軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話 一斉にプロポーズ

父と一緒に懇意にしている貴族へ挨拶回りを行う。

その移動の隙に、立食もちゃっかり楽しんでおく。

欲張りすぎてお腹が痛くなってきちゃったかも……。

それらが終わると、主に若い人たちにとってのお楽しみが始まる。

男女入り乱れてのダンスだ。

ここでは身分差など関係なく、踊りたい相手に申し込むことができる。

男女どちらから攻めてもいいが、やはり基本は女性は待ちに回る人が多い。

「お初にお目にかかります。ゴルド男爵家のルズリーと申します。お美しいソラリス様と、一曲踊らせていただけませんか」

二十歳くらいの男性が手を差し出してくる。

彼の胸ポケットには一輪のバラ。

今夜の若い男性たちは、胸に飾りをつけるブートニアをしている。

特に拒む要素もないので、私は手を取って一緒にワルツを踊った。

数分くらいで相手を代えて、また踊っていく。

相手によって呼吸やステップが合う合わないなどがわかって結構面白い。

もう何人目だろうか。

私のテンションは最高潮に達している。

「ダンスって素晴らしいですわね!」

「あははは! 実に今夜は最高の気分ですねぇっ!」

「うふふふ! 本当にそうですわ!」

「あは、あはは!」

「ふふふ!」

ああ楽しい!

どうしてこんなに気分がいいのだろう~!

やっぱり運動が大事なのかしら。

――ピキッ。

嫌な音が、片耳の近くでした。

そこに装着しているのはグレイからもらったイヤーカフだけだ。

それにヒビが入ったのだろうか?

不思議なことに、私の高かったテンションが低くなる。

さっきまでの高揚感は消えて、いつもの落ち着いた感覚を取り戻した。

顔しか知らないダンス相手を確認して、私は背筋に寒気が走る。

知らないうちに、精神攻撃されていたのだ。

どこから?

胸のバラに私は注目する。

バートリ家でのお茶会の花のことを思い出したのだ。

ここ以外に怪しいところはない。

さらに相手の男、彼のテンションも興奮マックス。

曲の切れ目で、私と彼の手が離れる。

カットインしてきた別の男性が私の手を取って一礼した。

彼と踊り始めて一分。

また気分が高揚し始めるがイヤーカフがミシミシといって私は平常心に戻る。

「ハハッ、ソラリス様は死ぬほど美しくてキスしたいくらいですよ!」

さっきは気づかなかったが、この人も精神状態がおかしい。

まさか自分が被弾するのを覚悟で、私に精神攻撃を仕掛けてきているの……!?

頑張ってくれていたイヤーカフが、ついに壊れて床に落ちる。

「離してくださる! あなたとはステップが合いませんわ」

軽く相手を突き押して、距離を取る。

場を離れようと振り向くと、道を塞ぐようにジークが立っていた。

「ソラリス様、一曲踊っていただけませんか?」

彼は恭しく片膝をつくと、これ以上ないくらい爽やかな顔を向けてきた。

天井からの明かりが、彼の胸元のバラを美しく映えさせる。

「よろこんで!」

私は逃げずに、彼の掌に指を乗せた。

それから体を密着させてダンスに興じる。

相手の胸元に顔が近づくが、緊張感はない。

この男のバラはほぼ確実に無害だ。

相手の落ち着いた状態を見ればわかるし、なによりこの男が自分の頭脳のキレを鈍らせるような真似はしない。

「うふふ、ジーク様ってダンスがお上手ですのねっ」

「いえいえ、ソラリス様には負けますよ」

「もう! ジーク様って冗談がお上手ですわ! あはっ、もっとダンスを楽しみましょうよっ」

周囲に聞こえるくらい大きな声で、私は精一杯楽しそうな演技をする。

普段とは違う明らかに高いテンションが大切だ。

狙いはわからないが、ジークはさっきの男たちを使って私を高揚状態にしたかった。

それなら、敢えて罠にハマったフリをしておく。

隙を見て、ジークの内面を確認する。

【優越】【観察】【疑念】の三つが主だ。 罠にかかったという喜びが湧くが、理性が本当に効いているかと警鐘を鳴らす心理状態ね。

だから彼は今、真剣に観察している。

さすが冷静な男ね。

そしてジークは演技か確かめるため、大きな行動に出る。

私を引き寄せ腰に手を当てるのだが、その力がとにかく強い。

肉に指がめり込みそうなほど。

それでも私は、うふふと小さく笑いを漏らして楽しそうにする。

多幸感に包まれたとき、人は痛みに鈍感になる。だから試しているのだ。

次にジークは、私とキスできるような距離まで顔を近づけて甘い言葉を吐く。

「今日の貴方は素敵だ。世界一美しい。僕が貴方の婚約者になりたいくらいですよ」

涼しげな目元で、こちらの目を見つめてくる。

うっ、これはまずい!?

たぶんこの男、瞳孔が開いているかどうかをチェックしている。

私はすぐに下を向き、頬に両手を添えてくねくねと腰を揺らす。

「い、いやですわぁ……! 私にはアーサー様が、いるのに……。でも実は私も、ジーク様のことクールで素敵だって思ってました……!」

チラチラと相手の顔を見ては下を向く。

これならば落ち着いて観察はできないでしょ。

すると今度は、いままでのトーンとは一変した口調で話す。

「アーサー様はともかく、レオンやグレイよりは僕の方がふさわしいと思うのです。グレイは頭はいいですが貧弱そうですし、レオンは逆に熱血バカって感じで暑苦しい。どちらもソラリス様には似合いませんよ」

一瞬噴き出しそうになる敵意を私は全力で抑える。

わざと、彼らを貶している。

これを耳にした瞬間の一瞬の表情の変化で、理性を保っているかどうか判断するつもりね。

そこで口元に手を当て、ぷふっと吹き出す。

「貧弱で熱血って、そんなの失礼ですわ。私は思ってませんのよ、そんなこと、ふふっ」

中々内面と逆の表情を作り続けるのもストレスあるわね。

でも頑張りは功を奏した。

ジークが安堵した様子を見せたのだ。

そして楽団に対して合図を出すと、音楽が止まった。ジークは左手を私に、右手をアーサーに伸ばす。

そして後ろに下がる。

ここからは二人だけの時間だという意味だ。

意図を理解した参加者たちが波のように引いていき、ホールは二人だけのものになった。

「愛しのソラリス、踊っていただけるかな?」

いつもの女たらし風に言って、アーサーは私の手の甲にキスをした。

「もちろんですわ」

盛大な音楽が鳴り、私とアーサーがステップを踏む。

一曲終えると、アーサーが新しい行動に打って出る。

私の前でひざまずき、ポケットからなにかを取り出したのだ。

それは小さなケースで、それを開けると中から輝く指輪が顔を覗かせた。

「僕を本物のパートナーにしてください」

それはもう、プロポーズだ。

私の高揚感を高めたかった理由は、これだったのだ。

仮に高揚感がなくとも、この状況は断りにくい。

今日は建国祭だし空気を悪くするのは避けたいという心理が働くから。

ジークを見ると、実に嬉しそうにしている。

私は指輪の石を押して、本当に小さく呟く。

では作戦通り動いてください、と。

「――その申し出、少し待っていただきたい!」

叫ぶように声を響かせたのはレオンだ。

ホール中央に進み出ると、アーサーと同じように跪いて指輪を出す。

自分がつけていた通信用のものだ。

いかにも最初から準備してました風に出すのが最高ね。

「このレオン。貴方の一生涯の騎士になりたいと思っております!」

少しぎこちないけれど、誠意は伝わってくる。

そしてもう一人、ここに参加してくる。

「僕は貴方を幸せにする魔道具を沢山作ります。どうか選んでください」

グレイもまた、レオンと同じようにした。

これによって私の前にサブパートナーの三人が並ぶこととなった。

中々見ない光景に誰もが度肝を抜かれている。

一応、想定内ではある。

ジークはアーサーと私をくっつけたがっていたので、これ系の手は使ってきてもおかしくないと。

「き、君たち、どういうつもりだ!?」

「我々二人もまた、彼女のサブパートナー。申し出る権利はあります」

「そうです。殿下に抜け駆けはさせませんよ」

「クッ……。ソラリス、誰を選ぶんだ!?」

アーサーの問いに関する答えは決まっている。

私はよく通る声でハッキリと告げる。

「三人とも、素敵なサブパートナーです。もう少し、共に過ごすお時間をくださいませ」

三人の前でカーテシーをして、申し出を受け流す。

無難だけれど、これでいいかな。

「パートナー選びは大切ですからね。素晴らしい判断だと思います」

カゲロウがそう言って拍手をした。

するとそれに釣られて他の人も手を叩き、やがて大きな拍手の渦になる。

判断を肯定する雰囲気が満ちる中、私は静かに思う。

……カゲロウって敬語使えたんだ。