに言ったが、キックスは後ろで「げ……」と声を漏らしていた。

どうやら男四人が一つの部屋で泊まって、ティーナさんに二人部屋を使わせるようだ。

「二階の四番と五番ですよ。隣同士の方がいいでしょう」

「ああ、ありがとう」

鍵をもらって階段を上り、隻眼の騎士が部屋の扉を開けた。

「キックス、どこへ行く。入れ」

「ういー……」

隻眼の騎士は片手でキックスを引っ張ったようだった。キックスは渋々といった様子で答える。

修学旅行で先生三人と同室にさせられた問題児みたい。

しかもその先生は、校長先生と学年主任と生徒指導の体育教師――つまり団長さんと支団長さんと隻眼の騎士――だから、キックスのテンションが落ちるのも分からないではない。

「すみません、一人で使わせてもらっちゃって……。ミルちゃん、クガルグくん、明日の朝ブラッシングしてあげるからね」

ティーナさんは荷物の中の私たちをぐりぐりと撫でた。

(そういえば今日はあまりティーナさんと喋ってなかったな)

移動中は何度か“席替え”をし、支団長さんから団長さん、隻眼の騎士と、休憩のたび一緒に馬に乗る相手を変えていったのだが、ティーナさんとキックスとは同乗していない。

「じゃあ、また明日――」

「まって!」

私は隻眼の騎士の背負う荷物の中から勢いよく頭を出して言った。

廊下に私たち以外誰もいないのを確認し、華麗に床に降りようと思ったが、

「ぎゃわッ……!」

着地に失敗してごろりと前転してしまった。

だがこれはこれで華麗かもしれない。

「大丈夫か? 痛かっただろう」

「ぜんぜんだいじょぶ……」

痛みを堪えて、前転はわざとやったんですよという顔をして起き上がり、隣部屋の前にいるティーナさんに駆け寄った。

「きょうはティーナさんと寝る」

「え、ほんと? 嬉しいわ」

「じゃあ私も!」

ティーナさんが開けた扉から中に入ると、バサバサと鞄から飛び出てきたハイリリスも後を追ってきた。

「女同士で寝ましょ!」

「うん!」

「私、ハイリリスちゃんの恋の話が聞きたいわ」

部屋の扉を閉める直前に、母上の妖精が慌てて隙間から中に飛び込んできた。

どうやら妖精も女の子だったらしい。

「おやすみなさいー」

ティーナさんは隻眼の騎士たちに挨拶をして扉を閉める。

少しして、廊下から寂しそうな団長さんの声が聞こえてきた。

「……戸締まりはしっかりな」