軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

北の砦にて

厳しい冬が終わり、この地方にも遅めの春がやって来た。

平地では雪は溶け、あちこちで花が咲いている。自然に咲いた花もあるけど、フラーラが咲かせてくれた花も多い。だから今年の春は、いつもより周囲の景色がカラフルで華やかだ。

北の砦にもたくさんの花が咲いて、騎士たちも私も毎日癒されている。

「フラーラ、いっぱい咲かせてくれてありがとう。かわいいお花がたくさんで、みんなよろこんでるよ」

「ええ、そうみたいですね。喜んでもらえてわたくしも嬉しいです」

ウサギの姿のフラーラは、ニコッと笑って言う。いかつい騎士たちが花を見て表情を緩めながら「綺麗だな~」って言っている場面を、フラーラはここ最近毎日のように目撃しているはずだ。だから花がどれほど愛されているかも分かったんだろう。

誰のことも傷つけないし、誰のことでも癒してくれる。そんな存在はやっぱり貴重なのだ。

と、フラーラと二人でのんびり花を見ていたら、そこにウッドバウムがやって来た。ウッドバウムは鹿の姿で、頭の角には色鮮やかな花が咲いている。枯れるたび、フラーラがまた咲かせてあげているのだ。

「やぁ、ミルフィリア、フラーラ!」

「ウッドバーム、きょうもフラーラに会いにきたの?」

私はにんまり笑って言う。この二か月ほど、ウッドバウムはよく砦に遊びに来ていた。私に会いに来てくれてるのもあるだろうけど、フラーラにも会いたくて来ているんじゃないかと思ってる。

二人は精霊としての相性がいいから一緒にいて落ち着くだろうし、穏やかな性格も合っていて、お互いに好感を持ってるんだろう。

フラーラも私によくウッドバウムの話をしてくる。「明日はウッドバウムは来るでしょうか?」なんて気にしたりして。

「いや、別にそんな……!」

ウッドバウムは慌てて私の言葉を否定した後、「そんなことない」と言うのもフラーラに失礼だと思ったのか、照れくさそうに言う。

「……うん、そうだね。ミルフィリアにも、フラーラにも会いに来てる」

そう言われて、フラーラも少し恥ずかしそうだ。でも嬉しそう。

二人はまだ気の合う友達ができたような感覚なのかもしれないけど、何か甘酸っぱいものを感じて私は心の中でニマニマ笑った。

「ところでウッドバーム、そうだんがあるんだけど」

「うん? どうしたんだい?」

私はウッドバウムとフラーラの間に立って言う。

「あのね、フラーラがあたらしい住処をさがしてるの。ここはフラーラには寒すぎるから、もっとあたたかいところがいいなって思ってるんだって。ウッドバーム、どこかいいばしょ知らない?」

「もっと暖かい場所かぁ。でも花だし、暑過ぎても駄目だよね? だったら僕の住処の近くに良い感じの原っぱがあるよ。人間が来なくて静かだし、今の時期は花がたくさん咲いてるんだ」

ウッドバウムは爽やかな笑顔でそう言った後、驚いたような顔をしているフラーラを見て、はたと動きを止める。そして慌てて弁解した。

「あ、ち、違うんだ。僕の住処の近くにフラーラを来させようと思って言ったわけじゃなくて、本当にたまたま思いついたところがそこだったから……!」

「わ、分かってます! 大丈夫ですよ!」

焦るウッドバウムと慌てるフラーラ。そしてニマニマする私。

「いいじゃん、フラーラ。とりあえずそこに行ってみたら? もし居心地がわるかったら、ちがうところに行ったらいいんだし。それにそこならウッドバームも近くにいるから、なにかあっても助けてもらえるしあんしんだよ」

私はフラーラの前でお座りして言う。若い二人をくっつけようとしているお節介おばさんみたいになってるけど、本当にウッドバウムなら信用できるし、ウッドバウムの近くに住んでくれたら私も不安はない。

フラーラはちょっともじもじしながら言う。

「そうですね。とても魅力的な場所に思えます。……良ければ案内してもらえますか? ウッドバウム」

「もちろん!」

そこで二人はさっそくその場所を見に行くことにしたようだ。

「一度見に行ってきますね。ミルフィリアには色々お世話になりました。あなたがいなければウッドバウムにも会えなかったし……どうもありがとう。砦の騎士たちにもお礼を言いたいので、また戻ってきます。この場所はわたくしには寒過ぎましたけど、人間たちは温かでした」

昔住んでいた場所の人間たちとは家族になれなかったフラーラだけど、ウッドバウムがフラーラの新しい家族になる日もそう遠くないかもしれない。

私は勝手にそんな想像をしつつ、移動術を使って去っていく二人を見送った。

するとその直後、今度は水の気配が近づいて来て、私の前に人の姿の父上が現れる。

「父上? どうしたの?」

「いや……スークが……ミルフィリアと遊びたがっているようなのでな」

父上はそう言うと、自分の右手を持ち上げた。手首にはスーが巻きついてブレスレットみたいになっている。

そしてスーは私に気づくと、父上に一度視線を戻して何か訴えた。スーはまだ言葉は喋れないけど、父上は謎の第六感を発揮してスーの気持ちを読み取り、右手を私に近づける。するとスーはするすると私の頭に移動した。

「スー、わたしとあそびたいの?」

目を上に向けて尋ねると、スーは私の耳にしっかり巻きついた。その反応はイエスなのかノーなのかよく分からないけど、たぶんイエスなのだろう。

スーの性格も分かってきたけど、マイペースでちょっとぼんやりしていて、父上によく似てる。私のことも姉だと認識してくれているようだし、いつも遊んであげていることもあって懐いてくれてる。

「じゃあ、いつもみたいにかけっこしようか」

かけっこと言ってもスーは走れないから、私がスーを頭に乗せて走るのだ。スーはそれが楽しいみたい。

実際、スーは私の提案に対して嬉しそうにしっぽの先をふりふりしている。

とそこで、父上が小さくため息をついた。父上はあまり感情を表に出さないから、ため息をつくのは珍しい。

スーの子育てで疲れてるのかな? と私は思ったけど、どうやらそれは違うようで、父上は私たち二人を見て呟く。

「こんな可愛らしい子が二人も揃っていては……誘拐されないか、心配だ……。ミルフィリア一人でも心配だったが……さらに……」

言葉の途中で父上はまたため息をつく。このため息はあれだ。「はぁ、疲れた」のため息じゃなく、「はぁ、可愛い」の方だ。支団長さんが私を見てよくついてる方のため息だ。

子供が二人になったら、ちゃんと二人とも平等に愛せるのか、と父上は跡継ぎを作ることを迷っていたけど、今は私のこともスーのことも可愛くてたまらないらしい。

きっとこれからも過保護っぷりを発揮していくんだろうな、と私は思った。

そして正午になると、住処に帰っていったスーと父上と別れて、私は砦の建物の中に入った。

ちなみにスーも父上も、基本的にはスノウレア山で私と母上と一緒に暮らしている。だけどスノウレア山は一年中雪が積もって寒いので、昼間、父上はスーを連れて湖のある元の住処に戻っていることが多い。今も元の住処の方に帰っていった。日向ぼっこをして体を温めるんだって。

一方、砦の廊下をチャカチャカと爪を鳴らしながら歩く私は、隻眼の騎士の執務室へと向かった。もうそろそろ隻眼の騎士も休憩に入る頃だし、そうしたらごはんを貰いに一緒に食堂へ行くのだ。

「せきがんのきしー!」

扉の前で声をかけて中に入れてもらう。なかなか気づいてもらえない時は立ち上がって前足で扉をシャカシャカ引っ掻いているので、いつの間にか小さな傷がついちゃってる。

「ミル、せっかく来てくれたのに悪いな。あとこれだけ仕事をやってしまってもいいか? 十五分ほどで終わるから」

私を招き入れると、隻眼の騎士は机に座って書類の束を持ち上げた。

「いいよー」

じゃあ私は良い子で待っているか、と隻眼の騎士の膝によじ登る。そして膝の上で伏せをし、前足の甲に顎を置いてリラックス体勢を取った。

今日はぽかぽか陽気で気持ちの良い日だ。隻眼の騎士は仕事をしながら、時々左手で私の頭を撫でてくれる。

この北の砦に来た当初に比べると、私には家族も増えたし、人間の知り合いも精霊の友達もたくさん増えた。

みんなと遊ぶのはもちろん楽しいけど、こうやって隻眼の騎士の膝の上でただうとうとしているだけの日常も大好きだ。

いつも通りの平和なもふもふ生活を、これからもここ――北の砦でずっと続けたい。

「しあわせだなぁ」

にっこり笑って半分眠りに落ちながら呟くと、頭上で隻眼の騎士は笑い声を漏らしたのだった。