軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族旅行(2)

私は人の姿になると、空のウサギリュックを背負い、母上や父上と別れて砦に向かう。

隻眼の騎士を目指して飛んだのだが、隻眼の騎士の午前中のお仕事は周辺地域の見回りだったようで、スノウレア山の麓の森の中に着いた。

隻眼の騎士は彼の愛馬のリーダーに乗っていて、周りには同じく騎乗したキックスと、他の砦の騎士たちも数人いる。

「お、ミルだ」

「ミルじゃん」

ちょうど騎士たちの輪の中に登場してしまった私は、騎士と馬たちの視線を一身に浴びた。

「今日は人の姿なのか」

隻眼の騎士はそう言うと、ほほ笑んでリーダーから降りる。

「それにいつもより来るのが早いな。いつもは昼に来るだろう?」

「うん。ちょっとおねがいがあって……」

近づいてきた隻眼の騎士に向かって両手を伸ばすと、隻眼の騎士は当たり前のように抱っこしてくれた。

「お願い? 何だ?」

「あんまり甘やかしちゃ駄目ですよー」

隻眼の騎士が私の願いを何でも叶えてくれそうな顔をしていたので、キックスが釘を刺してくる。だけど、別にすごいわがままを言うわけじゃないよ。

私は父上と母上と三人で家族旅行に行くことを説明すると、胸の前で自分の両手を握って、きゅるん! と隻眼の騎士を見上げた。

「それでね、おべんとう……ほしいなぁって思って」

「何をおねだりするのかと思ったら弁当かよ。宝石をねだっても許されるくらい可愛い顔してたぞ、今」

キックスに突っ込まれたかと思ったら、続けて褒められた。ありがとう。

「料理長に言えば弁当くらいいくらでも用意してくれるだろうが……ちょっと待て。ミルたちだけで家族旅行? 異国に行くのか?」

隻眼の騎士は厳しい顔で言う。私のことを心配してくれているのだろう。

「うん、いこくに行くけど、人間のいるばしょには行かないと思うよ。たぶん森とか、しぜんが多いところに行くと思う」

父上は苺を探していて美しい景色の場所を見つけたんだから、きっと行こうとしている場所は全て自然溢れる場所じゃないかな。

「しかしそれでもな……」

隻眼の騎士は少し考えると、私を抱っこしたままリーダーに乗る。

「支団長にも相談しよう」

「そんなにしんぱい? 父上と母上もいっしょなのに」

「スノウレアたち二人は強いが、精霊だけで旅行に行くのは心配だ。不安しかない。精霊は精霊でも、大地の精霊のダフィネ辺りが一緒なら多少は安心なんだが」

私も改めて家族三人での旅行を想像してみるが、確かにちょっぴり不安かもしれない。父上と母上は強くて私を守ってくれるし、命の心配はないけれど、協調性のない二人との旅行って大丈夫だろうか? あと、父上と母上がケンカとかしないだろうか? というか、母上が一方的に父上にブチ切れたりしないだろうか? 一緒に旅行に行くと、相手の悪いところが色々見えちゃったりすると聞くし。

「……わたしもやっぱり、ちょっとしんぱいになってきた」

「そうだろう」

隻眼の騎士は深く頷くと、キックスたちを引き連れて砦に戻ったのだった。

そして砦に着くと、私と隻眼の騎士は支団長さんの執務室に向かった。

「今日は人の姿なのか」

支団長さんは私を見ると隻眼の騎士と同じ言葉を言い、頬を緩めてほほ笑んだ。

しかし私が家族旅行の計画を話すと、やはり困ったような顔になる。

「ミル……家族水入らずの邪魔をしたいわけではないんだが、砦の騎士も護衛として一緒に連れて行ってもらえないだろうか?」

「え?」

「スノウレアとミルは我が国の大事な精霊だし、何かあっては困る。もちろん水の精霊にもだ。異国で人間と遭遇するかもしれないし、何かややこしい事件や事故に巻き込まれたりするかもしれない。移動術で逃げれば大抵のことはどうにかなるだろうが、それでも心配でな」

「わたしはいいよ。みんなといっしょなら、もっと楽しくなるから」

「ウォートラストやスノウレアにも聞いてみてくれ。なるべく家族旅行の邪魔にならないよう、少し離れて見守るようにするから。それに、そうだな……我々の同行を許してくれるなら、ミル用の食事やスノウレア用の酒も用意できるし、あとは家族旅行の記念になるような絵を描くこともできる」

「絵? だれが?」

「私がだ」

「しだんちょうさん? かけるの?」

「そこそこ描ける」

支団長さんはちょっと恥ずかしそうにしつつも自信はありそうだった。絵が描けるなんて初耳だ。

でも家族旅行の記念に絵を描いてもらうのっていいかも!

「わかった。じゃあ父上や母上にきいてくる」

私はまず父上のもとへ飛ぶと、家族旅行に騎士たちを同行させてもいいか尋ねた。

すると父上は結構あっさり「構わない……」と答えてくれた。同行するのがウッドバウムとかだとたぶん「嫌だ……」と答えたと思うんだけど、人間に対してはあまり保護者としてのライバル心を持っていないみたい。

次に母上に許可をもらいに行くと、母上はお酒につられて騎士たちの同行を許してくれた。

二人の許可も取れたので、私は砦に戻ってそれを支団長さんに伝える。

「二人ともいいって! ところで、りょこうは明日行くつもりなんだけど、だいじょうぶ?」

「明日か。急だな。だがまぁ、大丈夫だ。私の他に数人護衛を見繕って同行させる」

「うん! じゃあ、あの、おべんとうもおねがいします。父上と母上のぶんも……」

お弁当が一番大事なので忘れずに頼み、「ここにいれてください」としっかりウサギリュックも支団長さんに差し出したのだった。

翌日。家族旅行に出発する前に支団長さんたちと合流するべく、私たちは砦に向かう。

母上が移動術を使ってくれて、私と父上も一緒に砦に飛んだ。私は子ギツネの姿だけど、母上と父上は人の姿だ。

「家族旅行か。今日になって面倒になってきたのう」

「えぇ!?」

砦に着いて早々、家族旅行を面倒くさがる母上。

私はぴょんぴょん飛び跳ねながら必死に言う。

「そんなこといわないで。きっと楽しいよ! 父上がすっごくきれいなばしょに連れていってくれるんだから!」

何気にハードルを上げてしまったが、父上はいつも通りの無表情で、焦ることはなかった。きっと本当に美しい場所なのだろう。

「ふむ……。ミルフィリアがそんなに楽しみにしておるのなら、わらわも家族旅行を頑張ろうかのう」

「りょこうは、がんばるものじゃない気がするけど」

私と母上がそんな会話をしていたところで、砦から隻眼の騎士と支団長さんが出てきた。

「ミル! 来ていたのか」

父上や母上のことを待たせたのではないかと、隻眼の騎士たちは玄関から走ってくる。

「今きたところだよ」

と、私たちの声が聞こえたのか、今度は玄関とは反対の方からキックス、ティーナさん、レッカさんがやってきた。三人とも帯剣して荷物を背負っていて、レッカさんは私のウサギリュックも持っていた。

「おはようございます、ミル様、精霊様方」

レッカさんが私の父上や母上に丁寧に頭を下げると、ティーナさんもそれに習い、キックスも一応礼儀正しく挨拶した。

そしてレッカさんは私にウサギリュックを背負わせてくれる。

「どうぞ、ミル様。おやつを入れておきました」

「おやつ! ありがとう! おべんとうも入れてくれた?」

私が確認すると、答えてくれたのはティーナさんだった。

「お弁当はぐちゃぐちゃになっちゃうといけないから、私が持ったわ」

ティーナさんはそう言って自分が背負っている荷物を指さす。

「三人がついてきてくれるの?」

私はティーナさんとレッカさん、キックスを見て言ったが、ふと隻眼の騎士と支団長さんに視線を移せば、二人も荷物を背負い、帯剣していることに気づく。

「あれ? せきがんのきしも?」

絵を描くために支団長さんは来るんだろうなと思っていたけど。私が尋ねると、二人は頷いた。五人でついて来てくれるってことみたいだ。

嬉しいけど、支団長さんと隻眼の騎士はどちらか一人は砦に残らなくて大丈夫なのかな? 司令官が二人とも家族旅行について来ちゃっていいの?

その疑問をぶつけると、支団長さんは真面目な顔をしてこう返してくる。

「ミルたちはある意味、王族以上に大切な警護対象だからな。私もグレイルも一緒に行くことにした」

しかしそこでキックスが、こそこそと私に耳打ちしてきた。

「絶対、『ミルが旅行を楽しんでる姿を見守りたい』っていう下心もあるんだぜ。あの二人」

そうなのか。だけど隻眼の騎士と支団長さんも一緒なら、さらに心強いなと私は思った。

「じゃあ、さっそくしゅっぱつしよう!」

父上を振り返って言うと、父上は「そうだな……」と言って移動術を使う。体が霧に変わり、その霧が私と母上を包み込んだのだ。

「父上! さっそくきしのみんなを忘れてるよ! みんなもいっしょに行くんだよ!」

体が消える前に慌てて言うと、

「そうだった……」

白い霧から父上の声が聞こえてきたかと思うと、霧が大きく広がって、隻眼の騎士たち五人のことも包み込んだ。

そうして私たちは、護衛付きの家族旅行――全部で三回行くので、今日は第一弾だ――に出発したのだった。