軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

星祭り

今日はコルビ村の星祭りの日だ。

今の時期は日が落ちるのが早いので、辺りが暗くなった夕方の五時からお祭りは始まる。

夕日が沈むと、私はまずクガルグを誘いに行った。その後二人で砦に向かおうとしたが、その前にクガルグにこう提案する。

「ライザードもさそおうよ! せっかく仲よくなったから」

「うん。いいけど」

クガルグからの了解を得ると、すぐに移動術を使い、二人でライザードのもとに突撃した。

トラの姿のライザードは住処の森の中にいて、日が当たる場所で横になってぐぅぐぅ寝ていた。アリドラ国ではもう日が沈んでしまったけど、ここはまだ昼間みたい。

「ライザードー! いっしょにお祭りいこー!」

子ギツネ姿の私と子豹のクガルグが、のんびり寝ているライザードの周りでぐるぐる駆け回る。お祭りが楽しみすぎてはしゃいじゃう。

「ライザードー!」

「ん……? え、なに? なになに?」

私という存在にまだ慣れていないライザードは、目覚めると慌てて起き上がった。これが隻眼の騎士なら、私が謎にテンション高くても「楽しそうだな」と落ち着いて笑っているだろう。

「ミルフィリアにクガルグ? どうしたの? こんなところに来て……」

「こんなところって、ここはライザードの住処でしょ?」

「そうよ。だからどうして私のところなんかに来たのって聞いたのよ」

ライザードは戸惑っている。誰かと親しくすることにも慣れていないみたいだ。

「ライザードをお祭りにさそいにきたの。わたしのすみかの近くの村で、今日お祭りがあるんだよ。ライザードもさんじゅう年前にいちど見たっていってたよね?」

「ああ、あのお祭り……。雪の精霊であるスノウレアを歓迎して始まったお祭りなんでしょ? 羨ましかったからよく覚えているわ」

「それにいっしょに行こうよ!」

「もちろんいいけど……」

まだ戸惑っているライザードを連れて、私とクガルグは砦に向かった。

砦の部屋の中では、隻眼の騎士と支団長さん、ティーナさんとキックス、レッカさんが私たちを待っていてくれた。

「あ! ライザードさんも来てくれたんですね!」

「ええ、ミルフィリアに誘われたから」

ティーナさんに歓迎され、ライザードは照れている。

一方、私は隻眼の騎士たちの格好を見て尋ねた。

「あれ? みんな今日はせいふくじゃないんだね」

騎士たち五人は、まるでコルビ村の人たちのような素朴で目立たない服を着ていたのだ。

隻眼の騎士は、毛皮の帽子を被りながら説明してくれる。

「ミルたちと一緒に祭りに行くからな。村外の人間に騎士だとバレれば、その騎士に囲まれているミルたちが目立ってしまう。全員で村人の格好をしないと」

コルビ村の人たちは騎士たちの顔を知っているし、私たちが精霊だと気づかれても危険はないが、村外の人間のことは一応警戒しているのだろう。

「ミルたちの服も用意してるってさ。支団長が」

「皆様、人の姿になってもらえますか?」

キックスとレッカさんにそう言われ、私たち三人は人間の姿に変わった。すると支団長さんがいそいそと服を差し出してくる。

「これはミルとクガルグの服だ。まさかライザードが来てくれるとは思わなかったから、ライザードの分は用意していなくて……。急いで見繕ってくるから待っていてくれ」

支団長さんは『不覚!』といった表情をして部屋から出て行く。

「じゃあミルちゃんはあっちの部屋で着替えようか。クガルグくんはここで、キックスや副長が着替えを手伝うからね」

若干嫌そうな顔をしているクガルグを置いて、私はティーナさんとレッカさんと一緒に隣の部屋に向かった。

そして着替えを終えると、また元の部屋に戻る。

するとすでに支団長さんは戻ってきていて、ライザードの着替えを手伝っているところだった。

半裸のライザードを見ると、ここの騎士たちに負けず劣らず腹筋がバキバキに割れていた。女性言葉とのギャップがすごい。

「あら、ミルフィリア。とっても可愛いわ」

ライザードは自分の着替えを進めつつ、私を見てほほ笑む。私はブーツやスカート、ポンチョや手袋、毛糸の帽子を身につけて、コルビ村の女の子みたいな格好をしていた。

村人に紛れないといけないので支団長さんチョイスにしてはあまりフリフリしていないけど、花柄のスカートも白いポンチョも、キツネ耳を隠す毛糸の帽子も可愛い。

しっぽはスカートで隠し、上からリュックを背負って重しにしてボリュームを抑えた。冬なので厚着しているし、耳やしっぽは自然に隠せていると思う。

クガルグも同じように毛糸の帽子を被り、ズボンとブーツ、Pコートに似たワインレッドの可愛い外套を羽織っている。しっぽの炎は消して、服の中に隠したようだ。

「クガルグくんも似合ってるわ。ライザードさんも素敵!」

ティーナさんが二人を褒めた。ライザードの服は支団長さんの私服なのか、村人にしてはちょっとおしゃれで上品だけど、悪目立ちする感じではない。

丈の短い黒い外套の襟を立てているけど、それがよく似合ってる。紫と金の髪色は目立つけど、外は暗いのでそれほど人目を引かないだろう。

「それじゃあ行こうか。祭りももう始まっているだろう」

私たちの着替えが終わったところで、隻眼の騎士が言う。そうして八人で砦を出て、歩いてコルビ村に向かった。

「わぁ、キャンドルの灯りがきれいだね!」

村に着くと、私は感動して言った。たくさんのキャンドルが村の通りを照らしていて、ゆらゆらと揺れるオレンジ色の炎が幻想的だ。

「人もたくさんいる」

クガルグも辺りを見回して呟く。すでに祭りは盛り上がっていて、お酒を飲んで語り合っている人、星を見上げている人などで通りはいっぱいだった。村外から来た人もたくさんいるのだろう、コルビ村がこんなに人で溢れているのは初めて見た。

村には砦の騎士たちもちらほらといたけど、仕事中らしく、みんな制服を着て警備をしている。酔っぱらってスノウレア山に登ろうとする人がたまに出るらしいので、山の方も見回りに行っているみたい。

「平和な祭りだからな。毎年酔っ払いのケンカを仲裁するくらいしか俺たちの出番はないが」

隻眼の騎士はそう説明してくれた。

「はぐれないよう、ミルとクガルグは手を繋いでいてくれ」

支団長さんに言われて、私はクガルグと手を繋ぐ。二人とも手袋をしているからモコモコしてちょっと繋ぎにくい。

「ライザードも」

私は空いている方の手をライザードに差し出した。ライザードはコルビ村には詳しくないし、はぐれちゃったら迷子になっちゃうからね。

「私と手を繋ごうだなんて、ミルフィリアって本当に変わってるわね」

そう言いながらも、ライザードは少し嬉しそうに手を握ってきた。そして楽しげに周囲の様子を観察している。

「やっぱり素敵なお祭りね。盛り上がっているけど静かで、温かい雰囲気だわ」

村人たちは家の前にテーブルを出して、その上に飲み物や食べ物、手袋や靴下なんかを並べて売っている。手作りの鞄や服を売っている人もいるし、木彫りのキツネやら、キツネのお面まで売っている。稼ぎ時だからみんな張り切っているみたいだ。

キツネのお面なんて売れるのかなと思ったけど、村外から来た人だろうか、たまにお面を頭につけた人を見かける。どうやら売れているらしい。

「クッキーも売ってるよ。ジンジャークッキーだって」

私はお菓子を見つけて指をさす。「おいしそう」と言ったら支団長さんがすぐに買ってくれた。行動が早い。

「ありがとう、しだんちょうさん」

するとキックスとレッカさんが順番にこう言う。

「お菓子もいいけど、星祭りでは飲み物を飲まないと。ミルたちは酒は駄目だから、ホットミルクかホットレモネードだな」

「あそこにシナモンとリンゴの温かいジュースもありますよ」

「わたし、それがいい! クガルグは?」

「うーん、ミルク」

クガルグは鼻をひくつかせて言った。レモンやシナモンの匂いはあまりお気に召さなかったみたい。

「ライザードはホットワインでいいか? 星祭りで一番有名なのはホットワインなんだ。これを目当てに祭りに来る人間も多い」

隻眼の騎士が尋ねると、ライザードは「ホットワイン? よく分からないけど飲んでみるわ」と答えた。

飲み物は当然のように支団長さんが全部買ってくれた。ありがとうございます。自分の分と、部下たち四人の分のホットワインも買っていて、みんなお礼を言っていた。キックスは「さすが支団長! あざーす!」と軽いお礼だったけど。

ライザードはホットワインを一口飲んで目を丸くする。

「なにこれ! 美味しい……」

「ホットワインは、赤ワインにオレンジやシナモン、レーズンなんかを入れて温めた飲み物です。基本は赤ワインに香辛料と柑橘系のフルーツ、砂糖やハチミツを入れるのですが、各家庭でレシピは違うんですよ。ここのはアーモンドも入ってますね」

隻眼の騎士がライザードに説明する。各家庭で味が違うので、みんな一杯だけで終わらせることはなく、お祭りの間中飲み歩くようだ。あとは飲んでいないと寒いせいもあって、お酒が進むみたい。

とそこで、道端の酔っ払いたちが何やら言い合いを始め、ちょっとした騒ぎになった。

最初は二人が肩が当たっただなんだと揉めていたようだけど、周りの人を巻き込んで段々騒ぎが大きくなったようだ。北の砦の騎士たちも仲裁に入ろうとしている。あれはコワモテ軍団だな。

「酔っ払いの人数が多いので、私とキックスも行ってきます。支団長たちはミルたちをお願いします」

「えー? 俺もっスか」

隻眼の騎士はホットワインをティーナさんに預けると、ダルそうなキックスを連れて、騒ぎの中心へと向かった。

「まだ六時ですが、彼らはもうでき上がっているようですね」

レッカさんは騒ぎの中心人物たちを見て苦笑する。本当にただの酔っ払いのケンカのようなので、すぐに騎士たちが場を収めるだろう。

「お嬢ちゃん」

すると、騒ぎを遠巻きに見ている私に隣から声がかかる。私の隣にはテーブルと椅子があって――ゆっくり飲める場を提供するために、村人が家の前に出したものだ――そこに村の外から来たらしきおじさんたちが座って酒を飲んでいた。とろんとした目と赤くなった顔を見るに、こちらもどうやらすでにでき上っているみたい。

飲み物を飲んだりクッキーを食べるために私はクガルグやライザードと手を離していて、私、クガルグ、ライザードの順番で酔っ払いたちと近いところにいた。支団長さんやティーナさん、レッカさんはライザードのさらに奥にいる。

酔っ払いのおじさんは、椅子に座ったまま私やクガルグを見た。

「お嬢ちゃんたち、この村の子かい? この近くの山には雪の精霊がいると聞くけど、その山まで案内してくれないか? この目で一目精霊を見たくてね」

そう言っておじさんはガハハと笑う。息が酒臭い!

おじさんの連れらしき人たちも酔っぱらっていて、おじさんを止めることはない。「雪山だぞ? 一人で行ってこいよ!」などと言って笑っている。

「あぶないから、やめといたほうがいいよ」

私はそう言ったけど、酔っ払いに注意しても無駄なようだ。おじさんは上機嫌な様子で私の腕を掴む。

「そう言わずにさ。案内してくれよ」

そこで支団長さんたちが動く気配がしたので、私は抵抗せずに大人しくしていた。

「うちの子に何を――」

「おいコラ、てめぇ」

支団長さんは私の親という設定で私を助けようとしてくれたみたいだけど、それより早くライザードがこちらに進み出て、おじさんの胸ぐらを掴んだ。

そして片手で自分の髪をかき上げると、金色の目で相手を睨みつけて脅す。

「その子に触ってんじゃねぇ。何かしたら承知しねぇぞ」

いつもより低い声で凄むと、おじさんは急に酔いが覚めた様子で私から手を離す。

怒鳴るんじゃなくて、ドスのきいた声で静かに言う感じが怖い。

「じょ、冗談だよ、ハハハ……」

そしておじさんはライザードを怖がって小さくなりながら、仲間たちと一緒にそそくさとどこかへ行ってしまう。

「酔っ払いめ」

ライザードはその後ろ姿を睨みつけながら呟く。髪がいつの間にかゆるいオールバックになっているし、ヤンキーっぽいけど格好いい。

「ありがとう、ライザード! かっこよかったよ!」

私がライザードを見上げてそう言うと、ライザードはハッとして髪を下ろした。そして慌ててこう言う。

「やだぁ、ごめんなさい! ミルフィリアに気軽に触るからイラッとしちゃって、つい昔の血が騒いじゃったわ」

元ヤンの血が?

私がそう突っ込みたくなったところで、隻眼の騎士とキックスが騒動を収めて戻ってきた。あっちの酔っ払いも、砦の騎士たちの屈強な体やいかつい顔を見て、しゅんと大人しくなったようだ。コワモテ軍団も来てるしね。

「あ、雪が降ってきたわ」

すると、そこでティーナさんが夜空を見上げて言う。空には雲がなく、星が見えているのに、ちらほらと雪が降ってきているのだ。

「母上かな」

「きっとそうだろう。毎年スノウレアは祭りの時に雪を降らせてくれる。積もるか積もらないかという程度の、優しい雪をな」

お祭りを楽しんでいる人々も雪が降ってきたことに気づき、歓声を上げている。この雪は、母上からの感謝の気持ちなんだろう。コルビ村の人たちが自分を歓迎してこの祭りを開いてくれたこと、母上も嬉しいと思っているのだ。

――なんて思っていたら、人垣の中に母上の姿を見つけた。母上は頭からストールを被り、村人のような地味な服を着て、人間に交じってお酒を飲んでいる。しかもちゃっかりキツネのお面を買って頭につけていた。

「お姉さん美人なのにお酒強いね!」

母上は村外の人間にそう言われて上機嫌に笑っている。ちょっと酔っぱらってるな。

そう言えば、母上も毎年こっそりお祭りに参加しているって言ってたなぁ。母上の好きなお酒もたくさんあるし、楽しそう。

あの服やストールも、確か少し前に祭壇にお供えされていたものだ。コルビ村の人たちは、もしかしたら母上が毎年お祭りに参加していることに気づいているのかも。だからお祭りの前に、母上が人間に紛れられるよう服を贈ってくれるのだ。

「綺麗ね」

ライザードが満天の星空から降ってくる雪を見て言う。

まるで星が雪になって落ちてきているみたい。

「うん、きれい」

私も空を見上げて呟いた。

精霊の仲間や北の砦の騎士たち、私の大切な人たちと、また来年もこのお祭りに来られたらいいなぁと思いながら。

そうだ、来年は父上も誘ってみようかな。